BLOG

Pepperは道化。ロボットではない!金岡博士が語る「本物のロボット」がつくる未来とは

2016年02月17日 02時30分 JST | 更新 2017年02月15日 19時12分 JST

2016-02-16-1455585054-3433371-IMGP5708.jpg

ロボットといえば「Pepper」を思い浮かべる方も多いことでしょう。

しかし、株式会社人機一体の代表取締役社長であり、立命館大学 ロボティクス研究センター 客員教授でもある金岡博士は「あれがロボットだとは思ってほしくない」と話します。

博士が現在実用化を目指しているのは、人が搭乗して動かす巨大ロボット。ロボット技術はもっと人の役に立てるはずだと研究の世界を飛び出し会社を立ち上げた博士は、この巨大ロボットを世に送り出そうと奔走しています。

ロボットは私たちの暮らしをどう変えていくのか、金岡博士 が描く未来を伺いました。

2016-02-16-1455585476-9237311-unspecified.jpg

Pepperがロボットでないのなら、何がロボットなのか?

--------「Pepperはロボットではない」というのはどういうことでしょうか?

金岡博士 Pepperを否定するわけではないんです。Pepperのようにエンターテイメントで利益を出せるのならビジネスとしては成功で、それに対して他人がどうこう言う問題ではないと思います。私もベースは研究者ですが現在はビジネスの世界にいますし、企業が利益を追求するのは当然のことだと思います。

ただ、ロボット制御工学者の立場から言えば、ロボットがああいうものだとは思われたくないというのが本音です。

ロボットは本来フィジカルなものです。何らかの力学的な仕事をすることで人の役に立つもの、要は、動いてなんぼということです。

Pepperは確かに動きますが、その動作で人が楽しむことはあっても、人に役立つ力学的な仕事をするとは思えません。人のために力学的な作用を外界に及ぼすことが主な機能として備わっていないという点で、Pepperは我々の考えるロボットとは違うということです。

--------もし、Pepperが人の代わりに重たいものを持ち上げたら、それはロボットと呼んでもいいということでしょうか。

金岡博士 そうでしょうね。難しいところですけどね。昔からロボットとは何かという議論は色々なところでされていますが、明確な定義はないのが現状です。私はロボットの定義なんて決めなくていいと思っていますけどね。

大事なのはそれがロボットかどうかではなく、人の役に立つかどうかです。何と呼ぶかは見た人が決めればいい。ただ、Pepperが本来ロボットの持つべき機能を充分に備えているかと考えると、ロボットとはそんなものではないと言いたくなるのです。

--------もっとロボットにはできることがあると?

金岡博士 はい。エンターテイメントは重要な分野ではありますが、ロボットが働く可能性のあるニッチな一分野に過ぎません。ロボットが本当に必要とされているのはもっと地道で泥臭い、人が過酷な作業を強いられている「現場」です。

そうした部分を抜きにして、エンターテイメントというニッチ市場だけでロボットを語るのは難しいと思います。

--------過酷な作業というと建設現場や工場をイメージしますが、そういうところで使われる重機はロボットとは違いますよね。

金岡博士 明確にどこまでがロボットかと線引きする必要はないと思いますが、高度な力学的機能を持っていて、器用に動ける機械がロボットだと考えればいいでしょう。バーンと力を出すだけで、大雑把な動きしかしない重機であれば、ロボットとは言いにくいですね。

たとえば、自動車でも単純にブーンと走るだけだとロボット的ではありませんが、最近の自動運転に代表されるようなインテリジェントな機能がついてくれば段々ロボットらしくなる。大きな力を出すだけでなく、その力を巧緻かつ知的にコントロールできるようになっていくとロボット化していくとは言えますね。

