独立してから最初の3年間でやった間違い5つ

かなり恥をさらしているので、同業の人は読まないでくださいね(笑)。

私がMBAを取ってバリキャリへの道を歩みかけていたにも関わらず、潔くそのキャリアから下りて全く異なる畑のデザイナーに転身し海外でビジネスを興したという背景もあるのでしょう・・・(*1) キャリア系の職種の人から「私もデザイナー(もしくは類似職種)にチェンジしたいんだけど、海外で本当にやっていけるのか・・・」というような相談をちらほら受けます。

「やっていけるのか」なんて人に聞いてわかるものではないし、「やるべきかどうか」は自分の人生で最も重要な人以外に相談するのは無駄です。 私は夫にしか相談しませんでした(*2)。

*2・・・それでもキャリア相談したい方はこちら 『キャリアアドバイスになってないアドバイス』

そう言ってしまうと身も蓋もないし、独立してからたくさん失敗したので、誰かの参考になるかもしれないその失敗を書き留めておきます。 かなり恥をさらしているので、同業の人は読まないでくださいね(笑)。

最初に建築デザインビジネスの基本ビジネスモデルの確認を。

売上:プロジェクト(住宅などの改装工事)のデザインフィー(設計料)及び工事管理費がほぼ全て。 家具などのデザインをしたりリテールに事業を広げるデザイナーも多いが、独立当初は基本が全てと思い全く多角化していないので他の収入源はなし。 聞くところによるとイギリスの設計料は日本より高く、数百万から数千万円のプロジェクトで10 - 15%以上、場合によっては20%ほどのフィーになる(参考:『日英リノベーション業界比較』)。 余談だが、大きなブランド事務所よりも個人的な信頼を重視するイギリス消費者の特性もあり、自営業者(self-employed)が非常に多く、大きなプロジェクトが年に数件あれば十分食べていける。

経費:自宅をオフィス兼務にしているため、固定費はコンピューター・プリンターやデザインに必要なソフトウェア、電話・ネットなどの通信費、ウェブサイトなどの維持費、加盟している業界団体の年会費、業務上の賠償責任保険料など。 会社のブランディングやウェブサイトデザインなどもデザイナーを雇えばかかる。 人件費は今はフリーランスのデザイナーをプロジェクトに応じて雇っているので変動費。

ビジネスモデル:戦略系コンサルと同じ、デザインディレクターの時給がいくら、その下のデザイナーの時給がいくら、という積み上げによる合計金額でフィー(=売上)が決まる労働集約型のビジネス。

資本:当然、100%自己資本。

労働時間:私がフリーランスではなく自分の会社でプロジェクトを受け始めたのは2015年でその頃、乳飲み子を含む4歳、2歳、0歳の育児でてんてこまい。 当時、『週休3.3日のワーキングマザー』というエントリーを書いたけど、今も平日に仕事に割けるのは実質3.5日分くらい。 学校が休みの期間はもっと短い。 夫が戦略コンサルという急な出張や残業を余儀なくされる職種で、親戚は誰も同じ国に住んでいないので、払えるMAXまで家事をアウトソースしてもこんなもの。 常に「思う存分働けてない〜」感満載。

前置きだけで長くなってしまいましたが、ここからはたっぷりと失敗談をどうぞ。

1. 全く営業しなかった

『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?』と言われるまでもなく、私も営業はなるべくしたくないと思っていました。 会社といえば誰もが知るような大企業にしか所属したことがないし(*3)、職種も事業開発や事業投資だったので、面と向かって「NO」と言われる経験があまり仕事上でありませんでした。 初めの数件のプロジェクトはこのブログや口コミで入ってきたし、上記のように改装工事のプロジェクトは一件一件の金額が大きく、期間も長いのです。 営業とかマーケティングとか苦手な(だと思ってた)不都合な真実に目を背けていても1年くらいは生き延びられていました。

よく考えると多くの人にとって人生で一番大きな買い物である自宅の改装という大プロジェクトを任せる重要な仕事が、地縁もネットワークもない外国でほいほい口コミだけでやってくるわけないのですが、当初は完全に逃げていました。

*3・・・他にも大企業で身につけてしまったクセについてはこちら 『Learning to unlearn』

2. 利益を再投資せず全て自分の所得にした

この変からだんだん「ダメすぎる」感が漂ってきますが(苦笑)、新たなプロジェクトの営業もしていないのに、プロジェクトで得たフィーをビジネスに再投資することなく全て家庭に入れていました。 というのも、次で書きますが、2016年秋から自宅の改装を始めたのですが(*4)、この改装費が当初予算より大幅に膨らみ、途中で口頭約束されていたローンがおりなかったという大どんでん返しもあり、いくらあっても足りなかったからです。 ビジネスに全く留保せず、すべて自分の所得にして工事費として消えていたので、いざ仕事がなくなった時に全く投資することができず大変な思いをしました。 個人事業であっても独立後3年から5年はすべて事業に再投資するくらいがいいと思います。

