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日野皓正さん校長のドリームジャズバンド発表会をふりかえって

改めて私の立場からこの事態をふりかえってみようと思います。

2017年09月11日 19時44分 JST | 更新 2017年09月11日 19時58分 JST
Jun Sato/WireImage

8月20日、日野皓正さんを校長とするドリームジャズバンド(世田谷区教育委員会主催)の発表会のステージで、男子中学生のドラムのソロ演奏を日野さんが止めようとした場面が、波紋を呼びました。私のところにも取材があり、世田谷区長として、本件をどのように受け止めたのかについて見解をまとめて答えています。その後のテレビや、新聞等の取材に対しても、このコメントを出してきました。

日野さんを校長とするドリームジャズバンドは、世田谷の区立中学生で編成するもので、 真剣で厳しい練習をくぐりながら、8月の発表会のステージで素晴らしい演奏と成長を遂げた姿を見せてくれるワークショップであり、他に類例のない事業です。
今回、発表会のアンコールの場面で、ドラムのソロ演奏を長い時間、続けていた子どもに対して、日野さんが制止をするために行き過ぎた指導をしたという出来事がありました。今後は改めていただくように、教育委員会を通してお伝えをしています。
保護者からも、「日野さんには、感謝している。素晴らしい事業なので、やめてほしくない」とも伺っています。 今後も、ドリームジャズバンドが継続して発展するように応援していきます。

このコメントの基本線は、今もまったく変わりません。

8月20日の発表会を目標に、参加を希望する中学生たちがジャズを学んでいく「新・才能の芽を育てる体験学習・ドリームジャズバンド・ワークショップ」は教育委員会が主催しています。 一方の私も、行政トップとしてドリームジャズバンドの子どもたちを見守り、応援してきた立場です。今回、ふだんブログを連載するハフポスト編集部からリクエストがあったので、改めて私の立場からこの事態をふりかえってみようと思います。

2011年4月、東日本大震災と東京電力・福島第一原発事故の直後に、私は世田谷区長に就任しました。区長としての初めての日程は、津波と原発事故のダブル被災の渦中にあった福島県南相馬市の桜井勝延市長と面談し、現地を見て帰ることでした。

そして、世田谷区内での区長として初めての公務が、「第7回ドリームジャズバンド・ワークショップ」(2011年)の開講式だったのです。校長として指導にあたってくれている日野皓正さんとも、この日に初めて会いました。日野さんがジャズ学校の校長で、区長が学園長、教育長が副学園長となりました。 私もバンドに入りたいと希望して集まってきた区内の中学生たちの緊張する表情を見ながら、挨拶をしました。

そして、毎年の開講式も、夏の発表会、発表会の後に行われる修了式も欠かさず出席しています。5月の連休中に入った子どもたちは、日野さんと約15名の講師陣が8月のパブリックシアターでの発表会までの間に、何回も練習を重ねます。3カ月半という短期間で、管楽器に触ったこともなかった中学生たちが、劇場を満席にした約500人の観衆の前でソロパーツを演奏します。その時の照れた表情から、きりりと覚悟を決めて思い切り演奏する姿に、毎回驚かされます。演奏の水準も高くて、ドリームジャズバンド出身でプロとして活躍している若者が2人いるぐらいです。

この活動の特色は、中学生の頃にドリームジャズバンドで活動してきた子どもたち約300名が、高校生となって、現役の中学生たちの練習で講師陣を補佐し、面倒を見ていることです。そして、ドリバン出身の高校生らでつくる「ドリバン・プラス」も、日野さんのライブの前には、ステージに立ちます。中学生で。開講式の場で、ガチガチに緊張していた子が自由自在にジャズの世界で才能を発揮し、誇らしげなソロ演奏を見せてくれる発表会の場面では、何度も涙をおさえることができませんでした。子どもたちが、ジャズを通して全身をかけて飛躍し、成長する姿に感動するからです。

8月の発表会になると、当然ながらドリームジャズバンドのメンバーの子どもたちの家族も来ています。でも、会場がほぼ満席になるのはそれだけではありません。すでに、高校生や大学生、社会人となったOBやその家族、また直接には知っている子どもはいないけれど、毎年ステージを楽しみにしている人たち(私も含みます)がたくさんいるのです。日野さんと講師陣の熱心な指導のもとでステージに広がるドリームジャズバンドの演奏が聞ける発表会は、ジャズを通して伸びていく中学生たちの生き生きした表情があり、人間的成長があり、ドラマが宿っていたのです。

問題となっているコンサートのソロ演奏の場面で、ドラム担当の子が演奏を止めずに叩き続けたところで日野さんが近づいていってスティクを取り上げ、いったん引き下がりますが、それでもドラムを素手で叩き続けた中学生の頭をつかみ、平手打ちの動作をした動画が一部メディアで公開されています。

私はこの場面にはいませんでしたが、この日の発表会では、ドリームジャズバンドが一曲目を演奏した後に、ステージにあがり日野さんとかけあいのトークをしています。すでに、13年も続けたことをふり返り、「最初に世田谷区教育委員会から頼まれた時に、一回ならやらない。やるなら、死ぬまでやると言った」という話をしていました。私も、「毎回、5月に小さな声で縮んでいた中学生たちが、わずか3カ月半後に、こうして思い切り楽器を演奏してソロをやるのを見て、毎回びっくりしています」と言いました。

例年、ステージは最後まで見ていますが、今年に限っては同じ時間帯に別件の予定も入っていて、私は会場の外に出ました。問題は、コンサートの後半になって起きたと聞きます。

