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「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」の拡散・連鎖の根を絶つために

投稿日: 更新:
TSUKUI
A mother and her daughter offer flowers for the victims of a knife rampage at the main entrance to the Tsukui Yamayuri En care centre in Sagamihara, Kanagawa prefecture on July 28, 2016.A man, who had threatened attacks on disabled people, went on a knife rampage on July 26 at the care centre where he previously worked, leaving 19 people dead in Japan's worst mass killing for decades. / AFP / KAZUHIRO NOGI (Photo credit should read KAZUHIRO NOGI/AFP/Getty Images) | KAZUHIRO NOGI via Getty Images
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相模原市内の障害者施設に入所中の障害者を襲撃した大量殺傷事件は、その犠牲者・被害者から戦後最悪となり、また犯行を事前に予告し「襲撃・殺戮行為」を正当化している点でヘイトクライム(憎悪犯罪)としての特質を持つものと受けとめています。

7月26日未明に、相模原市緑区の「津久井やまゆり園」に侵入した容疑者は、用意してきた刃物を施設内で次々と障害者に対してふりかざし、19名が死亡し26名が重軽傷という犯行におよびました。

障害者ら刺され19人死亡26人負傷、男逮捕 相模原:(2016年7月26日朝日新聞デジタル)

警察庁によると、平成元(1989)年以降、最も死者の数が多い殺人事件となった。消防や県などによると、亡くなったのはいずれも入所者で、41~67歳の男性9人と、19~70歳の女性10人。26人のけが人のうち、重傷者が13人に上るという。けが人には職員2人も含まれていた。

かけがえのない生命を、元職員による深夜の突然の凶行で絶たれた犠牲者の方々が、どのような人柄で、どのような日常生活を送っていたのか、ひとりひとりの犠牲者や重傷者の軌跡の片鱗でさえも、あまりに大きな衝撃の中で伝わってきていません。戦後最悪の事件でありながら、こうした被害者側の情報は「発表しない」という方針が神奈川県警によって決められました。

神奈川県警、被害者の実名「発表しない」(7月26日毎日新聞)

神奈川県警は26日、事件の被害者の名前を公表しない方針を明らかにした。殺人などの被害者は公表するのが通例だが、今回の事件について県警は「(現場の)施設にはさまざまな障害を抱えた方が入所しており、被害者の家族が公表しないでほしいとの思いを持っている」と理由を説明している。

結果として、犯行に及んだ容疑者側の情報のみが報道されました。また、事件前からの容疑者の言動が明らかになるにつれて、この事件に対しての驚愕は、背筋が寒くなるような戦慄へと転じていきます。犯行後も「障害者がいなくなればいい」と供述していると伝えられている容疑者は、今年2月に衆議院議長公邸を訪れ、大島理森衆議院議長宛に手紙を届けています。

園名挙げ「障害者470人抹殺」 衆院議長宛て手紙に(7月27日朝日新聞

26日未明に相模原市の障害者施設で起きた殺人事件で、捜査関係者によると、植松容疑者は今年2月15日、東京都千代田区の衆院議長公邸を訪ね、土下座で頼み込んだうえで大島理森議長にあてた手紙を渡していた。手紙は「私は障害者総勢470名を抹殺することができる」として、今回の事件を示唆するかのような内容だった。

問題はこの「手紙」の内容でした。「障害者総勢470名抹殺」「日本国と世界の為」「世界経済の活性化と本格的な第3次世界大戦を未然に防ぐ」「(障害者の)保護者の同意を得て安楽死」「障害者は不幸をつくることしかできません」「今こそ革命を行ない、全人類の為に必要不可欠である辛い決断」といった文言を使用して、そこには「作戦内容」として今回の事件を予告する内容が記されていました。すでに、多くの人々が報道によって「手紙」の内容を知っていると思いますので、ここでは全文は紹介しません。

私が危機感を持ったのが、テレビのワイドショーをはじめとした情報番組で、この手紙全文が紹介され、犯罪心理学者やコメンテーターが意見をそえるという場面でした。もちろん、「許されるものではない」「身勝手な論理」という角度でのコメントが続くのですが、それにしても容疑者の手紙の文面の言葉は、「障害者に生きる価値はなく、社会のために抹殺されるべきだ」という優生思想そのものであり、ヘイトクライム(憎悪犯罪)という今回の犯罪の特異性を浮き彫りにするものです。私は次のようにツイートしました。

青少年の自殺事件を大きくメディアが取り上げた直後に、連鎖反応のように青少年自殺が続くというという事態を参考にして、今回の事件と同様のヘイトクライム(憎悪犯罪)を呼び起こさないための「抑制と配慮」が必要だと思いました。容疑者が手紙で記したような「障害者抹殺論」はなぜ許されないのかを徹底的に深く掘り下げなければなりません。ナチスが行なった大量虐殺は、ユダヤ人の前に障害者を対象にして始まったことも想起する必要があるでしょう。

