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日本経済・社会を活性化する起業の促進のために最も必要なこと:研究員の眼

世界で最速の少子高齢化の進行という課題を有するわが国の経済を維持・発展させる上で、起業の促進・活発化は、非常に重要な位置づけにある。

2018年01月10日 12時13分 JST | 更新 2018年01月10日 12時13分 JST

前回の弊コラム(2017年11月30日付、研究員の眼「世界のビジネスモデルを変革する起業家の出現を期待!」)では、新たな製品・サービス、ビジネスモデルによって、我々の生活やライフスタイルが大きな影響を受け変化していることを述べ、その担い手たる代表企業として、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、フェイスブック、ツイッター、ウーバー、AirBnBと、中国の三大IT企業であるBAT(バイドゥ(百度)、アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊))を挙げた。

これらインターネット関連企業は、既に世界的な巨大企業になっているが、いずれも著名な起業家によって新規設立された企業である。このような、スタートアップ企業は、米国や中国の経済発展の原動力と活力の源になっている。

世界で最速の少子高齢化の進行という課題を有するわが国の経済を維持・発展させる上で、起業の促進・活発化は、非常に重要な位置づけにある。

すなわち、革新的な技術や仕組み・システムの導入による経済成長の牽引・加速化、雇用の創出・増加への寄与、新たで柔軟な発想の受容による多様性をもった社会の実現や、意欲に溢れた人材の輩出といったポジティブな効果が期待されるからである。

しかしながら、わが国の現状は、2017年の中小企業白書に指摘されているように、起業希望者数、起業準備者数は1997年以降減少傾向にあり、起業家数も減少し、その結果、新規企業の開業率は5.2%(2015年)と、米欧諸国を下回る水準で推移している(図表-1)。

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同様に、2017年中小企業白書では、「起業家精神に関する調査」の中の、「周囲に起業家がいる」、「周囲に起業に有利な機会がある」、「起業するために必要な知識、能力、経験がある」の三つの項目に着目し、三つの項目いずれについても「該当しない」と回答した人を、「起業無関心者」と定義し、全体に占める起業無関心者の割合の推移を考察している。

それによれば、我が国の起業無関心者の割合は、欧米諸国に比べて高水準で推移しており、わが国では起業に無関心な層が多いことが示されている(図表-2)。

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さらに新規開業のベースとなる諸手続き等を含めた企業環境の世界ランキングも、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)による「Ease of doing business index」中の事業設立(Starting a business)に関するランキング(2017年11月公表)では、我が国は106位(対象は190国・地域)と低迷している(*1)。

以上に述べたように、わが国の経済・社会の健全な成長・発展のために有用と考えられる起業に関して、国際的な比較において、多くの人が無関心で開業率も低く、そのベースとなる環境面でも劣位にある。

その推進・実行の重要性については論をまたず、日本政府としても、制度やシステムの改善への様々な取組みを行ってきている。それに加えて、本稿では、その根本的な基盤ともいうべき、起業への意識や志向、モチベーションの重要性に着目し、以下に私見を述べたい。

筆者自身の経験や講義を担当している大学生の状況も含め、多くの日本人の若者は、子供の頃から就職を考える時期まで、起業とは何か、その意義や面白さなどについて、きちんとした話を聞いたり真剣に考える機会が少ないのではなかろうか。

例えば、2013年の日本青少年研究所による「高校生の進路と職業意識に関する調査」でも、「将来就きたい仕事」について、米中との比較で、起業への関心の低さが指摘されている(*2)。

この点に関し、学卒後直ちに起業家となって成功している方で、卒業生の非常に多数が大企業や官庁に就職する傾向のある一流大学の卒業生である人物に、「卒業後に企業に就職するとの選択肢は考えなかったのか」と伺ったことがある。

その方の答えは「そういえば私の親戚には一人も企業に勤める人がおらず、私の就職の話になると、卒業後は、どんなビジネスを始めるのかと皆に聞かれていました」というもので、起業家の誕生には、周囲の環境が大きなファクターなのだと感じたものである。

また、米国の一流校では、ハーバード大学(マイクロソフトのビル・ゲイツ氏や、フェイスブックのザッカーバーグ氏など)、スタンフォード大学(HPのヒューレット氏とパッカード氏、ヤフーのデビッド・ファイロ氏とジェリー・ヤン氏、グーグルのラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏など)といった事例でもわかるように、起業することが高く評価され、多くの優れた学生の目標となっている。

もちろん、上記のように、起業のための手続きや資本の導入のしやすさといった制度面・システム面での取組みが重要であることは言うまでもないが、筆者は、それ以上に、日本人の多くが有する「就職=企業に入ること(就社)」との意識と思い込み、失敗を恐れ、リスクの回避を好む強い傾向が、起業を躊躇させる大きな要因になっているのではないかと考えている。

一度起業に失敗すると、その後、企業への就職が困難になったり、再び起業にトライできるチャンスが少ないという日本の環境も、起業を慎重にさせている面があるだろう。バブル期の日本や日本企業の繁栄や勢いを知らない世代には特にその傾向があるのかも知れない。

この点に関し、起業家として成功する人物を数多く輩出している華人系経営者でタイの大手財閥CPグループ総帥のタニン・チャラワノン氏の「危機という言葉には危険やリスクという意味があります。

しかし、危機という言葉には機会、チャンスという意味もあるのです」(鈴木真美・NHK取材班(2014)『島耕作のアジア立志伝』講談社)という言葉には、リスクをチャンスとして新たな事業に挑戦する企業家にとっての意欲・志向の重要性が示されていると感じる。

将来への夢を抱いて新たな技術やシステムを創出し、多くの人々の生活を変え向上させ日本を大きく発展させ世界をリードした(している)企業が、井深大、盛田昭夫、本田宗一郎、小倉昌男、稲盛和夫の諸氏を代表例とする優れた我が国の起業家たちの多くによって生み出された。

さらに冒頭に述べた米中等の大手インターネット関連企業のように、現在、我々の生活のあり方を変革し、近い将来、AI(人工知能)やIoTなどの技術によって、さらに大きく変えようとしているのが起業家とそれらが率いる会社である。

それらの事実やトレンドを改めて認識し、政治・行政のリーダーシップの下、家庭や学校における教育、マスコミ等の報道等を通じて、若者・子供にそのことを伝え、彼ら彼女らの起業に対するポジティブな意識や自信、起業家精神を醸成し、同時に、そのベースたる柔軟で自由な発想や構想力、チャレンジ精神の涵養を促すことが何よりも大切であると考える。


(*1) アジア地域で日本より上位は、香港(3位)、シンガポール(6位)、韓国(9位)、台湾(16位)、36位(タイ)、59位(モンゴル)、88位(ブータン)、93位(中国)となっている。
(*2) OECDが行なった起業家精神に関する調査(「もし、自営業者と被雇用者を自由に選択できると仮定した場合、自営業者を選択すると回答した者」の割合:OECD「Entrepreneurship at a Glance 2013」所収)でも、我が国は、欧米諸国に比べて、自営業を選好する割合が低い(中小企業白書2014年版による)。

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(2017年12月28日「研究員の眼」より転載)
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