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朴 裕河 Headshot

慰安婦支援者に訴えられて

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さる6月16日、ナヌムの家(注:元日本軍慰安婦の共同生活施設)に居住している元日本軍慰安婦の方々から、昨年の夏に韓国で出版した『帝国の慰安婦――植民地支配と記憶の闘い』を名誉毀損とみなされ、販売禁止を求めて訴えられるようなことがあった。(名誉毀損の刑事裁判、2億7千万ウォンの損害賠償を求める民事裁判、そして本の販売差し止め、三つの訴状が裁判所に出され、わたしにはこのうち差し止めと民事裁判の訴状だけが届いている。)刊行直後は多数のメディアがわりあい好意的に取り上げてくれたのに、10ヶ月も経った時点でこのようなことが起こってしまったのである。

この訴訟は、実質的にはナヌムの家の所長が中心になっている。裁判所で記者会見までしながらの告発だったが、その時の報道資料によると、ナヌムの家の所長が今年の2月にナヌムの家の女性顧問弁護士に依頼し、彼女がそれを受けて漢陽大学のロースクールの学生たちと一緒に本を読んで「問題あり」と判断したようだ。

わたしは本を出したあと、面会できる元慰安婦たちに会ってきた。当事者たちが考える「謝罪と補償」の形について聞きたかったからである。ナヌムの家はわたしを警戒し、今年に入ってからナヌムの家に行っても会わせてくれないこともあった。

その中でも特に親しくなった方がいたが、その方がほかの方々とこの問題に対する考え方がかなり違っていたことも、警戒された理由のようである。食事の場で偶然相席となり、いろいろと思いを話し、家族がいないこともあってその後わたしを頼りにし、時々電話をかけてきたりもしていた。

その方は、ほかの人と異なる考え方をしているために孤独な思いをしていた。ナヌムの家や所長に対する不満もよく話していた。

そこで謝罪と補償について、支援団体とは異なる考え方をしている元慰安婦たちもいることを伝えるべく、4月に「慰安婦問題、第三の声」と題するシンポジウムを開いた。「当事者の声」を出すと同時に、今のままではいけないとする「第三者の声」を出す意味もあった。そして幸いにして、日韓のいくつかのメディアがそうした動きを注目してくれた。

受け取った訴状には、『和解のために』(2006年に日本でも出版された朴教授の著書)のような本を放置したために『帝国の慰安婦』が出た、そしてシンポジウムまでしている、このままだとさらに別の本も書くだろう、そうなると朴の悪しき認識が広まることになるので問題であり、解決に悪影響を与える、と書いてあった。そこで、シンポジウム(つまり今の運動を批判するのがわたしだけではなくなったことの可視化)が好評だったことへの警戒も、告訴につながったことが分かったのである。わたしが親しくした元慰安婦が亡くなってわずか一週間後のことであった。

告訴の際、メディアに配られた報道資料には、わたしの本が「慰安婦を売春婦と言い、日本軍の同志とした。そしてそう認めろと元慰安婦たちに促した」とまとめられていた。文脈を無視し、しかも後半では事実無根のことを書かれたために、世論の激しい非難に晒されることになった。

そこで最初の週は釈明に追われ、2週目になってようやく、落ち着いた説明ができる原稿やロングインタビューの機会があり、多読家で著名な小説家の書評も出て、騒ぎは少し落ち着いた。

3週目に弁護士を見つけ(フェイスブックで、無料で訴訟代理人をしてくれるという人が現れた)、7月9日の第1回口頭弁論に臨んだ。わたし自身は出席しなかった。しかし、そこでは結論が出ず、9月17日に第2回の弁論が開かれることになっている。

この間、ナヌムの家の所長は2度、元慰安婦数人を同伴してわたしの勤務先にデモに来ていた。「大学をクビにせよ」「拘禁せよ」などのプラカードを持参してのことだった。所長は、「日帝の汚い娼婦、道ばたで会ったら顔につばをはきかけてやりましょう」というツイートをリツイートしてもいる。

幸いにして、学者を中心に「差し止め棄却」を求める嘆願書が作られ、数日で220人(学者、作家、詩人、アーティスト、出版人、そして一般の方も)の署名を頂くことができた。フェイスブック仲間を中心にわたしを支持・応援する動きも現れた。告訴直後から、激しい非難のなかでも、新しい書評や裁判に反対する意見が次々とあがってきている。

しかし、事態が一段落したかのように見えた7月中旬、今度は『和解のために』への攻撃がはじまった。9年前に出した韓国語版は、翌年に文化観光部(政府)の「優秀教養図書」に選ばれていたが、例のナヌムの家の弁護士がその取り消しを求めていく、という記事が出たのである。そしてその記事が出た当日、文化体育部は早くも「選定経緯を調べる」とコメントを出した。この動きは、徴兵された朝鮮人日本兵の遺族ら、被害者団体と関係の深い研究者やナヌムの家の顧問弁護士が率いている。別の新聞が出したこうした記事を、朝鮮日報とハンギョレ新聞、両極の保守とリベラル系の両新聞が支え、ハンギョレ新聞は『和解のために』が「日本の右翼を代弁」しているとまで書いた。

『帝国の慰安婦』の日本語版は本当は7月に刊行予定だった。しかし、裁判が係争中に出すのは無理ということで、延期になっている。しかし、すでに韓国での書評などを都合のいいように読み違える傾向が出ているので、早く出してもらえることを願っている。

この本で、わたしはナヌムの家ではなく、元慰安婦の支援団体「韓国挺身隊問題対策協議会」を再度批判している。本が出たとき、同協議会も告訴のために弁護士と相談しているので、今回のようなことを考えたのはナヌムの家だけではない。

あれから1ヶ月半、法律裁判と世論の「裁判」、両方の対応に追われる日々である。なんとか乗り越えたいと思っている。
(7月31日Facebookより 一部改稿)

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