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「長時間労働をやめれば、日本は変わる」小室淑恵さんに聞く衆院選の争点【少子化・ワークライフバランス】

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KOMURO
ワーク・ライフバランス
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全国各地で最後の舌戦がくり広げられている衆院総選挙。安倍晋三首相は「アベノミクス選挙」と称したが、12月14日の投票日前に、あらためて日本が抱える課題を、有識者の方と現場から考えてみたい。

今回は、次世代に希望をつなぐ「少子化」や「働きかた」の政策について、株式会社ワーク・ライフバランスの代表取締役として全国900社でコンサルティングを手がけ、全国で年間200回以上の講演や、執筆活動を行う小室淑恵さんに話を聞いた。小室さんは現在、政府の産業競争力会議で民間議員として「働きかた」や「女性の活躍推進」に関する提言も行っている。

■少子高齢化や長引く不況、日本が抱える課題

——少子高齢化が進む日本ですが、今求められる政策とは?

少子高齢化の課題として、労働力の減少や、介護者の増加、女性の労働力活用などが挙げられます。そのために、各党は「この政策、あの政策を実施します」とわかりやすくアピールしています。メディアでも政策比較などがされていると思います。

ただ大切なのは、その政策を一つひとつ実施していくと、ものすごくコストがかかるということです。財政難の日本で、そのコストを負担するのは国民なんです。

よくよく考えてみると、少子高齢化といった社会保障に関わる問題だけでなく、個人消費の冷え込みといった経済的な問題も含めて、日本の抱える課題の元凶は“長時間労働”なんですね。長時間労働をやめれば、日本は変わります。

長時間労働で睡眠不足による集中力低下がミスや事故を起こす原因になっていたり、私生活で勉強して斬新な発想のためのインプットをしたり技術力を高めたりする機会がないことで、高付加価値型のビジネスが生み出せない構造こそが、業績低迷の原因になっています。

また多くの人が、時間無制限にどれだけ高い山を積めるのかを競わせられる構造の中で、持てる時間のすべてを労働に投入せざるを得なくなり、家事や子育て、介護の時間を奪われ、行きたい旅行や購入したいものがあっても、夫婦で相談して消費活動をする十分な時間もありません。そうした家族の長時間労働によって、保育や介護施設のスタッフの長時間労働化が進み、税金が多大にかかる構造も生み出しているのです。

この長時間労働の解決にこそ、政府は一番介入していくべきだと思います。政府が、長時間労働に踏み込めるか。経済団体からの風当たりは強いかもしれませんが、「これで景気がよくなる、企業経営がよくなるんだ」と、ちゃんと説得していけるかが重要だと思います。

長時間労働を解消するのに、コストはいりません。日本に潤沢な財源があれば、予算をつけて様々な政策を実施して、いろんな社会問題は解決できるかもしれませんが、その前にやれることがあると思います。

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■各党の「働きかた」に関する公約について

——「長時間労働」や「働きかた」の視点で、どのように各党の公約を見るといいでしょうか。

長時間労働の上限規制は、すごく大事なことです。長時間労働の働きかたを見直す公約に掲げた党はありましたが、はっきりと残業時間の上限規制を政策にしたのは一党だけで、残念ですね。

規制改革が進められるなか、各党が「労働時間」を打ち出したくないのはわかりますが、労働政策学者の濱口桂一郎さんによると、今必要なのは「柔軟に緩和するのではなく、労働時間の上限規制を入れること」なのだそうです。

濱口さんが、これまでの日本の労働政策を分析したところ、従業員が柔軟に働けるように「みなし労働時間制」や「労働時間の規制緩和」などを導入した結果、従業員は「負けまいとして、持てる時間を、すべて労働に投入するようになった」のだそうです。どんどんライフの時間を削って働くようになるんですね。

ですから、長時間時間の規制を設けて、短時間で仕事を終えることにインセンティブを与える社会に転換していくことが大切です。

——公約で「ワークライフバランス」に触れている党もありました。

ワークライフバランスについて、公約で触れている党もありますね。ただ、ワークライフバランスを、単に子育てと仕事を両立支援のためのものと位置づけている場合は要注意です。女性にだけ労働時間に配慮しても、それは「マミートラック」に乗せて保護するけれども、出世や昇進とは別コースにしてしまうことになるからです。

すべての人にライフは必要です。ワークライフバランスは、子育てしている人だけの話ではないのです。2017年には団塊世代が70歳になり、男性の介護者も増えます。難病を抱えている人も、障害を持つお子さんがいる人もいます。

「人口オーナス期」を迎えた日本では、育児や介護、病気などが仕事の障壁にならない、時間の制約があっても働ける労働環境が求められます。

■今後の日本に求められる働きかた

——「人口オーナス期」とは、どのような環境ですか?

