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大水害に襲われた北朝鮮、厳冬の現地を訪ねて――赤十字の支援と被災地の課題

2017年01月13日 15時44分 JST | 更新 2017年01月13日 15時44分 JST

私は、ちょうど1か月前、12月3日から10日間、世界190か国の赤十字・赤新月社が加盟する国際赤十字赤新月社連盟(以下、連盟)会長として、北朝鮮を訪問した。

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戦後、歴史的な経緯から日赤と朝鮮半島の2つの赤十字社は、人道問題の戦後処理に深く関与してきた。朝鮮半島に残された邦人の帰国、在日朝鮮人の北朝鮮への帰還、在サハリン韓国人の韓国への帰国等があり、私も入社以来問題解決のために奔走した。今回の訪問は、1998年に日赤副社長として初訪朝して以来2度目の訪朝となったが、平壌の街の高層化には目を見張った。

北朝鮮では8月末、中国国境に沿った北東部、咸鏡北道(ハムギョンブクト)にて70年ぶりと言われる大きな洪水が発生し、死者・不明者500人以上、住宅全半壊3万戸、7万人が避難する大災害となった。連盟は朝鮮赤十字会の活動の支援のため、緊急アピール1千5百万スイスフラン(約17億円)を発したが、実情が伝わらず、国際的な制裁下にあるためもあり反応が鈍かった。そこで私は被災状況を自分の目で確認し、改めて国際社会の関心と支援を促すために北朝鮮行きを決断した。

咸鏡北道の道都で北朝鮮第二の都市である清津(チョンジン)市をベースに悪路を往復7~8時間かけて最大の被災地、会寧(フェリョン)、茂山(ムサン)郡を訪れた。平壌から清津市までは冬季の間週2便運航していた高麗航空を使ったが、機内は満席であった。

連盟は、北朝鮮に1995年に代表部を開設し、3人の外国人スタッフ(オーストラリア、バングラデシュ、ドイツ国籍)が常駐している上、必要に応じて専門スタッフを送り込んでいる。ステインス連盟代表は、発災直後に北朝鮮に大使館を置く政府と国際機関からなる合同調査団の一員として、通常外国人は立ち入りが許可されていない被災地域に入ったが、連盟はこの災害を機会にこの地での活動が許可された。

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ムサンの復興住宅に住む被災者キム・サン・ニョさん(57歳)。赤十字の救援物資、食器や寝具を支援された。

また、朝鮮赤十字会は、首都平壌と清津市に災害用に備蓄していた衛生用品や台所用品などの緊急物資をトラックで迅速に被災地の支部に届けることができた。朝鮮赤十字会は被災地にも支部があるが、今回の訪問で、支部やそのボランティアが住民の避難誘導、生活支援物資の配布など大きな活躍をしたことを知った。

彼らの中には自宅を失った者もいたが、テント生活をしながら救援活動を続けたという話を聞き、私は東日本大震災や熊本地震の際、自らが被災者でありながらも避難所や寝泊まりしている自家用車から出勤し、献身的に業務を続けた日赤ボランティア・職員に思いを重ねた。

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ウンサンにて朝鮮赤十字会の活動視察、脱穀精米。

連盟は朝鮮赤十字会の活動を支援してきているが、一部には経済制裁下にある北朝鮮支援に批判があることも事実である。他の目的に流用される懸念があるという理由からである。ステインス連盟代表は、これらの声に対し「被災地を定期的に訪問し、赤十字の物資が被災者に届いていることを、連盟の国際的な評価基準を用いて確認している。」と述べている。

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ムサンの復興住宅に住むキム・ムン・オクさん62歳、赤十字から支援された食器などについて説明する。

被災地では、11月には日中の最高気温が零下になることも珍しくなく、冬が訪れる前にいかに住居を確保するかが最大の問題であった。北朝鮮政府はこの課題に国をあげて取り組み、驚異的なスピードで全半壊家屋の3分の1を超える1万2千戸を2ヶ月余りで新築したが、この裏には連盟がこれらの復興住宅の屋根資材や貯水タンク等を提供するなど国際機関の協力があったことも事実である。被災者は地域ぐるみで新しい場所に移住したとのことだった。

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ヘリョンの復興住宅

住宅完成までの間、被災者は赤十字が配布したテントやブルーシート等で雨露をしのいだというが、冬場は工事が中断されるため、今回復興住宅に入れなかった人々は今でも仮設テントや親戚・知人の家で暮らしているとの説明を受けた。私は清津のホテルに滞在したが、北朝鮮第2の都市でさえホテルではお湯が使用できる時間が限られていたし停電も度々あった。いわんやテント生活を続ける被災者の状況がいかばかりか案じられる。

訪問した先々で水の供給が課題であると感じた。復興住宅は、オンドルという現地で一般的に使用されている床暖房があり室内は暖かかったが、水道の蛇口からは朝晩各々1時間しか水が出ないので、水を貯めて使うとのことであった。平屋の住宅では、手押しポンプで地下水をくみ上げている光景も目にした。

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洪水の被害にあった給水システム

平壌から70キロ離れた平安南道(ピョンアンナムド)殷山(ウンサン)では、朝鮮赤十字会の通常の活動を見ることができた。給水、植林、養豚、ビニールハウスでの野菜栽培、国から配給された米の脱穀精米事業等、実に様々な活動をしていた。その成果が貧しい人々の生活を支えており、朝鮮赤十字会が住民から感謝、支持されていることを実感した。長年朝鮮赤十字会事務総長の職にある李虎林(リ・ホリム)氏によると、支部の組織強化が朝鮮赤十字会の課題とのことである。

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ウンサンにて朝鮮赤十字会の活動視察、野菜栽培。

平壌では連盟の外国人スタッフはメールやインターネットを使用しており、世界から隔絶されているとの感はなかったが、現地の人々との交流は厳しく制限されているようであった。

訪問の終盤、序列2位で対外的な国家元首役を務める金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と面会した。「国際機関のトップ自ら、この寒い時期に被災地を訪問してくれて大変有り難い」と何度も謝意を表明されたのが印象的であった。私からは「国家間の問題は別にして、赤十字の協力があったからこそこれまで多くの人道問題を解決できた。今後も赤十字の関係を進めていくことが大事だ」と伝え、同委員長も賛意を表した。この会見を訪朝の締めくくりとし、私は平壌を後にした。