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企業と研究の距離 ~医師による監督が有効~

2014年02月28日 20時06分 JST | 更新 2014年04月30日 18時12分 JST

製薬企業のノバルティスが、自社の白血病治療薬の効果を調べる医師主導の中立的な臨床研究で、書類作成やデータ解析に関与した上、がんに関する個人情報を不正に持ち出した疑いが強まっている。

同社は昨年半ばから報道されている、自社の降圧剤の効果を調べる臨床研究に社員を関わらせ内容を改竄した事件の、改善に向けた取組の最中であった。

似たような行為は他の企業でも行われており、発覚は時間の問題と言われている。

こうした臨床研究への企業の不正関与を防ぐためには、まず企業側の自己規律を徹底することが必要である。しかし今回の一件で明らかになったように、企業間・社員間での売上競争によって、企業が自己規律を徹底できるかは疑わしい。

そこで研究者の医師の方々にも、自己防衛として企業の活動を監督していただければと思う。

企業は臨床研究に際して、奨学寄附金と社員を提供することで、研究者に不足している資金と人員をサポートすることができる。しかしこのような企業の関与は公にする事が義務付けられており、試験結果は色眼鏡で見られる。

そこで企業としては、企業が関与しない医師主導の中立的な臨床研究で、自社の薬の効果が高いことが証明された、という結果が販促のために欲しいのである。

こうして医師主導の臨床研究を影で企業が利用する、という不正関与の構図が生まれる。自社の存在が公にならない企業からは自己抑制が失われ、悪質な行為がされやすい環境が生まれてしまう。

ではなぜ医師側からの企業の監督が、必要なのだろうか。

まず不正の見つけやすさがある。

企業にも法務や第三者委員会などのチェック機関はあるが、研究現場との距離は遠く、事態が把握できない。そして実際の現場を統括する人間は、売上拡大への意識が強いため不正を取り締る意欲が低い。今回の事件でもインセンティブプログラムと称して、不正関与をした社員にコーヒーチケットを配っていた。

これに対して、臨床研究を進める医師は、関与される側の立場から企業を見るので、誰がどのように不正関与をしてきているのかを把握し易い。

次に医師のほうが、負うリスクが高いことが言える。

臨床研究で不正が行われたとして、企業はせいぜい薬事法違反の誇大広告として法人の責任が追及されるに止まり、社員個人まで訴追の手が伸びることはほぼ無い。今回の事件でも厚生労働省はノバルティスを刑事告発したものの、起訴に必要な不正行為を行った個別の社員の特定ができておらず、捜査は頓挫してしまっている。一方で臨床研究の結果が企業の望むようになれば、売上が数百億単位で増加する。企業にとって臨床研究への不正関与は難しさとリスクの低さわりに、リターンが大きいのである。

これに対し研究者の医師は、個人情報を流出させた場合は刑法犯となり、健康被害が生じた場合には過失致死傷としてより重い罪に問われることになる。患者に対する民事上の損害賠償責任も一次的には医師が負う。そして当然のことながら、研究者としての活動はできなくなる。

最後に、発生する恐れのある重大な被害を、制止することのできる立場の人間が医師しかいないことが挙げられる。

仮に治療効果の低い薬が企業の不正関与により臨床研究に供された場合、発生する健康被害は計り知れない。また患者の自己負担と、保険料を通じた国民への、財産的損害も大きなものとなる。

こうした患者と国民への被害を防ぐために法規制をすることも考えられないわけではないが、届出を増やす事前規制は、真面目な研究者の手間を増やすだけで、不正に関わる人間はその届出書類も企業に作らせるので意味が無い、刑罰による事後規制も革新的な研究の萎縮を招いてしまう恐れがあり望ましくない。

拍子抜けするような話だが、不正関与を防ぐため最も効果がありかつ迅速で費用がかからない方法は、研究者の医師が意識を変えることである。

企業を関わらせるのであればその旨を明示し、関わらせないのであれば、実際の研究でも一切関わらせない。

要は嘘をつかず自分の言ったことを守れば良いだけである。

無論、まずは企業側が襟を正して不正関与をしないよう自己規律を徹底すべきというのが原則だ。しかし今回のノバルティスの件でも明らかなように、残念ながら企業側の不正体質を正していくにはまだ時間がかかるだろう。

優秀な研究者の医師という貴重な人材が、これ以上企業の利益のために失われることの無いよう、「お医者さん」にはまず自己防衛をお願いしたい。