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円安にも関わらず海外進出の勢いが止まらないので、進出にあたって必要なことを順番にまとめてみた

2014年05月02日 17時18分 JST | 更新 2014年07月01日 18時12分 JST

M&A助言会社のレコフが発表した最近の調査では、2014年1~3月の日本企業による海外企業のM&Aは26・9%増(前年同期比)の132件と、円安にも関わらず依然強い勢いが持続していることを浮き彫りにしました。国内市場縮小の危機感と海外市場の強い需要が各企業を動かしているように見受けられます。

前職ではもちろん、現在の立場でも企業の海外進出をお手伝いするケースが少なくないですが、昨年、海外進出や海外移住に関して、官公庁や民間企業など数回ほど講演をさせて頂く機会を頂きました。その際に、体系的なお話が出来ればと考え本やレポートなど色々リサーチをしてみましたが、あまり海外進出や海外移住に関して体系的にまとまったものが存在しませんでした。そこで、今回は、海外進出にあたって必要なことをなるべく体系的にまとめてみたいと思います。

 1.海外進出を考えたキッカケは何か

 2.海外進出の5W2H

 3.海外進出で必要不可欠な8つのスペシャリスト

 4.海外進出の6つのステップ

上記の4つのステップで、順番に説明していきたいと思います。少しばかりお付き合い頂ければと思います。

1.企業が海外進出を考えるとき

企業が海外進出を考えるキッカケは様々です。場合によっては、大きなリスクに巻き込まれるケースもありますので、多方面からご自身の立ち位置を考えることが必要になります。

進出のキッカケはだいたい以下の4パターンに集約されます。

自社発案

最も多いのが自社発案ですが、どこまでを自社発案というのか線引きが難しいかと思われます。例えば「取引先(大手メーカー)から言われて考えた」、「取引のある商社と話をしていて考えた」結果の自社発案を自社発案というのか微妙なところがあります。自社発案のパターンとして多いのは、「少子高齢化に伴う日本国内市場の縮小」、「取引先のグローバル化」を枕詞にした海外進出です。

日本における取引先からの打診

典型例は大手自動車メーカーの海外進出に付随して、部品メーカー群が進出するケース、或いは総合商社が中小企業群の進出をサポートするケースで共に製造業に多いパターンです。自動車メーカーのケースでは中華圏での進出が一巡したことから最近はあまり耳にしませんが、総合商社が東南アジア等で工業団地を整備して進出を促すケースはニュースで時折取り上げられます。稀に地方公共団体や中小企業の連合体等が共同進出するケースもあるようです。

呼びかける取引先が大手メーカー、総合商社の場合には煩雑な進出手続、インフラ整備等に投じる労力が節減できますが、場所や販売先等で経営の自由度に制限を受けるリスクもあろうかと思います。

展示会・現地観察の縁

分野にもよりますが、日本で開催される展示会にはアジア各国企業も出展、少なくとも視察に訪れるケースは多いようです。展示会で英語や中国語が飛び交う光景を耳にもすることも多いでしょう。各社ブースには商談スペースを設けていることも多いほか、商社等の取引先が訪れることもあろうかと思います。

政治的関係・属人的関係を伴うケース

最近では多くありませんが、内外の国会議員・地方議員が現地企業や工業団地を紹介するケースもございます。相手が相手だけに断りにくいこともあろうかと思いますが、この種の話は経済合理性よりも議員の面子や政治的な思惑が優先されるケースがあるので要注意です。「議員の紹介だから大丈夫」と思いがちですが、トラブル時に政治家が解決してくれる保証はありません。

該当国の有名政治家の親族・友人知人を名乗る「コーディネーター」も時として登場します。こちらについては虚偽であることも少なくありませんし、名刺を交換しただけの関係ということもありますので商社や銀行等のルートで「裏を取る」ことをお勧めします。海外進出においては親の自慢や友達の自慢ばかりする方を余り信用しない方が良いかも知れません。

2.海外進出の5W2H

ここまで、一言に海外進出といっても、キッカケは様々でそれぞれ留意点があるということでした。

では次に、更に具体的に海外進出の準備に入っていきましょう。

まずは、海外進出の5W2Hを明確にすることがおすすめです。

Why:進出目的

海外進出の目的の整理ですが、実は曖昧であることも散見されます。いつの間にか海外進出それ自体が目的化してしまい、プロジェクトが迷走することもないわけではありません。特に取引先や中国企業など、他社からのオファーを受けた場合はオファーを受ける理由を考える必要があると思います。

