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看護師勤務調査からニーズを探る重要性 -福島県浜通り地域での取り組み-

2017年04月27日 00時58分 JST | 更新 2017年04月28日 01時00分 JST

難しい「働きやすさ」の獲得

皆さんはご自身の職場で「働きやすさ」を感じているでしょうか? 仕事内容が簡単なこと、自分のスキルを活かせる、職場の雰囲気・人間関係、などそれぞれに重視するポイントは違うと思います。若年者の早期離職の傾向はどの産業でもなかなかおさまらないようです。非正規職員(派遣、契約、パートタイム労働者など)が増える一方で、正規職員が長時間労働に悲鳴を上げているなど、職場環境の問題は様々なニュースで取り上げられています。

福島県浜通り地域での看護師勤務調査を始めるまで

ここでは、私たちが2016年秋に行った福島県浜通り地域(いわき市と相双地区を合わせた太平洋沿岸地域を指します)の看護師勤務調査の結果をお知らせしたいと思います。

この調査研究は、2015年に発足した「浜通り看護研究会」の大きな取り組みの一つとして企画したものです。星槎大学大学院に属する私は、浜通り地域出身の同大学院看護教育研究コース在籍生を指導したことからこの研究会に参加するようになりました。同大学院で共に学生指導をしている児玉ゆう子先生(同研究会副会長)とこの研究計画を進めていきました。

この調査研究を始めるにあたり、大きな道しるべとなったのは2015年11月同研究会第1回大会(いわき市にて開催)で発表された、野中時代会長によるいわき市内7病院の看護師勤務調査結果1)でした。1,539名の看護師を対象にしたその調査では(1,393名の回答、回収率91%)、回答者の平均年齢は40.8歳で、平均在職年数が10.1年と、経験10年以上の看護師が実に7割以上を占めていることが明らかになりました。

そして、震災後にそこに「残っている」看護師が仕事を続けられる理由の多くは職場まで近いことと職場の人間関係が良好なことでした。経験のある中堅以上の看護師が多いことは一見よいことですが、若手育成の必要性の裏返しでもあります。いわき市は、その看護職求人倍率が震災前後で1.69 倍から4.41 倍にはねあがった地域です。

震災直後から看護師数が少しずつ改善しているとはいえ、それぞれの看護師の労働負担(時間外、夜勤など)の増加、それに伴う離職の増加、看護師不足に伴う休床数の増加、と看護師不足に関わる負の循環はなかなか収束していません。

そこで、地域に人材がやってくる環境作り、地域の将来に向けた人材育成を目指す基礎として、震災後5年を超えて「浜通り地域にいる看護師」の勤務実態とその方々が職場に求めるものを追いかけてみることにしました。

浜通り地域の看護師はベテランが多く転職をほとんどしない

いわき市と相双地区を合わせた27医療施設に2,480通のアンケート用紙を配布して、1,139名(回収率45.6%)からの回答をいただきました。回答者は、看護師が54%、准看護師が24%、管理職が22%でした。

また、全体の約9割が病院に勤務しており、正規職員は約9割、非正規職員が約1割でした。回答者の93%が女性で、平均年齢は44.0歳(最年少は20歳、最年長は82歳でした)、年齢構成は、50-54歳(15.2%)が最も多く、45-49歳(14.4%)、40-44歳(13.3%)、35-39歳(12.6%)と続きました。厚生労働省看護師調査による全国平均では「35~39 歳」が最も多いのと比較すると、浜通り地域の看護師の中心は「ベテラン」看護師であることがわかります(図1参照)。

そして回答者の平均看護師経験年数は21年(女性21.4年、男性15.2年)で、10年以上の看護師経験のある方は8割を超えていました。2015年のいわき市内の看護師調査結果を上回り、浜通り地域でのベテラン看護師依存がわかりました。

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図1. 本調査回答者と全国看護師の年齢分布

現在の職場の印象として意見が多かったものは、

  • 業務量が多い
  • 看護以外の業務量が多い
  • 年齢が高い
  • 給与が低い
  • 休暇がとりにくい

この5項目でした。人間関係や職場の立地には肯定的な意見もある一方で、業務量や業務内容、勤務体制、各種手当てなどへの否定的な意見からは、不満を抱えながら勤務している様子がうかがえます。

