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「女性にもっと選択肢を」CNN上級副社長エレーナ・リー氏が語る、日本の"ウーマノミクス"

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国際ニュース専門テレビ局「CNNインターナショナル」のエレーナ・リー上級副社長兼編集総責任者が8月上旬に来日した。CNNでは8月から9月にかけ、日本の建築や食文化テクノロジーなどを特集する番組を放送する。安倍首相の経済政策「アベノミクス」や2020年東京オリンピックなどで日本への関心が高まっていることが背景にあるようだ。

リー氏は、安倍首相が主宰した「ウーマノミクス」に関するラウンドテーブルにも参加しているが、働く女性の労働環境を改善するためには「政策だけでは足りない。社会の中にあるバイアスや、古い価値観に固執している企業の改善が必要」と語る。

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■「"ウーマノミクス"を、単なるキャッチフレーズで終わらせてはならない」

――リーさんは、アメリカ以外の編集部門のトップとして活躍されています。CNNで約20年ほど働いているとのことですが、CNNは非常に働きやすい職場ということでしょうか?

私が働いているメディアの世界は、男女の性差や年齢の差などは関係なく、ダイバーシティ(多様性)が大事にされる、非常にパワフルな環境です。

日本では今「ウーマノミクス」という言葉がありますが、この言葉が日本の古い企業体質を変えてくれる言葉になることを願っています。女性の活躍推進や社会進出がフォーカスされているのは、良い傾向だと思います。そして、是非これが続いていってほしい。単なるキャッチフレーズではなく、政策の中に取り込まれていくことを期待しています。

――たしかに、安倍首相は女性の活躍推進による「ウーマノミクス」の推進を提唱しています。その一方で、企業の経営層に就いている女性の数は少ないと言われます。

この問題をお話するには時間が足りないですね(笑)。確かに「ウーマノミクス」という言葉はありますが、この取り組みが成功しているか否かを判断するのは、まだ早いと思います。それ自体は議論のポイントではないと思います。

私が心に留めているのは、終着点を見るばかりではなく、その過程を見なければいけないということです。「ウーマノミクス」に関して言えば、安倍政権が女性の社会進出に関する問題意識を持てたことが大事ではないでしょうか。「女性の活用が経済の役に立つ。 GDPが13%近く向上する」という話が出るなどしていますが、このように社会の関心を呼び起こしたこと自体を評価するべきだと思います。

「ウーマノミクス」のような課題は、「タイタニック」のような大きな船を舵取りするのと同じで、数日で解決できるようなものではありません。政治家や政府が変革するというだけでなく、やはり社会全体で考えなければいけません。そうすると、バイアスを持っている人たちの意識が変わらなければならない。安倍首相や、政府の政策だけでなく、男女ともに社会全体が変わっていけなければならないと思います。

仮に「ウーマノミクス」のゴールの一つが、女性を職場環境のトップ層に組み込むことだとしても、現実には入社してすぐ部長や課長、マネジメントに関わる職位になるわけではありません。フルタイムの一般社員として入社し、段々と昇進していくわけです。なので、一度に急増するわけではなく、徐々に層が厚くなっていくということを念頭に置かなければならないと思います。

また「社会が女性の活躍を支えなければならない」とは申し上げましたが、キャリア形成の過程で「家庭を持ちたい」と思う人もいると思います。家庭を持った後に元の職場に戻ってこれるような構造や社会のサポートが、まだ確立できていないのではと思います。

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■「古い価値観に固執している企業は、いずれ低迷する」

――リーさんが働くCNNという会社は、働く女性にとっては働きやすい会社なのでしょうか。

こういったインタビューを受ける度に、私が当たり前だと思ってきたCNNのポリシーがどれだけありがたいか気付かされます(笑)。

CNNという会社が大事にしているのは「フレキシビリティ」です。例えば「給料は減らしてもらって良いから休みを増やしてほしい」という願いにも対応するシステムもあります。私の部下は多くが女性なのですが、「(結婚や育児で)休職した後にもう一度復職したい」という人もいますし、実際に休職期間など無かったかのように以前と同じ待遇ですぐに復帰できます。

