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日テレのドラマ「明日、ママがいない」 抗議の声を突っ放すだけでは「危機管理」上もマイナス?

2014年01月21日 22時50分 JST | 更新 2014年03月23日 18時12分 JST

別に、ネット右翼の団体や暴力団が抗議しているというわけではないのだ。

抗議の声を上げているのは、事情があって実の親と一緒に暮らすことができない様々な境遇の子どもたちや母親たちの問題と日々、向き合い、考え、悩んでいる医師、施設関係者、里親などの「専門家」たちなのだ。

だったら、もう少しは誠実に話を聞いたらどうだろうか。

そう感じた人も多いだろう。

「赤ちゃんポスト」を設置している熊本の慈恵病院が「明日、ママがいない」で抗議の意思を示したことに対し、1月20日、日本テレビが「放送中止も謝罪もしない」と突っぱねた。

■<日本テレビ>放送中止や謝罪には応じない 病院側に回答(毎日新聞)

同病院は、日本テレビに倫理上の問題について製作段階でどんな議論をしたのかも尋ねていたが、それについての回答はなかったという。記者会見した同病院の蓮田健・産婦人科部長は「一生懸命作られていることは分かるし、素晴らしい部分もあるが、人を傷つけてしまっていると思われる部分があることは残念だ」と述べた。

日本テレビ総合広報部は毎日新聞の取材に対し「このドラマに限らず製作の経緯を説明することはない」と答えた。



出典:ヤフーニュース(国内)毎日新聞 配信

向こうも専門家だ。抗議しているといっても、抗議することで彼らにとっては何か利害につながるわけでなく、純粋に「今、施設や里親の元にいる子どもたち」や「赤ちゃんポストで救われた子どもたち」、あるいは、そうした子ども時代を過ごして今も心の傷を抱える人たちのことを思って、放送内容の見直しを求めている。

そうした専門家の声には、きちんと耳を傾けて解決策を探るのが、大人の対応だと思うが、新聞の報道では、日テレの対応はまったく違った。相手の要望を完全に突っぱねている。記事を読む限り、居丈高で傲慢。とても不誠実な印象だ。

「専門的なご意見ありがとうございます。これからはアドバイスを良く聞いて、より良い番組づくりをしていきます。一緒に協力してください」

どうしてこういうふうに言えなかったのだろう?

実は各テレビ局のコンプライアンス担当の責任者も日テレの姿勢を疑問に感じている人が少なくない。

コンプライアンスは、「法令遵守」とも訳されるが、企業の危機管理上、社員などが法律や倫理に違反しないように徹底させるセクションだ。

テレビ局ならば、番組の制作過程でヤラセやねつ造がないように注意喚起をする。

コンプライアンスの担当者は、そうしたヤラセなどの不祥事が、致命的なダメージを会社に与えないようにする。

会社の危機管理を握る人たちだ。

そのプロの人たちが、今回の日テレの対応をこう表現している。

「あれでは相手の神経を逆なでして、喧嘩を売っているようなもの」

「なぜ、ドラマのチーフ・プロデューサーに電話させるだけという横柄な対応をしてしまったのか。ウチの会社だったら、ああいうことはやらせない。せめて自ら熊本の慈恵病院に赴いて話を聞く、というように、誠意を示すべきだった」

「結論は仮に同じだとしても、もう少し他の言い方があったはず。誠実な態度として受け止められないのでは?」

こんな声が聞こえてくる。

つまり、危機管理上、日テレの反応は誠実なものだとは相手側に受け取られずに、相手の怒りの火を消せなかったばかりが、火の勢いをより強めてしまった、というのだ。

こんな感想もあった。

日テレさんが慈恵病院に「中止はしない」と連絡したことは、この病院や関連施設・団体、そしてこのドラマを好ましく思っていない視聴者に対する宣戦布告のようなもので自ら後には引けない状況を作ってしまったような印象です。

21日に全国の児童養護施設の協議会と里親の団体が記者会見して抗議したのも、その表れということができる。

■【明日、ママがいない】全国の児童養護施設と里親会が日テレに抗議「人間は犬ではない」(ハフィントン・ポスト)