日本は今、人口の約25%が65歳以上の高齢者という状態です。世界で一番早く少子高齢化が進んでいる国ですが、実は2030年に韓国が、2040年に中国が、日本と同じ高齢化率になるといわれています。

現在の中国やタイ、インド、シンガポールは、日本の70年代の状態に似ています。「人口ボーナス期」といって、若者がたくさんいて高齢者が少なく、社会保障費がほとんどかからないので、放っておいても経済発展する時期です。日本も60年代から90年代半ばまでは「人口ボーナス期」でした。

しかし日本は90年代半ばから「人口オーナス期」という、たくさん高齢者がいて非常に社会保障費がかかる成熟期に入りました。オーナスは“負荷”“マイナス”という意味です。そして重要なことは「人口ボーナス期」は一度終わったら2度と来ない、ということです。

「人口オーナス期」では、働く人より支えられる人が増えますから、社会保障費が膨大になります。経済発展によって、教育に投資する親が増え、子供が高学歴化し、人件費が高騰し、晩婚化が進んで少子化になる……ということが全部つながって起きます。どの国でも少子高齢化は進みますが、主要国のなかでも日本はものすごいスピードで「人口オーナス期」に突入したことが問題なのです。

——「人口オーナス期」を迎えた日本、求められる働きかたは?

「人口ボーナス期」の経済発展には、早く大量に物を生産するモデルが合っていました。時間が成果に直結しますので、体力のある男性が長時間働いたほうが儲かったのです。しかし「人口オーナス期」を迎えた日本では、付加価値で勝負するビジネスに切り替えていくことが求められます。

「人口オーナス期」では、これまでとは違い、男女がともに働く組織が求められます。短サイクルで新しい商品を出していく必要があり、頭脳労働の比重が上がりますから、なるべく違う価値観の人を揃えたほうがいいのです。

時間あたりの人件費も上がったので、なるべく短時間で働いたほうがいいのです。日本の人件費は今、中国の8倍、インドの9倍です。以前のように、体力にまかせて長時間労働することは、企業にとっても人件費のマイナスなのです。

今までは、持てる時間をすべて仕事に投入できる人だけが昇進する社会でしたが、これでは労働者は疲弊合戦になって生産性が下がり、かつ時間に制約のある人のモチベーションは低下します。すべての人が生産性高く、時間内に仕事を終えるモデルに転換していくことが大切です。

■女性の活躍推進、政府や企業が大切にすべきこと

——長時間労働からの転換は、衆院の解散で廃案になった「女性の活躍推進法案」の要旨ともつながりますね。

そうですね。国会でこの法案が審議された際に、私が参考人としてプレゼンしていますので、ぜひ動画で見てくださいね。

女性の活躍推進も、男性も含めた全員の「働きかた」を変えることと、セットで進めていかないといけないと思います。

政府は「2020年までに、女性の管理職30%」という目標を掲げました。実は、この法案が出た段階で、多くの企業がフライングで動きはじめたんです。各社の人事やダイバーシティの担当は「今から(女性登用を)進めないと、絶対に間に合わない」と慌てて取り組みはじめたんですね。

その結果、何が起きたかというと「女性たちが管理職になりたがらない」という現実した。多くの企業から相談を受けました。「部長にします」と伝えても「いえいえ、お断りです」、女性向けの研修を実施しても「出席しない」……。男性にとって、昇進は無条件にうれしいものとされていましたから、人事担当者は驚いたようです。

——なぜ、女性は管理職になりたがらないのでしょうか。

「女性には向上心がない」と位置づけた企業もありましたが、私たちが深くヒアリングしていくと、女性たちは管理職になりたくないのではなくて、「今、目の前にいる管理職のようにはなりたくない」と感じていることがわかったんです。

管理職のイメージは「残業代はつかなくなって仕事は増え、責任だけ重くなって、家庭が崩壊する……」でした。失うものが大きくて、全くの貧乏クジだったんですね。

今の労働時間のまま、女性の管理職登用が進められれば、すべてを犠牲にできる(もしくはアウトソーシングできる)スーパーウーマンだけが抜擢されることになります。育児や介護している女性は、時間の制約があるので、そのコースには乗れません。能力による登用ならいいですが、実際には、労働時間を投入できるかどうかという環境の違いが大きいのです。

