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私たちみんなの「オーバー・ザ・レインボー」

2017年07月13日 15時39分 JST

今年4月、韓国陸軍が性的少数者(LGBT)の兵士を暴き出すために、出会い系アプリを使ってのおとり捜査を行っていたことが、NGO軍人権センターの発表で明らかになった。

その直後、捜査対象の一人だった性的少数者の大尉が逮捕された。そして5月24日、通常軍事法院(軍事裁判所)は彼に対して懲役6ヶ月、執行猶予1年の判決を下した。他の同性の兵士と性的接触を持ったというのがその理由だ。

性的少数者の兵士が暴き出され、処罰されたのは今回が初めてではない。ただし、今回の事件は、おとり捜査を使い大規模に行われた点において、驚きを禁じ得ない。

軍隊における人権侵害を正当化しているのは、軍刑法の「醜行罪」(軍刑法第92条の6)という法律の条項だ。この「醜行」とは「セクシャル・ハラスメント」ではない。同性愛を「醜い行為」と定めているのだ。

この条項は、1962年に軍刑法が制定された当初から存在した。かつて欧米各国に存在した同性愛処罰法「ソドミー法」を、韓国の中で軍だけがわざわざ取り寄せたものだ。

罰金刑はなく懲役刑のみが定められているため、これまでにも逮捕されたケースはあった。しかし、合意に基づく同性間の性的接触だったという理由で、執行猶予、特に最近では宣告猶予の判決が下されるケースがほとんどだった。

裁判所も、処罰の必要性を認めるのが難しかったのだろう。実際、陸軍の通常軍事法院は2008年、職権で、この条項に対して性的少数者の平等権などの基本権を侵害するとし、憲法裁判所に違憲法律審判を提起している。

市民として認められない人たち

性的少数者にとって国とは何なのか。国は、性的少数者を探し出し、閉じ込め、罰を与える。差別と暴力から保護される市民としての権利は一体どこにあるのというのか。

性的少数者約3000人を対象にした調査(「韓国LGBTIコミュニティの社会的欲求調査」、韓国ゲイ人権運動団体チングサイ、2014)によると、軍隊、政府、国会、司法が性的少数者に対してフレンドリーではないと感じている回答者がそれぞれ86.9%、83.1%、81.9%、75.1%に達した。

私的領域に属する企業(74.1%)、学術(65.1%)、メディア(65.0%)よりもはるかに高かった。差別や暴力の被害に遭った性的少数者のうち、警察署などに訴え出た割合は5%に過ぎなかった。

性的少数者にとって、国は保護を求める対象ではなく、差別と暴力の主体なのだ。

朴槿恵政権で起こったことを見ると、一目瞭然だ。

教育省は、教師が生徒に性的少数者について教えることを禁じる「性教育標準案」を作成し、強制した。

警察は、ソウルと大邱で開かれる性的少数者の集会禁止を通告した。

放送通信審議委員会は、同性同士のキスを放送したという理由だけで、テレビ局に対して制裁を加えた。

兵務庁は、トランスジェンダーの男性に対して兵役逃れの扱いをし、前例のない捜査を行った。

法務省は、性的少数者の人権のための財団の法人設立申請を認めなかった。

女性家族省は、地域の男女平等条例の条文から、性的少数者の保護と関連した内容を削除するよう指示した。

国立国語院は、標準国語大辞典を改訂し、「愛」の定義を「人が人を好きになる心」から「男女間で好きになる心」に変えた。

陸軍の性的少数者に対する捜査と処罰は、朴槿恵政権で最後の、そして最悪の弾圧だった。

国が間違ったことを行えば、政治はそれを正すべきだった。政治家は、人権状況の後退を正し、批判し、声をあげるべきだった。しかし、朴槿恵政権期に、迫害される少数者の味方になったのは誰だろうか。

ろうそく広場(訳者註:朴槿恵大統領の弾劾を求める集会が開かれていた光化門広場)が開かれたのは、政治の場を適切に開けという市民の要求によるものだった。性的少数者たちもろうそく広場になだれ出た。その真ん中には常に、差別のない国を求めるレインボーフラッグがなびいていた。

しかし、市民の力で成し遂げられた前倒しの大統領選挙の場で、性的少数者は再び排除を経験した。

「私は国民ではないのか」。4月25日の夜、SNSのタイムラインは、号泣と悲しみで溢れた。大統領候補だった文在寅(ムン・ジェイン)氏(現大統領)が、テレビ討論で「同性愛に反対する」という言葉を繰り返した直後のことだ。

人権弁護士で、最有力候補の口からそんなことを聞くために、ろうそくを手にして広場に立ったわけではない。文在寅氏は「軍隊内の同性愛は規制されるべきという趣旨の発言だった」と釈明し、謝罪した。

しかし、このような釈明さえも、刑務所に閉じ込められた性的少数者の軍人にとって、絶望以外の何物でもなかっただろう。大きく開かれた政治の場は、性的少数者の人権に限ってのみ、急速にしぼんでしまった。

「虹の向こう」

性的少数者の大尉に有罪判決が下された5月24日、台湾の司法最高機関にあたる司法院大法官会議は「同性同士での結婚を認めない民法は憲法に反する」という判断を下した。婚姻の自由を侵害して、平等原則に反するというものだった。

この日はまた偶然にも、ソウル西部地裁が、キムジョ・グァンス氏、キム・スンファン氏の同性婚の婚姻届を受理しなかった行政当局の判断は正当であるとの決定を下してから、ちょうど1年の日だった。

台湾から伝えられたニュースは喜びであると同時に、韓国との格差を感じさせるものだった。韓国で性的少数者が国から弾圧され、政治家から排除され、法で処罰されているというのに、台湾はアジア初の同性婚を認める国という名誉ある地位を獲得した。

6月2日から4日まで、ソウルでは、性的少数者の合唱イベント、ハンド・イン・ハンドソウル2017が開かれた。2015年の台湾に次ぐ2度目の開催で、韓国、台湾、中国などで8つの性的少数者のコーラスグループが参加した。

2日目には短いパレードが行われたのだが、参加者はソウル市庁前広場で、朴槿恵前大統領の釈放を求める「太極旗集会」のデモ隊と出くわした。

太極旗集会の参加者は、アジア各国から集まった性的少数者に暴力を振るい、「文在寅もお前らの味方ではない」と暴言を吐いた。

最終日の公演のクライマックスは、180人の参加者全員が一つの舞台に立って、「オーバー・ザ・レインボー」を歌うシーンだった。

韓国では性的少数者の兵士に有罪判決が下され、台湾では同性婚を認める決定が下されたニュースを伝える司会者のコメントの直後だった。

1番は韓国語、2番は中国語、リフレインは英語で全員で歌った。ステージ上のメンバーも、観客も皆泣いていた。

「虹の向こう、どこか空高くに、子守唄で聞いた国がある」。虹の向こうの夢の中の世界に進むことはできるのだろうか。

新政権が誕生した直後の韓国の首都で、韓国と台湾の性的少数者、そして「太極旗集会」が出会ったこの場面、「オーバー・ザ・レインボー」を合唱したこの瞬間に、人権と民主主義とは何かを改めて問われた。

この問いに、誰がどのように答えるのだろうか。

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ハフポスト韓国版より翻訳・加筆しました。

(翻訳:植田祐介)