また、回答者の転職回数を聞くと、平均1.2回でした。回答者全体そして20代から50代までの各年代で最も多かったものが転職0回という回答でした(表1参照)。ちなみに、看護師転職回数の全国平均は2.2回です。ここからは、この地域の看護師が「動かない」ことがわかります。

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表1. 浜通り地域の看護師の転職回数

震災前の勤務について聞くと、全体の20%が震災前に福島県外で勤務したことがあり、全体の26%が震災をきっかけに職場を変えたことがあったと回答していました。

震災前に当時の勤務施設を辞めたいと思った人は、全体の55%を占め(「常にあった」13%、「時々あった」43%、「あまりなかった」27%、「全くなかった」17%)、さらに全体の65%が何らかの不満を職場に持っており、主なものは、「業務の多さ:量・内容・時間外」、「人間関係」、「成果の正当な評価がない」、「福利厚生」、「教育体制」でした。

また、震災以降に看護職の免許を得て浜通り地域で働き始めた人は138名いました。

ここまで見てくると、多くの人が浜通り地域に残って看護師として勤務しており、業務量の多さからくる過度の負担がかかっていることが容易に想像できます。看護師の過酷な労働実態は様々な研究でも指摘されており、75%の看護師が仕事を辞めたいと思っているという報告3)もあります。単純な比較はできませんが、今回の回答者の55%が震災当時に職場を辞めたいと思ったという結果は、地域に残りたい気持ちの表れなのかもしれません。

 

浜通り地域で働き続けたい看護師の特徴

私たちの調査ではさらに「浜通り地域で勤務を続けていきたいか」と聞きました。実に87%の方がこの地域での勤務継続を希望していました。これはとても心強い意見だと私は感じました。そこで、「勤務を続けたい」と思う方々の特徴を掘り下げていくことにしました。

この地域での看護人材確保に必要な方策を聞くと(選択式)、全体では「賃金水準の引き上げ」「休日を取りやすくする」「各種手当の引き上げ」「業務量の適正化」「本人の希望に即した職場配置」といったものが多くあげられました(ここで「提案された方策」の数は後の分析で登場します)。

そして、この地域で勤務継続意思がある看護師とそうでない看護師の回答内容を比較すると、震災前の特徴としては、「管理職だった、辞めたくなかった」こと、現在の特徴としては、「年齢が高い、看護職経験年数が長い、女性、既婚、子どもの人数が多い、非正規雇用、管理職、転職回数が少ない、提案する方策の数が少ない」ことが単変量解析からわかりました。さらにその回答内容の多変量解析から見えた「浜通り地域で勤務継続を希望する看護師」の特徴は、

  • 提案する方策数が少ない
  • 一般看護師である(vs准看護師)
  • 正規雇用である
  • 子どもの人数が多い
  • 看護経験年数が多い

でした。

先に看護人材確保に向けた方策を提示しましたが、「浜通り地域で勤務継続を希望する看護師」は、提案する方策数が少ない「控えめ」な方が多いのかもしれません。しかし、そういった方々から多く支持を得た方策(多変量解析から勤務継続を希望する看護師が有意に多く選択していた方策)は、

  • 仕事と家庭の両立支援策の充実
  • 大災害に備えた研修会の開催
  • 職場で話しやすい雰囲気づくり

でした。

また「地域での看護人材確保や看護・医療の質の向上に向けたアドバイス」に関する自由記述では、(医療機関へ向けて)賃金や各種手当て、業務バランスの改善、パワハラ、クレーマー対策や子育て支援などを望む声が多く挙げられました。また、看護師の自立や自己研鑽への投資についての意見や、(自治体に向けて)医師の確保、看護師養成学校の設立、准看護師の進学課程の設立、魅力的な街作りなどの意見もありました。

この調査で見えてきたもの

この調査内容をまとめると、浜通り地域での看護師としての勤務は、業務量や業務内容、勤務体制、各種手当てに不満を抱えながらも、通勤に好都合な立地、良好な人間関係の上に成り立っていることが推測されます。

