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男が働かなくてもいいって本当? 田中俊之さんに聞いてみた

2016年04月18日 23時03分 JST | 更新 2016年04月20日 01時27分 JST
Kenji Ando

「男なら働くのは当たり前」。そういった考え方に警鐘を鳴らすのが、男性学の第一人者である武蔵大学・助教の田中俊之さん(40)だ。新著「男が働かない、いいじゃないか!」(講談社プラスアルファ新書)では若手ビジネスマン向けに、男性が正社員として定年までフルタイムで約40年間働くという生きかたしか許されていない日本の現状に対して「もっと多様な働きかたがあっていい」と指摘している。「スローダウンする時期もあれば、バリバリ働く時期もあっていい」と、フレキシブルな生き方を提案する田中さんに話を聞いた。


■思考停止になる前に「働く理由」に気づくことが大事

――今回の本を若手ビジネスマン向けに書いた理由は何でしょう?

狙いとしては、自分が「どうして働くか」について真剣に考えてもらいたいということです。男性の場合、働くことが当たり前すぎて「なぜ?」と考える機会がない。定年退職するまでの40年間、自分の人生を費やすものなのに「それが当たり前だから」とか「周りがそうだから」と、なあなあになってしまいがちです。どうしてこの仕事しているのかということを、きちんと考えてもらったほうがいいだろうと思いました。そうしないと、あっという間に会社に染まっちゃうんです。「会社ではこうなんだよ」と言われて無批判に受け入れちゃう危険があります。

――思考停止になる前の段階で、気づいてもらうことが大事と?

はい、あともう一つは、やはり40年間というスパンで、かなり常識は変わると思うんですね。この本で意識したのは、やはり多様性の問題です。今後はLGBTに代表される性的マイノリティの方や、女性の方がより活躍する社会になると想定しています。だから今、会社の新人研修で「こうだよ」って彼らが習うことと、彼らが40年働いていく中で、新しい常識になることは、かなりギャップがあると思うんですよ。今後の社会は「多様性をお互い認め合っていく」方向に転換していくというメッセージを送っています。


■ジェンダーギャップ指数が日本が101位となっている背景

――今の状態でそういった多様性を認める社会に変わる兆しはありますか?

今の日本の社会って、男女が大変不平等な社会だと思うんですね。ジェンダーギャップ指数が、世界の最新データでは日本は101位なんです。これは当然、よりフェアなものになっていくはずです。

女性は現在、会社で働く際に総合職と一般職の区別があるんで、男性側は競争相手と思っていなかったり、格下に見ている側面がありました。それが、対等な競争相手になっていくと、能力が高い方が男女に関係なく管理職になったり出世するようになることは当然出てきます。ただ男性の場合は、未だにそういうところにまだ抵抗感あるような気がしますね。

――男性のプライドとして、無意識のうちに男性のほうが上だみたいに思ってる節があると?

その傾向があると僕は思いますね。それは払拭していく必要があると思います。

――特にその日本のジェンダーギャップ指数が低い要因は何でしょうか?

ジェンダーギャップ指数は、政治、経済、教育、健康の4点で国の評価をしています。その中で、日本が低いのは政治と経済です。今までの社会は性別役割分業の社会だっため、「男が仕事して、女は働いてもいいけど、家庭がおろそかにならない範囲で」という構造でしたが、これは男性が終身雇用で年功序列で、給料が年を取るほど上がっていくという仕組みじゃないと維持できない。

そうなると今後の社会は、共働きするという解答しかありません。でも、女性差別が残ったままの状態で、共働きすると問題が出てきます。たとえば、女性が大半を占める職場は賃金が安い傾向があります。保育園の問題が昨今騒がれていますが、典型的に保育は女性の職場と思われてきたことが大きい。つまり、「結婚してフルタイムで働いてるパートナー見つけたら、生活に困らないでしょ」ってレベルの給料になっています。

――確かに過酷な労働の割には賃金が低めですね。

女性がいずれ結婚すると想定されている職種であり、賃金構造です。ケア労働は全般に女性がやるものだと思われてるんですね、日本では。介護、保育、看護などの領域は給料が低めになっているんです。

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インタビューに応じる田中俊之さん(4月7日、都内で撮影)


■高度経済成長期の「神話」から抜け切れていない日本

――なぜ日本社会は、そうしたことが自然なものとして認識されてきたんでしょう?

雇われて働く人が急激に増えた高度成長期なんですが、その時に出来た性別役割分業のモデルを引きずっていることですね。このモデルにおいては、女性は結婚しないと生活が成り立たないようになっています。逆に男性は24時間働かなきゃいけないので、家に主婦がいないと成り立たない。24時間会社のために時間を費やせる労働者を作る仕組みが性別役割分業だったと思っています。

戦前から長男以外は家を継げないなどの性差別はあったんですが、今のようなモデルができたのは割と最近で、戦後の高度経済成長期です。夫がサラリーマン、妻が専業主婦という性別役割分業のシステムが普及しました。1975年に女性の労働力率が一番下がるんですが、このときが専業主婦が一番多かった時代です。逆に言うとそこがピークなので、それ以降はパートの主婦が増えていますね。

――高度経済成長期に出来た神話から、未だに日本人が抜けれきれていないと?

