気候変動対策No.1の小売業・卸売業関連企業は?「企業の温暖化対策ランキング」第4弾

世界的にESG投資の潮流が強まる中、CSRや環境の取り組みに関する非財務情報の適切な開示が求められています。

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2017年6月23日、WWFジャパンは、「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトにおける第4弾の報告書を発表しました。このプロジェクトは、政府レベルでの温暖化対策に停滞感が見られる中、企業の取り組みを後押しする目的で2014年に開始したものです。WWFジャパンの定めた基準をもとに、各企業の発行する環境報告書類の内容を調べ、その温暖化対策を点数化して、ランキングを公表しています。

今回の調査対象となったのは「小売業・卸売業」に属する日本企業54社。第1位となったのは、イオン(61.1点)で、ローソン(57.3点)、日立ハイテクノロジーズ(54.5点)、キヤノンマーケティングジャパン(53.8点)と続きました。

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企業の温暖化防止の取り組みを評価

温暖化の進行を防止することを世界が約束した「パリ協定」。温暖化の原因となる温室効果ガス(CO2:二酸化炭素など)の排出量を21世紀後半には実質ゼロにし、地球の平均気温の上昇を2度未満(できれば1.5度未満)におさえようとする内容を持ちます。

パリ協定は、2015年12月、フランスで開催された国連の温暖化防止会議(COP21)で採択されました。米国トランプ大統領の同協定からの離脱宣言(2016年6月)などの紆余曲折はありますが、すでに、世界的な潮流となっている二酸化炭素の排出量削減。

そうしたなか、日本企業の温暖化防止の取り組みを評価し、促進させるプロジェクトにWWFジャパンは2014年から取り組んでいます。

2014年8月、その報告の第1弾として、「電気機器」に関連する日本企業50社を対象とした調査結果を発表。2015年2月には自動車業界を対象にした第2弾を発表し、続く2016年4月に食料品業界を対象とした第3弾を発表しました。

今回は、第4弾として、小売業・卸売業の29社を対象に評価を行ないました。これまでと同様に、各社の発行する環境報告書やCSR報告書などを基に、温暖化対策を評価。2017年6月23日、結果を、「『企業の温暖化対策ランキング』 ~実効性を重視した取り組み評価~ Vol.4『小売業・卸売業』編」として発表しました。

調査対象企業は全部で54社ですが、2016年に環境報告書類の発行がなかった25社をのぞく、29社の温暖化防止の取り組みを評価しました。

小売業・卸売業界の上位企業

このランキングでは、温暖化対策の「目標」を設定しているか、そしてその実績を評価・分析しているかの『1. 目標および実績』と、取り組みの状況や進捗が分かるような情報開示を行なっているかの『2. 情報開示』という2つのカテゴリーについて、21の指標を設け、評価を行なっています。温暖化対策としての実効性を重視している点が大きな特徴です。

その中でも特に重要な指標は次の7つです。

重要7指標

● 長期的なビジョン

● 削減量の単位

● 省エネルギー目標

● 再生可能エネルギー目標

● 総量削減目標の難易度

● ライフサイクル全体での排出量把握・開示

● 第3者による評価

この結果、上位ランキングの4社は次のようになりました。

第1位のイオンは、「ライフサイクル全体での排出量把握・開示」、「第3者による評価」の2つの指標で満点を獲得。WWFが重視するライフサイクル全体での排出量の見える化や第3者検証による信頼性向上などの項目において点数を積み上げました。

しかし、その他の指標については、「削減量の単位」や「省エネルギー目標」の有無などでいくらか平均スコアを上回ってはいるものの、他社を引き離すほどのスコアを獲得できていません。

また、過去の3業種においては、1位の企業はいずれも80点以上の高スコアを獲得していたのに対し、今回は1位のイオンも60点台前半にとどまる結果となりました。

第2位のローソンは、『2. 情報開示』のカテゴリー(満点=50点)において45.8点という高スコアを獲得。しかし、『1. 目標および実績』においては、スコアを伸ばすことができませんでした。

上位4社のレーダーチャートの傾向としては、全29社の平均と類似の形状となり、業界全体で同じ課題を抱えているのが分かりました。

小売業・卸売業の平均点は、34.5点となり、過去の3業種(電気機器48.7点、輸送用機器46.7点、食料品44.8点)を大きく下回っています。

残念なことに、長期目標(ビジョン)を掲げている企業が1社もなく、総量および原単位の両方で排出削減目標を掲げる企業も1社もありませんでした。再生可能エネルギー導入の定量的な目標を立てている企業もかろうじて1社あるのみとなりました。

