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インド:レイプ被害者が法の裁きで壁に直面

デリーの集団レイプ事件から5年経過するも 改善は不十分

2017年11月10日 16時09分 JST | 更新 2017年11月10日 16時13分 JST

(ニューヨーク)− インドのレイプ被害者が、法の裁きや必要不可欠な支援を受けるにあたって大きな壁に直面していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチが本日発表の報告書内で述べた。2012年12月にデリーで学生だったジョティ・シン・パンディ(Jyoti Singh Pandey)さんが集団レイプされた上に殺害された事件をうけ、法制度をはじめとする改革が謳われてきたが、いまだ完全な施行に至っていない。

報告書「『皆が私を責める』:インドで性犯罪被害者が直面する法の裁きと支援サービスへの壁」(全81ページ)は、レイプ他の性暴力を生き延びた女性や少女が、警察署や病院でしばしば屈辱的扱いを受けている実態を明らかにした。警察は多くの場合、被害届を受理したがらず、被害者や目撃者にもわずかばかりの保護措置しか取らない。医療関係者はいまだ、品位を傷つける取扱いである「2本指」検査を強要。医療やカウンセリング、被告人の刑事裁判係属中の被害者の法的支援などが不十分なことも相まって、法の裁きと尊厳に対するさまざまな障害がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの南アジア代表メクナシ・ガングリは、「5年前にデリーで起きた集団レイプの残虐さに衝撃を受けたインド人は、性暴力に関する沈黙に終止符を打つよう訴え、刑事司法改革を強く求めた」と指摘する。「こうして法律や政策は強化されたが、警察、医師、裁判所が被害者を尊厳をもって守るためには、まだ多くの課題が残されている。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチはインドの4州(ハリヤーナー、ウッタル・プラデーシュ、マディヤ・プラデーシュ、ラージャスターン)で現地調査および聞き取り調査を実施した。この4州を選んだのはレイプの報告数が非常に多いためで、併せてふたつの都市ニューデリーとムンバイも調査対象となっている。 本報告書は21の事案を詳細に調査した内容で、18歳未満の少女が被害者となった事件も10例含まれている。被害者とその家族、弁護士、人権活動家、医師、法医学者、政府および警察官関係者65人超への聞き取り調査、およびインドの国内団体による調査に基づいている。

インド法の下では、性犯罪の被害届を受理しない警察官は最高2年の刑と定められている。しかし、特に被害者が経済的または社会的に疎外されたコミュニティ出身者の場合などに、警察が捜査を開始するための初段階である「第一情報報告書(FIR)」を必ずしも出していないことが、本調査で明らかになった。被疑者が有力な一家やコミュニティの出身者である場合などでは、警察がFIRの提出を拒否したり、被害者家族に「和解」や「妥協」の圧力をかけていた。

2013年の刑法改正法は、性犯罪の定義を性的嫌がらせや盗撮、ストーキングなどにまで拡大。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した少女への性的嫌がらせ事件4件では、警察の捜査と立件書類の提出に遅れが生じていた。被害者の両親らは、被疑者が簡単に保釈されたのちに脅迫をしてきたため、被害届を出した後の娘の身の安全を案じたと話した。

インドに証人保護法制がないため、レイプ被害者や証人が圧力に対してぜい弱になり、訴追に至らないことがある。たとえば、村落単位の非公式な自治組織カップ・パンチャヤット(Khap Panchayats)は、被疑者が上層カーストに属する場合は、刑事事件を追及したりしないよう、あるいは証言を変えるよう、ダリット(不可触民)やいわゆる「低カースト」の人びとに圧力を加えることが多い。

インド法では、レイプされたと訴える女性や少女に対し、無償で応急処置や医療を施すことを医師に義務付けている。診断は治療そのものだけではなく、法医学的証拠となりうる情報の収集にも役立つ。

2014年に保健・家族福祉省は、性暴力被害者の診察および治療を標準化するため、性暴力被害者のための医事法ケアのガイドラインを発行した。このガイドラインは、広く普及している迷信の修正に役立つ科学的な医療情報と手続きを提供する内容である。女性への膣内検査を「医学的所見がある」場合に限定したり、被害者が「セックスに慣れている」かどうかについての非科学的かつ品位を傷つける医学的所見の使用を制限し、いわゆる「2本指検査」を否定している。

しかし、インドで医療は連邦共和制下の州レベルの問題であるため、州政府は2014年ガイドラインを採用する法的な義務はない。たとえガイドラインを採用している州でも、医療従事者はしばしばそのガイドラインに従っていないことが今回の調査で明らかになった。 その他の州では規定が時代遅れであり、中央政府による2014年ガイドラインの詳細さや繊細さにはほど遠いものも多い。

当局が法医学的証拠の収集法を標準化し始めてもなお、各州の医療体制はレイプ被害者に治療的ケアやカウンセリングをほとんど提供しないでいる。これには、安全な人工妊娠中絶へのアクセスや、性感染症の検査に関するアドバイスも含まれる。

性暴力の被害者、特に貧しく疎外化されたコミュニティの出身者はまた、効果的な法的支援を受けられないでいる。1994年の最高裁判決は、性暴力被害者に対し警察が法的支援を提供したり、そうした支援オプションのリストを有していなければなならいとしたが、実際それらはほとんど行われていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査・検証した21事案で、被害者に法的援助を受ける権利を伝えたり、法的支援のオプションを提供した警察は皆無だった。

被告の弁護人や裁判官の中には、性犯罪の被害者への偏見や、被害者を軽蔑する言葉を、法廷で依然として使用している者もいる。「被害者をはずかしめようとする試みは、いまも法廷では非常によくあることだ」と、デリーの上級刑事弁護士、レベッカ・マンメン・ジョン(Rebecca Mammen John)氏は指摘する。

中央および州政府は、性犯罪の被害者を支援するためにいくつかのイニシアチブをとっているが、モニタリングは評価の枠組みがない限り、ほとんど不十分または効果がない状態だ。たとえば女性と子どもに対する犯罪を扱った事案では、迅速な裁判を行えるよう、全国に524の略式法廷が設置されている。しかし、被害者がシステムをしっかり使いこなせるよう助ける法的支援などの課題に対処しない限り、達成できることはほとんどないといっていい。

2015年に設置された中央政府被害者補償基金は、レイプ被害者が最低30万ルピー(4,650米ドル)を受け取れるよう定めているが、金額は各州ごとに異なる。 制度は非効率的であり、被害者は長い時間待たされたり、補償スキームにアクセスできないこともある。 ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査・検証した21事案のうち、補償を受け取っていたのは3人のみだった。

警察の補助、法的支援、医療とカウンセリングといった総合的なサービスを提供する「One Stop Center」スキームも、実施面で非効率に終わっている。政府は全国に151のセンターを設置したと報告しているが、ヒューマン・ライツ・ウォッチほかの団体が収集した事例情報から、関連する各省庁間の調整が不十分であることが分かっている。 これらセンターの存在については、一般市民の間に認識がほとんど広がっていない。

ガングリ南アジア代表は、「レイプを届け出ることが被害者の悪夢に拍車をかけてはならない」と述べる。「人びとの思考態度を変えるのには時間が必要だが、インド政府は、被害者者やその家族に対する医療、カウンセリング、法的支援を確保すべきだ。同時に、性暴力事件の適切な対処の仕方について、警察官や司法当局、医療従事者が敏感になるよう、もっとやらなければならないことがある。」

(2017年11月8日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)