海外進出の理由としては、需要地の近隣に生産拠点や販売拠点を置く(市場立地)、日本よりも低い生産コストに着目した生産拠点設置(生産基地)、同じく部品の安さに着目した調達拠点設置といったケースが多いかと思います。ただ、中国のように生産コストの高騰や経済成長によって生産基地が市場に変わるケースもあります。進出してからも何故、その国に拠点を設けているのか考え続ける必要がありそうです。

What:事業内容

まさに会社で何をやるかという議論であり、製品ラインナップ(生産品目・取扱品目)、サービス内容を決めることになります。通常は本業(主要製品)が進出対象になると思いますし、業歴が長い事業、製品になるかと思います。或いはそのような本業に関連するサービス、機械事業のメンテナンスや販売のために海外拠点を設ける事例は多いものです。

ところが間々、「海外だから新しいことに挑戦しよう」「海外で新しいビジネスモデルを確立してグローバルに(或いは日本に)還元しよう」と考える方もおられます。確かに経営資源に余力のある企業であればリスクを取れるかもしれませんし、日本以外の国で成功した事業モデルを日本に逆輸入するケースもありえる話とはいえます。しかし、事業が万一、失敗した場合、本業ではカバーしきれないような本社の事業基盤まで毀損するダメージを受けてしまっては元も子もありません。

日本とは「勝手が違う」海外市場ですので、「勝負できる事業、製品・サービス」で臨まれる事をお勧めします。

Where:場所

事業立地については大きく国レベル、同一国での地域レベルで考える必要があります。国レベルではその国の経済成長、人々の購買力、人件費等の生産コスト、税制、投資制度、政情の安定性等を総合的に勘案して決めます。所謂、「カントリーリスク」もここで議論されます。

尖閣諸島国有化以降、一部企業が中国から拠点を移して東南アジアへシフトするといった話を耳にしますが、これは中国の経済成長や購買力の高まりといったプラス面よりも、生産コスト上昇や反日機運による事業への様々な障害というマイナス面を危惧してのことと思われます。中国の事例は、経済成長率や市場規模といった経済合理性だけでは割り切れない部分が海外進出にある点をよく考えさせる事例と言えるでしょう。

また同一国でも投資環境が異なる国が存在します。代表格は中国ですが、台湾等でも工業団地によって優遇条件が異なるケースがあります。国を定めたところでできれば複数の工業団地を直接見学して、当局担当者と話をしてみて、最終進出地を決めるのがベストと思いますが、最終決定に至るプロセスについては後段にて別途御説明したいと思います。

When:設立スケジュール

設立スケジュール、申請等のタイミングの検討が含まれます。会社設立(拠点開設)スケジュールについては余裕を持ったスケジュールであることが第一条件と感じております。特に中国のように地域によって進出申請フローに異なる国、ミャンマーのように企業進出に関する制度整備が途上の国については当局に申請手順をステップバイステップで確認する事態が想定され、スケジュールが後ろ倒しになりやすいと思います。

上場企業でIR上、中期経営計画の関係からスケジュールの早期化を求められているという話も聞きましたが、当局、提携候補との交渉を日本企業の都合だけで早めるのは現実的には難しいと思いますし、スケジュールを優先して、交渉において譲歩を重ねて自社に不利となっては意味がないとも言えます。詳細は各種交渉のところで御説明しますが、「時間的な余裕が武器」になることもありますので行過ぎた時間制限は避けるべきでしょう。

Who:パートナーの有無、出資形態・出資比率

当然、パートナーが居ない、即ち独資進出ということもありえます。極論ですが、現地企業を100%買収(M&A)して進出する方法もあります。M&A自体は日本国内外問わず増加しておりますが、M&A経験がない日本企業がいきなり海外企業を買収するのはノウハウの点でややハードルが高いと言えます。こちらについては後段で別途御説明します。

 パートナーが存在する場合は新設会社を共同出資によって設立する(Joint Venture: JV)ケースが多いようですが、パートナー企業に完全買収ではない範囲で直接出資をするのも実質的にはJVと同様です。もっと言えば、JVとM&Aだけがパートナーとの関係を規定するのもではありません。OEM・ODM、共同開発、代理店契約等もパートナーとの関係のあり方と思われます。

