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在宅医療の充実にむけて 「量」から「質」へ

2017年04月12日 00時35分 JST

「先生、そろそろ訪問診療に切り替えていただけますか? 同居している息子さんも日中は仕事されていますし、病院への送迎が難しいみたいなんです」

在宅医療も手掛けていると、こんな依頼をケアマネさんから受けることがあります。そりゃないよ・・・ と思いますが、介護側から「通院手段が確保できない」と断言されてしまうと、こちらから出向くしかなくなってしまいます。

これは決して極端な事例ではありません。

実際、通院困難についての明確な定義もないまま、診療報酬による比較的オープンな誘導が行われてしまったこともあり、「本当に医師が出向くべきなのか」について問われることなく在宅医療が増えてしまいました。けれども、診療所への通院は困難とされながら、なぜかデイケアには通っている方とか・・・ 大勢いますよね。これって変だなと気づいてゆく必要があります。

もちろん、通院サポートが確保できないために、代わって医師や看護師が出向かざるをえない状況があることを否定しません。ですが、介護福祉が不完全だから医療にやらせるという意味では、「社会的在宅医療」と「社会的入院」は根っこが同じなんですよ。まったく効率化していないし、どっかにシワ寄せがきてるでしょう。

いま、病院完結型から地域完結型へと医療システムの転換が推進されています。高齢者の社会的入院を減らし、病気と共存しながらも地域で暮らせる仕組みを作ってゆくのは大切なことです。ただ、政治家から市民、メディアに至るまで、漠然と「在宅医療の担い手を増やせばいい」と考えている人が多いようで、ちょっと現場にいる者としては不安になります。

「在宅医療の適応となる患者像とは何か」を保留したまま、漠然と在宅医を増やしていても、(キツい言い方ですが)経営を安定させるための在宅医療が増えるばかりで、マンパワーの面でも、コストの面でも、地域医療全体としては非効率になってしまう可能性があります。2025年に向けて私たちは、「真に必要な患者さんに在宅医療を集約化させる」という、適正化こそ推進しなければなりません。

つまり、通院できる人については、(わざわざ医師が出向くのではなく)通院できるようサポートすること。これが医療と介護が連携してゆくうえでのカギとなるでしょう。市町村が、ヘルパー機能付きの診療所巡回バスを準備するとか、診療所や病院内にヘルパーを配置して待合室でのケアを担当させるとか・・・。そのうえで、在宅医が不足しているかどうかを判断すべきです。

そもそも、(もっとキツい言い方ですが)在宅医による訪問診療を拡充させれば、社会的入院が減らせるなんて幻想ですよ。むしろ、介護施設の整備など状態に応じた暮らしの場の確保が必要ですし、医療以外の日常的なケアを拡充してゆくことこそが在宅復帰のカギになると理解すべきです。そして、入院してた方が施設より安くすむという、おカネの問題・・・。

沖縄県が、療養病床の入院患者を対象として、その退院調整に向けたニーズを調べています(沖縄県:療養病棟入院患者(医療区分Ⅰ)に係るヒアリング調査(2016))。2つの医療機関を実際に訪問し、医療区分1(比較的状態が落ち着いている方)に相当する全ての患者(20名)について確認したものでした。

医師を含む調査者が、当該医療機関の看護師、ソーシャルワーカーとともに、一人ひとりの患者さんについて確認したところ、引き続き入院による医療提供が必要とされた方は20名のうち1名に過ぎませんでした(つまり社会的入院)。さらに、退院可能と判断された19名全員が、通院サポートさえあれば医療機関に通える方ばかりであり、退院にあたって医師による訪問診療が必要だと判断された方は1人もいませんでした。

限界のあるフィールド調査ではありますが、沖縄県は、この結果を受けて、「療養病床に入院している患者であっても、必ずしも訪問診療を必要としてはおらず、送迎のサポートがあれば通院可能である」と結論づけています。よくできました!

実は、「通院できるのに通院できない人」とは、「外出したいのに外出できない人」でもあるはずです。高齢者が家に引きこもることがないよう支援することは、介護予防の基本でもあります。行政が、ここまで気づくことができたなら、在宅医療の前にすべきことが分かってくるはずです。

今月から、診療報酬と介護報酬の同時改定に向けた議論が本格的に始まりました。6年に一度の大きな改定です。団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて、病院から在宅へという流れを作れるかということが、今回の大きな目標となっています。

在宅医療の充実にむけて、私たちは「量」から「質」へと高めてゆかなければなりません。そのためにも、在宅医療の診療報酬にメリハリをつけることが必要です。つまり、在宅医療が本当に必要な患者さんについて手厚くできるよう、在宅医療の適応を明確化することです。そして、社会的在宅医療を生み出すことがないよう、しっかり介護側の体制も整えてゆくことが求められています。

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沖縄県の離島にて・・・ 集落のなかを1本の白線がまっすぐ伸びています。実は、独りで暮らす92歳の女性のため、自宅からスーパーまでの道筋を示しているんだそうです。これを辿ってゆけば、眼の弱ってしまった彼女でも買い物に行けますね。

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こちらが自宅。ムリだ、ダメだと、高齢者を引き籠らせる前に、やったらいいんじゃないかと思えることをやってみる。そういう柔軟さが(いろいろと制約の多い)離島の暮らしに温もりを与えています。