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「人を好きになる感覚」はこうしてよみがえる――結婚はビジネスのマッチングではない

2017年04月10日 21時51分 JST | 更新 2017年04月11日 20時53分 JST

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経営者同士の2人の結婚観は?(イラスト:堀江篤史)

年を取ると友人をつくるのが難しくなる


2017-03-21-1490084511-1369241-tklogo1000320.jpg 本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

いきなり余談になるが、このところ「異性を好きになる力」について考えている。

本連載を含めて、30代40代の独身男女を取材していると、恋人がいないどころか「気になる人すらいない」と聞くことが多いからだ。「人を好きになる感情を忘れかけている」と筆者に告白する人もいる。

人を好きになるにはエネルギーが必要だ。10代20代の頃と比較すれば、われわれ晩婚さんには生物としての元気はそれほどない。仕事や生活での責任も増している。どんなときも恋に落ちるような状況ではないのだ。

だからこそ、心身をできるだけ健康に保つように意識して、「自分はいい感じだ」という自信を持たねばならない。この自己肯定感のようなものが他人を愛する力の根源にあると筆者は思う。

同僚との人間関係がすごく悪いとき、忙しすぎて睡眠不足だったり栄養が偏りすぎていたりするとき、別れた恋人への未練や恨みが残っているとき。自分自身も嫌いになってしまいがちだ。そういう状況では誰かを真正面から愛しにくいし、不誠実な人をあえて好きになってしまったりする。

運と努力で状況を変えて、心身が健やかになってくると、内臓あたりから勢いが生まれる。「自分には欠点もあるけれど、それなりにカッコいい・美しい」と楽しく感じている。すると、なぜか周囲の人も魅力的に見えて、もっと深くかかわりたくなるのだ。出会った異性の5人に1人ぐらいの割合で、「すてきだな。ゆっくりデートしてみたい」と思えたりする。その先に、「一緒に住みたい。家族になりたい」という感情が生まれることもある。

本題に入ろう。東京・吉祥寺のビジネスホテル内にあるレストランに来てくれたのは、自転車店を経営する高木俊之さん(仮名、47歳)と、接骨院を経営する秀美さん(仮名、46歳)のご夫婦。有料のネット婚活サービスを利用して昨年に出会い、すぐに交際を始め、今年の1月1日に入籍をした。晩婚さんにして新婚さんである。

インタビューに名乗りを上げてくれたのは秀美さんのほうだが、まずは俊之さんの話を聞きたい。3年ほど前にネット婚活を始めるまでは結婚願望はなかったのだろうか。

相手から頼られすぎる結婚は向いていない

「僕は高校時代まで自転車のクラブチームに入っていました。そんなに速いわけではなかったので、高校を卒業してからは運送業の事務職をしていたのですが、どうしても自転車に携わる仕事がしたくて……。25歳のときに今の自転車店の親会社に入って、37歳までは修業をさせてもらっていました。みんな自転車に没頭しているので、30代で独身の人はゴロゴロいます。僕も結婚には関心が向きませんでした」

ちょっと恥ずかしそうに、でもゆっくりと自分の言葉で話してくれる俊之さん。ときどき無邪気な笑顔を浮かべる。自転車にはあまり興味がない筆者でも「友達になりたいな」という気持ちにさせてくれる穏やかな男性だ。そんな俊之さんを仲間が放っておかなかった。

「のれん分けで開業させてもらうとき、みんなからアドバイスされました。店を開くならば結婚したほうがいい、パートナーがいたほうが生活がスムーズになる、と。何人かの女性を紹介してもらって会いましたが、仕事が忙しかったし楽しかったので本腰を入れることはありませんでした」

筆者も個人事業主なので、俊之さんが仲間から受けたアドバイスには納得する。配偶者に仕事を手伝ってもらうという意味ではない。仕事の中心である原稿書きは1人きりで行うため、生活ぐらいは誰かと共同作業をしたいのだ。妻が料理をしている間に、筆者が乾いた洗濯物を畳んだりテーブルをふいて食器を並べたりする。そして、出来たてのつまみでビールを一緒に飲む。お互いの仕事状況を話したりして、ちょっとした苦労は笑い飛ばす。食後は焼酎やウイスキーに切り替えて、録画してあるテレビ番組を一緒に見て、あまり遅くならないうちに寝てしまう。自然と規則正しくなるし、不潔になりすぎない。確かに生活が「スムーズ」になるのだ。

俊之さんが本気で婚活を始めたのは3年ほど前。仲間から独身者を紹介してもらうにも限度があり、「年齢も年齢だから本腰を入れよう。ネット婚活もありかもしれない」と感じたと振り返る。

当時、俊之さんは44歳。本心から結婚したくなる年齢は人それぞれなのだ。仕事が落ち着き、自活できていると感じたときに初めて、人を好きになる余裕が生まれることもある。ただし、その段階では相手にも自立心と余裕を求めたくなるのも人情だ。

「ネット婚活でもいろんな人と会いましたが、何か違うなと思っていました。僕は相手から頼られすぎる結婚には向いていません。僕自身も好きな自転車に没頭しているので、相手も自立していて好きな仕事や趣味がある人だと助かります」

秀美さんとの出会いも、有料のネット婚活サービスを通じたものだった。何度かメールでやり取りをして、実際にお見合いをした。初対面の印象は「お節介な人だな」だったという。

「若い頃から自転車に乗りすぎていたからか、僕は股関節が変になっているらしいんです。接骨院を経営している妻は歩き方を見ればわかるらしくて、改善法までその場で伝授してくれました(笑)。僕も自転車を見ればどんなふうに使われてきたのかすぐにわかるので、通じるものがあります。それにしても世話好きでお節介な人だなとは思いましたよ。もちろん、いい意味ですけどね」

