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「靖国」関連中国の不当な干渉に対し日本はどう対応すべきか?

2013年08月13日 17時29分 JST | 更新 2013年10月12日 18時12分 JST

最早夏の風物詩といっても良いかも知れない。盆が近づき、多くの日本人が先祖のお墓のある田舎に帰省するこの時期になると「靖国」関連で中国政府が日本政府に対し内政干渉を繰り返す。そして、何時もお決まりの様に提灯を持つのは日本のマスコミである。 11日(日曜日)夕方のNHK番組では、 「主要閣僚が、8月15日に靖国神社に参拝すれば、中国の強い反発は必至で、日中関係の正常化はさらに遠のく」という様な解説であった。私は、本来日本の公共放送であるべきNHKが「新華社通信」の下請けに成り下がっているのでは? と義憤に駆られるが、地方の善良でNHKを疑う事のない人々は「日中の正常化」が遠のくから、安倍首相はもちろん、閣僚も靖国神社参拝を自重すべきと思うのであろう。正に中国政府の思う壺である。

私は1989年に3年半に及ぶ中東での駐在員生活を終え帰国した。そして、大阪を拠点に中国市場を1994年まで足掛け5年間担当した。その間、年に数回、一回当たり2週間程度の出張を行った。中国は、「中国4千年の歴史」と称される様に長い歴史を有し、広大な国土を所有し、そこに多くの少数民族が暮らす多民族国家である。従って、30回程度の現地出張ではとても中国通とは行かない。しかしながら、一般の日本人よりは遥かに中国について理解していると自負している。同時に「靖国」関連中国が不当な干渉を続けるのは、重篤化した中国国内問題から中国国民の眼を逸らすための手段と確信している。「靖国」問題と中国の「国内問題」はコインとの裏表の関係にあるという事だ。

中国共産党の正当性

今更いうまでもないが、中国は「権力は銃口から生まれる」を党是とする「共産党」が一党支配する独裁国家であり、民主主義国家などではない。私は中国市場担当の5年間に、日本留学の経験がある上海の若手起業家達と交流した。上海は北京から遠く離れているが、それにしても天安門事件が上海などの先進的な若者に与えた傷は大きかったと思う。「共産党」について良くいう人はいなかった。天安門事件を直接批判する事は避けながらも、「共産党」は随分酷い事をしたと批判する人が殆どであったと記憶している。「中国共産党」が国民の支持を失ったのは、決して昨日や今日ではなく、少なくとも20年前には国民は不満を募らせていた。

それでは、中国共産党が権力の座に座り続ける正当性とは一体何か? という基本的な疑問に行き着く。それに対する説明が中国らしくて分り易い。第一は、兎に角13億人の国民を飢え死にさせない。腹一杯食べさすというものである。これについては中国共産党を評価して良いと思う。今一つの理由は、抗日戦線を戦い抜き、勝利し、最終的には戦勝国の一員となったというものである。中華民国の手柄をちゃっかり横取りしている訳であるが。こういう歴史的背景があるから、江沢民時代の徹底した反日教育や、それを是正しなかった(出来なかった)胡錦濤時代がある訳だ。中国共産党は国民に対する威厳を維持するためには日本に対し厳しく当たり続けなければならない。それが、彼らが存在する数少ない正当性であるし、何より、そうしなければ彼らによって反日教育を受けさせられた現役世代が、日本に対し手緩いと不満をもってしまう。これでは、共産党政権の正当性を揺さぶる一大事となってしまう。

「天安門事件」の呪い

「天安門事件」から早い物で既に四半世紀が経過した。その間、鄧小平の衣鉢を継いだ中国共産党は「改革開放」を推し進め、日本を抜き中国を世界第二位の経済大国にまで押し上げた。しかしながら、この眩いばかりの成功の背後には中国国民の鬱積した不満の原因となっている深い闇が潜んでいる。中国国民の怒りの矛先を中国共産党ではなく日本に向けさす必要があるのだ。これが、この時期恒例行事といっても良い「靖国」問題の背景である。

「天安門事件」は余りに有名であり、改めての解説は必要ないと思う。政治の民主化を要求して天安門に集結した丸腰の学生達に向かい、軍が銃口を向けるだけではなく実際に発砲し、軍による大量虐殺が行われたという事件である。当時の中国最高権力者は鄧小平であり、政治の民主化は先送りした上で中国国民が豊かになる事を優先した。「先に豊かになれる者から豊かになれ」という先富論は日本でも有名である。私が中国市場を担当していた時から、海に近い沿海部の発展は目覚ましかった。しかしながら、今となっては中国沿海部の発展は著しいものの、内陸部は貧困のままに放置され、矛盾が放置出来ないレベルにまで達しているのは事実である。「天安門事件」によって封印された、中国共産党の解体に繋がる「政治の民主化」と「天安門事件」以降加速された「改革開放」による「格差拡大」が今の中国の政治・社会を大きく揺さぶっているのである。

液状化する中国という大国

鄧小平が指導した「改革開放」は日本など西側諸国から「資本」と「技術」を導入し、立地条件の良い沿海部に工場を建設し、現在三億人超ともいわれる人件費の廉価な内陸部からの出稼ぎ労働者である農民工を活用し、兎に角安く製造して全世界に輸出するという分り易い経済モデルであった。しかしながら、労働者の賃金が上昇すれば、当然中国に雁行するインドネシア、ベトナム、ミャンマー、バングラディシュといった新興産業国にその地位を取って代られてしまう。最早チャイナプラスワンといっていたのは過去の話で、アジア新興産業国が主で中国は従、更には対中投資がストップし、中国からアジア新興産業国にサプライチェーンの移転が加速するかも知れない。既に日本貿易振興機構(ジェトロ)は日本の対東南アジア諸国連合(ASEAN)投資が対中投資の2倍超にと報告している