ハートネットTV:シリーズ戦後70年 障害者と戦争 ナチスから迫害された障害者たち (1)20万人の大虐殺はなぜ起きたのか (2015年8月15日放送NHK)

600万人ものユダヤ人犠牲者を出したといわれる、ナチス政権によるホロコースト。これを忘れてはならないとする認識は、戦後ドイツの基本です。しかし、ユダヤ人大虐殺の前に、いわば'リハーサル'として、20万人以上の障害のあるドイツ人らが殺害されたことは同じようには語られてきませんでした。5年前、ドイツ精神医学精神療法神経学会が長年の沈黙を破り、自分たち医師が患者殺害に関わったことを謝罪したのをきっかけにようやく今、真実に向き合う動きが始まっています。

しかも、青少年のみならず大人の中にですら、「犯行予告」に断片的に示されている「障害者抹殺」を正当化する言説に、少なからず同調するような人たちが出てこないとも限りません。事件の背景として「犯行予告」も含めた「衆議院議長宛の手紙」が存在したことは重要な事実です。また、その「手紙」の内容が「社会のために障害者を抹殺したい」という「思想・価値観」が色濃いことも事実だから、報道する必要があるとは思います。

ただ、知的障害を抱えていたり、重い障害を持つ子の家族もまた、こうした報道に接して強い衝撃にさらされていることに十分に配慮する必要があります。ましてや、夏休みが始まったばかりの小・中学生が大量殺傷事件に衝撃を受けた上で、テレビで紹介されている「手紙」や「犯行予告」に耳を傾けている姿を想像すると、事件を起こした容疑者の心情の「二次拡散」を目のあたりにしているようで、きわめて不安になります。

人は誰もが、生まれながらにして生命の尊厳を有していて、どのような障害があろうとも、ひとりひとりの生命は大切にされ、人権は最大限、尊重される社会でなければならない...。すでに、日本も批准している国連障害者権利条約では、第10条で「生命への権利」が明記されていて、生存を否定する差別や権利侵害を禁じています。

障害者権利条約締結を受けた国内法である障害者差別解消法は、行政機関等に障害者に対しての障壁を自ら取り払うための「合理的配慮」を求めています。この障害者差別解消法は、今年の4月1日に施行されました。世田谷区役所では、この日、中庭に障害当事者の皆さんや、NPO関係者、区職員300人が集い、「障害者差別解消法」の施行を記念して、黄色と青の2色の風船を上空に向けて飛ばすセレモニーを行ないました。

したがって、2016年4月1日は、障害者差別解消に向けて自治体も民間企業も地域も変わる一歩を刻む記念すべき年なのですが、残念ながら「障害者」をターゲットとした大量殺傷事件が起きてしまいました。国連障害者権利条約も、障害者差別解消法も、きちんと時間をかけて報道機関、そして特にテレビには伝えてほしいと思います。昨日のニュースでは、「全国手をつなぐ育成会連合会」が声明を発したことが、ようやく大きく伝えられていました。知的障害者の保護者でつくる会の声明には、「事件は当会会員・関係者のみならず、多くの障害のある方やご家族、福祉関係者を不安に陥れ、深く大きな傷を負わせました」として、次のようなメッセージを送っています。

神奈川県立津久井やまゆり園での事件について

事件の容疑者は、障害のある人の命や尊厳を否定するような供述をしていると伝えられています。しかし、私たちの子どもは、どのような障害があっても一人ひとりの命を大切に、懸命に生きています。そして私たち家族は、その一つひとつの歩みを支え、見守っています。事件で無残にも奪われた一つひとつの命は、そうしたかけがえない存在でした。犯行に及んだ者は、自らの行為に正面から向きあい、犯した罪の重大さを認識しなければなりません。

また、国民の皆様には、今回の事件を機に、障害のある人一人ひとりの命の重さに思いを馳せてほしいのです。そして、障害の有る無しで特別視されることなく、お互いに人格と個性を尊重しながら共生する社会づくりに向けて共に歩んでいただきますよう心よりお願い申し上げます。

平成28年7月26日 全国手をつなぐ育成会連合会 会長 久保厚子

平成28年7月26日声明文(PDF)

残念ながら、今日の日本社会はヘイトクライム(憎悪犯罪)を誘発する直前の言説が珍しくありません。障害者を対象とした大量殺傷事件の容疑者が語る「社会的弱者を暴力的に排除する」ことを正当化する言説こそ、障害者差別解消法や障害者権利条約の理念を全否定し、障害者福祉を土台から突き崩してしまうものです。

今回の悲惨な事件は単独犯ですが、ヘイトクライムが拡散しない対策を進めるためには、誰もが障害者差別解消法や障害者権利条約を知り、その理念を共有する社会を力強く築いていくしかありません。「二次拡散」も止めて、ヘイトクライムの根を断ち切る声を、今こそ大きくあげるべき時です。

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