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保育園建設に反対する声を「心が狭い!」と責める前にぼくたちが考えるべきこと

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ハフィントンポストにこんな記事が載った。

「保育園、住民の反対で開園延期 子供の声による騒音だけでなく、親のマナーも懸念」

目黒区でこの4月に向けて新設中だった「さくらさくほいくえん」が、地元住民の反対で開園を延期したことを伝えた記事だ。「いいね!」もたくさんついているが、まあまずは読んでみてほしい。園側も説明会を7回に渡って開催し、防音対策を約束するなど理解を求める努力はしたが、間に合わなかった。

この記事を読むと、「子どもは宝なのに心が狭い」などと思ってしまう。実際、twitterなどではこの記事について反対した住民側を非難するつぶやきが多い。ぼくもまず、そう感じてしまう。

だが、保育園に反対するのは悪人だと決めつけたくもない。このテーマを扱った去年(2014年)10月のNHK『クローズアップ現代』を見たことがあり、ことはそう単純でないと知ったからだ。

この番組は全文書き起こしで"読む"ことができるので、パパッと読んでもらうといいと思う。

NHK『クローズアップ現代』書き起こし「子どもって迷惑? ~急増する保育園と住民のトラブル~」

番組を見ると、中野区の保育園新設に反対する人びとが出てくる。静かな街に、憩いの場だった公園を潰して保育園を造ることに不安を感じる老人たち。騒々しいんじゃないか、自転車が行き交い事故が起きないか。老人たちは穏やかな生活が壊されないかと、脅えているのだ。心の狭い意地悪な悪人たち、ではない。不安がっているだけだ。

千葉大学大学院の木下勇教授がコメントする。子どもたちの遊び場を、年代を追って調査してきた木下教授が示したのは、住宅街で子どもたちの遊び場の面積がどんどん減っている現実だ。子どもたちと大人の接点がいま、ほとんど失われてしまった。空き地で子どもたちが走り回る姿も、そんな子どもたちに笑って大人が呼びかける姿も、見かけられなくなった。

一方、うまくいった例も後半に出てくる。世田谷区太子堂で保育園新設の話が出て、やはり老人たちを中心に反対運動が起こった。園側は一年間かけて説明会を何度も開いて理解を求めた。住民と保育園の間を取り持つ人物が現れた。まちづくり協議会の梅津政之輔氏だ。「子どもの声のしない町には未来がない」と考えた梅津氏は、話し合いを仲介し、園の建設計画を変更したり、住民達の不安を解消する対処を行った。

当時の園長、栗田怜子氏は「建てたあとに地域の仲間として迎え入れてほしいと、応援をお願いしました」と語る。

こうした園側の粘り強い姿勢と、梅津氏の信念により、住民たちも理解し、受け入れてくれた。

番組の最後に、地域の祭に参加する保育園の子どもたちと、見守る老人たちの様子が出てくる。子どもたちのおかげで町が明るくなり、元気をもらう老人たちを見ると目がじわっとしてしまう。

保育園を建てる園としては、あるいは行政としては、保育園が足りないという声に応えねばならないという使命感と焦りがあるだろう。みんなのためにやっているのに、どうしてわかってもらえないんだ。そう感じてしまうかもしれない。でもその町で何十年も生活を築いてきた人びとからすると、保育園は異界からの侵入者に見えるのではないか。その気持ちはないがしろにできない。侵入者に見えているのを、どうすれば仲間として受け入れてもらえるかを考える必要があるのだ。

そうすると、園や行政だけでなく、子どもを預ける側も含めて、そのコミュニティに入っていく姿勢が必要になるのだと思う。

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前にもブログで使ったこの図をもう一度見てもらうと、いま、こういう社会構造の変化が必要で、「保育園の新設」はまさにこういう変化に他ならない。つまり保育園を新しく造ることは、コミュニティの再構築を行うようなものなのだ。摩擦が起こるのも当然だし、反対運動も出てくる、受け入れてもらうのに一年かかるのもいたしかたない。

反対する住民は、悪人ではない。そして、反対の声に耳を傾け、騒音の対策はするとしても、ほんとうに大事なのはそうした「対策」ではないのだと思う。壁を高くしたり、園庭で遊ぶ時間を制限したり、そうやって住民達と子どもたちを"遮断"するのではなく、むしろ子どもたちを保育園のある町に溶けこませることが必要なのだ。保育園がその町の一部になることを考えねばならないのだ。そして、子どもたちが駆け回る空き地が失われた中、子どもたちと住民たちの間に交流を生めるかを園や行政は考えねばならない。

最初に紹介した記事では、親のマナーも住民たちが気にすることが書かれていた。それは少しちがうのだと思う。園の前で立ち止まって母親たちがするおしゃべりに、住民たちも加わってもらえるかなのではないか。自転車がたくさん園の前に停まっていたら、住民たちが「あらあら危ないから、そんなとこに停めるならうちに停めちゃって」と庭を提供してくれる、そんな関係づくりをできるかどうかだと思う。

『クローズアップ現代』の最後に木下教授がこう言っていた。「反対の声は問題を共有するきっかけなんです」つまり、反対する声の延長線上には、少子化だけでなく高齢化の問題が見えてくるのだと。反対の声が上がるからより大きな視点での問題点が俯瞰的に見えてくる。ぼくたちはそこで、誰が悪人かを探すのではなく、そこに潜む本質的な問題点をこそ見いださねばならない。


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※クリエイティブビジネス論(2015年4月1日)より転載

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