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佐川急便やヤフーが進める「週休3日」の盲点 利点も大きいが過重労働や待遇悪化も

2017年06月19日 23時52分 JST
L26 via wikipedia / Bloomberg via Getty Images

「週休3日」が話題になっているが…

佐川急便、ヤフーなどの有名企業を含め、さまざまな企業で週休3日の正社員制度を導入、あるいは導入を検討しようとしていることが話題になっている。

2017-03-21-1490084511-1369241-tklogo1000320.jpg 本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

「週休3日」という言葉だけが独り歩きしがちだが、一社一社を分析していくと、人手の確保、ワークライフバランスの実現など、導入に踏み切る目的はさまざまだ。「週休3日の正社員」には、会社ごとに異なる特徴がある。ユニクロ(ファーストリテイリング)の場合は、地域限定正社員向けの制度として導入されているようだ。

まず、私なりの整理ではあるが、週休3日の正社員は、次の2タイプに分けられる。

(1)時間配分変更タイプ

このタイプの特徴は、週4日の出勤日は、週休2日制の正社員よりも長く働く。1週間で見た場合の労働時間は変わらないため、賃金などの待遇にも差がない。

たとえば、佐川急便の場合は、「週休3日、1日の所定労働時間は10時間」という条件で求人をしているので、1週間の労働時間は40時間となる。ユニクロの場合も同様に「週休3日、1日の所定労働時間は10時間」だが、週末が繁忙期であることを踏まえ、週休3日を選択する場合は、休日は平日で3日間取得することが条件となっている。

「時間配分変更タイプ」は、1週間の労働時間の総枠は通常の正社員と同じなので、労働時間の短縮につながるものではない。しかし、通勤の負担が1日分減ることや、育児・介護・自己啓発・ボランティアなどに「丸1日」充てられる日が増えることで、人によってはワークライフバランスの改善にはつながるであろう。会社としても求人への応募者の幅が広がることを期待できる。

(2)時短タイプ

このタイプは所定出勤日が1日減っても、出勤日1日当たりの所定労働時間は増えない。その代わり、基本給や賞与なども出勤日数に比例して削られる。

日本におけるこのタイプの先駆者は、日本IBMであろう。日本IBMでは、今から10年以上前の2004年から、週休3日はもちろん、週休4日さえも認める短時間勤務制度を導入している。制度を利用するための理由は原則問わないということで、育児・介護はもちろんのこと、弁理士などの難関資格に挑戦する勉強時間の確保のため、この制度を利用した社員もいたそうだ。

ヤフーは週休3日勤務制度を導入しているが…

直近でこのタイプの週休3日の正社員制度導入で話題になったのはヤフーである。ヤフーは「えらべる勤務制度」として、育児や介護を行っている一定の基準を満たす社員からの申請により、週休3日での勤務を選べる制度を平成29年4月1日から導入すると発表した。賃金に関しては、「制度利用により取得した休暇分は無給」ということである。

ただ、私が若干の違和感を持ったのは、「制度利用により取得した休暇分は無給」という一文である。ヤフーのプレスリリース原文のままの引用であるが、「休日」ではなく「休暇」という表現を使っていることに対してだ。

法的に「休暇」とは、「本来は出勤義務があるが、出勤勤務を免除された日」という意味である。これに対し「休日」とは「初めから出社義務が課されていない日」という意味である。

この定義は、正確に覚えておくと労働基準法に関してさまざまな場面で理解が進む。少し話がそれてしまうが、「有給休暇」は、本来は出勤義務がある日に賃金をもらって休むのだから「休暇」という文言を使うのである。「休日出勤」は、出社義務のない日であるにもかかわらず出社をしなければならないから「休日」という文言を使う。

話を戻すと、ヤフーは「休暇」という表現を使っているので、「えらべる勤務制度」で週休3日を選択しても、3日間の休日が与えられるのではなく、法的には「2日の休日+1日の休暇」とも解釈でき、厳密な意味で週休3日制を導入したと言い切れないかもしれない。だが、労働時間短縮を実現するための大きな布石であることは間違いないだろう。

一方、週休3日を導入した場合、それぞれのタイプによって課題も出てくる。

「時間配分変更タイプ」については、社員の健康管理と残業代計算が課題となる。佐川急便は、週休3日の正社員には休日の副業も認めるということであるが、佐川急便の勤務だけで10時間×4日=40時間となるので、すでに法定の労働時間は本業で使い切っているということになる。

社員が副業を自営業として行うなら話は別だが、副業を他社の労働者として行う場合は、労働基準法上、両者の労働時間は通算されるので、副業側はすべて時間外労働ということになってしまう。

