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ワーキングピュアの未来と希望【小説家 朝比奈あすか×連合会長 神津里季生 新春対談②】

2016年01月10日 00時11分 JST | 更新 2017年01月07日 19時12分 JST

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連合が結成25年を記念して企画・制作した書籍『ワーキングピュア白書』で、鼎談にご参加いただいた小説家の朝比奈あすかさんと神津連合会長が語り合った対談の後半をご紹介。(前半はこちら)

 

悩みを打ち明け合えるヨコやナナメの関係を築くことが大切

─ワーキングピュアを応援していくために労働組合ができることは何でしょう。

朝比奈 『ワーキングピュア白書』をきっかけに、もっと25歳世代を知りたいと座談会をセッティングしていただいたり、大学の後輩に話を聞きました。

私は団塊ジュニアで、世代人口は200万人くらい。賃金も土地の値段も右肩上がりで上がっていく時代を経験し、小さいクルマから大きいクルマに買い替えるようなバブル体験も記憶にあります。学生時代もブランド志向の名残があって、プラダやグッチに憧れました。桐野夏生さんの『グロテスク』という小説に、名門女子高校に通う庶民の子が、ブランドの刺繍入り靴下が買えなくて、自分でそれを真似た刺繍をするシーンがあるんですが、それがとてもリアルに感じられて胸が痛んだ、そんな世代です。

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今の25歳は1990年生まれで、物心ついてから日本経済はずっと不景気という時代に育ってきました。世代人口は120万人くらいで、競争も全体的に緩やか。「安くておしゃれ」なユニクロや海外のファストファッションが人気で、最近では、より低価格の「しまむら」の商品だけで全身コーディネートした読者モデルがもてはやされる。

ブランド離れ、クルマ離れ、旅行離れ、活字離れと、いろいろなものから離れてしまっているんですが、その代わり、SNSやネットゲームなどを通じたコミュニケーション力は高い。共感志向が強く、ネットを介した繊細な付き合いの中で、人を傷つけないようにうまくつながることができる。それは悪いことではないんですが、野心をむき出しにするのを恥じる傾向になります。同世代とはうまくつながれるけど、上司や先輩には気を使い過ぎてしまう。だから、何か問題が起きると、話し合ったり、闘ったりせずに、ピタッと回路を閉ざすように連絡が取れなくなったりするのかもしれません。

神津 なるほど。連合も、10月にワーキングピュアの就労観に関する意識調査を行いました。20代の85%が「仕事に真面目に取り組めている」と回答しましたが、「不安や不満がある」もほぼ同率。

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不安の上位は「きちんと職務を全うできるのか」や「職場の人間関係」、不満は、やはり給与や福利厚生、休日や労働時間。注目されるのは、仕事で実現したいことについて「社会を良くすることに貢献する」との回答が20代で高かったことです。

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時代の趨勢として、家庭でも、教育現場でも、「社会」というものを感じる場面が乏しくなっているのかもしれませんが、もう一歩踏み出してみると世界が広がることがある。一つのことに興味を持って踏み込んでいくと、別の何かにつながっていくことがある。コミュニケーションとは、そういう広がりを持つことが大事だと思うんです。そして、それができるのが労働組合なんです。

朝比奈 確かにそうですね。会社勤めをしていた頃、所属や部署を超えた「誕生会」があったんです。7月には7月生まれの社員全員でランチ会をする。そこから、仕事の評価抜きで悩みを打ち明け合えるようなヨコやナナメの関係が生まれました。ワーキングピュア世代は、本人たちは気付いていないけど、実はそういう場を求めていると感じたんです。労働組合こそ、そういう場になれる。ぜひ、ワーキングピュアが参加したくなるような仕掛けや工夫を考えていただきたいと思います。

神津 おっしゃるように労働組合の良さの一つは、そこにある。私自身も、普通に会社の仕事をしているだけなら絶対に知り合うことがなかった人たちと出会い、つながる場面がいくつもありました。人生を豊かにできる可能性を提供してくれる存在です。もう一つ、労働組合は社会に開かれた存在でもある。企業別の組合であっても、賃上げや労働時間の短縮を要求するときには、社会や経済がどうなっているか勉強しないと、経営者に対しても、組合員に対しても、説得力を持てない。私も、いまだ日々勉強です。

