特集

「痴漢」で夫や息子が逮捕されたら? 妻や母、加害者家族は性暴力にどう向き合えばいいのか

親の「育て方に原因があった」のか? 「夫を性的に満足させていなかった」妻にも責任があるのか?

2017年10月21日 10時42分 JST | 更新 2017年10月21日 19時15分 JST
Mustang_79 via Getty Images
(写真はイメージ)

夫や息子がある日突然、「痴漢」として逮捕されたら?

「『何かの間違いだ』『冤罪に決まっている』。皆さん、最初はそう思うんです」

『男が痴漢になる理由』(イーストプレス)の著者であり、日本初の社会内での性犯罪再発防止プログラムを実践している榎本クリニック・精神保健福祉部長の斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)は、"加害者家族"となってしまった人々の戸惑いについてそう語る。

親の「育て方に原因があった」のか? それとも「夫を性的に満足させていなかった」妻にも責任があるのか? 性暴力の加害者家族は、誰しも自分に非があったのではないかと思い悩むだろう。

榎本クリニックでは2007年、性犯罪の問題に特化した「加害者家族支援グループ」を立ち上げ、「妻の会」「母の会」「父親の会」を独立してグループ運営を行うことで、被害者としての加害者家族支援を続けている。これまで語られることの少なかった痴漢の加害者家族について、斉藤氏に話を聞いた。

Kaori Sasagawa

第1話 》「男が痴漢になる理由」なぜ女性も知っておくべきなのか。満員電車でくり返される性暴力

第2話 》なぜ痴漢をやめられないのか。性暴力の本質は、"性欲"ではない。

■「痴漢さえしなければいい夫」というジレンマ

――夫や息子が痴漢として逮捕された場合、家族はどのような反応をするのでしょう。

ほとんどの加害者家族は「まさか、うちの人が」と驚き、混乱し、冤罪をまず疑います。もちろん冤罪の場合も稀にあるかもしれませんが、取り調べが進むにつれて実は過去に何回も痴漢を行っていた、ということが明らかになると、家族は絶望の淵に突き落とされます。

とくに妻は、苦しい立場に追い込まれます。多くの痴漢は家庭ではよき夫であり、よき父として振る舞っているため、すぐには現実を受け入れられません。

さらに夫が痴漢として逮捕されたことを夫の親に相談すると、「妻としてのケアが足りなかったんじゃないの?」「あなたが性的に満足させていなかったせいでは」と妻が暗に責められることすらあります。

妻側の親はまだ味方してくれるものの、義理の親から理不尽な対応をされたというケースは多いです。ひどい例を挙げると義母から「私も夫の浮気に耐えてきたんだから、あなたもこれぐらいのことは耐えなさい」と言われた人もいました。もはやDVの二次被害のようなものです。

――痴漢加害者を対象とした再発防止プログラムの受講者は、30〜40代が67%を占めています。幼い子どもを持つ父親も多いのでは。

自らが父親である男性も相当数含まれていますね。だからこそ、妻はすぐに離婚という選択をできない。痴漢の多くは、子どもにとっては唯一無二のいいお父さんなんですよ。

「痴漢」以外の部分を見ると、仕事も真面目にするし夫として父親として悪くない。となると妻さえ口をつぐんでいれば、この先も家庭を守れるかもしれない。妻ひとりの判断で子どもから父親を奪ってしまっていいのだろうか、と悩んでしまうんです。

そういった背景から、子どもがいる家庭は離婚を選択しないケースが多い。けれども同時に、妻のなかには夫が自分と同じ女性に対してひどい性暴力をしたという事実に対する、生理的な嫌悪感や怒りが湧き上がってくる。痴漢加害者の妻は、二重、三重の苦しみに挟まれてしまうのです。これを加害者家族におけるダブルバインド現象といいます。

■加害者の母親を苦しめる「育て方のせい」という不安

――加害者家族への支援は、具体的にどのように行われるのでしょうか。

まずは、夫や父親のくり返す性犯罪は家族に責任はないため、「加害者の家族もまた被害者である」という前提からスタートします。

これは被害者支援も同じで、「被害者となったあなたは悪くない、あなた自身に落ち度はない」というところから始めます。痴漢の場合も、妻のケアや夫婦間のセックスレスの責任でも、母親の育て方が悪いわけではない、ということを最初に伝えます。

そして、裁判でも情状証人に立つのは、加害者の父親よりも圧倒的に母親が多いです。加害者の妻が自分を責めるのと同様に、母親も自分の育て方を振り返って自責の念に駆られてしまいます。加害者の父親が、妻を無意識的に責めてしまうケースも見られます。

――父親が「母親であるお前の育て方が悪かったんじゃないか」と?

