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「日本は20人にひとり」LGBTとともに生きる社会とは――虹色ダイバーシティの村木真紀さんに聞く

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あなたの友人や同僚に、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)などの性的マイノリティの人はいるだろうか。

電通総研が2012年に発表した調査によれば、5.2%(約20人にひとり)はLGBTだったいう。一方、国際的なリサーチ会社であるipsosの調査によれば、同性婚が合法化されているスペインやノルウェーでは「身近にLGBTがいる」と答えた人が65%を超えるなか、日本で「身近にLGBTがいる」としたのはたった5%にとどまる。

社会や組織の中で、国籍、民族、性別、宗教などの多様さを受け入れる「ダイバーシティ」(多様性)が唱えられるなか、日本ではLGBTへの十分な理解やサポートは、まだまだ進んでいないのが現状だ。

LGBTが生きやすい社会や職場を作るには、どうすればいいのか。支援者としてできることは何か。企業や自治体にLGBTに関するコンサルティングを行う特定非営利活動(NPO)法人虹色ダイバーシティの代表で、LGBT当事者でもある村木真紀(むらきまき)さん(写真)に聞いた。

muraki


■カミングアウトしていないゲイの人に、上司が風俗を強要

——まず日本企業におけるLGBTの現状を教えていただけますか。

「虹色ダイバーシティ」では、主に企業を対象に人事向けのコンサルティングをしています。企業の人事の方でも「うちの会社にLGBTはいないと思う」という反応されることがあって、人事の方も当事者の存在に気づいていないことが多いです。

でも実際は、電通総研が2012年に発表した調査ではLGBTは5.2%。20人にひとりはいるわけですから、普通に考えて大手の企業にいないわけはありません。その社内で周囲に伝えられていない(カミングアウトできない)だけだと思います。

——LGBTの人たちが働きづらいことで、具体的に企業ではどんな問題が起きていますか?

例えば、カミングアウトできるような状況ではないと判断した場合、多くのトランスジェンダー(性同一性障害、性別違和など、生まれた時の性別と違う性別で生きたい人)は、性別を変えたいと思ったタイミングでこの会社にはいられないと考えて退職してしまいます。

また男性として働いていた人が少し髪の毛を伸ばすと、「見苦しいから切れ」といわれたり、見た目の服務規程違反や協調性の欠如などを理由に解雇されたりする場合もありますね。思いきって上司にカミングアウトしても「前例がない」「我慢できないのか」などと否定され、いじめられたりするケースもあります。

会社でカミングアウトしていないゲイの人が、上司や取引先から、異性愛の男性向けの風俗に行くのを強要されるといったケースもよく聞きます。断り続けていると、目をつけられてしまう場合もあるようです。うつになって、休職を繰り返してしまう人もいます。

LGBT当事者でメンタルヘルスの問題を抱えている人は多いと思いますが、ほとんどの人がカミングアウトしていないので、人事の方も「社内にどれだけいて、どんな問題があり、どんな対応が必要なのか」というのが見えにくい状況です。

■LGBTだから感じる「働きづらさ」とは

——村木さんが「虹色ダイバーシティ」を立ち上げたきっかけを教えてください。

2011年、ソフトウェア会社に勤めていたときに体調を崩して休職をしました。LGBTとは関係なく、同じタイミングで何人かが会社を辞めたこともあって、引き継ぎ業務などで本当に忙しい日々を送っていたら、眠れなくなってしまったんです。

そこで心療内科の診断をもらい、3カ月間休職することになりました。そのときちょうど震災があって、体は元気なのに動けなかったので、家でずっとテレビを観ていました。繰り返し地震の映像を観ていたら、やっぱり辛くなってしまって……。近所に住むレズビアンの友人もちょうど同じタイミングで体調を崩して休職していたので「一緒に、お茶でも飲もうか」ということになりました。

喫茶店で話していたら、ふたりの仕事上の悩みが「上司を信頼できない」とか「チームに溶け込めていない気がする」「この会社で頑張っても報われる気がしない」とか……すごく似ていたんですね。

——レズビアンの友人と、仕事の悩みが似ていた。

最初は女性がぶつかる壁なのかと思ったんですが、私は男女関係ない中途採用ばかりのベンチャー企業にいて、彼女は女性のための制度が一通りは整っている日系の大手企業に勤めていました。そこで、もしかしたら「レズビアンであることが、悩みの原因かもしれない」と気づいたんです。

海外はどうなのかなと思って調べてみると、イギリスのストーンウォールという団体のサイトに「LGBTと生産性」に関するレポートがあって、そこに「LGBTであることで抱える特有の悩み」について書いてありました。

当時の上司は、悪い人ではなかったですが、朝礼や飲み会で、ゲイに関する冗談をいうことがありました。誰かを攻撃するつもりはなく、場を盛り上げようとしての発言だとはわかります。ただ私はレズビアンなので、そういう話でウケを取ろうとする上司のことを心のどこかで信頼できなくて、眠れないことをすぐに相談できなかったんです。私もLGBTであることで働きづらさを感じていたんですね。

