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トランプへの「ご進講」で戦々恐々のCIA

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米インテリジェンス・コミュニティにとって、極めて頭の痛い仕事ができた。秋の大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントン前国務長官との対決が確実となった不動産王ドナルド・トランプ氏(69)へのご進講である。
 
7月の党大会で正式に共和党大統領候補指名が決まれば、米情報機関は彼に対して定期的に、機密情報を含む世界情勢の説明を行わなければならなくなる。現実には、米政府情報機関トップの国家情報長官(DNI)オフィスおよび米中央情報局(CIA)から、分析官がトランプ氏の事務所などに出向いて情報説明を行うことになる。


情報漏れの危険

民主・共和2大政党の大統領候補に情報ブリーフィングを行う制度は1952年、当時のトルーマン大統領が決めた。

1945年4月当時副大統領だったトルーマン氏は、急死したルーズベルト大統領の後継として急遽、大統領に就任したが、それまで原爆開発の重大な事実を全く知らされておらず、その後間もなく重大な決断を迫られた。大統領は重大な事態に備えて、常に十分な準備をしておく必要がある。トルーマンは自分の苦い経験から、大統領任期末を前にこうした制度を始めた、といわれる。

民主、共和両党の候補者には全く同内容のブリーフィングが行われることになる。

しかし、これまでの2大政党の大統領候補は公職経験のある、いわば政治のプロばかり。クリントン氏は、上院議員として、あるいは国務長官として、さまざまなインテリジェンスのブリーフィングを受けてきた。「民主社会主義者」を名乗り、クリントン氏を最後まで苦しめるバ-ニー・サンダーズ氏や、既に指名争いから脱落した共和党のテッド・クルーズ氏もマルコ・ルビオ氏にしても、上院議員として守秘義務を負わせられて、情報機関からのブリーフィングを受けてきた。

トランプ氏はワシントン・ポスト紙とのインタビューで、秘密情報ブリーフィングを受けることに強い期待を示しており、制度の公平性から見ても必ず実行されるだろう。

だが、トランプ氏のように、民間ひと筋で来た候補者には初めてのこと。しかも、厄介なことに、トランプ氏自身は元々「放言癖」があり、機密情報を口外して自分の政治目的に利用しかねないような人物だ。彼がプーチン・ロシア大統領について好意的な見方を明らかにする一方、北大西洋条約機構(NATO)や日韓などの同盟諸国に対して、より厳しい発言をしてきたことも米情報当局は注目している。


2人の要注意人物

その上、今後トランプ陣営で政策立案や政治活動に密接に関わる可能性が大きい人物に、ロシア指導部などとの緊密な関係を維持する者がいることも米情報コミュニティにとって懸念材料になっている。

ロシア利権との深い関係が注目されているのは、トランプ候補の外交政策顧問の1人、カーター・ページ氏。米海軍兵学校を卒業後、ロンドン大学で博士号を取得。カスピ海周辺の旧ソ連構成国で石油・天然ガス開発に取り組んできた。プーチン現政権の利権構造の中心的存在で、世界最大の天然ガス生産量を誇るガスプロムのコンサルタント業務にも携わった。

ロシアによるクリミア半島併合後、米国は対ロ経済制裁を実施した。ページ氏によると、そのために「私と一緒に働いてきた多くの人々が制裁でひどい悪影響を受けている」(ブルームバーグ通信とのインタビュー)という。

次に、米情報機関が関心を示しているのは、トランプ氏が党大会対策本部長に任命したポール・マナフォート氏。故マルコス・フィリピン大統領ら外国首脳を顧客としたワシントンの古いロビイストとして知られる。近年ではウクライナのロシア派大統領として失脚、ロシアに亡命したヤヌコビッチ氏のロビー活動をしていた。マナフォート氏は現実には、トランプ陣営の戦略担当として、選挙運動を事実上指揮することになるとみられる。

これら2人は米政府の政策と対立する側のための仕事をしてきたわけで、米情報機関内には機密情報がトランプ氏からこれらの人物を経、ロシア側に渡ることに懸念を示す向きもあるという。


軍がトランプ命令拒否も

また、これまでのトランプ氏の言動から見て、インテリジェンス・ブリーフィングで得た秘密情報を口外する恐れや情報の内容を政治目的に利用する可能性も懸念されている。

これまで、2大政党の指名候補となった人物が情報漏れなどで起訴された例はない。しかし、大統領は最終的には、情報の機密指定権および機密解除権の両方を持っている。

トランプ氏が情報を漏らしても、本選挙で勝利すれば、自分自身を恩赦することにもなる、とアキ・ペリッツ元CIA分析官は英ガーディアン紙で指摘している。ペリッツ氏はかつて、毎朝、大統領に「大統領日報(PDB)」という形でインテリジェンスをブリーフィングした経験の持ち主だ。

トランプ氏が大統領に当選した場合、「米軍が、トランプ大統領の命令を拒否することもありうる」とマイケル・ヘイデン元CIA長官は先行きを強く懸念している。

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春名幹男
1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。

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(2016年5月16日フォーサイトより転載)