この日野さんの行動が強く批判の的になっていますが、私も動画を見て「行き過ぎた指導」だと思いました。その点は「今後、改めていただきたい」と日野さんに伝えています。

今回の日野さんの行為について、「殴る」「暴行」等と表現する言説も散見されます。たしかに、動画では、ドラムを素手で叩いていた男子中学生の頭をつかんだ後に、「平手打ちの動作」が認められます。舞台横から見ていたスタッフによると、中学生はよけていたとのことです。もちろん、「平手打ちの動作」が男子中学生に当たらなかった、あるいはかすったとしても、これは「行き過ぎた指導」であるという問題の本質は変わりません。

今回の件で、男子中学生が負傷したり、怪我をしているのかを、まっさきに確認しましたが、関係者の証言を総合する限り、今回の件で、負傷や怪我までには至っていません。

男子中学生の保護者が、「日野さんには、感謝している。素晴らしい事業なので、やめてほしくない」と話していると伝わってきました。「今回の件で、事業は中止となる」ということになったとすれば、男子中学生や保護者にとって、大きな重圧になるのではないかと想像しました。知人を介して、中学生の父親と会うことにしました。

父親は、男子中学生を連れて現れました。開口一番、立ったまま、「今回のことで、うちの子どもが大変、ご迷惑をかけました」と親子で頭を下げられたので、「そう言わずに話を聞かせて下さい」と座るようにお願いしました。教育委員会はすでに今回の件で、保護者に対して謝罪していますが、私も同様の気持ちであることを伝えました。父親は、発表会当日は会場にいなかったこともあり、「メディアで報道されている動画を確認したい」とのことだったので映像を見ていただきました。演奏の流れを見た感想を父親は、こう語りました。

「一連のコンサートの流れを見ると、なぜ息子が日野さんに怒られたのかが、よくわかります。単にソロを長く続けただけではなくて、その最中にバンドの他のメンバーに対して、ボンゴ入れとか、管楽器に演奏を促すなど、勝手に指揮を始めていたのです。おそらく、子どもにとっては、その最中は人生で最高に幸せだったのだろうと思います。息子も一緒に、その場面の映像を見て、自分がどんなことをしたのかを改めて思い知ったようです」

隣に座った息子さんは、「反省しています。日野さんには、演奏の終わった後で謝りに行き『反省しています』と言ったら、『反省してろ』と言われただけだったので、もう一度、日野さんのところに行って謝ったら、許してもらえました。日野さんは、いけないと叱る時もあるけど、自分たちを引き上げようという情熱があると思う。これからも、ドリバンの活動を続けていきたい」

念のため、私は息子さんに、「打たれて跡が残ったり、怪我をしたりしたのか」と確かめましたが、「それはない」とのことでした。「当たったのか覚えているか」と聞くと、「よく覚えていない」とのことでした。テンションの高い状態だったので、あまりはっきりした記憶がないのかもしれません。

「今回のことがきっかけで、ドリームジャズバンドの活動がなくなるということだけはないようにと願っています」と父子共に何度も語ってくれました。私は、今回の報道で「問題のシーン」が繰り返されることで、辛くなったり、落ち込んだりすることがないか。もし何かあれば、相談してほしい」と言ったところ、「そこは心配しないで下さい」とのことでした。

私から見て「行き過ぎた指導」の場面だったということは、何度か書きました。世田谷区教育委員会からはこの事業を委託している公益財団法人せたがや文化財団まで要望書を出しています。「8月20日のコンサートの際に発生した行き過ぎた対応に関して、今後は起きないように適切な事業を遂行するように」「 この事業では、真に一流の芸術に接することで得られる感動を、子どもの成長期に体験することで、その後の成長によい影響が与えられることを目標としています。今後、その目的にそう事業運営を」等の点をあげています。

私からも、日野さんにも、「今後は改めてもらいたい」と趣旨を伝えました。日野さんからは、「行き過ぎた。今後は改める」との返答も頂いています。ドリームジャズバンドが、今回を教訓としてさらに「子どもたちの才能の芽を伸ばす貴重な機会」として、さらに改善され質の高い事業として展開していけるように、私自身も応援していきたいと思います。

今回の件をめぐり、メディアでも多くの意見が交わされました。私のもとにも、たくさんの意見が寄せられました。そうした声の中に、「体罰容認の風潮を助長してはならないのではないか」という意見がありました。私自身、学校現場での「体罰」は決して正当化されないと考えていますし、児童虐待防止法を提案・制定・改正してきた経験から、学校以外の場でも「暴力的指導」は決して許されないという認識を持っています。ここまで、このブログに書いてきたように今回のコンサートでの出来事は、「行き過ぎた指導」であり、日野さんの「今後は改める」という言葉をもって、これからの改善を期待したいと考えています。主催する教育委員会と認識も一致しています。

13年間続いたドリームジャズバンドの事業に感銘し、中学生たちの成長と飛躍に喝采してきた者として、適切な指導の範囲内で今後とも継続してもらいたいという判断は、「体罰容認」ということではないということをくり返しておきたいと思います。

意見の中には、「報道されている男子中学生によりそって、彼が孤立することのないように気をつけてほしい」という声もありました。また、ドリームジャズバンドで成長・飛躍した子どもを見守ってきた保護者からも、「今回の件で、中断等ということにしないでほしい。やり方を改めて、さらに素晴らしい事業として展開してほしい」という声も届きました。ぜひ、子どもたちの力強い演奏に、これからも耳を傾けていきたいと思います。