この場合、佐川急便が当該時間外労働の管理義務を負っているわけではないが、社外でどれくらい働いているのかということを申告させ、労働時間が過剰になる場合は、副業の時間を抑えるように助言するなど、社員が健康を壊さないようにするための対応が必要だと思われる。

そして、副業側の会社は、佐川急便の週休3日制の正社員で働いている人を新たに雇用する場合には、すべての労働時間に対し割増賃金を払わなければならないので、この点には気をつけてほしい。

なお、すでに副業を持っている人が、週休3日の正社員として佐川急便に入社してきた場合には、逆に佐川急便側が割増賃金を支払わなければならない可能性がある。

このように「時間配分変更タイプ」は、週休3日といっても、単なる労働時間の配分の変更にすぎないということを意識してほしい。使い方を間違えると、むしろサービス残業や過重労働の温床になってしまう可能性がある。

生活が成り立たないという懸念もある

次に「時短タイプ」は、金銭的な理由によって利用が進まない可能性がある。いくら休日が増えても、その分賃金が減ってしまうとなると、生活が成り立たないという懸念で制度利用が進まないおそれがある。

この点、国の制度による支援が有効かもしれない。現在、女性社員が育児休業を取得するのは当たり前の風景になり、少しずつではあるが、男性の育児休業取得も増えつつある。

多くの人が育児休業を取得できるのは、休業補償として「育児休業給付金」が給付されたり、また、育児休業の取得期間中は労使共に社会保険料が免除されたりなど、公的な支援制度が整っているからだ。育児休業を取得した社員を職場復帰させた場合、男性に育児休業を取得させた場合などに企業に対して支払われる助成金メニューも充実している。

これと同様に、育児や介護のために週休3日で働くことになり、収入が減少した社員に対する給付金や、週休3日の正社員制度を導入した企業に助成金を出すなど、公的支援制度を充実させれば、導入する企業や利用する社員も増えそうだ。

また、金銭的な不安はなくとも、責任感が強い人は「週休3日になったら仕事が回らない」とか「顧客や同僚に迷惑をかけてしまう」というような理由で、週休3日の制度の利用に踏み切れないかもしれない。会社側は、形式的に「週休3日の正社員制度」を導入するだけではなく、安心して制度が利用できるような社内の業務フローやシステムの整備、あるいは代替要員の配置なども併せて検討すべきであろう。

所定出勤日が1日減っても、出勤日当たりの労働時間が変わらずに基本給や賞与などの待遇は週休2日のときと同等の条件が維持される仕組みが導入できれば、理想的だ。

ただし、現時点においての実例として、週休2日と同等の賃金水準を維持したまま、全社的に週休3日を実現できた会社を私は知らない。いったん会社全体を週休3日にしてしまうと、簡単には後戻りができないので、導入には相当な覚悟が必要になる。

万が一、うまくいかなくて週休2日に戻す場合、「労働条件の不利益変更」の問題にぶつかることになる。週休3日を2日に戻す場合には、労働契約法の定めにより、原則として全社員の同意を得なければならない。

もし、社員の同意を得ないまま、一度、完全な週休3日制を導入した会社が、独断で週休2日に戻してしまうと、万が一裁判沙汰になった場合、「就業規則の不利益変更は無効なので、週5日の出勤日のうち、1日は休日出勤だった」という判決が出て、多額の休日出勤手当を負担しなければならなくなってしまうリスクがある。

本当の意味での「週休3日」

昨今はIT技術が急速に進歩しているので、業務の効率化や、人力で行っていた仕事の自動化などを通じて生産性を高め、本当の意味での「週休3日」を実現することが可能な時代が来ることを期待したいものである。

結局のところ、週休3日の正社員制度は、単純に「1日休みが増えるからラッキー」という話ではないし、会社としても、コンプライアンスや労務管理の観点から慎重な対応が求められる制度であるということがわかるはずだ。

会社によって事情はさまざまなので、「今はやりの人事制度だから」ということで、安易に週休3日制の導入に走るのは危険である。「自社の社員が何を望んでいるのか」「どうすれば働きやすくなると思っているのか」を見極めるためにアンケートを取ったり、個別のヒアリング面談をしたりすることなどから始め、自社に合った働き方を見つけていってほしい。

社内調査を踏まえたうえで、週休3日の正社員制度を導入する方針になったとしても、「単純に休日を3日間にする」というだけではまだ短絡的である。会社の方針や社員のニーズを具体的に酌み取ることができれば、たとえば「仕事が終わっていれば、出社を免除する」「自己啓発の目的があり、上司が承認したら休んでよい」「まずは隔週で週休3日にしてみる」といったような、自社最適にアレンジされた週休3日制のアイデアも、いろいろと出てくることが望ましい。

(榊 裕葵:社会保険労務士/CFP)

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