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─労働組合をPRするために、いいアイデアはありませんか。

朝比奈 ワーキングピュア世代に「どういう人に憧れるか」と聞いたら、テレビに出ている人より、フェイスブックやツイッターとかですごく「立っている人」の日常をチェックしていると言うんです。だから、労働組合の存在をPRする場合も、SNSをうまく使うといいかもしれませんね。振り返ってみると、私自身も、若い頃は自分に自信が持てなくて、何か問題が起きると「自分が弱いから、力がないから」と内向きに自分を責めていました。ブラックバイトやブラック企業は、きっとそういうところにつけ込むのだと思います。だから、労働組合は、「これはおかしい」「こういう逃れ方や闘い方がある」という知識や情報をネットを活用してもっと発信していくべきです。動画やツイッターなど、ネット上でシェアしやすい形にすると情報が広がりやすいでしょう。

私も会社勤めの頃は組合員でしたが、「組合費高い」というイメージしかなくて(笑)。でも、こうして労働組合のことを知って、いいなあと思ったんです。だから、例えば派遣労働者が労働組合をつくるような話を書いてみたいなと...。

神津 それはうれしい。日本は、途上国に比べれば、労働組合がつくりやすい国だと思いますが、それでも壁は大きい。経営側からの妨害もあるし、当事者自身の葛藤もある。だから、不満があっても我慢に我慢を重ねている人たちも多いんです。

朝比奈 そういう人たちが立ち上がる話を書きたいですね。

神津 ぜひお願いします。労働組合はいいことをやっているんですが、でも、それを広く知ってもらわなければ、意味をなさない。だから、今、一人ひとりが広報担当者になって、できることは何でもやろうと打ち出しているんです。小説という形で労働組合の姿を伝えていただけたら、本当にうれしいです。

 

不安ではなく、ワーキングピュアに託していく勇気を

─最後に、2016年をどのような年にしていきたいですか?

神津 今年は正念場の一年です。2016春季生活闘争では、「底上げ・底支え」「格差是正」を通して「明日への希望」を実現しようと投げかけています。ワーキングピュア世代も含めて、1年1歳たったら能力も高まって賃金が上がるという仕組みを取り戻していく。一人ひとりが、賃金が上がり、生活が良くなっていくことを実感できる社会にしていく。それが今年の最大の課題です。

もう一つ、政治の転換点をつくる上でも重要な一年。「上から目線」の政治に対して、生活者・働く者の現実に焦点を当てた政治を取り戻していく。そのための「クラシノソコアゲ応援団」ですが、いかにワーキングピュア世代の共感を得て行動できるがカギだと思っています。

朝比奈 私は、このワーキングピュア世代こそ、日本の財産であり、希望だと思うんです。彼らはコミュニケーション力が高く、繊細な気遣いができて、見栄を張らずに本質を見抜く力がある。日本の未来は、この新しいパワーを持った人たちを、どう社会に取り込んで包摂していけるのかにかかっていると思います。「マイルドヤンキー」という言葉がありますが、地元で地道に仲間たちと地域を盛り上げながら、一方でSNSを駆使して世界中に友人を持てる人たち。長期的に見たら日本を奥深い豊かな国にするために貢献してくれるでしょう。だから、ワーキングピュア世代に対して、何かを求めたり、うらやんだり、不安に思うのではなく、彼ら彼女らに託していく勇気を持つべきだと思います。

─「ワーキングピュア」が2016年の流行語大賞を取れるくらい、社会に浸透するよう、どんどん発信していきたいと思います。

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[進行/西野ゆかり 連合広報・教育局長]

 

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朝比奈あすか 小説家

1976年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、メディアコミュニケーション研究所修了。2000年に大伯母の戦争体験を記録したノンフィクション『光さす故郷へ』を発表。2006年『憂鬱なハスビーン』で第49回群像新人文学賞受賞。

著書に『不自由な絆』『やわらかな棘』『あの子が欲しい』『天使はここに』『自画像』など多数。『ワーキングピュア白書』では、第3章の鼎談「第一線で活躍するプロから ワーキングピュアに贈る言葉」で自身のワーキングピュア時代の経験を語っている。

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神津里季生 連合会長 

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年1月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。