しばしばアライアンス戦略という言葉が使われますが、M&AやJVのような関係が深いアライアンスもあればOEMや代理店契約等といった浅いアライアンスも選択肢です。

How:進出形態

現地法人、支店、事務所等の進出スタイルも検討項目です。ただ、支店や事務所等は先述したパートナーが居ない状況(独資)でのみ選択できる進出形態ですし、更に支店や事務所では行動が制限される(法人格の扱いが微妙、営業活動が制限される等)ことがあるため実際には現地法人設立が多くなると思います。

ただ、経営資源の制約や本格的な海外進出に先立つ準備という視点から情報収集拠点として事務所設立を選択することもあります。情報収集拠点としての役割を果たした後、現地法人に格上げ(実際には事務所を廃止して、現地法人を設立する)することもあります。また数は多くないですが、金融、建築等の業種では法規制の関係で支店や事務所を選択するケースもあります。

How Much:投資規模

投資金額ですが、海外進出検討の初期段階では所要投資額が定まらないケースが多いと思われます。各種事業計画が定まる中で必要資金額が見えてくるケースもあれば、所定の金額内で収めるように事業計画を立案することもあるかと思います。これも検討の初期段階では見えにくいこともあります。後述する調査やFS作成を通じて、投資規模を具体的に推定することが多かろうと思います。

また投資総額だけではなく資本金・借入のバランスも後々重要になってきます。特に外国からの借入金(外債)については中国のように投注差として金額の制限を受ける国のほか、当局への届出・報告を求める国がございますので資金調達の検討時には留意が必要です。

3.海外進出で欠かせない8つのスペシャリスト

ここまで準備が整った段階で、非常に重要なビジネスパートナーとなる、各種専門家探しです。どのようなパートナーを見つけるかが、海外進出の結果を大きく左右するので、パートナー選びは慎重に行う必要があります。

(1)コンサルタント

一番捉え所が難しいのがコンサルタントの立ち位置かもしれません。全体としては「水先案内人」「プロデューサー」としての役割、調査・事業検討においては「(企業・市場の)アナリスト」としての役割も担うことが多い存在です。

自社内に海外進出経験、海外事業立ち上げの経験者が豊富であればコンサルタントは必ずしも必要ではありません。ただ、初めての海外進出(初めての国)、調査や事業検討等で第三者の客観的な意見が欲しい場合にはコンサルタントに依頼することが多いように思います。コンサルタントは多種多様ですが、大きく以下のような分類ができると思います。

A.専業(大手)コンサルティング会社

外資系有名コンサルティングファームから日系の独立系コンサルティングファーム、シンクタンクまでグローバル戦略立案、海外事業サポートを手掛ける会社群です。専業コンサルティングということで専門性は高いですが、各社により守備範囲は異なり、全社的なグローバル戦略策定から海外進出の実務的な対応まで幅広いと思われます。また有力コンサルティング会社なので国を問わず、対応してもらえることが多いようです。

反面、守備範囲が広い故にコンサルタントに依頼(リテイン)する際にはどのような業務(スコープ)を委託する検討する必要もあります。

これは後述B.兼業コンサルティングとも共通しますが、例えば、全社的なグローバル戦略策定が得意なコンサルティングファームに海外進出の実務を依頼してしまう、或いは特定国の海外進出の実務対応が得意なコンサルティング会社に全社的、全世界的なグローバル戦略策定を依頼してしまう、といったことになれば双方時間と費用の無駄になります。実際の役務提供のイメージ等、双方よくすり合わせておかないとリテインが無駄になるリスクもあり、要留意です。

B.兼業コンサルティング(会計士・弁護士・銀行・商社等)

専業(大手)コンサルティング会社以外では、会計士、弁護士、銀行、商社等がコンサルティング機能を提供することがあります。体制として専門部署があるケースから担当者が属人的に行うケースまで差はありますが、大手企業によるサポート、守備範囲の広さという点では先述のA.に近いと思います。

A.との相違点は、「兼業」ということでコンサルティングの最終的な目標が「本業」にあるところと思われます(各社により温度差はあるようですが)。会計士であれば海外拠点設立後の監査業務での利用、弁護士であれば継続的な法務相談での利用、銀行であれば口座開設・送金・預金・貸出での利用、商社であれば商流への関与等が考えられます。「本業」での利用が事実上の前提になるケースもありますので会計士や銀行等では日本本社での利用企業との整合性に留意しておく必要があると思われます。