2016-02-16-1455585513-5468418-unspecified1.jpg

機械は機械。愛着がロボットをダメにする

--------博士がつくっているロボットは人が操作することが特徴のひとつだそうですね。なぜ、コンピューターが完全に操る自律型のロボットにしなかったのですか。

金岡博士 理由はふたつあります。ひとつは実環境におけるロボットの完全自律制御が想像以上に難しいからです。

テレビに出ているロボットを見ると、もう簡単に動かせるように思うでしょう。でも実は、そういうロボットは環境まで含めてデモンストレーション用に相当つくり込んであるから上手く動くのであって、我々が思うようなレベルでコンピューターにロボットを操らせるのはまだ難しいのです。

もうひとつの理由はその裏返しですが、人間のボディコントロール能力のすごさに気付いたことです。

人は、現在のロボットとは比較にならないくらい器用に身体をコントロールし、複雑な動作を難なくこなします。人間にこれほど優れたコントロール能力があるのなら、それを活用しない手はありません。

 

機械には機械のいいところ、人には人のいいところがある。双方を活かせば、人間よりも機械よりもすごいものができると考えました。それを我々はマンマシンシナジーエフェクタ(MMSE)と呼んでいます。

------機械のいいところと言うと?

金岡博士 「強い・速い・正確」ですね。人間では出せない大きな力で動けて、疲れない。人よりも速く動けて、何回でも同じことを正確に繰り返せます。まさに機械であるが故の能力です。

そうしたフィジカルな能力はどう人の役に立つのか、一言でいうと「自己犠牲」です。自己犠牲こそが、ロボットが持つ最大のアドバンテージだと強調したい。人間なら痛いこと、苦しいことも機械なら文句も言わずに働きます。そこに我々が良心の呵責を感じる必要もないし、感じてはいけない。

--------感じてはいけない?

金岡博士 そう、可愛らしいロボットに僕が違和感を覚えるのはそこなんです。ロボットの最も重要な機能は自己犠牲なのに『こんなに愛らしいロボットにこんな辛いことをさせるなんて』などと人に思わせてしまったら、その機能が発揮されなくなります。

かわいい動作をするだけの愛玩用ロボットがいても別に構いませんが、それは我々がつくろうとしているロボットとは違うということは理解してほしいですね。

2016-02-16-1455585595-8017672-IMGP5712.jpg

ロボットが活用される社会システムまで視野に入れている

--------ロボットが人の役に立てる分野というと、かなり幅広いですよね。

金岡博士 そうですね。人が身体的な苦痛を伴う作業を強いられている分野はすべて対象になると考えています。

当面の重要な分野としては土木・建築や物流・運搬です。特に、自動化しにくい部分、人の判断が求められる部分は、MMSEの得意とするところです。

--------判断は機械ではなく人に委ねるということは、ロボットを操作する人によって、パフォーマンスも変わるのですか。

金岡博士 はい。それが重要だと思っています。よく「誰が扱っても上手にできる」という謳い文句がありますが、誰がやっても同じならコンピューターがやればいいでしょう。

人が操作する以上は、その人が動かすからこそ最大の効果を発揮できるようにつくらなければなりません。オペレーターが習熟すればするほど効率よく作業できるようになるロボットでなければ、コンピューターではなくあえて人が操作する意味がありません。

2016-02-16-1455585661-699982-unspecified5.jpg

--------ロボットを操作する人には、どんな能力が求められるのですか。

金岡博士 周囲の状況を的確に判断して、適切な時に適切な操作ができる能力です。ロボットが出す力は調整できるので、定量的な意味での身体能力は必要ありません。

パワーステアリングができて、女性でも大型トラックを動かせるようになりましたよね。オペレーターに必要なのはロボットに何ができるのかを理解していて、状況に応じて適切な操作を実行できる判断能力です。

--------操作で練習が必要なのはどんなところですか。

金岡博士 我々のMMSEにはマスタスレーブという技術を使っています。「マスタ」はオペレーターが操作をする司令塔部分、「スレーブ」はマスタの指令を受けて実際に作業をする実行部分のことです。

オペレーターが自分の体を動かす感覚と、スレーブロボットを動かす感覚は違います。従来はそのギャップを補正して、自分の体を動かす感覚のままでスレーブロボットを操作できることが理想とされていましたが、我々は感覚の違いを消さないことにしました。すると、オペレーターはスレーブロボットの動きやその反動に慣れる必要があります。そこに熟練の技が生まれるわけです。