それは、従業員個人に力があるということもありますが、弊社の企業文化そのものにも力があるのだと思います。育休だけではなく、介護のための休暇も認められていますよ。

――ただ、制度の変更は、なかなか一朝一夕には難しいですね。

ハフィントンポストの創業者でもあるアリアナ・ハフィントン氏は、そのロールモデルだと思いますよ。彼女は様々なバックグラウンドがありつつ、子供を育て、「ハフィントンポスト」というメディア企業を発展させました。こういった成功例は「人」だけでなく、「会社」ベースでも必要だと思います。

育休や介護休暇など新しい制度を取り入れてきたことは、企業のリーダーにとって大変だったと思います。企業のリーダーは非常に大変だと思います。でも事実、新しい制度を取り入れようとしたり、実際に取り入れる企業があるわけですよね。数は少ないかもしれませんが、育休や介護休暇を導入しても、利益を得て、輝かしい実績を上げている企業もあります。

メディアはそういう企業をもっと紹介しないといけないのではないでしょうか。そうすることで、社会のバイアスをもっともっと変えていかなければいけないと思います。

古い価値観に固執している企業というのは、やはりどんどん凋落・低迷していくことになると思います。

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■「ウーマノミクス」の成功には、メディアの役割が重要

――安倍首相が主宰した「ウーマノミクス」に関するラウンドテーブルでは、どんな議論がありましたか。

グループワークのような形で議論が行われました。ラウンドテーブルは、提言を出す役割をもっていました。アメリカのキャロライン・ケネディ駐日大使も参加されていました。

安倍首相も各テーブルを回り、意見交換をしていました。最初と最後だけ顔を出すという形式的なものではなく、しっかりと各グループの意見を聞いていたことが印象に残っています。

私たちはメディアという立場から、「ウーマノミクス」という課題にどうやってインパクトを与えられるかという議論になりました。いくら政策で「女性の活用を」と叫んだところで、それだけではいけないと思いますので。

例えば一つ例をあげると、アニメーションで女性のキャラクターが出てくることも、ある種の「女性の活躍」と言えると思います。例えば、女の子が活躍するアニメ「パワーパフガールズ」のようなものですね。

また韓国には、有名なサッカー選手や俳優が、子育てに奮闘する様子を伝える番組があります。この番組が放送されたことで、「男の人には育児ができない」という昔の価値観が覆りました。男性にとって育児の時間というのは、仕事の時間と同じように大切だということにも気付かされます。

「ウーマノミクス」のためには、政策だけではなく感情やマインドセットの変革を促さなければいけない。そういったことがメディアの役割ではないかと提言しました。

女性のリーダーシップの問題に関して言えば、100%解決できているという国は世界中どこにもないわけです。まだまだ問題視されており、努力を重ねているという状況です。日本も、ようやく政策として始まり、道のりは遠いですが、いずれは上手くいくという道が出来ていると思います。そういった傾向は進んでいると思います。

ラウンドテーブルでは、「母親が、子供の学校での三者面談を平日の午後2時に設定された」という例も話に出ました。昼休みではないので仕事は抜けられない。「午後2時に学校に来るか、来ないか」という選択肢だけだった。本来ならば、曜日や時間の選択肢を増やすことや、配偶者や祖父母が代わりに出席しても良いという体制を整えることなどがあっても良いと思います。

女性にはもっと「選択する権利」がなければなりません。仕事をする権利もあれば、したくないという権利もあると思います。ただ、仕事をしたい時に、それを選べるチャンスを作ってあげることが必要だと思います。男性に比べ、女性の選択肢は限られているかと思います。ですが、大切なことは、実際の現場の中に居続けることだと思います。

エレーナ・リー氏

CNNインターナショナル上級副社長兼編集総責任者。アメリカのジョージタウン大卒、ニューヨーク大大学院修了。CNNフィナンシャルニュース(CNN fn)からキャリアをスタート。2001年からCNNインターナショナルに移り、香港を拠点に活躍。現在はアメリカ以外の編集部門のトップを務め、CNNインターナショナルの企画番組の制作を総括する。