まさに、そうですね。そこが一番の問題です。だから今回の本は若者向けなんですが、経営者や管理職にも読んでもらいたいと思っています。彼らが生きてきた常識と、現在の社会はかなり異なります。しかし、そういうことが分からない人からすれば「今の若者は不甲斐ない」となりがちなんですが、社会自体が変化しているということを、この本を通して認識してもらえれば有り難いなと思います。


■「家庭を取るか仕事を取るか」の二者択一でいいのか?

――「育休を取った夫が出世レースが取り残された」という趣旨の投稿がTwitter上で話題になったこともありましたが、現状では男性が育休を取得しにくくなっているように感じます。

事実であれば、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)に当たる可能性があります。出産や育休を理由として不利益な扱いをしてはいけないからです。でも実際に、男性が育休を頻繁に取得する家庭では「共働きだから、収入はダブルインカムであるから、出世しなくてもやってける」ということで、夫の昇進を諦めているケースもあります。今の社会は「家庭を重視したければ出世できません、出世したいなら家庭のことはないがしろにしてください」という二者択一になっているような印象を受けます。

――そのどちらかしか選択肢がないわけですね。

そうですね。でもこれは、やがて大きな社会の歪みを生むことになります。親の介護問題が出てきたときに対処できないからです。男性の生涯未婚率が2010年時点で20%超えていて、5人に1人が独身なんです。その人たちが親の介護をするようになったときに、フルタイムで働きながら介護するのは無理なので介護離職が起きます。

でも、単身者が離職したら食べていけない。ダイバーシティ(多様性)や育児休業は、管理職の方は社員に「やってあげる」という意識が強い。その男性の仕事中心の働きかたを変えなきゃいけないのは、むしろその上の世代の人にとって、介護の問題とか、あるいは自分の定年後の生き方ってこと考えた場合に、進めなきゃいけないことなのに当事者意識が育っていないんです。

――家庭と仕事を両立するような社会を生むためには、どうしたらいいんでしょうか?

家庭と仕事を両立できるような社会になるためには、一人の人間のキャリアの中で、仕事のやり方の多様性を認めるべきだと思うんですね。家庭を優先して短時間勤務にするとか、週4日勤務にする時期があったとしても、キャリアを継続できるようにする必要があります。もちろんバリバリ働く時期があってもいいんですが、40年間ずっとそれで突っ走ることは、家庭を顧みないとか、家庭は作らないって話になります。

そうではなく、男も女もスローダウンして、労働時間減らしたりとか、勤務日数減らすってことができて、またそれが落ち着いたらできるバリバリ働けるような柔軟さが必要だと思います。そうすれば、現在のように、「出世ができなくなるのでは?」「元の職場に戻れないのでは?」という不安が足かせになって、育休取得にブレーキがかかるような事態もなくなると思います。


■個人の働きかたに「多様性」を認める社会を

――ちなみに今回の本は「この働かない?いいじゃないか!」という思い切ったタイトルになっていますが、編集者の方の発案だったんでしょうか?

そうなんです、打ち合わせのときに言われて、僕も衝撃を受けました。そんな攻めたタイトルでいいのかと思いました。でも確かに、否定的な固定観念を持たれているものを肯定するという手法はいいかなと思いました。

たとえば女性向けの本だったら、「女が子供を産まない?いいじゃないか!」だと思うんですよね。「女は子供を産んで当たり前」みたいに思われているところがあるからです。この本のテーマは「自分で選ぶ」ってことなんですよ。フェミニズムで以前から言われてきたことに「産む・産まないは私が決める」というのがあります。これの最終章で「働く・働かないは自分で決める」って書いたのは、それを文字っています。

――社会にある固定観念を一回、覆して自分で考えましょうということですね。

はい、個人に対するメッセージとしては「自分で考えましょう」ということです。高度成長期のモデルが、立ち行かなくなるのは確かなのに、社会全体としては、絆創膏を貼るような形でしか補修をしていません。個人個人の働きかたの中に多様性を認めるような社会を作ることが一番必要だと思っています。

個人のキャリアの中での働きかたの多様性を認めるということです。そしたら別に性別、セクシュアリティ、国籍など関係なく、全ての人が人生のステージによって、働きかたを変えることができる社会になると思うんです。「男性がとにかく40年間フルタイムで働きます」っていう日本社会のモデルを崩してかなきゃいけないんだと思うんですよね。


■田中俊之さんのプロフィール

1975年、東京都生まれ。武蔵大学社会学部助教。博士(社会学)。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。単著に『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社プラスα新書)。「日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている男性学の第一人者。

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