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「犯罪を犯しても奪われない結婚の権利を、同性愛者はそもそも奪われている」台湾の婚姻平等化から日本が学ぶべきこと

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アジアで初めて、台湾で同性婚が認められるかもしれないと昨年末あたりから話題になっています。

1895年から1945年までの50年間、日本の植民地とされた台湾では日本の法律が適用されていました。現在でも日本と密接な関係にある台湾でこうした動きが起こっていることは日本にとっても意味があることだと思います。

そんな台湾で婚姻の平等化の運動を進めている台湾同性伴侶権益推動聯盟の理事長で、弁護士の許秀雯さんが来日し、2月25日に明治大学で開催されたワークショップ「台湾における婚姻平等化に向けた法改正の動きについて」で講演をされていたので、その内容を一部ここにまとめたいと思います。

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明治大学法学部教授の鈴木賢先生

民法を改正し婚姻平等化を実現する


まずはじめに、今回のワークショップを企画した明治大学法学部教授の鈴木賢先生から、今回の趣旨と法案についての説明がありました。

鈴木先生によると、台湾では既存の異性婚に、同性婚を付け加える形で民法を改正することで、婚姻の平等化を実現しようとしているとのこと。

例えば第972条は今まで「婚約は、男女当事者が自ら執り行わなければならない」と記載されていましたが、そこに「同性の婚約は、双方当事者が自ら執り行わなければならない」という記載を追加する条文になっています。

また、性別だけでなく年齢の平等化も同時に実施しようとしていて、今までは結婚可能な年齢を男性=18歳、女性=16歳としていましたが、性別に関係なく18歳に統一する条文に変更されています。

そんな台湾で婚姻の平等化の運動を中心となって進めている台湾同性伴侶権益推動聯盟の理事長で、弁護士の許秀雯さんが、活動の経緯や今後の展望について話しました。

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台湾同性伴侶権益推動聯盟理事長の許秀雯さん

性別で結婚できるかどうかを決めることはおかしい


許(キョ)さんは一組の女性同士のカップルの写真を私たちに見せ、一つの問いを投げかけました。

「この二人は法的に結婚している夫婦です。どちらが夫で、どちらが妻だと思いますか?」

実は、写真にうつる女性は二人ともMtF(Male to Female)で、もともと男性として生まれて現在は女性として生活しています。
あれ?と思う方もいるかもしれません。どちらも"女性"ということは、まだ同性の婚姻が可能ではない台湾でなぜ結婚ができているのでしょうか。

「なぜ二人は夫婦なのかというと、一方が性別適合手術をして戸籍の性を変更したあと、二人は"男女"として結婚したからです。」

結婚したあと、戸籍の性は男性のままだったもう一方のパートナーも女性に変更しようとしたそうですが、ここでひとつの問題が発生しました。

"二人とも戸籍の性別を変えてしまったら、既に認められている男女としての婚姻ではなく、同性のカップルとなるため、この婚姻は無効となるのか、それとも戸籍の性別を変えること自体が無効になるのか"

ある意見では「結婚した時点で二人とも手術をしていたので、戸籍上は異性になったとしても実質的な性別は同性なので、これは同性婚にあたり無効なのではないか」というものがあったそうです。

それに対して許(キョ)さんは「病気など何らかの理由で生殖器を切除した人も結婚した場合、それは同性婚になるのかと考えると、性別は生殖器の有無で決まるものではありません。そもそも実質的な性別とは何でしょうか。

何をもって婚姻における性別を判断するのかというと、それは「法的な戸籍に登録された性別」です。今回の件は、婚姻した時は戸籍上は異性だったため婚姻は無効ではありません。」と話しました。

許(キョ)さんがなぜこのケースを紹介したかというと、性別によって結婚できるかどうかを決めることはおかしいのではないかということを伝えるため。

「このカップルは付き合い始めた時はお互い男性でした。しかし、結婚する際は片方が戸籍を変えたため、そのタイミングではたまたま男女だったので結婚ができ、そのあと二人とも女性になりました。なぜその一時だけ婚姻が可能なのでしょうか。性別で結婚できるかどうかを決めることはおかしい。」

同性婚ではなく、婚姻の平等


ニュースでは「台湾で同性婚が」と、あくまで同性婚という言葉をつかっていましたが正確には少し違います。許(キョ)さんらは「婚姻平権」つまり婚姻の権利平等化という言い方をしています。

「同性婚姻という言葉を使うと、婚姻する権利を求めるという動きになりますが、同性以外の性別を排除するかたちになってしまいます。同性の婚姻ではなく、婚姻の平等に力点を置きました。」

さらに許(キョ)さんは、「異性愛者であれば犯罪をおかしても結婚の権利は奪われないけれども、同性愛者は何も犯罪を犯していなくてもそもそも権利を奪われていることになる。」と話しました。

「国家が婚姻の平等を認めないことは同性愛者等を排除することに繋がり、それに連なる様々な権利が侵害されることになります。反対に婚姻を認めることはセクシュアルマイノリティを市民としてちゃんと承認することに繋がります。」

台湾における婚姻平等化の経緯


許(キョ)さんは今日までの婚姻平等化の動きを振り返って「30年間でいろいろ変化があった。」と話しました。

  • 最初に具体的な行動が起きたのは1986年。ゲイカップルが立法院に対して婚姻制度の創設を請願したのがはじまり。その当時の立法院の回答は「同性愛は公序良俗に反するので認められない」だった。
  • 1996年に作家・許佑生の同性結婚式がメディアに取り上げられたのをきっかけに声があがりはじめた。
  • その後何回か婚姻の平等に関する法案が提出されたが、反対派の抗議や、それに対する当事者団体の準備不足で廃案になった。
  • 2016年は今までと政治状況が全く異なり、民進党が与党になりそれまで反対していた国民党が野党になっていたため法案が提出でき積極的に議論された。