3. 自分のプロジェクトという例外に膨大なエネルギーと時間を費やした

この事業独特かもしれませんが、ポートフォリオ=メディアなどで存分に見せることができるプロジェクトがあってなんぼです。 公的な建築物を多く手掛けているデザイナーはまた別だと思いますが、個人住宅を手掛けている場合、私人であるクライアントの自宅を何度も見せるのは限りがあります。 メディアによって切り口や見せ方が異なるので違う種類の写真を何枚も要求されるし、何度もインタビューに応じなければならないためです。 そのため自宅をプロジェクトとしてSpringboard(高く跳ぶためのジャンプ台)とするのは業界の常套手段で、私も当初からそのつもりでした。 ところが、かなり大規模な自宅の改装に膨大な時間を取られることになりました。 クライアントのプロジェクトであれば、大まかなデザインのディレクションが決まれば細かいデザイン作業や建材・備品の調達、工事管理などかなりの部分を経験あるフリーランスデザイナーの方にやってもらうのですが、上記の通り費用面で大どんでん返しがあったので、自宅改装には全く人を雇うことができず、建材調達から工事管理まで全て自分でやりました。 新規開拓に力を注げないでいた結果、自宅改装の終了からしばらく仕事がない時期がありました。

今、その自宅が英語圏のメディアに出始めて(*5)、その効果を実感しているので自宅をポートフォリオの一部として使ったこと自体は後悔はしていませんが、自分のプロジェクトでも人を雇えるようにしておいた方が事業の歩みを止めずに済んだと思います。

*5・・・こちらに次々載せていきますが、今月末にロンドン・ローカル誌2誌、4月に全英の住宅関係の雑誌2誌、米オンラインメディア1誌、予定されています。

4. 実績もないのに広告にお金を使った

独立して一番苦労するのがポートフォリオ(実例)がないことです。 他の事務所での経験はあっても、そのプロジェクトは自分のものではないので自分の実績としては使えません(使っている人もたまに見かけますが)。 そして他分野のデザイナーと異なるのは、建築プロジェクトは工期が長い(*6)ので初回ミーティングから受注し設計に入り工事が始まって無事に完成し家具など全て入った状態でライフスタイル写真が撮れるまでにスムーズにいっても2年ほどかかります。 その2年が待てなかった私は住宅改装系コミュニティサイト大手からかかってきた営業トークに乗せられてサイト内に1年間広告を出しました。 広告費が払える範囲内だったため、最悪、勉強代になると思って出したのですが、広告を出しても実績がなければ成約につながるわけないのです。 その広告からきた問い合わせは的外れなものが多く、見事に痛い勉強代となりました。

メディア(雑誌など)に出る方が遥かに効果的なので、今後、広告を出すことはないと思います。

*6・・・『日英リノベーション業界比較』に書いたようにイギリスの家はすべてオーダーメイド、あらゆる備品も自分で取り寄せるので工期は日本の2倍くらい(?)です。

5. 早期にNOと言わなかった

問い合わせで多いのが「とにかく1回見に来てください」というもの。 一方、上記の通り私の平日昼間の稼働時間が少なく、時間が最も大事なリソースです。 訪問前になるべくプロジェクトの概要を教えてもらおうとするのですが、中には「見てもらった方がはやいから」と言って電話で話しているにも関わらず何も教えてくれない人もいます。

訪問するのに住所は必要なので、住所から物件の価値や間取りなどはおおよそわかります。 仕事がない時は、藁をもつかむ思いなので、住所だけを情報源として勝手な期待を膨らませて出向き、無駄足に終わったことが何度もありました。

今は初回に行く前に必ず必要なプロジェクト概要は聞くようにしています。 時間を有効に使うことが、今のクライアントや将来のクライアントに向けてクオリティの高い仕事を提供するために必要なので当たり前のことを聞いているだけなのですが、NOというのは早ければ早い方が良いです。

以上です。 「おいおい、こいつ大丈夫か?」と思われた方、今はほぼ全ての面でかなり改善しているのでご安心ください(笑)。 失敗を肥やしにガンガン前進していきたいと思っております。

ちなみに、前職でスタートアップへの投資へのため事業計画にアドバイスしてたとか、社内で稟議通すための事業計画書いてたとかいうのはここだけの話です。 あんなもの書いたって自分のビジネスには役に立ちません。

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