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実証事業で分かったロボット利活用の効果と課題とは?

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今日の日本は身近に感じるロボットの登場、人工知能技術の発展などにより、第三次ロボットブームのさなかにある。本稿ではサービス分野へのロボットの導入の効果や課題、今後の展望を解説する。

1. ロボットの利活用に向けた動き


産業用ロボットは工場の生産ラインの一部を担っており、これまでもものづくり分野の生産性向上に貢献してきた。また、産業用ロボットと人が協調して作業を行うことができるよう我が国では2013年12月に規制緩和(80W規制の緩和)がなされ、柔軟な生産ラインの構築やロボットの活用対象の一層の拡大が期待されている。

一方、おもてなし等を行うコミュニケーションロボットに加え、警備ロボット、家事支援ロボット、搬送ロボットなどの「サービスロボット」に対する社会的な注目・関心は高まりをみせているものの、現在のところ、ロボットが提供するサービスが具体的な市場を形成している領域は一部に限られている。

こうしたなかで2015年2月に策定された政府の「ロボット新戦略」では、ロボット革命を実現するための3本の柱の1つに、「世界一のロボット利活用社会-ショーケース(ロボットがある日常の実現)」を掲げ、ロボットの活用促進に向けた環境整備に取り組むこととされている。

また、前回(「ロボット×サービス」コラムVol.1)でも紹介したように、政府はこれまでロボットが活用されてこなかった領域を対象に、ロボットの導入や検証を進めるべく「ロボット導入実証事業」を実施している。

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2. ロボットの導入検討を通じてみえてきた「効果」と「課題」


政府の「ロボット導入実証事業」は、「ロボット導入実証事業(導入実証に係る費用の補助)」と「ロボット導入FS事業(導入前の検証費用の補助)」の2つからなる。以下では、特に、卸・小売業、飲食業、宿泊業などのサービス業におけるロボット利活用の効果、現時点の課題についてみていくことにしたい。

2016年2月までを期間とする同実証事業を通じて、現時点で把握されたサービス分野におけるロボット利活用の効果は、①サービス提供の「プロセス」の改善、②顧客に提供するサービス内容(アウトプット)の質の向上の2つの観点から整理することができる。

まず1点目の「プロセス」に関する点では、人員削減などによる直接的な生産性の向上への貢献が注目されるところであろう。特に、我が国では少子高齢化による中長期的な雇用確保に係る問題が指摘されていることから、ロボットの利活用を通じて、サービスの生産・提供に必要な労働力を確保することに対する期待は大きい。

また、2点目の「アウトプット」に関する効果として、基本的な接客をロボットが行い1日に対応可能な顧客数を増やすことによる窓口での機会損失の減少や顧客満足度の向上などが指摘されている。さらに、今後、ロボットと人の役割分担に関する検討が進み、例えば、定型的な基本サービスはロボットが担い、個別・複雑な専門的なサービスを人が担うことで、対人サービスの付加価値が一層向上していくことが期待される。

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一方、サービス分野へのロボットの利活用における課題として、どのような点が挙げられるのだろうか。
例えば、物流倉庫でロボットが個別具体の作業を行う場合も、対象となる配送物の形状は様々であるため、ロボットが対応できる作業は限られていたという報告がみられる。

また、必ずしもロボットの導入を想定し建物の設計やスペースの確保がなされているわけではないため、ロボット導入による効率化を十分に図ることはできなかったという報告もみられる。なお、こうした課題は国などによる環境整備や民間事業者による製品の改良、さらには社会的普及によるロボットを想定した環境設計の浸透により、一歩ずつ解消していくことが期待される。

また、現在、「人が提供しているサービス/対応している作業」を単純にロボットに並行移管するのではなく、ロボットの導入により直接的・間接的にどのような付加価値を顧客に提供していくのか、ロボットの導入事業者も検討を深めていくことの必要性が指摘されている。ロボットの開発・提供主体、導入主体が、それぞれの立場でロボットの利活用のあり方、提供するサービスの価値を具体化していくことが求められている。

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3. サービス産業の生産性向上、新たな付加価値の創出に向けたロボットの利活用


産業の競争力強化等に向け、成長戦略の具体化と推進のあり方について検討をしている政府の「産業競争力会議」では、次期「日本再興戦略」として、「名目GDP600兆円に向けた成長戦略」に関する議論が行われている。同会議では名目GDP600兆円の実現に向け、IoTやビッグデータ、ロボット技術などの実用化の推進に関するプロジェクトと並び、サービス産業の生産性向上に向けたプロジェクトなどについて検討が進められている。

また、政府が設置した「サービス業の生産性向上協議会」では、今後ロボットが導入されていくであろう小売業、飲食業、宿泊業、介護業、運送業を対象に、様々な角度から生産性向上に向けた取り組みが検討されているところである。

このように、サービス産業の生産性向上が大きな政策アジェンダに位置付けられている背景として、我が国では第三次産業(サービス産業)がGDPの7割超を占めているものの、その労働生産性は諸外国に比べ低いと指摘されていることが挙げられる。そのため、「ロボット新戦略」のなかでも、サービス分野へのロボットの利活用による労働生産性の向上が掲げられており、サービスロボットの利活用に向けた導入検討の本格化に対する社会的な要請は強い。

しかし、先述の通り、サービス分野へのロボットの導入において、まだ乗り越えなければならない課題は少なくない。また、ロボットの開発・提供主体だけでなく、導入主体も、ロボットの利活用を通じて得られる効果、提供するサービスの価値を自ら具体化していくことが求められている。

ロボット等の新技術を活用し、サービス産業の生産性の向上を進めていくことに対する社会的な期待は高い。こうした社会的な期待や要請を踏まえ、ロボットの利活用を図る民間事業者は生産性の向上や、新たな付加価値の創出を進めるとともに、中期的に既存のビジネスモデルの再構築を視野に入れつつロボットを用いたサービス事業のあり方について検討を進めていくことが必要である。

2016年5月23日「サーチ・ナウ | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング」より転載