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シリコンバレーの人材育成リーダーが挑むスロービジネス

2014年08月17日 01時46分 JST | 更新 2014年10月14日 18時12分 JST

■変化のスピードと働くスピード

グーグル、ツイッター、リンクトイン。日本でもお馴染みのIT、SNSの花形企業から、組織開発、人材育成部門の若きリーダーが一同に介した。

今年2月、サンフランシスコのダウンタウンで開催されたWisdom2.0会議でのひとコマだ。(注:タイトルにシリコンバレーと書いたが、ツイッターの本社はサンフランシスコ市内にある)

このトークセッションで現れてきたメッセージは、ひとことで言うと"Space"だ。

「突発的に反応していては日々の業務に飲み込まれてしまう。いかにSpaceをつくり、業務をふり返り、優先順位をつけ、学ぶ時間をつくっていくかが重要です」

セッション後半の質疑応答で、そう口火を切ったのはツイッターのメリッサ・デイムラー氏。

メリッサさん曰く、「Spaceは、あまりにも多くの"to do"と、それに対する大きな責任があるなかでの時間管理の必須」

ここでいうSpaceは、時間的な余裕をつくることであると同時に、それを通して心の余裕をつくることを意味する。単にボッとする時間がほしいという話ではない。心の余裕が、成長のためのクリエイティビティやモチベーションに欠かせないという考え方だ。

だからといって、外部環境に働きかけて社会のスピードを抑制することはできない。それをふまえて、いかにSpaceをつくるのか。ここに大事なポイントがある。

私たち個人のコントロール外にある"変化のスピード"は、私自身の"働くスピード"を規定するのか。そうなりがちだけれど、そうならないための選択肢こそが大切なのだと、猛スピードで動く組織で人材育成に携わるリーダーたちは強調する。

■Spaceの創造はリーダシップの必須スキル

グーグルのカレン・メイ氏が次のように応じた。

「組織が成長をつづけていくためのスピード感も大事だけど、スピードはコラボレーションとトレードオフになりやすい。私たちがさまざまなプロジェクトを進める上で、スピードとコラボレーションのどちらを優先させるのか。そのときどきの状況に応じて判断するために、Spaceが必要なのです」

多様な人々との連携、そこから生まれてくる新たな視点、信頼関係。そうしたものが中長期でみたとき、組織の成長には欠かせない。しかし摩擦の要因でもある多様性をリソースにすることは、組織が求めるスピードとの兼ね合いで一筋縄ではいかない。

だからこそ、カレンさんが言うように、その瞬間ごとの最善の判断に向け、洞察をもたらす束の間のSpaceが大切になる。それがないと、スピードに煽られて無意識に反応してしまい、思考の質が下がってしまう。

このセッションを含むWisdom2.0会議は、ビジネスシーンのリーダーだけではなく、科学、政治、哲学、宗教といった垣根を越え、人類の進化に向けた英知を生み出そうという壮大なもの。そうした意図を背景に、3000人でメディテーションやヨガを行う機会もあった。

このときの体験から私自身も痛感したのは、加速する時代だからこそ、立ち止まることから付加価値が生まれるということだ。

先日、某一部上場企業の執行役員とのコーチング。急に彼が大事なことに気づいた表情をして、自分のスケジュール帳に複数の予定を書き込み始めた。

相変わらず時間に追われてるのかなぁ・・・と私が思った矢先、彼は次のように言った。

「今ふと気づいたんです。毎日の予定で頭がいっぱいで、ほんらいの事業目的や自分自身をみつめる時間がとれていませんでした。一人で静かに考える時間が自分だけではなく、会社にとっても重要だと思って、その予定をスケジュールに入れました」

彼の様子と言葉が、サンフランシスコの3人と重なり合った。

私たちは、フルスピードで動く世界を否定しない。それは人智を超えた大きな流れだと思うから。そのなかで大きなプレッシャーを背負い、ストレスを受ける状況を嫌うつもりもない。そこには、避けられないものが多分に含まれているはずだから。

しかし、だからこそSpaceを豊かに創造していくスキルを磨きたい。

それはある意味、加速する世界におけるスロービジネスの心意気だ。

前述したグーグルのカレンさんは、社員に対し「メディテーションやエクササイズ、ヨガなどを通じて、スローダウンする機会をつくるように声をかけている」と言った。

「そうした時間、メソッドを取り入れることで、意識的な状態を維持し、今ここにいる状態、また、物事に集中する状態を取り戻すことが必要です」

この言葉は、スピードが無意識の反応を生み、スピードに反比例してスペースがなくなっていくことへの警鐘といえるだろう。

(一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事 荻野淳也)