C.個人コンサルティング事務所

A.、B.等のOBが設立するケース、駐在員OBが個人事務所を立ち上げるケースが多いようです。規模が小さいため、対象国や業務の守備範囲に限りはありますが、フィーは相対的にA.、B.よりも低く、属人的なつながり、現場に入り込んでのフォロー等はA.、B.に優ることもあると思われます。

反面、コンサルティングサービスのクオリティにばらつきがあること、コンサルタントかコーディネーターか見分けがつかないケースもあります。また極めて少ないと思いますがクライアントの利益に相反する動きをするコンサルタントもなくはないと思われます。「企業が海外進出を考えるとき」の中でも御説明しましたが、進出国要人等との属人的なつながりばかりを強調するコンサルタントの登用は少し考えた方が宜しいかもしれません。

(2)調査会社

日本で言うところの帝国データバンク、東京工商リサーチ等が該当します。海外ではD&B(ダン)レポートが有名です。国内の調査会社経由で海外企業データを入手するケース、銀行や商社経由で現地の調査会社に依頼するケースが多いようです。但し、国によって企業情報の開示状況はかなり異なるため、日本での調査レポートと同様の内容を一律期待することは難しいと思います。

調査会社に依頼されるお客様の多くは財務情報の入手を目的とされると思われますが、非上場企業の財務情報については(中華圏に限って申し上げれば)容易ではないというのが実情です。逆に申し上げますと上場企業(株式の流通問わず、店頭公開等で証券取引所のコードを持つ企業)であれば公開情報の範囲で(インターネット上等で、無料にて誰でも入手できる情報)かなりの情報が入手できます。まずは調査対象が上場企業かどうかを確認し、非上場企業でインターネット等でも情報が出ておらず、調べようがないときに調査会社に依頼するというのが調査会社のスタンダードな利用方法と思います。詳細は調査のパートでまた御説明したいと思います。

また一部のコンサルタントでは調査業務を引き受けるケースもありますが、コンサルタント自身も調査会社に依頼するケースもありますので調査方法については調査依頼時に協議されることをお勧めします。

(3)弁護士・行政書士

海外において単独で海外進出申請を行う際、弁護士・行政書士(呼称は各国によって異なる)の存在は欠かせません。

例えば、進出国に提出する書類準備・提出、場合によっては当局との実務的な交渉を行うこともあります。

中国の例では日本の行政書士に該当する申請書類提出の代行会社が当局から各ケースに見合った書類雛形を入手し、スケジュール感や必要書類について当局と交渉することがあります。地方によっては弁護士事務所が代行会社の役割を果たすことがあります。当局とのリレーションシップが強い代行会社を選ぶことが、海外進出成功の一つの要素とも言っても過言ではないかもしれません。

海外進出では進出国との企業、当局等と幾つかの契約書を締結することが一般的です。主だったところでは各種提携契約(技術支援・販売代理・合弁会社設立・資本提携等)や進出契約(土地の貸借売買・インフラ整備・各種税優遇等)であり、大きなプロジェクトでは最終契約に至るまでにLOI・MOU(最終契約前の覚書)等を結ぶケースも少なくありません。各種契約書のリーガルチェックは弁護士の役割になります。

最近では海外進出をM&Aを通じて行うことも多くなってきました。詳細はM&Aの部分で御説明しますが、上述の契約書のリーガルチェックのほか、M&Aにおける詳細調査Due Diligence(DD)も弁護士が担う役割の一つ(法務DD)です。加えて、(万一のケースですが)撤退時の清算・破産実務においても各種申請、労務関係の説明・手続等で弁護士への依頼が必要になります。

(4)会計士

弁護士と同様に重要な役割を果たすのが会計士です。企業設立時は資本金の払込証明、企業設立後は監査業務、納税関連業務、弁護士と同じく企業・駐在員事務所撤退時の清算業務等で会計士の関与が必要です。またM&Aにおいても財務・税務DD等で会計士の存在は欠かせません。

コンサルタントと同じように弁護士、会計士も多様な事務所(ファーム)が存在しますが、大きくグローバル大手ファームとローカルファームに分かれます。

グローバル大手については会計士事務所の"Big 4(デロイト・PwC・KPMG・アーネストアンドヤーング)"、ベーカーアンドマッケンジーのようなグローバル大手弁護士事務所等で、自社で日本、アジア各国に事務所やデスクを持っています。日本の大手法律事務所も一部は直接海外事務所を擁しているケースがありますが、後述のローカルファームと提携しているケースもございます。

