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上昌広 Headshot

スポーツと脳障害疾患 今、医療に求められること

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小学生の頃から剣道をしている。大学時代は全学の「運動会(体育会のこと)」に所属した。下手の横好きだが、このお陰で大勢の剣道家と知り合った。

最近、知人の剣道家から「剣道は脳にダメージを与えたりしないでしょうか」と質問を受けた。

剣道は竹刀で頭部を打たれる。激しい体当たりを受けると、床や壁に頭部を打ち付けられることもある。私も意識を失った経験がある。心配する剣道家がいても不思議ではない。

スポーツと認知症の関係について研究が進んでいる。

このことが初めて指摘されたのは1920年代だ。引退したプロボクサーがパンチ・ドランカーになることが報告された。ただ、これは長い間、ボクシングに固有の話であると信じられてきた。

状況が変わったのは2005年だ。引退したアメフト選手の脳細胞が変性していることが報告され、「慢性外傷性脳症(CTE)」と命名された。多くのケースは、競技を引退し数年から数十年を経過して発症していた。

研究が進み、CTEの脳組織には変性したタウたんぱく質が蓄積していることが明らかとなった。アルツハイマー病の原因とされる物質だ。

その後の研究により、アメフトのプロ選手が、軽度認知症発症と診断される頻度は、一般人と比較して35%も高いことが分かった。怒りやすくなり、記憶力が低下するため、症状だけで初期の認知症とCTEは区別できない。

近年、他のスポーツ選手からもCTEが報告されるようになった。注目されているのは、レスリング、サッカー、野球などだ。何れも接触スポーツで、偶発的な頭部外傷が避けられない。

自らが認知症を患っていることを明かす人は少ない。CTEも同様だ。ただ、最近になって、例外も出始めた。現役時代「爆撃機」の異名をとったゲルト・ミュラーは、アルツハイマー病を患っていることを明かしている。現役時代の頭部外傷が影響している可能性が高い。

近年、さらに研究が進み、CTEと診断された患者の約2割には脳震盪の経験がないことが明らかとなった。

また、引退したプロアメフト選手の場合、成長してから競技を始めた人と比較して、12才未満にアメフトを始めた選手の方が認知能の低下が著しいことがわかった。神経が発達する幼少期に、頭部を繰り返し打撃することが悪影響を及ぼすのだろう。

こうなると、剣道も安全とは言いがたい。冒頭にご紹介した知人の剣道家が不安に思うのも当然だ。保護者の中には、子どもにどのスポーツをさせたらいいか、悩む人もでてくる。

心身の鍛練にスポーツは有効だ。ただ、頻度は低いと雖も、スポーツには一定のリスクを伴う。認知症のような晩発性合併症のリスクを高める可能性すらある。

どうすればいいのだろう。研究するしかない。ただ、このような研究は、病院をベースとした従来型の臨床研究では対応できない。体育大学や競技団体との連携が必要だ。ネットワークやコミュニケーション力が求められる。

誰がやるのだろう。実は、多くの若者が、このような研究に興味をもっている。彼らは、私たちの世代の多くが学んだ分子生物学のような確立した学問よりも、新しい分野に惹かれるらしい。

高齢化が進み、認知症が増えた。健康志向とともに、スポーツの人気も高まっている。医療に求められることも変わってきた。若者は時代の変化に敏感だ。生き残りたければ、私たちも変わらねばならない。

* 本稿は「医療タイムス」の連載を加筆修正したものです。