その中で、震災前から浜通り地域で勤務先を変えずに働き続けてきているベテラン看護師は多くが「地域で勤務継続意思のある看護師」であり、話しやすい雰囲気があり、両立支援体制と教育体制が整っている「働きやすい職場」を求めていることもわかりました。特に教育体制は、自分たちの成長だけでなく、若手を育成していくためにも大切なポイントになると思います。

調査結果をふまえて復興庁へ具体的な提案へ

幸いなことに、この調査結果に長沢広明復興副大臣が興味を持ってくださいました。私と児玉ゆうこ先生、そして浜通り看護研究会の五十嵐里香会長、高木ふき子副会長、そして同研究会を応援してくださっている石田まさひろ参議院議員の5名(写真上)で、2017年4月25日に長沢副大臣を訪問して調査報告書を提出しました(写真下)。さらに私たちから、

  1. 看護師、准看護師が自らのスキルアップとキャリアアップのための教育機会の保障
  2. 看護職と家庭を両立できる体制への支援

この2点を提案しました。1. については、地理的条件と職場の人的制限から、なかなか多くの看護師が研修などに参加することが難しい現状をお伝えしました。また、専門看護師・認定看護師資格を持った方々が浜通り地域にやってきて活躍しているケースを示して、「キャリアを活かせる場」として浜通り地域を活用してもらいたいこともお伝えしました。

2. については、地域の看護で主力になっている40、50歳代の看護師は子育てが一段落しており、現場で非常に頼りになる存在で、若い世代を育てていく上で子育て支援をはじめとした両立支援が大切であることをお伝えしました。長沢副大臣はとても真摯に調査結果と現場の声を受け止めていただきました。これから私たちからも、長沢副大臣からも福島県に具体的な提案とともに働きかけていくことになりました。これから浜通り地域のさらなる発展につながる施策を進めるおおきなきっかけになってくれるものと考えています。

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写真上.長沢復興副大臣へ調査報告書を提出

写真下.(左から)児玉ゆう子先生、佐藤、長沢復興副大臣、五十嵐会長、高木副会長、石田まさひろ議員

最後に

浜通り地域の看護師の皆さんをはじめ、たくさんの方々のご協力を得てこの調査を進めることができました(星槎大学大学院生の協力も非常に大きなものでした)。この地域では、今いる人たちが「働きやすい職場」で長く働き続けられること、これから来る人が「入りやすい職場」であることの両方が重要です。

そのためには、待遇改善だけでなく、10年後を見越した人材確保対策として、地域での交流を進めながら地方での学習機会の確保も進めていくのがいいと考えています。そして、ただ地域で人員を増やすのではなく、どういう人にきてもらいたくてそのためにどういう準備が必要なのか、さらにその先長く続けてもらうためにどういう工夫が必要か、そういった点を常に考えていく姿勢も大事になると思います。

ここでお示しした調査結果の解析は、勤務継続意思を指標としながら進めていきました。それが結果的に現場で活躍する看護師の声を拾い上げることにつながり、これから地域の看護を活性化して自立・協働できる看護師を増やす方策を展開していく大切な指針となりました。地域の特性をくみとっていくには、そこに住むできるだけ多くの方の協力が必要になります。

「調査結果を見て、次の方策を考え、その方策の効果を検証し、次の調査を進める」このような調査研究の好循環に持って行く大切さを今回の経験を通して強く感じています。これからも大学で研究を進めていく者として、常にフィールドに還元できることを意識して取り組んでいきたいと思います。

※この研究は、2016年度星槎大学プロジェクト研究として行われたものです。

【参考文献】

1) 水沼ら.福島県いわき市における看護職員確保と定着への対策 ~いわき市在職中の看護職員アンケート調査より~.日本看護管理学会 第19回学術集会,2015.

2) 厚生労働省 平成22年度 看護職員就業状況実態調査.

3) 日本医療労働組合連合会 看護職員の労働実態調査「報告書」 医療労働, 2014.