レストランのテーブル席で俊之さんの隣に座り、彼が訥々(とつとつ)と話す様子を優しい目で見ていた秀美さん。「いい意味でなかったら許せん!」と笑いながら口を挟んだ。今度は秀美さんの話を聞こう。

凝り性で責任感が強い秀美さん

秀美さんによれば、2人の経歴は似ている。挫折や転職、10年ほどの修業時代、そして開業。業種は違っても、認め合い許し合える要素が多いのだ。自営業者同士なので、顧客との関係性やおカネの使い方などにも「わかる」点が少なくない。

「大学を卒業してから出版社の編集部に勤めて、いずれは自分の編集会社を作ろうとあがいていました。でも、うまくいかなかった。そんなときに阪神大震災が起きて、お節介したいけれど何もできない自分に気づいたんです。独立のために貯めていたおカネをはたいて専門学校に入り、柔道整復師の資格を取りました」

凝り性で責任感が強い秀美さん。整形外科のリハビリ室などで修業をする一方で、介護業界との連携の必要性も感じて、ケアマネジャーの資格も取った。

「必死で働いていると、育ててくれる人が現れるんですね。そういう人は実力があるので、難しい患者さんや利用者さんを担当することが多いんです。私にも実践の場を与えてくれました。大変だけどすごく力がつきます」

現場での笑い話がある。裕福なお年寄りから「うちの息子はどうか」と声がかかることが多いのだ。治療や介護に出向いた際、離れて暮らしているはずの息子がその家にいて、強制的にお見合いをさせられたこともある。しかし、秀美さんはそれとなく断った。

「外では働かなくていいので自分の世話を焼いてくれ、ということですよね。おばあちゃんたちは本当にしたたかです(笑)。でも、おカネと引き換えに自由がなくなってしまいます。人は自分の足で立たなくちゃダメですよ」

8年前に東京の郊外で開業した秀美さん。地域の人たちや患者との関係を重視しているため、結婚によって廃業や移転をするつもりは毛頭ない。仕事はそれぞれ頑張り、家では「バカなことを言って笑い合う」パートナーが欲しかったのだ。

ただし、不特定多数の人が参加するネット婚活を始めて、希望とは異なる男性からアプローチを受けることが多かった。接骨院経営というプロフィールが影響しているようだ。

「公務員の人からは『仕事を辞めて学校に行きたいのでその期間は食わせてほしい』と頼まれたことがあります。薬剤師の男性からは、結婚してデイサービスの事業を一緒にやろうと提案されました。それって結婚ではなくビジネスの話ですよね」

だからこそ、ネット婚活を始めて7カ月目に出会った俊之さんに対しては「この人は、とてもいい!」とすぐに思った。

「青空が似合うのんきな自転車屋の彼。気持ちのいい出会いでした」

お互いに誘い合って食事に行くようになり、カレー好きの俊之さんの提案で激辛カレーを一緒に食べた。辛さが後から込み上げてきて苦しんでいる秀美さんを見て、俊之さんは腹を抱えて笑った。デートの楽しさに年齢は関係ないのだ。

「ただいま」と帰ってくる人がいるのは幸せ

「8月に彼のアパートが更新のタイミングだったので、その前に別のところに引っ越して同棲し、年明けに入籍しました。彼の自転車屋と私の接骨院は東京の反対側なので場所は少し迷いましたが、結婚生活は今のところうまくやっています」

新居は中間地点からやや秀美さんの接骨院寄りにある。俊之さんは1時間以上かけて自分の店まで通勤しているが、親身になってくれる既婚の仲間からは再び忠告をもらっている。

「奥さんの店は動かせないのだろう。だったら、自分の店を移転しろ。せっかく結婚したんだから、店よりも奥さんとの生活時間を大切にしたほうがいい」

接骨院の患者は体が不自由な老人も多いため地域密着にならざるをえない。一方で、自転車店のお客さんは基本的に元気だ。俊之さんの店には「競技志向」の客も少なくない。自転車の品ぞろえとサービス次第では、店を移転しても自転車で来てくれる可能性もある。俊之さんは今、店の移転をのんびりと検討中だ。

そんな俊之さんを秀美さんはうれしそうに見守っている。「料理は好きじゃない」と言いつつ、俊之さんの健康と節約のために毎朝お弁当を作っているという。

「なんだかんだと文句を言うことはありますが、『ただいま』と帰ってくる人がいるのは幸せですね。私がつらいときは、彼がご飯を作ってくれます。長く使っていて愛着があった自転車も彼が直してくれました。どの自転車屋でも修理を断られたので、うれしいです……」

フレームさえしっかりしていれば部品を取り換えれば使える、新車を買ったほうが安くつくけれど愛着があるなら仕方ない、自分が持っている部品も適当にはめてしまった、と俊之さんは平然と語る。こんな伴侶がいたら、誇らしくて頼もしいだろう。ここで秀美さんは気を取り直したような表情で俊之さんにくぎを刺した。

「修理の費用はちゃんと請求してね。仕事は仕事だから!」

秀美さんは俊之さんの体をプロの目線でメンテナンスしてあげているはずだ。ならば、自分の自転車ぐらいはいくらでも無料で直してもらっていいのではないだろうか。

2人の結婚生活は始まったばかり。それぞれの自立を前提に、部分的には甘え合い支え合える関係性が深まっていくに違いない。

(大宮 冬洋 :ライター)

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