一方で、自社の排出量データに対し、第3者機関による保証を受けている企業の割合が34%(29社中10社)でした。過去の業種では、『電気機器』編は17%、『輸送用機器』編は16%、『食料品』編は8%であったことから、本業界において、第3者検証を受け、温室効果ガスの排出量データの信頼性を高める取り組みが進んでいることが明らかになりました。

長期ビジョンの不在と低スコア

本業界において、上位企業であっても点数が伸び悩んだ主な原因には、上に示したとおり、「長期的なビジョン」の不在が上げられます。残念ながら、本業界では、パリ協定の目指す「2度」目標と整合した長期的な視点に立つ削減目標を設定している企業がありません。それが他の項目にも波及し、他業種に比べ、点数が低い結果につながってしまいました。

なお、日本生活協同組合連合会(生協)は、本プロジェクトに定義する「企業」にあたらないため評価の対象とはしていませんが、日本を代表する小売りチェーンの担い手であることから、今回の小売業の企業との比較を行う目的で、評価を行ないました。

その結果、『1.目標および実績』が37.0点、『2.情報開示』が25.7点となり、総合得点は62.7点となりました。

生協は2050年に向けて「事業で使う電力を100%再生可能エネルギーでまかない、事業からのCO2排出を限りなくゼロに近づける」ことを目指しており、「2度」目標と整合した長期的なビジョンを掲げている事業者と見なすことができます。

その他の項目にはやや不十分な点もあり、総スコアは60点台前半にとどまっていますが、他の企業も生協の事例を参考に、「脱炭素社会を目指す」というビジョンを持つことができると思わせる内容となっています。

世界の平均気温の上昇を2度未満に抑えるためには、「Science Based Targets」イニシアチブに参画するなどして、科学的な知見に基づく、長期的な視点に立った取り組みが求められます。過去3業種で、高スコアとなった企業の多くは長期目標を掲げていました。

2度目標と整合した「長期的なビジョン」(長期目標)を掲げている企業が本業界にはありませんが、これを上位企業が中心となって設定することで、業界全体の牽引役となることが期待されます。

ライフサイクルでの排出削減と再生可能エネルギーの利用

そうした長期的な視点の下で、ライフサイクルでの排出削減を行い、再生可能エネルギーの利用を積極的に進めることが求められます。

今回の評価対象29社のうち、小売業15社に絞ってみると、「ライフサイクル全体での排出量把握・開示」を5社(33%)が行い、過去の3業種(電気機器19%、輸送用機器28%、食料品13%)よりも高い数値を示しています。これは、自社の事業範囲の上流・下流を含めたライフサイクル全体での排出削減に取り組みやすい条件を有していることを意味します。

『小売業・卸売業』編では、定量的な再エネの導入目標を掲げていたのは1社にとどまったものの(ヤマダ電機)、全29社の内10社が、再エネの活用に関する定量的なデータを開示していました。

これに、『電気機器』編、『輸送用機器』編、『食料品』編を合わせた4業種の全125社で見ると、再エネ目標を掲げていたのは計8社である一方、60社が再エネの活用に関する定量的なデータを開示しており、温暖化対策としての再エネの重要性が高まりつつあることが分かりました。

環境コミュニケーションにも課題

そのほかには、本業界全体の特徴として、環境報告書類を発行している企業が少ないことも指摘しておかなくてはいけません。今回、環境報告書(CSR報告書などを含む)を正式に作成していたのは、全54社のうちわずか21社でした(注)。

過去3業種では、9割前後の企業が環境報告書類を作成していたことを考えれば、その作成が4割にも満たない低水準にあるのは「環境コミュニケーション」の観点から大きな不足があると言わなくてはなりません。

近年、世界的にESG投資(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governanceに配慮している企業を選んで行なう投資)の潮流が強まる中、CSRや環境の取り組みに関する非財務情報の適切な開示(統合報告書の発行など)が求められています。

国際統合報告評議会(IIRC)という団体が、統合報告書を作成する際に考慮すべき原則などを示していますが、これに則った形で統合報告書として発行することが重要です。従来のアニュアルレポートに、非財務情報を一部付け足すことで、統合報告書の代わりとするような方法は避けなくてはなりません。今回、そうした方法をとり、環境報告書類の発行を取り止めてしまっているケースも見られました。

本業界は、企業の社会的責任として環境報告書類や統合報告書の作成を行い、公表することで、社会との「環境コミュニケーション」を活発に行う必要があります。これが、企業による温室効果ガス削減の取り組みの第一歩ともなるからです。

WWFは、業界ごとに異なる、こうした温暖化対策の実情を明らかにしながら、産業界全体の進むべき方向性について、積極的に提言を続けていきます。

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