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アスリートの「セカンドキャリア」と「学ぶ重要性」について

2015年05月11日 00時03分 JST
Getty Images

近年アスリートのセカンドキャリア支援についての記事を見かけるようになった。

アスリートが競技人生を終えた後、キャリア形成が難しいという現状が問題となっており、変えていこうとする取り組みである。競技人生がファーストキャリアというのであれば、セカンドキャリアにも「その競技人生で培ったものを生かせる職」を探すことが単純な流れであろう。しかし、競技を生かす職なんてなかなか見つからないのが現実だ。

そういった中、現役を引退したアスリートに就職先を斡旋するような取り組みが行われている。私は素晴らしいことだと思うし、今のアスリートにとってはとても重要なことだと思う。しかし、この取り組みによってアスリートのセカンドキャリアの問題が解決するのであろうか。現役を終えたアスリートがセカンドキャリアを築けないのなら就職先を探してやろう、斡旋してやろう。これは単なるの問題の裏返しであって解決策にはなっていないと私は考えている。就職先を斡旋し、入社させて終了。あとは会社まかせという状況であった場合、仮にその元アスリートがすぐに辞めてしまったらどうするのであろうか。雇用主、元アスリート、斡旋業社、全てに迷惑がかかり、また路頭に迷う元アスリートが増え、悪循環になり兼ねない。

そこで私が考えるのは、やはり「教育・人材形成」である。アスリートが競技人生を終えた後に不安を抱えているとよく耳にするが、それは当たり前のことである。この世の中、特に大学4年生くらいになると就職先で苦労する学生は多いであろう。また、就職した後でも今後の人生に不安を抱えている人は多いのではないだろうか。なので、アスリートだけではなく、スポーツをやっていない人でも多かれ少なかれ不安はあるはずだ。

私は、アスリートのセカンドキャリア問題については、現役を終えた後でも自分で考えて行動できる「自立した人間」に成長させることが一番の問題の解決方法だと思う。もともとアスリートというのは「勝つこと」や「記録を出す」という明確な目標があり、それを達成するために課題を設定し、解決する方法を考え、そこに力を注力する。この方法を仕事や人生にも置き換えることができれば、もう少し簡単に考えることができる。指導者がこの課題解決を全て管理してやらせてしまうと、結局指示を受けて動く、指示待ち人間に育つ可能性が高い。

しかし、自ら考え課題解決できるような人材を育てれば、自分の人生においても責任を持ち、セカンドキャリアも自ら動き出せる人材になる。現役中であっても今後の人生に不安があれば、不安を取り除くような行動も取ることができるし、その後人生をしっかり考えることができるようになる可能性が高い。またそういった人材が指導者となれば、次の人材育成につながり、スポーツ界にも社会にも良い人材を送り込めるような良い循環が起こっていくのではないだろうか。

アスリートが「学ぶ」ということはセカンドキャリアにおいて非常に重要である。子供の頃からの教育も大切であるが、大人になってからでも遅くはない。

私の大学の後輩である染田賢作さんは、2004年度のドラフト会議で自由枠(ドラフト1位、2位に相当する)として当時の横浜ベイスターズに入団した。その後2008年に戦力外通告を受け、翌年はバッティングピッチャーとして球団に残った。

しかし2年で辞め、教職を取るために母校の同志社大学大学院へ入学し、2年間学び直し社会の免許を取得。さらにもう1年かけて体育の免許も取得。母校である奈良の高校で1年講師を務め、昨年の京都府の教員採用試験に合格し、今年4月からは京都の公立高校の教壇へ立つ。また野球部も見ることになるだろうし、人材の育成と甲子園出場という新たな目標を掲げている。

また、選手時代に貯めたお金で事業を起こす選手もいる。しかし投資して失敗をしたという話も少なくはない。もし、本当に事業を行うのであれば、一度しっかり経営を学んでから行なうことも一つの道である。

私はこの学んでいる期間というのは非常に大事だと考えている。この期間は自分に向き合える時間でもある。これまでスポーツしかしてこなかった自分に反省することもあれば、新たな目標、やりたいこと、希望を持つこともできるであろう。

最近アメリカでは、トロントブルージェイズ所属で2014年は先発ローテーションでばりばり投げていた選手が、故障によりDL入り(故障者リスト)した。今シーズン中の復帰は絶望的らしい。しかし、彼はこのリハビリ期間中に大学で学び直し、卒業し、来季の復帰を目指すと発表した。メジャーでは大学在学中のドラフト指名はルール上可能である。アメリカでは長期離脱の選手の場合、リハビリメニューをしっかり行っているのさえ確認できれば、あとは自由にさせてくれるのが一般的だ。

あの有名なマイケルジョーダンも現役の若い頃、大きな怪我をして長期欠場を余儀なくされた時、大学に戻っている。シーズン中に大学に通うというのは凄い話ではあるが、オフシーズンに大学に通う選手は少なくない。また、MLB等の選手が、引退した後もう一度学び直す選手も数多くいる。自分のやりたいことなどを専攻し、大学などに入り直す。そして就職先を探すのである。

アメリカにはコミュニティカレッジというものがある。これは高校を卒業した者なら誰でも授業料さえ払えば入学できる。もちろん部活動のようなスポーツチームもあるし、成績優秀者は4年生の大学へ編入することも可能である。誰でも勉強ができる門戸がひらいているのだ。この制度は日本にはない。日本で大学に入ろうとするなら、入試という高い壁がある。アスリートがもう一度入試の勉強をするにはハードルが高い。しかし、コミュニティカレッジのように勉強する環境があれば、アスリートが引退後のセカンドキャリアに進むうえで、「学ぶ」という選択肢の一つに入るのではないだろうか?

あと、書店には「人材育成や思考力」といった、多くのビジネス書が並んでいる。ビジネスの中では「問題解決型」の人材を育成することが必須となっているが、ビジネスに関わる人達だけではなく、教育者や学生・アスリートにもこういった取り組みがあってもいいのではないだろうか。今年箱根駅伝を初優勝に導いた原晋監督がいい例である。原監督は「ビジネスマンとしても通用する人間に育てたい」と、原監督自身がビジネスマン時代に培ったものを指導に盛り込んでいたようである。

子供の頃からの自立型人材、課題解決型人材の教育は非常に重要である。しかし、競技に関する課題を設定し、常に解決しようとしているアスリートは少しきっかけを与えるだけで、変われるのではないだろうか。アスリート自身が学び、そして自分を知るということは、セカンドキャリア問題を考える上で、非常に重要であると私は考える。

(2015年4月27日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)