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幼児の知能開発における保育園・幼稚園・家庭の役割、そして産婦人科・小児科との連携について

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前回、「幼児教育と中学受験の落とし穴」と言うタイトルで、9歳までの知能開発について以下の論点で寄稿させていただきました。

◎小学校高学年の学習で要求される思考回路は、実は9歳までにしか育てられない。
◎理屈軽視・感性重視の幼児教室が多いが、両方の知能をバランス良く育てることが重要。
◎苦手分野を直接鍛えなくても、一見無関係そうな課題を使って間接的に鍛えることができる。ただし、そのためには指導者がメカニズムに精通していることが必要。

今回は、子供たちが長い時間を過ごす保育園や幼稚園、そしてもっと重要なご家庭の役割について書いてみたいと思います。

●保育園・幼稚園はもっと生産的なカリキュラムに出来る


前回の最後に少し書きましたが、私は24歳で実家の認可外保育園にスタッフとして加わり、29歳で園長就任。30歳の時に「太田教室」から「らいとすたっふきんだーがーでん」と改名し、内容も大幅に変更いたしました。

リトミックだって絵画制作だって体育だって、ギルフォードの知能構造論の観点から工夫を加えれば、同じ時間でももっと脳を鍛えるカリキュラムにできる。

そう訴えて、全国のギルフォード式知能教育採用園の先生方と一緒に議論を深めていました。

ところが、勉強会で意気投合した若手の先生が園に持ち帰って報告をすると、決まって大きなカベが立ちはだかります。

まずは主任先生の反対。「ただでさえ時間がいっぱいいっぱいなのに、これ以上新しく何かを始める余裕はありません。」

本当は、だからこそギルフォード理論をもっと勉強して欲しいのです。

どの活動が園児の脳に対してどんな効果を与えているのかを理解できれば、実は同じねらいの活動が重複していることに気付いたり、一石二鳥のカリキュラムを作れたりするのです。特に、「一般保育」と「知能教育の教材」にはけっこう重複があるので、そこを整理出来ればもっと時間は生まれるのです。また、カリキュラムの実施順を工夫するだけで、園児の集中力を持続させることも可能です。

次に、園長先生や理事長先生の反対です。「これ以上研修費や残業代は出せないよ。」

これは、非常に正しい指摘です。30代前半だった私は保育園・幼稚園の経営に関して全く理解できておらず、「良い保育をすれば園児が集まり、採算がとれる。」程度にしか考えていませんでした。この件については最後の章でもう一度触れます。

そして、もう一つのカベ。これは園側から言われたことではなく、私が自分で気付いたことです。

それは、「一番下の先生のレベルに合わせるしかない」という問題です。

ある年の年長さんの担任の先生が画期的なカリキュラムで、素晴らしい絵画制作、保育参観、生活発表会の実績を残したとします。次の年の先生は刺激を受けてもっと良いものを...という訳にはどうもいかないようなのです。また、同じ学年に複数のクラスがある場合も同じです。片方の先生だけ独創的な良い保育をするわけにいかない。

離職率が高く、常に新人の先生が多数いる保育園・幼稚園では、新人の先生でも出来るレベル、に統一するのが一番無難という訳です。

そこで、ある園では「カリキュラム開発チーム」と「現場の先生」を分業する、という方法を採りました。

ところが前回の記事でも述べましたように、教材やカリキュラムと言うのは、そのねらいを深く理解して「言葉がけ」や「どこまでやらせるか」をコントロールしないと、効果が出ないどころかマイナスに働くこともあります。

この園の公開保育を見学させていただいたのですが、配られた保育案と実際の保育にたくさん矛盾が起きていて、公開保育終了後に担任の先生に質問すると、「あ、私、内容のことは分からないので担当の先生に代わります。」と言われてしまい、がっかりしたことがありました。

各園に一人、二人研究熱心な先生がいても、なかなか園全体での取り組みにはならない、というのが現状です。

小学校では当たり前に行われているような教材研究・指導法研究が保育園・幼稚園現場でのスタンダードにならない理由としては、昨今社会問題になっている保育士・幼稚園教諭の低賃金の問題と切り離しては考えられないと思います。

なお、現在私どもの幼児教室では未就園児の保護者の方に園選びの基準として、

お勉強ノータッチ園 + 専門幼児教室    10点
お勉強系幼稚園のみ              7点
お勉強ノータッチ園のみ            3点
お勉強系幼稚園   + 専門幼児教室    -3点

と紹介しています。

つまり、我々のような思考力を養う教室に通われるのであれば、「お勉強」をうたい文句にする園には行かないでいただくのが一番、というわけです。お子様が混乱するから、です。

「お勉強に力を入れている」とうたう園の大半が、フラッシュカードに代表される、思考力を奪う右脳教育、そして大量のプリントによる反復練習(=これも思考力を奪う)を実施しているからです。これらの教育を受けた子供たちは、「9歳のカベ(前回の記事参照)」にあたるまでは賢く見え、9歳のカベにあたった後は勉強に苦しむことになるのです。