そうです。言葉で直接そうとは言わなくても、「俺は仕事をしてきた。申し訳ないが子育てには関われなかった」と仕事を免罪符にしながら、その言葉の裏に「育児は母親の責任だ」というメッセージを言外で発する父親もいますし、社会から母親はそういう目で見られてしまうという苦しさもあります。

ただし、加害者の生育歴に問題があったというケースは実は少数派なんです。痴漢加害者のほとんどは、ごく普通の家庭で育てられている。

ですから、加害者の母親同士が集まる「母の会」では、それぞれの母親が自身の子育てを振り返りながら、また他の母親の子育ての話を聞きながら「息子の犯罪は育て方のせいじゃなかったんだ。痴漢とは学習された行動なんだ」と子育て自己責任論から解放される場でもあるんです。そうなると母親はひとりの男性として、息子と向き合えるようになります。

――息子の課題を、自分の課題と分離できるようになるんですね。

そうです。これは妻も同じで、混乱、絶望、怒りを経た次のステップとして、夫の問題と自分の問題を分けて考えられるようになる時期が訪れます。現実を受け止めて、今後の人生をどう歩んでいくのか、ここでようやく決められるようになる。ここで初めて離婚を選ぶ女性もいます。また、婚姻関係を継続する夫婦もいる。ここまでだいたい1年くらいはかかります。

Kaori Sasagawa

■満員電車は痴漢を生み出す"異様な乗り物"

――痴漢は、被害者が声を挙げづらい犯罪です。被害者家族もつらい思いをします。何か、痴漢を減らすために社会の仕組みの部分で変えられることはありますか。

痴漢発生の最多場所である、満員電車を分散させることは重要だと思います。

普段の生活で冷静に考えると、満員電車って異様な乗り物じゃないですか。名前も知らない見知らぬ男女が体を密着させて、皆が無表情で運ばれていく。あの異様な状況が、痴漢行為のトリガー(引き金)になっていることは否定できません。

あとはイギリスに事例がありますが、すべての車両にバスのブザーのように、痴漢通報ボタンをつけるなどのシステムづくりも有効だと思います。もし間違っていたとしても、ブザーを押した人が責められることはありません。誤報であっても、被害女性が責められない構造にしないといけません。

――女性が自衛のためにできることはありますか。

私はそもそも女性に自衛を求めるということ自体が、ちょっと発想としておかしいと思っています。

ただ、性犯罪から身を守るために少しでもできることがあるか、という意味でなら、夜道でスマホを見ながら、またはイヤホンをしながら歩くのはやめたほうが安全でしょう。音楽を聴きながら、スマホを見ながら歩いていた女性が、すれ違いざまに触られたり、抱きつかれたりという被害は非常に多いですし、加害者はそのような女性を狙っています。

また、長い目で考えるのなら、加害者の考え方の根底には、日本社会に根強く残る「男は女より上である」という男尊女卑的価値観が大きく影響しているので、親から子へそのような偏った価値観を刷り込まないこと。世代間で連鎖させないことも、結果的には痴漢撲滅のための素地になると思います。

――「自分には関係ない」と無関心の男性も知っておくべきことはあるのでしょうか。

私も含め、すべての男性には"加害者性"が潜在しています。痴漢が問題になると必ずといっていいほど「でも冤罪があるだろう」と声高に叫ぶ男性たちが出てきますが、「痴漢問題」と「痴漢冤罪問題」は、まったくの別物であり議論も分けてするべきです。

痴漢冤罪ばかりを強く主張する男性たちの気持ちは分かりますが、「俺は違う」と主張するあまり、過剰に反応して見たくない現実から目を背けているだけではないでしょうか。男性側がそのような態度では、いつまで経っても痴漢はなくなりません。

――社会から痴漢をなくしていくためには。

性依存症という病理としての痴漢の側面を踏まえ、かつ行為責任があることも理解をした上で、「それでも痴漢は専門治療によってやめることができる」ということを社会全体で認識していく。それが痴漢を許さない社会に向けての最初の一歩だと思います。

第1話 》「男が痴漢になる理由」なぜ女性も知っておくべきなのか。満員電車でくり返される性暴力

第2話 》なぜ痴漢をやめられないのか。性暴力の本質は、"性欲"ではない。

...

斉藤章佳(さいとう・あきよし)

1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックに精神保健福祉士・社会福祉士としてアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど様々なアディクション問題に携わる。その後、平成28年4月から現職。大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広くマスコミでも度々取り上げられている。痴漢について専門的に書かれた日本初の著書『男が痴漢になる理由』(イーストプレス)をはじめ、共著に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(金剛出版)がある。

(取材・文 阿部花恵

HuffPost Japan

性の被害は長らく、深い沈黙の中に閉じ込められてきました。

セクハラ、レイプ、ナンパ。ちょっとした、"からかい"。オフィス、教室、家庭などで、苦しい思いをしても私たちは声を出せずにいました。

いま、世界中で「Me,too―私も傷ついた」という言葉とともに、被害者が声を上げ始める動きが生まれてきています。

ハフポスト日本版も「Break the Silence―声を上げよう」というプロジェクトを立ち上げ、こうした動きを記事で紹介するほか、みなさんの体験や思いを募集します。もちろん匿名でもかまいません。

一つ一つの声を、確かな変化につなげていきたい。

メールはこちら break@huffingtonpost.jp