日本:いじめ防止基本方針が改訂 LGBT生徒の保護 盛り込まれる

日本の学校現場は、LGBT差別の憎悪表現がほぼ至るところに存在しており、LGBT生徒は押し黙り、自らを呪い、ときには自傷行為にすら及んでいる。

(東京)― 日本政府はいじめの防止等のための基本的な方針の改訂にあたり、性的マイノリティの生徒への配慮を初めて盛り込んだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。今回の対応は、アジア太平洋・世界において、LGBT (レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の権利の分野での日本の評価を高めるであろう。

These comics tell the stories of specific individuals Human Rights Watch interviewed, using their own words to describe their experiences. In a few instances the artist added language to provide necessary context.

© 2016 Taiji Utagawa

「今回の基本方針改訂は、日本のあらゆる子どもたちへの平等な教育の保障に向けた重要な一歩だ。日本政府はLGBT生徒を守るため、教職員への教育とエンパワーメントの分野での指導力を見せた」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 土井香苗は述べた。

文部科学省は、2017年3月14日に方針を改訂。学校に対して「性同一性障害や性的指向・性自認について、教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知する」ことを通じて、性的指向や性自認を理由とする生徒へのいじめを防止するよう定めた。

文部科学省はこれに先立ち、2015年には「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(平成 27 年 4 月 30 日児童生徒課長通知)が、また2016年にはLGBT生徒への対応を記した手引き「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」を発行している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2016年に日本のLGBT生徒のいじめと排除の実態に関する報告書を刊行。日本の学校に通うLGBT生徒は、他の生徒および教職員から暴力や言葉による虐待、ハラスメント、度重なる侮辱を受けていることを明らかにした。

日本の学校現場は、LGBT差別の憎悪表現がほぼ至るところに存在しており、LGBT生徒は押し黙り、自らを呪い、ときには自傷行為にすら及んでいる。

このほか、教員間にはLGBT固有のいじめに対応する十分な準備がない実態も明らかになった。

このため、個々の教員やそれぞれの学校が性的指向や性自認を理由とするいじめからの保護を求める生徒を支援しようとしても、不十分な対応に留まる可能性がある。

教員たちのLGBTに関する問題の理解が十分でなく、LGBTの子どもならではの傷つきやすさを心得ていない場合が多いことが原因である。

もう1つの重要なステップは、トランスジェンダーの法的認知を定めた2003年の「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の改正だろう。

現行法が求める数々の要件は、基本的人権を侵害し、トランスジェンダーの子どもに悪影響を与えるものだ。日本に住むトランスジェンダー生徒には、通学そのものが大きな苦痛であることもある。

現行法は、自らにふさわしい性別への変更(法律上の性別認定)を求める人全てに対して、精神科医による性同一性障害の診断の他、不妊手術などの条件を義務付けている。これは人権を侵害する時代遅れの手続きである。

LGBTをめぐり国レベルでの政策論議が盛り上がる現状は、さらなる前進を期待させるものだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。日本政府はこの機会を活かし、LGBTの若者のニーズを政策決定プロセスに盛り込むとともに、日本に住むすべての生徒が平等に教育を受けることができるようにするべきである。

「日本は国連人権理事会において、LGBTの人びとの権利に関する最近の2つの決議に賛成したほか、教育分野でのLGBTいじめに関する2016年の国連教育科学文化機関(UNESCO)国際閣僚級会合(IMM)の共同チェアも務めた。このことは誇るべきだ」と、前出の土井代表は指摘する。「今回、いじめの防止等のための基本方針の改訂にあたり性的指向と性自認を特定・明記したことで、日本政府は自らの政策を国際人権基準上の義務に沿わせるという、きわめて重要な一歩を記したことになる。」

(2017年3月24日「Human Rights Watch」より転載)

注目記事