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日本人留学生が、世界で歓迎され始めた理由 (若松千枝加 留学ジャーナリスト)

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ハーバード・ビジネス・スクールから日本人留学生が消えつつある、と言われて久しい。

ハーバード大学インターナショナルオフィスの発表したデータによると、同大の学部・大学院に在籍した日本人学生数は1994~5年に190人超でピークをむかえ、その後は減少の一途をたどり2012年には90人代に半減。これは、ハーバードのようなトップエリート校に限った話ではない。ひところにくらべて、海外でみかける日本人留学生が目立たなくなったことは事実である。

■犬も歩けば"日本人"にあたった 1995年~2005年
私が留学の世界に携わるようになった19年前から、留学相談に来る人の要望でもっとも多いひとつは 「日本人のいないところへ行きたい。」 であった。 「私は誘惑に弱いので、日本人がいたら日本語を話してしまいそうだから。」 というのがその理由だ。

1990年代後半から2005年ごろまで、この要望に応えるのは至難のワザであった。特に語学留学の場合、評判が安定していて、交通至便で、治安も決して悪くないという渡航先には、たくさんの日本人が留学していたものだ。日本人がいない留学先を真剣に選ぶなら「治安が著しく悪いか、ビザ発給基準に達しないような怪しい学校を選ぶしかありませんよ」と言って、留学希望者には納得してもらっていた。

ちなみに当時、人気を誇っていたのが「国籍制限」を設けている語学学校。ひとつの国籍の割合が学校全体の25%~30%に達すると入校を断られるという制度で、日本人枠は真っ先に埋まるのが常だった。

■日本人学生を見ると珍しさを感じる 2005年以降
しかし、その後、状況は変わる。

英語圏でいうと、英国やアメリカの郊外校なら日本人率が5%を切るのも珍しくなくなったし、オーストラリア・ニュージーランドもしかりである。シティセンターにある人気校でも、歩けば日本人にあたるということはなくなった。アイルランドなら首都ダブリンであっても、日本人が多くて困るという声はほぼ聞かない。

原因として、日本人留学生が以前より減少傾向にあることはもちろんだが、それ以上に中国や韓国・他アジア・中東・南米・・・など、日本以外の国からの留学生が増えて相対的に日本人の割合が減ったことも大きい。

日本人留学生が減ってくれば、学校側の日本人に対する熱の入れ方も変わってくるのが自然だ。

日本の留学マーケットでは、古くから5月と10月に留学フェアと呼ばれる留学イベントの開催が多く、自然にこの時期はたくさんの海外教育機関マーケッターが来日する。このシーズン、彼らはわれわれ日本の留学関係者にPRに歩きまわるというのが恒例となっているが、ここ10年ほどは来日マーケッターの数が激減。日本人留学生獲得は、海外教育機関にとって興味の薄いものになってしまっており、軒並み日本予算は削減・人員カットであった。

2000年ごろ、留学会社が多数軒を連ねた西新宿や渋谷界隈では、関係者同士がばったり行き会い 「これからどこ訪問するの?ふ~ん、じゃあ行ってらっしゃい!」 なんて会話もあった。しかし、今では 「日本を訪ねてくれる人が少なくなってさびしいね・・・」 という会話が、業界の長い関係者同士でふと口をついて出てしまうこともある。

■日本人学生の「質」の良さに着目する海外教育機関
ところが、先日、マーケッターのひとりから「日本人留学生に対しての熱が再燃しつつある」という話を聞いた。

彼はオーストラリアの某学校のマーケッターで、「やっぱり日本人留学生に戻ってきてもらいたいね。」というのが同校の方針として採用され、来年は中国よりもベトナムよりも「日本」にターゲットを定めているというのだ。

正直、これはかなり意外である。

なにしろ日本は少子化で、これから若者の数は減る一方だ。確かに日本はいま、国をあげて「グローバル人材育成」に取り組み始めたところで、2011年を境に海外留学数はぐんぐん伸びている。しかし、中国の人口母数にかなうわけがないし、他アジアの伸びっぷりにくらべたらまだまだのんびりしている。

「そんなことは百も承知だよ。」と彼は言います。

「確かに、人数で言えば中国は無視できない。奨学金や支援金でどんどん留学に来るアジア諸国は魅力的だ。でも日本人留学生の魅力はそこではない。その質なんだよ。」

どうやら、日本人留学生をほしい理由とはその「バランス能力」の高さなのだそうだ。

日本以外の多くの国の留学生は、一芸に秀でる傾向にあるらしい。著しく優秀な分野があるかと思えば一方で全く歯が立たない分野があるという人が多く、日本人のようにまんべんなく総合点が高い人が少ないらしい。

■グローバル人材とは?
少し前まではスペシャリスト候補がグローバル人材にふさわしいと考えられていた時期もあったが、特にリーダーシップやコミュニケーション重視の昨今は、「すべてが平均以上」というのはすばらしい能力だという。学校としては、カリキュラムの一環でローカル企業にインターンシップに学生を送りこむ場合、スペシャリストよりもゼネラリストタイプの学生を送りたいのが本音で、送りこんだ学生がインターン先企業から絶賛されれば次の年はもっと多くのインターン生受け入れにつながる。

さらには「あの学校の学生なら信用がおける」となることで、同企業に就職したい地元学生にとって有利なことになるらしい。日本人留学生が、地元学生のキャリア成功に一役かうわけだ。そんな流れから、彼の学校では来年、日本向けマーケット予算が多く割かれることになる見通しだ。

教育関連については以下の記事も参考にされたい。
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日本では、グローバル人材とは?という議論がもっぱらアツくなっている。上記のような話を聞くと、日本で語られているグローバル人材像って正しいのか、という疑問もわいてくる。このほど国際宇宙ステーションでコマンダーをつとめられる若田光一さんは「和」を重んじるタイプのリーダーだと聞く。日本人の特性を活かしたグローバル人材も悪くないんじゃないか、と思う今日このごろである。

若松千枝加 留学ジャーナリスト