更に厄介なのは、内陸部の経済対策として推進して来た不動産開発が行き詰まり、急速に不良債権化している事実である。工場誘致の困難な内陸部では地方政府が金融機関から融資を受け、宅地を開発して販売し利益を得るというやり方で地方経済を回すと共に地方財政を運営して来た。正に、不動産バブルありきの経済、財政運営である。そして、日本が嘗て経験した様に、実需がない事が明らかとなり、結果不動産市況が冷え込んでしまうと開発した不動産は不良債権化してしまう。そして、日本の場合は多くの不動産デベロッパーが倒産を余儀なくされたが、中国の場合は代って地方政府が破綻する事になる。

問題を複雑にしているのは、銀行の正規融資以外のルートからの資金も多く流れ込んでいる実態である。最近の中国金融当局は明らかに金融引き締めに舵を切っている。6月の中国短期金融市場の逼迫の背景はここにある。その結果、破綻回避のため地方政府は既に350兆円に貸出残高が達しているシャドーバンキングの高利の融資に手を伸ばす事になる。更には、架空貿易によって短期の投機資金を国外から持ち込んでいる。これが、シャドーバンキングを上回る高金利なのは確実である。銀行融資に頼れない個人が先ずサラ金を訪れ、次に闇金融に手を出すのと似ている。地方政府の破綻は近いといわざるを得ず、中国バブル崩壊の引き金となるのも確実である。

日本もバブル時代に経験したが、バブルは瞬間的には巨万の富を創出する。中国では共産党幹部や彼らに連なる既得権益者がこの恩恵に浴する事になる。彼らの不正蓄財の温床という訳である。特権階級に対する中国国民の不満や憤りは既に危険なレベルまで高まっており、党指導部として放置する事は最早不可能である。「尖閣」や「靖国」で一時的に国民の怒りを日本に向ける事で時間を稼ぎ、ダメージ覚悟でハードランディングによる不良債権問題解決に舵を切るしかない。金融市場の透明度が極端に低い中国故、余程の抜本改革、つまりは、政治の民主化と経済の近代化を合わせて断行する位でないと、中国金融市場への信頼回復は難しいと思う。

本来、格差のない社会を実現するはずの共産主義にもかかわらず、中国では鄧小平の改革開放以降、所得格差が大きく開いてしまった。そして、今尚、格差は急速に拡大しつつあると聞いている。共産主義が聞いて呆れる。共産党幹部に代表される既得権益者と一般国民、都市住民と農民戸籍により差別される地方農民、漢民族とチベット、ウイグル自治区などの少数民族、これらの格差が急速に拡大し中国社会を液状化している。

期待出来ない対中関係改善

NHKはお気楽にこの時期「日中関係の正常化」を連呼するが、それが不可能な事は中国が陥った状況を理解すれば明らかであろう。共産党幹部は不正蓄財を持って海外に逃亡するか、或いは、「尖閣」、「靖国」で日本に言いがかり、いちゃもんを付け、中国国民の怒りの矛先を無理やり日本に向ける事で中国共産党の延命を図るしかない。従って、日本がどれ程、善良、誠実に中国に向き合おうと結果は同じ事である。日本人は対中関係改善の如き可能性がないものに期待すべきでないと思う。何故なら、時間と労力の無駄に過ぎないからである。

それでは日本は中国とどう付き合うべきなのか?

私は、今日本は東シナ海を隔てて中国大陸を静観すべきと考えている。勿論、暴発も含め不測の事態に備える必要があり、自衛隊の増強により防衛力は強化すべきである。日米同盟の強化、深化と自衛隊の更なる有効活用を目的として集団的自衛権行使の認可も急ぐべきである。ベトナム、フィリピンといった中国の軍事的脅威に晒されている国々との提携強化も必要である。

一方、中国の脅威に備えつつも中国を不要に刺激する事は日本に取って得策ではない。従って何があっても「外交のドア」はオープンにしておく必要がある。「尖閣」への領海侵犯は今後も続くが、海上保安庁がマニュアル通りに対応し、外交ルートを通じて都度抗議する事が肝要である。勿論、所詮「蛙の面に小便」であるが。

企業がどうするか? は各企業が自己責任で考える事である。しかしながら、法の支配が徹底していない中国であれば、中国共産党が日本企業の財産権などを無視して強権発動を行い、財産を没収し、バブル崩壊で発生した不良債権の穴埋めに転用するといった荒唐無稽な話もあながちないとはいえない。従って、製造業であれば生産拠点を粛々と中国からインドネシア、ベトナム、ミャンマー、バングラディシュなどの、東南アジア新興産業国に移転すべきと思う。

さて、今回のテーマ「靖国」で結びとせねばならない。結果的には安倍政権が中国政府の圧力に屈した様に見えるかも知れないが、今のタイミングで中国の面子を潰し、更なる軋轢を生じさすのは得策ではない。時間を稼ぎ日本企業が中国から速やかに移転するのを側面支援すべきである。従って、こういった一連の背景を理解した上での、安倍首相以下主要閣僚の靖国神社参拝自重であれば「正解」という結論になる。