ローカルファームは基本的にその国でしか展開していないファームですが、大手ローカルファームは日系ファームと提携しているケースもあり、日系の弁護士・会計士事務所への依頼時に確認することをお勧めします。

弁護士・会計士に依頼する場合は現地での日本語対応が一つの目線になると思います。

勿論、英語で実務対応ができるスタッフが日本本社に居れば問題ないですが、専門用語でのやりとりであれば日本語の方がストレスフリーと思います。大手ファームであれば自社の拠点網の中で日本人を派遣しているケース、日本企業の進出が多い国では専門対応チームを進出国で設置しているケースもあります。

ローカルファームの場合でも大手ファームから日本人が現地で独立したファームや特定国の財務・税務・法務を専門とした日本人の独立系弁護士・会計士が少なからず存在します。フィー目線ではローカルファーム・独立系ファームの方がグローバル大手ファームより低いケースが多いと思われます。日本語対応可否、フィー目線、日本でリテインしている弁護士・会計士との関係等を踏まえて総合的に判断しているリテインすることになるかと思います。

(5)翻訳・通訳

中国、ベトナム等では会社設立申請時に現地語で日本での商業登記簿謄本等の日本で発行された書類を訳すよう求めており、翻訳会社のリテインが必要になります。

また当局交渉、提携交渉において英語での交渉が難しい、自社内に進出国の言語に明るい人材が居ない場合は通訳を雇う必要があります(交渉においてはコンサルタントが通訳の役割を果たすケースもあります)。

(6)銀行

銀行も海外進出の初期から日常業務まで幅広く関係してきます。

会社設立時は資本金口座の開設・資本金送金、設立後も駐在員事務所経費・現地法人から日本への配当金・親子ローン(日本本社から進出国現地法人への貸付)の送金、現地における預金、決済、借入、両替等、その役割は日本となんら変わりません。

現状、邦銀メガバンク三行は日本企業が多く進出している国には殆ど支店或いは現地法人を設立しています。しかし、進出が一番進んでいる中国でも全域をフォローする程の拠点数があるとは言い辛い状況です。進出地域によっては最寄の邦銀拠点まで省(日本の都道府県に相当)を跨ぐことも考えられます。中国以外の国でも首都に一箇所支店や現地法人があるだけのケースが大半と思われます。従って、日常決済(日々の給与・売買)は近隣の地場銀行、資本金や設備投資資金借入等は邦銀の拠点に依頼するといった対応が必要になると思います。

また借入についても国によって外国からの借金(外債:親子ローンや邦銀本体からの外貨借入)には申請を要するケースや金額制限が設けられているケースがあり、大型の資金調達時には確認が必要になります。

(7)不動産業者・工事業者(ゼネコン)・エンジニアリング会社

国を問わず、駐在員事務所、現地法人を設置した場合は登録住所が必要になります。

駐在員事務所や販売会社であればオフィス、生産法人であれば工場住所が登録住所になるでしょう。オフィスであれば不動産業者に依頼し、オフィス物件を紹介してもらうことになります。

中国では大家との賃貸契約書が登録住所証明の一つにもなりますので新規での海外進出である旨を説明する必要もあります。オフィスがそのまま使えるとは限りませんので内装業者に依頼して、家具搬入や配線工事も必要になります。

工場の場合は当局と土地の賃貸(使用権払下)契約を結んだ後に工事となるケースが一般的です。標準工場の形で建屋が用意されている場合もありますが、更地から自社のイメージに合う工場を建てる場合は工事業者に依頼する必要があります。工場規模にもよりますが、アジアに進出している日系ゼネコン(その協力会社)に依頼するケースもよく伺います。

国によっては工場建設時に用地利用計画、工場建設計画、環境アセスメントを当局に提出する必要もあります。近年では中国では環境問題に敏感になっており、環境負荷を当局もチェックしています。事業検討の部分でも御説明しますが、事業計画書(FS)作成時にも環境負荷が一つのポイントになっており、中国では専門の環境アセスメント会社、当局提出用のFSを作成するエンジニアリング会社も存在します。

(8)人材派遣会社

業態を問わず、海外で新事業を立ち上げる場合には人材が必要です。

当初は日本人駐在員の比率が多いでしょうが、当初から現地人材を採用するのが一般的です。人材募集には専門の人材派遣会社が関与するケースが多く、ローカルの人材派遣会社と(地域によってですが)日系の人材派遣会社をそれぞれ活用することになります。