■欧米では、LGBTの「職場の平等」は重要な課題

——LGBTであることで抱える「職場の問題」があったのですね。

欧米では、LGBTの「ワークプレイス・イクオリティ」(職場の平等)を実現することは、同性婚の合法化といった「マリッジ・イクオリティ」(結婚の平等)と同じくらい大きなイシューなんです。

海外のダイバーシティ(多様性)の定義も調べたところ、欧米の企業はダイバーシティの定義のなかに、国籍、民族、性別だけでなく、性的指向や性自認などのセクシュアリティ(性のあり方)、つまりLGBTなどの性的マイノリティについても含まれている企業が多かったんです。一方、日本におけるダイバーシティには、LGBTは入っていなかった。これに気づいたことが活動を始めるきっかけです。

インターネットでダイバーシティと検索したら、「ダイバーシティ研究所」という団体が大阪にあることを知って、代表の田村太郎さんに相談したところ「大事なことだから、団体としてやってみたら?」と提案されて、レズビアンの友人3人と「虹色ダイバーシティ」を立ち上げました。2012年のことです。

最初は、週末や休日にプロボノ的に企業で講演などをしていましたが、口コミで次々に依頼をいただくようになりました。ちょうどその頃、オバマ大統領が2期目の就任演説でゲイの権利に言及したり、海外の同性婚成立のニュースが次々と日本で報じられるようになってきたタイミングで、「やるなら今じゃないか」と会社を辞めて、専従でやることにしました。

muraki

■LGBTも働きやすい環境について

——LGBTの人が働きやすい会社は、どんな会社でしょうか?

LGBTの学生から、よく就職活動の相談を受けます。LGBTが働きやすい会社を売りにしているのは一部の外資系企業くらいで、外から見てもわからないので、みんな本当に悩んでいます。

そんな学生には「女性が働きやすい会社」を目安にするようにアドバイスしています。面白いことに、日経新聞などが発表している「女性が働きやすい会社ランキング」や「働きがいのある企業ランキング」の上位企業は、私たちのクライアントとも重なるんですね。

そうした企業は社内にダイバーシティの専任部局があり、多様な働き方を受け入れる素地があるため、LGBT支援にも取り組みやすいのだと思います。外国人や女性、障がい者など、いろんなダイバーシティの課題に取り組んでいるからこそ、LGBTも受け入れられるのでしょう。

——女性が働きにくい会社は、LGBTにとっても働きにくい。

よく人事の方に「うちは女性のための取り組みもまだまだなので、LGBTは早いんです」といわれますが、多分「早い、遅い」ではないんですね。むしろ女性のための施策しかやっていないから、なかなか進まないんだと思います。

私たちがLGBTを対象に行ったアンケートでは、「不快・差別的だと思う言動」のなかに、男女に関する言動がたくさん入っていました。例えば「結婚したいの?」や「どういう人がタイプなの?」とか。男性の場合は「どんなAV女優がタイプなの?」と聞かれるそうですが、ゲイの人はすごく困るんですね。

恋愛や結婚、子供に関する質問も含めて、女性やシングルの人が不快と思うことは、LGBTにとってもやはり不快です。LGBTにとってはアイデンティに関わる部分なので、より敏感かもしれません。LGBTの話は、男性・女性の話と一緒に進めていくべきです。

——LGBTだけの問題ではなく、ダイバーシティの問題なんですね。

そうです。LGBTの問題は、生産性やモチベーション、メンタルヘルスの問題ですから、経営戦略の一環として、ビジネスとして取り組むべきことだと思います。

LGBTの話をするときは、単語の説明と合わせて、手話でも「レズビアンはこう、ゲイはこうです」と紹介するようにしています。そうすると、ベッド上だけの問題ではなく、アイデンティティの話だと理解しやすいようです。

■日本に合ったLGBT支援とは

——今後、企業や私たちは、どんな取り組みをしていけばいいでしょうか。

企業の人事担当者が「LGBTの研修をした」と社内報に書いたりすると、その担当者にカミングアウトする人が現れるようです。別の企業でも、人事の方がLGBTの講演で聞いた内容を、社内のメルマガで発信したところ、複数の人が人事にカミングアウトしてきたそうです。

このように、会社側からLGBTに関するポジティブなメッセージを出すと、少しずつ当事者の声が上がってくるようになります。当事者の声を聞くことで「これは人事として、やるべきだ」とさらに一歩を踏み出せて、いいサイクルが回りはじめます。

——人事のメッセージによって、当事者が声を上げられるんですね。

そうです。ただ、カミングアウトしていない人、したくない人もいるので、当事者の数を正確に把握することはできません。

人事は、ダイバーシティの推進を進めるとき、たとえば女性の管理職登用推進であれば、女性管理職比率の数値目標を決めてプロジェクトを進めると思います。LGBTの場合は、当事者の数を数値目標にできない。ではどうすればよいかというと、私は当事者の数ではなく、「アライ」の数を目標に設定すればいいと考えています。

