なぜ「家事育児よりも仕事を優先」する男性が多いのか "男性学"の田中俊之さんに聞く

最近、子育て中の夫婦間で、育児や家事分担への意識の違いから、夫婦の仲が悪くなり喧嘩が絶えない“産後クライシス”という言葉を耳にすることが多い。なぜそういった男女間の対立やすれ違いが生まれるのか。
Yuko Soma

男性が男性だからこそ抱えてしまう問題を扱う「男性学」の研究者、武蔵大学社会学部助教の田中俊之さん(写真)。最近、子育て中の夫婦間で、育児や家事分担への意識の違いから、夫婦の仲が悪くなり喧嘩が絶えない“産後クライシス”という言葉を耳にすることが多い。なぜそういった男女間の対立やすれ違いが生まれるのか。田中さんに、その背景を男性学の視点から解説してもらった。

■団塊ジュニア世代の男性は、家事を自分の役割と認識していない

子育てをしながら共働きを続ける場合、夫婦の協力は不可欠になるが、保育園への送り迎えから、食事、お風呂、寝かしつけまで、主に妻が育児家事を行っている家庭も少なくない。「子供が産まれた後も、夫は働きかたを変えず、家事育児について自分事と捉えていないように感じる」という妻の意見もよく聞かれる。では、なぜ「家事育児よりも仕事を優先」する男性が多いのか。まずは、現代の男性が育ってきた背景を、解説してもらった。

「共働き世代は1980年ごろから増加し、1997年にサラリーマンと専業主婦の世帯を上回る数になっています。団塊ジュニアくらいまでの世代の多くは、まだ父親が外で働き、母親は家で家事育児をするといった環境で育ちました。そのため、家では、家事なんて一切やったことがない男性も多い。僕は今39歳ですが、家事はすべて全自動だと思って育ってきました(笑)」

さらに、当時の教育も、家事は男性の役割ではないことを刷り込んだという。

「また、中学校では、女子が家庭科をやっている時間に男子は技術を学ぶというカリキュラムになっていたこともあり、この世代の男性は家事をやったことがないばかりか、自分の役割ではないと思える環境の中で育ったんですよね。僕は一人暮らしをして初めて、家事の大変さに気づいて驚きました」

たしかに、女性でも、実家を出るまでは家事をあまりやったことがないという人は少なくない。学校でも家庭科を学んでいない男性はなおさらだろう。とくに一人暮らしを経験せずに結婚した男性が、まったく家事をする習慣やスキルがないのは当然かもしれない。

■女性は周りと「協調する」、男性は人と比べて「競争する」

ときには、女性からすると、男性の中には「うちは家内に全部任せてますから」と発言する人もいるなど、あたかも家事育児をしないほうが男性として価値があるような意識を持っているのではないかと思えることあるが、どうなのだろうか。

「女性にとっては、意味のないことで男性が競っているシーンを見たことがあると思います。俺は何日寝ていないとか、何日休みを取っていないだとか。何であの人、あんなに見栄っぱりで負けを認めないの? と感じることもありますよね。『うちは家内に全部任せていますから』というスタンスを気取るのも、その1つの例で、『俺は仕事が第一です』という立場を取ることで、周りから一目置かれたいだけなのです」

田中さんによると、これは男女で育てられてきた環境の違いによる影響が強いという。男子は何でも競争して勝つことを良しとして育てられ、女子は周りと協調して誰とでも仲良くしなさいと育てられる。その結果、男性はとにかくどんなことでも人より優位に立ちたい、認められたいという気持ちが強くなり、何でも人と比較して見栄を張る行動を取るようになるのだという。

■仕事上のコミュニケーション法を参考にして、論理的に相談

そういった男女の違いは、夫婦間でうまく家事育児の協力し合えない理由の1つだ。例えば、夫が皿洗いをした後に、妻から汚れが残っていたことを指摘されると、いわゆる男性が“逆ギレ”するのも納得できるかもしれない。

「それも見栄っぱりだからこその行動ですね。苦手なことを指摘されて顔をつぶされたくないという気持ちの表れです。男性はもっと、できないことはできないと認めていいと思います。でも、その一方で、女性にも男性の家事スキルの低さをもっと理解して欲しいですね。自分と同じレベルだと思って指摘することで、男性にショックを与えてしまいかねないのです」

例えば、新入社員の時に、先輩から「あなた、こんなこともできないの?」といわれてショックを受けた経験がある人もいるだろう。田中さんは、男性への対応もこれと同じで、夫が「家事1年生」であることを理解し、「新しいアルバイトに仕事を一から教える」くらいの広い心で接してほしいと語る。

もうひとつ、男性へのコミュニケーションの仕方で心がけるといいのは「男性に通じやすい話し方で話すこと」だという。

「男性の場合、朝から晩まで仕事のことだけを考えてきたような人が多いわけですから、仕事上のコミュニケーションのしかたには慣れています。そこで、『この汚れが気に入らないのよ』とか『私だって毎日大変なんだから、もっとやってよ!』というのではなく、なるべく論理的に話すことが大切です」

「例えば、『今日はわが家の“家事分担の不均衡”について話し合いたいと思います』とか『今日はわが家の家事分担を“見える化”したいと思います』というふうに、会議を始めるような態度で切り出してみる。感情的に伝えるのではなく、『これは提案なんですよ』というスタンスで話してあげたほうが、男性にとってはわかりやすいのではないかと思いますね」

たしかに男性は、女性が感情的に話していると思った時点で、聞く耳を持たなくなる場合もあるが、これならお互い冷静に話し合うことができそうだ。

仕事では、理不尽な相手に対しても、冷静に思いやりを持って対処できる人は多いと思うが、夫婦になると甘えもあり、どうしても感情的になってしまう。しかし、この先長く続く子育て生活の中では、つねに歩み寄る気持ちを持ってコミュニケーションを取ることが、夫婦で働きながら家事育児をするコツかもしれない。

(相馬由子)

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79年に米ブラウン大を卒業。外資系生活用品メーカーに就職するが1年足らずで退社。81年からNHKで英語放送のアナウンサーなどを務める。その後、NHKのBS でニューヨーク駐在キャスターとなり88年に帰国。BS「ワールドニュース」のキャスターを経て、93年より『クローズアップ現代』のスタートからキャスターとなり、2016年3月まで23年間、複雑化する現代の出来事に迫る様々なテーマを取り上げた。長く報道の一線で活躍し、放送ウーマン賞、菊池寛賞、日本記者クラブ賞など受賞。

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