●知能開発の観点からみた 家庭での過ごし方


そして、保育園・幼稚園以上に大事なのがご家庭での過ごし方・言葉がけです。

私たちの教室で実施した教材でも、あえて完成させる必要がないのでそのまま返却した教材を家で完成するまで取り組んだり、できなかった問題の類題を自作して毎日反復練習させたり。たいていの場合、それは逆効果となります。

教室としては間を空けて、前回苦戦した課題に抵抗感がなくなった時期を見計らって次のステップへ行こうとしているのに、「またそれ?もうウンザリ。」と言う顔をされるので、すぐに分かります。

私たちの教室では幼児は年に2回、小学生は年に1回知能診断を行いますが、大体そこからご家庭での様子・言葉がけが透けて見えます。

親御さんが何でも先回りして正解を与えてしまうこと、結論を一つに決めてしまうことがお子さんの知能の柔軟性を奪ってしまうことをお話して、親御さんが態度を改めていただけるとありがたいのですが、大人の方が変わるのは難しい、というのが実情です。

また、私たちの教室は、2歳以上で自分の考えが言葉で説明できる頃を目安に入会していただいているのですが、それまで待ち切れずに別の早期教育の教室に行かれて、満を持して(?)我々の教室に来られる場合があります。

実は、そうなると2歳にして既に非常に集中力がなく、考えるのがキライなお子様が来られるケースが非常に多いのです。

2歳以下で通える教室のほとんどは、生徒さんの意志を全く考慮せずに一方的に講師主導で行う教室か、逆に、生徒さんの気の向くまま好きなことを好きなだけやって、飽きたら途中でも投げ出してOK、と言う教室のどちらかになっています。

ここ数年、試験的に2歳以下のお子様をお持ちの保護者の方対象の「子育て講座」と言うものも実施しているのですが、そもそもこういう講座にお申込みいただく時点で、真面目すぎる、考えすぎるお母様・お父様が多いです。

テレビや雑誌で「良い」と紹介されるものは全て試し、「良い」と言われる習い事は全てさせてみる。そしてお子様はドンドン受け身になり、「流す」ことを覚える、と言うケースが多いのです。

2歳までに焦りすぎず、呑気すぎない家庭環境を構築するアドバイスをさせていただくのも、私たちにとっての重要な課題です。

そう言う意味でも、保育園や幼稚園の未就園児クラスには大きな責任と可能性があると思います。

●産婦人科と小児科、保育園の融合


この稿の最初の章で、日本各地の幼稚園・保育園の園長先生に、人件費の観点から、私の考える理想の保育を導入するのは難しい、と言われた話を書きました。

そしてお恥ずかしい話、私は理想を追い求めすぎた自分の保育園を、園長になって5年目に経営破たんさせてしまいました。当時の園児・保護者・職員の皆さまに多大なご迷惑をおかけしたことは一生忘れられない教訓です。

それから9年間、幼児教室という形で生徒さんと週に1回か2回、短時間かかわるという中で、一つの理想形を思い浮かべています。

それは、産婦人科と小児科と保育園が融合した施設です。

産婦人科受診中から正しい早期教育について知識を持っていただき、小児科の先生とも一体となって保育園の園児のご家庭に、焦っていろいろな間違った早期教育に手を出す必要はなく、当たり前のことを当たり前にやることが大切である、と言うメッセージを伝える。

また、保育士は幼稚園教諭と違い、学校に通わなくても試験にさえ合格すれば資格が取れますので、例えば大学卒業までは保育士になることを考えていなかったが、ここでなら働いてみたいと考えてくださる志の高い方に後から保育士の資格をとっていただく、ということも可能です。

また最近は、保育園で看護師さんに働いていただくことも多くなっていますが、多くの方の悩みが、「自分一人だけ違う立場なので人間関係が大変」だそうです。そのような観点からも、病院と一体となった保育園にはメリットがあると思います。

もちろん、すでに大病院の中の院内保育所や、産婦人科内に院内保育所を併設しているところ、というものは存在していますが、私の印象ではこれらは病院職員のための福利厚生施設、すでにお子様がいらっしゃる妊婦さんの利便性のための施設であり、子供の保育にとって最適なアプローチ、と言う観点が出発点のところはあまりないようです。

保育面で理想を追求しながら全体として採算が合い、病院で働く方にも保育園で働く方にもメリットがある。そういう方法を求めて、これからも研究を続けたいと思います。

なにぶん、保育・幼児教育サイドからだけの観点ですので、間違っていること、理解不十分なことも多々あると思います。お気づきの点につきまして、ご指導ご鞭撻をたまわれましたら幸いです。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

幼児教室 ライトスタッフ

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中学受験 ノブレス・オブリージュ

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太田 勝久
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(2016年7月29日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)