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岐路に立つ安倍外交:日露首脳会談の裏側

2017年05月08日 15時07分 JST

abe putin

森友問題、相次ぐ閣僚の失態が続くなか、首相は恒例のゴールデンウィーク中の外遊を行った。最初の訪問先はロシア。昨年12月の日露首脳会談の「成功」を受け、北方領土問題の解決にむけて、会談で合意したことを前に進めるためのものだという。

果たして4月27日のプーチン・安倍会談の結果はどうだったのだろう。官邸はいつものように「成功」という。先の会談で約束された、元島民による墓参のための渡航の拡大、北方領土での日露両国の主権を損なわないかたちでの共同経済活動の実施にむけた協議について、実際にはどのような進捗があったのか。

領土問題についての言及ゼロ

墓参については、ロシアの航空機をチャーターし、根室中標津空港から国後・択捉へと空路で元島民を現地に運ぶ。またそれまで直接入域が難しかった歯舞群島にすぐに入れるように新たなチェックポイントを設置する。共同経済活動については、日露の調査団を組織し、現地で検討を行う。

こう並べると動きが加速化されているようだが、実際に目新しいものはそう多くはない。空路について首相は歴史上初めてと強調するが、飛行機による渡航そのものは2000年に一度なされている。

歯舞群島への直接入域も過去にやったことがあり、今回はそれが復活したものとみなせる。共同経済活動の調査団も、独自のものではなく、あくまでも通常のビザなし渡航に専門家を乗せるだけのものであり(5月25日から始まる北方領土問題対策事業への便乗が有力とされる)、これも旧来の(地震などの)専門家による渡航の枠を大きく越えるものではない。

しかも、航空機チャーターの墓参は「特別墓参」と称され、一度きりに終わる可能性があり、また択捉、国後の墓地は空港から遠い場所にあるものも少なくなく、道も途絶え、今回、行ける場所は限られている。歯舞群島での入境も今年のビザなし渡航の調整のなかで一回のみとされたものであり、首相訪問前に決まっていた。

共同経済活動の調査団に至っては、誰が行くのか、そこで何をするのかもこれからであり、実際、調査をしたからといってそれが具体的な事業に結びつくものではない。

これらのことは、首相訪問前に事務次官級協議ですでに決まったことであり、首相の訪問による成果ではない、という辛口の意見もある。

12月の首脳会談と同様に、北方領土問題そのものについては何も進捗がなかったことは、両首脳の記者会見からも見て取れる。会見では「領土問題の解決」という言葉を一度も使わなかっただけでなく、12月の東京でのそれのように、プーチン大統領は長々と経済について話をし、終わりの方で「平和条約」について一言言及したに過ぎない。

しかも、両国の利益になるかたちで、と言葉を添えた。安倍首相も前回同様、元島民の手紙を引き合いに出し、元島民が飛行機で墓参できるようになったことを自賛し、共同経済活動の実施も前に進んだかのように訴え、成果を強調するばかりで、領土問題についての言及はゼロであった。

表向きは「歓迎」する関係者の思惑

この会談を受け、関係者の多くは「失望」「あきらめ」といった本心を隠しながらも、表向き歓迎の意を示している。そこには関係者ごとの利害対立が見て取れる。

色丹・歯舞の二島返還でさえ絶望的ともいえる現状において、元島民にとって渡航の方法が広がり、島に行きやすくなること自体は歓迎である(もちろん、領土返還が全く触れられていないことには深い憤りをもっている)。

他方で、共同経済活動の進捗には慎重である。というのも、これが進めば、島での残置財産の補償要求(国は決してこれを認めないが、島の返還がなされないのであれば、せめて補償せよ、という元島民にとっての切実な要求)がより難しくなるからだ。

他方で、地元根室は、これまで島とのビジネスや自由往来を禁じられ、地域としての発展を阻害されていたとの想いから、どういうかたちであれ、島とつきあえる共同経済活動は待望の事業である。とはいえ、飛行機による島への渡航については懸念をもつ。島とのビジネスが軌道に乗れば、飛行機は札幌新千歳からダイレクトに島に飛ぶ可能性があるからだ。根室は素通りされ、利益は札幌や道外にもっていかれる。痛し痒しだ。

そのビジネス界の観点からいえば、北方領土問題の解決はそもそも最優先ではないだろう。ロシアと様々な商売で利益があがればいいからだ。元島民を乗せることを口実に飛行機を運航する、自由経済活動を口実にビザなし渡航の枠をビジネスに広げる。その目指す方向はもちろん根室や元島民の利益と必ずしも合致するものではない。

かくて三者三様の立場から、安倍首相のイニシアティブを表向き歓迎しているように見える。だが実態は同床異夢であり、「北方領土問題を動かす」というスローガンの下、自分たちの利益を模索しているというのが実相だろう。

だが肝心の安倍首相のイニシアティブも、すでに述べたように次の展開が見えない。今回のプランがすべて実現できたとしても、持続的にこれが続くものかさえわからず、続いたとしても北方領土問題の解決につながるとは思えないからだ。

この意味で政権にとっての今回の訪露は、「プーチンの一本勝ち」とまで評された12月の首脳会談の失敗を多少なりとも取り戻すためのものであり、先のことはともかく、いま何かが動いている様子を国民に見せるための一種の仕掛けであったとみなせよう。

国際関係における最悪のタイミング

だがこの仕掛けは、国際関係において最悪のタイミングとぶつかった。G7による対露制裁に加わらざるを得なくなったウクライナ問題に加え、これまで比較的齟齬が少なかった問題、とりわけ北朝鮮やシリア問題でも、日露の主張が食い違ってきたからだ。

前者についてはロシアが北朝鮮問題の平和的解決を強調する立場から米国の動きに待ったをかけ、後者に対しては日本が米国のシリア攻撃の立場を支持せざるを得なかった。

今後も米国の立場を支援し続けざるをえない日本にとって、米露関係の昨今の緊張は対ロシア関係の改善に大きな暗雲をもたらそう。近々、トランプ政権の対露政策ブレーンとして、反プーチン強硬派のフィオナ・ヒル(ブルッキングス研究所:著書に「プーチンの世界 『皇帝』になった工作員」)が就任すると言われる。

米露関係はますます悪化する可能性が高く、同盟国日本へのトランプ政権の圧力も強まろう。安倍首相のなりふりかまわない対露接近も、いまや風前の灯と化しつつある。