また当局が地元大学と懇意にしている場合には大学の担当者と接触する方法もあります。

4.海外進出の6つのステップ

最後に、海外進出の各ステップを具体的にイメージしていただき、それぞれの段階でどのようなことに留意すべきなのか、ご説明したいと思います。

(1)初期検討・調査

今まで述べてきたような『海外進出の5W2H』の大凡の方向付けを行い、事業見当の基礎データとなる調査を行うフェーズです。調査には大きく、進出国での市場環境の調査、進出に関する制度調査(投資環境調査)、パートナー或いは競合相手の企業調査があります。

このフェーズではコンサルタント、或いは調査会社が主に関与します。制度調査については弁護士が、市場調査及び一部企業調査については会計士や銀行でも対応することがあります。

(2)事業検討

(1)調査の結果得られたデータを基に『海外進出の5W2H』の方針確定をします。必要に応じて追加調査を行うこともありますので、(調査と事業検討は可逆的な関係とも言えます。また自社独自の事業計画(Feasibility Study:FS)作成も行います。FSについては自社作成されないケースも多いですが、製造業で相応の投資になる場合には作成をお勧めしております。

このフェーズでは自社のみで検討を行うか、関与してもコンサルタントのみですが、各種調査の結果がFSに反映されるため、本表では調査から関与する可能性があり、次フェーズ以降も関与する弁護士、会計士、銀行を加えております。

(3)交渉

事業方針が固まれば交渉開始です。海外進出で一番エネルギーを要するのが交渉とすら思います。但し、独資かJV/M&Aかで交渉する相手が異なります。独資であれば進出地の当局と主に優遇条件と土地他インフラ整備について交渉することになります。JV/M&Aであれば提携相手との交渉になります。JV/M&Aについては本稿では現地企業との提携を前提としているため、当局交渉は現地企業が行う、或いはM&Aについては買収許可取得が当局関連のメインイシューになることが多いため、上図チャートでは捨象しております。

交渉フェーズが海外進出の山場であり、関与する専門家も非常に多いです。コンサルタントをはじめ、弁護士、会計士はM&Aとなれば必須、通訳・翻訳会社の出番も多いと思います。銀行、不動産業者については資本金や登録住所に関する対応を睨んで含めております。

(4)申請

無事に交渉が終われば申請になります。JVの場合には提携企業が手続を引き受ける可能性もあり、一部必要書類の提供で終わることもありえます。このフェーズでは申請書類の作成、取りまとめ、当局窓口での提出が行われます。どちらかというと事務作業の側面が強いフェーズです。

関与する専門家も弁護士、行政書士、会計士、翻訳会社、銀行、不動産業者等、幅広いです。製造業の場合は国によって環境アセスメント業者、エンジニアリング会社等も関係してきます。海外進出は『第二の創業』と称するならば、会社を作るのに必要な関係者が一同に勢ぞろいするのが本フェーズといえるでしょう。企業の成立に必要な書類、証明、資金、土地設備等が揃うイメージです。

(5)稼動

実際のビジネスの立上フェーズです。申請フェーズの関係者に加えて人材派遣会社、工事業者(ゼネコン)が関与してきます。逆にコンサルタントが関与する余地は次第に減ってきます。ここではヒト、モノ、カネという事業に必要な要素が揃い、ビジネスが動き始めます。

(6)再編

稼動から再編フェーズまでは相応の年月が経っていることと思います。新規の海外進出をこれから検討される方には遠い未来の話かもしれませんが、既に海外事業をされている方には実は喫緊の課題とも言えます。

先行してアジア地域に進出した日系大手メーカーに現在、国境を跨いだ再編が起きていると言えるでしょう。主だったところでは海外生産体制の見直し(既存工場の売却・清算、現地企業へのM&A)や資本構造の見直し(シンガポールなどでの地域統括会社の設立)等です。グローバル化の進展で絶えず経営環境は変化しており、特に経済成長が続くアジア各国では環境変化のスピードは日本よりも速いと言えるでしょう。海外に既に進出している企業にとっても海外事業再編は『第三の創業』になりうるインパクトがあると思います。

以上、体系的にということで長くなりましたが、今回の内容が、これから海外進出を行う企業様にとって何かしらの参考になり、各社さんのグローバル化に少しでも貢献できたなら本望です

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