なぜスレーブの感覚を残したかというと、適切な状況判断には本物の感覚、臨場感が大切だからです。車の教習でドライブシミュレータを使うとすぐ衝突しますよね。でも、実車ではそう簡単にはぶつかりません。その差が臨場感です。

また、同じく臨場感を重視するために、我々は「遠隔操作型」ではなく、「近接操作型」あるいは「搭乗型」のマスタスレーブシステムを作ります。画面からの情報しかない遠隔操作とは違い、現場にオペレーターがいれば、画面越しでは伝えきれない振動や温度、湿度、匂い、空気の流れといった場の雰囲気を全身で感じとることができます。

人間のコントロール能力を活かすためには、オペレーターが現場にいる近接操作型や搭乗型のロボットの方がより高度なパフォーマンスが発揮できるはずです。

--------すると、訓練を積んだロボットオペレーターという職業もうまれそうですね。

金岡博士 その通りです。我々は単にロボットを売るだけではなく、新たな産業のカテゴリーをつくろうとしています。

たとえば、自動車は、製造・販売から修理、関連用品、インフラまで一大産業をなしています。株式会社人機一体は、オペレーターの育成や免許制度、ロボット操作のガイドラインやインフラ整備まで含めて、ロボットを社会で活用する仕組み全体をつくります。

安全を確保するためのガイドラインは定めた上で、使う人の技術や発想次第でいかようにも活用できるものにしていきたいですね。

--------ビジネス化されたのは、それを目指していたからですか?

金岡博士 社名を「人機一体」と変えて新しくスタートしようとしているのは、まさにそのためです。やろうとしていることが大学の研究の範囲ではカバーできなくなり、会社という組織で活動することにしました。

研究としては評価されていても全く使われない技術もあります。まあ、私の研究は、研究としてもあまり評価はされていないのですけどね(笑)。私にとって大切なのは研究として評価されるかどうかではなくて、人の役に立つかどうか。そして役に立っているかどうかは、お金を出してでも使う人がいるかということが指標になります。

我々がつくるロボットを安値で買い叩くことなく、喜んで買ってくれる人がいるかどうか、世に問うてみたいですね。

--------博士は最終的なゴールとして人の幸せまで見据えているそうですね。

金岡博士 皆が幸せになるためには、誰もがロボットの機能にアクセスできるようにしないといけません。アプリ開発のように簡単にコピーできるものではないですから、ロボットを世の中に行き渡らせるためには、ビジネスとして成り立たせ、一大産業分野を構築することが必要です。

多くの人をビジネスに巻き込み、ロボットを製造・運用するシステム全体で雇用と利益を生むようにしたい。今の社会の隙間に無理矢理ロボットを押し込むのではなく、ロボットが当然の要素として組み込まれた社会のエコシステム全体を再デザインしようと思っています。

2016-02-16-1455585717-3436437-IMGP5758.jpg

18ヶ月以内に3m級の人型重機が完成する

--------今、博士の構想を具体的にイメージする上で参考にできるものは、博士が以前、テレビ番組「リアルロボットバトル」(日本テレビ系)に出されたロボット「MMSEBattroid」でしょうか。

金岡博士 今、我々が持っている試作機のなかではイメージに一番、近いですね。スレーブの機能の基礎については完成しています。ただ、MMSEBattroidは厳しい制約のなかでどうにか完成させたものであり、決して満足していません。

もっと直感的に操作できるようにしたいのですが、今のMMSEBattroidで実現できているのは一部分です。メカをきちんとつくりこめば、もっと直感的に操作できるロボットになることは分かっています。足りないのは技術ではありません。人、金、時間、といったリソースが、ほんの少し、足りないだけです。

それから、MMSEBattroidは車輪で動いていましたが、足は実装したい。今、開発している試作機には足があります。

--------「足」が重要なのですか。

金岡博士 人型ロボットは見た目がキャッチーだという面ももちろんあります