——アライ、ですか。

アライ(ally)とは、英語で「LGBTの理解者、支援者」のことです。例えば、LGBTの勉強会に参加する人や、冊子やステッカーを配った枚数で、アライを数値化できます。

欧米では当初、カミングアウトしたエグゼクティブのリストを発表したり、LGBTの人たちの従業員グループを作ったりするのが施策の中心でしたが、2014年にサンフランシスコで行われた国際会議に参加したところ、アライに関する議論が盛り上がっていました。欧米企業も、今アライに注目しているのです。

——たしかに、支援者を増やすほうが人事は取り組みやすいですね。

日本では、LGBT当事者が何かやってくれと声を上げるのは難しいですし、仮に若い社員が「実は自分がゲイなので、LGBT施策をやってください」と要求しても、「それは君のわがままじゃないのか」と言われてしまいかねません。

当事者が主張するよりも「アライの活動を支援しましょう」というほうが、日本企業では伝わると思います。人事も、“社員のために”“同僚のために”のほうが提案しやすいですよね。海外でのアライ施策の事例を参考に、日本向けにアレンジして提案していきたいと考えています。

——アライの立場で、私たちができることは何でしょうか?

研修を受けた人に虹色ダイバーシティのステッカー(写真)を渡しているのですが、この小さな虹色のステッカーをPCに貼るだけでも、アライの立場を表明することができます。ステッカーを貼ることで自分も意識づけできますし、これを見た人が「それ、何?」と聞いてきたら、LGBTの理解を広めることもできます。

このステッカーは英語で書いてあり、一見何を書いてあるかわかりませんし、デザインもシンプルですので職場で貼っても抵抗感はありません。でも当事者は目ざとく気づく。職場でカミングアウトしていなくても、そのステッカーを見るだけでうれしくて、会社に受け入れられていると感じるんですね。

最初は、1枚100円でファンドレイジング用に作ったステッカーだったんですが、「欲しい」と希望される人事の方も多くて、ひらめきました(笑)。

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虹色ダイバーシティのステッカー

■LGBT、企業や自治体への広がり

——LGBTのコンサルティングをされていますが、日本企業への広がりや手応えはいかがですか。

東洋経済新報社の2013年の「CSR調査」から、LGBTへの取り組みもダイバーシティの項目に追加されるようになりました。LGBTの権利の尊重や差別禁止などの基本方針を「作成している」とした企業は、回答した604社のうち114社、18.8%でした。欧米の企業の取り組みとはまだ格差があります。

しかし日本企業は本当にキャッチアップするのは早くて、最近はドメスティックな日本企業の間でも関心が高まっていますね。男性社員の多い大手エネルギー会社やいわゆる重厚長大産業のほか、地方自治体でもLGBT支援の取り組みが始まっています。

熱心に取り組んでいる会社は、担当者にLGBTの友人がいるケースも多いようです。私たちのアンケート調査の発表会で、ある企業の方が「なぜこういう取り組みをしているか」を自分の友人のエピソードも交えて話したところ、当事者の多い会場から拍手喝采を浴びたこともありました。

——LGBT支援は、当事者に届いているのでしょうか。

企業の理解が進んだことで、当事者の意識も変わりつつあります。2013年に私たちが行ったアンケートでは、LGBTに関して「差別的言動がある」と答えた人は約40%でしたが、2014年には約70%に増えました。

今までは差別的言動を我慢するのが普通だと思っていたけれど、メディアなどで企業のLGBT支援が報じられるようになったことで、「うちの会社でも取り組んでほしい」と思ったり、差別的な発言に敏感になったり、そういう変化が生まれているのかなと思います。

——すごい勢いでLGBT支援の輪を広げられています。外資系コンサルティング企業、大手メーカーなどこれまでの多様なキャリアが今に生きているのでしょうか。

私はずっとカミングアウトしないまま仕事をしていて、何度も転職を繰り返し、その度に苦労しました。順風満帆ではなく、どちらかといえば七転び八起きのキャリアです。しかし、そのおかげでなかなかカミングアウトできない当事者の気持ちも、様々な企業の論理も自分の実感としてよくわかります。今やっと、今までの苦労は「無駄じゃなかった」と思えます。

今までの仕事でも頑張って深夜まで働いていましたが、それでも自分の全部で働いてはいなかったんだなと思います。セクシュアリティという大事な部分を隠して、他の人から見えないように注意しながら仕事をしていたので、自分の中に周囲との壁があったんですよね。今は、お客様と飲みに行くと本当に楽しい(笑)。仕事上の人間関係の素晴らしさって、こういうことだったのかと思います。本当にフルパワーで仕事できてるなって感じます。

後編につづく)

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