「法律上の婚姻は様々な権利とリンクしてくる。」と許(キョ)さんは話します。

  • 例えば医療の場における同意権、夫婦の財産、養子縁組ができるかどうか、外国籍の人に在留資格を与えるかなど、498の法律で法律上の配偶者にのみ権利を与えられている。
  • 法的な効果の点で、法律には異性愛中心の言葉がちりばめられている。そのため2013年に作った改正案では、例えば男女=当事者、夫妻=配偶者、父母=両親など、民法の中にある異性愛を前提としている言葉を中立的な言葉にかえるという意図があった。
  • これが「子どもがお父さんお母さんと呼べなくなる」「両親1両親2と呼ばなきゃいけないのか」と、反対派から強い抵抗を招いた。しかし、例えば配偶者と法律に書いてあったとしても一般の人は配偶者とは呼ばないように、法律の言葉が普段の言葉を規制するということはない。

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反対派との攻防


「反対派の中心にいるのはキリスト教関係の団体です。キリスト教徒の割合は台湾の人口のうち5%たらずですが、その声は大きい。」と許(キョ)さんは話します。

もちろんキリスト教徒のなかにも婚姻の平等を支持する人や、なかには同光長老教会など同性愛者のための専門の教会もあるそう。しかし、反対派からは「同性婚を認めると、同性愛を奨励することになってしまう。」という声や「伝統的な家族の価値を損なう。」という声があがっています。

伝統的とは何を指しているのか。

「日本に侵略される前から台湾は諸外国から侵略を受けています。もともと台湾にいる人もいますし、中国から来た人もいたり、そもそも台湾人は多様なのです。」

また、「少なくともこうした反対派の論理を支持する人たちがいることは、まだまだ理解が不足していることを示している。」と許(キョ)さんは話します。

しかし、こうした許(キョ)さんをはじめとする婚姻平等化の動きによって、世論も賛成派が確実増えてきています。そこで最近反対派は戦略を変えてきたそう。民法の改正ではなく、特別法として同性パートナーシップ法を作るなら良いという意見です。

実は、すでに台湾では11の都市で同性パートナーシップ制度が実施されていて、実際に1674組以上のカップルがこの制度を利用しているそうです。日本でもいくつかの地方自治体で同性パートナーシップ制度を実施していますが、日本と同様、台湾のパートナーシップ制度にも法的効果はありません。

しかし、許(キョ)さんは「最大の効果は「可視化」させたこと。せっかくできたのに法的効果がない、このコントラストをアピールすることで逆に民法改正の必要性を認知してもらうステップになった。」と話します。

ただ、許(キョ)さんは、同性パートナーシップ法を作ることは、セクシュアルマイノリティを隔離することになるため受け入れられないというスタンスを取っています。

「彼らが考えているのは、あくまで同性愛者は自分たちとは"違う"存在だということ。その人たちを隔離するなら良いという戦略に変わってきています。」

「異性愛と同性愛の唯一の違いは自然に受精し、出産することができないという点だけです。しかし、台湾の法律では子どもを産むことは婚姻の要件ではありません。子どもを持たない夫婦もいますが婚姻は可能です。そのため、自然に受精して出産できないという一点だけを過大評価して、それを理由に同性に結婚を認めないことは適当ではないと考えています。」

「多くの国で同性間の婚姻を認める以前に特別法でパートナーシップ法を実施していることを知っていますが、これは白人と有色人種を分けていることと同じで、隔離であり差別だと考えています。」

現在の審議と問題点


現在の立法院の審議では、いくつかの草案が提出され、そのうち2つの案に整理して審議にかけられているそうです。

しかし、「この2つの案にはいくつかの欠陥がある」と許(キョ)さんは説明します。

  • 呼称は「男女」「夫妻」「父母」など異性愛を前提としたものになっている。
  • 本来一つで良いはずの所を反対派に配慮し、第一項を異性婚、第二項を同性婚と位置付けている。
  • 同性の場合は嫡出推定が適用されない。

三つめの嫡出推定の問題点について許(キョ)さんによると

「第三者から精子の提供を受けて出産した場合、異性愛であれば結婚が可能なので、遺伝的な繋がりがなくても夫が父となることができます。しかし、レズビアンのカップルが第三者からの精子の提供を受けて出産した場合、産んだ親は母親になれますが、パートナーの人は親にはなれません。」

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いま、台湾から学ぶべきこと


現在も台湾の各地で反対派、賛成派両方の大規模なデモが起きています。それを見て司法院大法官が3月に憲法法廷(口頭弁論)を開き、憲法解釈を行うことを決定しました。

婚姻の平等化を進めたい現政府にとっては「裁判所が言ったからしょうがないよね」と反対派のプレッシャーを避ける機能をはたすことになるかもしれませんし、逆に反対派にとっては時間稼ぎができることになります。

許(キョ)さんは最後に「憲法解釈がどうなるかはわかりませんが、わたしたちの活動は続いていきます。」と、優しい表情と共に力強い言葉で話しました。

台湾では2004年に「性別平等教育法」、2008年に「性別就業平等法」を採択、改正し、それぞれ性的指向による差別の禁止を明文化しています。また、毎年開催されている台灣同志遊行(台湾LGBTプライド)はアジア最大級のパレードと呼ばれています。

日本ではLGBTの権利を保障したり、差別の禁止を明文化するような法律はまだありません。現段階で5つの自治体で同性パートナーシップ制度を導入していますが、まだまだ少数です。日本も台湾から学ぶべきことが多くあります。

台湾の婚姻の平等化に関する今後の動きに注目です。