もし女性が、労働時間を確保するために、家事や育児を全部アウトソーシングしたとして、それで本当に充実感を得られるか、後輩たちがそうなりたいと思えるかというと、そうではないと思います。

いち早く、女性の登用やダイバーシティの推進に取り組みはじめた企業は、「やっぱり(問題は)長時間労働だ」と気づきはじめています。男性の労働時間を変えずに、女性の労働力だけを都合よく使うことはできません。女性の活躍には、男性も含めた、すべての人の労働モデルを変えていくことが大切だと思います。

komuro

■少子化対策、待機児童問題はどうなる?

——少子化対策などの公約は、どんな視点で見るといいですか?

具体的にどの党の政策がいいというのは難しいですが、スピード感に注目してほしいですね。公約に「いつまでに、どうするか」と書いてあるかを見てほしいと思います。

団塊ジュニア世代の女性たちが出産できる年齢は、あと数年で終わってしまいます。人口のボリュームゾーンであるこの世代の女性たちが、出産したいと思える環境を整えなければ、日本の人口が増えるのは本当に難しくなります。

ですから少子化対策は、非常に緊急度の高い課題なんですね。待機児童の問題を、あと1、2年で解決するのか、10年で解決するのかは大きな違いなんです。駆け込み出産をしたいと思えるくらいインパクトのある変化が伝わることが大事です。

——消費増税が延期されました。2015年4月に始まる「子ども・子育て新制度」の財源への影響についてどう思いますか?

「子ども・子育て新制度」財源の一部が、消費増税に紐づいていたので、不安に思っている方もいると思います。先日12月4日に、私たちのスタッフもNPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんたちと一緒に、少子化担当大臣の有村治子さんを訪問し、あらためて予算確保の陳情書を提出しました。

有村大臣も「思いは一緒で、最大限努力したい」とおっしゃったそうです。新制度の実施に向けて頑張っていただきたいと思います。

今回の増税延期で、保育園拡充自体が暗礁に乗り上げてしまったように誤解されていることがあるかもしれません。ただ、保育士の待遇改善や配置の基準の見直しといった「質の拡充」は、予算の確保に向けて調整している段階ですが、保育施設や認定子ども園を増やす「数の拡充」は、着実に進められています。現在も「待機児童加速化プラン」によって、当初5年で進める計画だったものが、2年前倒しで進められています。

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(c)内閣府

上の図は、内閣府が作成したデータですが、右の図を見ると、保育所数や定員数は、右肩上がりに増加していることがわかります。左の図を見ると、待機児童数は約1300人しか減っていないように思えますが、約20万人分の保育の受け皿が増えた結果、その分子育てしながら働く女性が増えたので、その差である1300人分しか待機児童が減らなかったように見えるんです。でも、もちろん全国の待機児童ゼロまで徹底して進めるべきだと思います。

2015年の春にも保育園はすごく増えます。2013〜2014年度の2年間で、約20万人分の受け皿が増えました。来年度からの2年間でさらに20万人、つまり4年間で約40万人分が増えることになります。来年は産みどきだと思います(笑)。

——最後に、選挙を前に、若者や子育て世代にメッセージをお願いします。

各党の公約(マニフェスト、政策集)を読むのは面白いと思います。公約は、私たちが思っている以上に、各党の中でも非常に議論を重ねて作られています。

たとえば、今回の衆院選から自民党は「配偶者控除の維持」を公約から外しました。今までは「維持します」とアピールしてきましたが、「働きかたに中立な税制にします」と修正したんです。これはかなり大きな変化で、「男性は仕事・女性は家庭」という考えかたの議員が強い力を持ってきた党でも今年はこうした変化が起きたんだな……というように、長年ウォッチしているとわかることもあります。

公約比較サイトなどで、有識者の方が書かれた考察を読んでみるのもいいでしょう。受け身の情報だけで投票日を迎えると、「行かなくてもいいかな」という気分になるくらい興味がわかないですよね。公約を比較する観点が養われてくると「こんなこと言っている! 絶対ダメじゃない!」という憤りがわきますし、街頭演説を聞いても「朝からうるさいな~」ではなくて「あれ、こんな考えかた・発言は要注意だな」と気になることも出てくると思います。

ぜひ、あなたの未来につながる一票を投じてほしいと思います。

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