日本テレビのドラマ「明日、ママがいない」の内容が「子供の人権侵害だ」として、全国児童養護施設協議会が1月21日、脚本の変更などを求めて、1月21日に都内で会見を開いた。前日に日本テレビに抗議文を提出したという。同協議会には、国内の約600の児童養護施設が加盟している。 同会の藤野興一会長は「子供の人権を守る砦としたいと思っているときに、真っ向から水をかけるドラマ」と話して放送内容の修正を求めた。同じく抗議した全国里親会・星野崇会長も同席し「人間は犬ではありません」と訴えた。「明日、ママがいない」については熊本市の慈恵病院が16日に放送中止を求めている。ニコニコ生放送によると、2人の会見での発言要旨は以下の通り。 児童擁護施設の子供たちは今、虐待を受けていたり、さまざまな事情を抱えています。「本当によくぞ、ここまでたどり着いたなあ」という3万人の子供たちが生活しております。そういう中で、このドラマがいかにフィクションであるとはいえ「お前らペットだ」とか「犬だってお手くらいするわな、泣いてみい」とか、物扱いをされている強烈な場面がある。施設長や職員が、暴力や暴言で子供たちの恐怖心を煽るシーンがあります。僕の施設の子供たちも、高校生は見ていたみたいで、腹が立つと言っていました。女の子は「見るのがしんどい」と言ってました。 大人はともかく当事者の子供は、本当にこたえますよ。「自殺するものが出たらどうしてくれるんだ!」という思いをしております。私たちはドラマの舞台と思われる地域小規模児童養護施設......。これは定員を6名として、地域でより家庭に近い生活をするということで、一生懸命、そういうものを増やそうとしております。 確かに施設は、制度的にも立ち後れて、取り残されています。非常にしんどい状況にあります。そんな中で、子供たちも職員も必死で生きている。非常に大きな影響力がある芦田愛菜さんを主演とするドラマに対して、マスコミ関係の皆さんに是非、本当の施設の姿を知っていただいきたい。 今、まさに政府がやっと四十数年ぶりに動こうとしているときです。そのときに、この舞台となっている小規模児童擁護施設。これを「子供の人権を守る砦」としたいと思っているときに、真っ向から水をかけるドラマだと思っています。正しい姿を。マスコミの方々には特に子ども達への理解を賜って、子供たちの正しい姿を伝えていただき、マスコミの社会的正義を貫いていただきたいと思っております。

■「里親として表を歩けなくなりそうだ」という声もある (全国里親会・星野崇会長) 「明日、ママがいない」については里親仲間でも話題になっています。今の日本の児童福祉制度が、里親ももちろん一生懸命努力しているところなんですね。いろいろな問題点があります。場合によっては法改正なども求める活動をしておりますが、このドラマはそういう私たちの努力に水を差すものと考えざるを得ません。 人間は犬ではありません。小動物と一緒くたにするということを、子供に教えちゃいけないんですね。ところが、このドラマは率先して、それを行っている。私ははっきり言って、主演した芦田愛菜ちゃんが、かわいそうですね。彼女は9歳半にして、こういう思想を植え付けられてしまっているんですね。これがどんどん広まってしまうと、メディアそのものが人間の尊厳を無視するようになる。激しい憤りを感じております。 差別的な発言があまりにも多すぎる。「これでもか」「これでもか」と出てきますが、今でさえ施設の職員や里親は周りの偏見に耐えて生きているわけですね。しばしば、それがトラブルになることもありますが、今回のドラマが放送されたことで差別的な発言が一層広がるんじゃないかと懸念しています。 子供にとっては大問題です。すでに子供も大人も傷ついております。放映によって、「こういうのをやってくれ」という里親仲間にはあります。しかし、「やめてくれ」という声が多い。「里親として表を歩けなくなりそうだ」という声まであります。小さい子供がドラマを見た場合には、恐ろしい結果になる場合はある。要保護児童たちは親元から離れたということで、相当大きな傷がついているんですね。そうした傷を思い出して、フラッシュバックを起こす可能性が十分にあるんです。そこまで日本テレビはちゃんと十分に準備しているんでしょうね?ということを言いたいです。 基本的には放映中止にしていただきたいんですが、放映中止にするといろいろ問題も起きるかもしれません。少なくとも言葉の使い方に関しては、差別的な発言や暴言をやめてほしい。もう一度、脚本家も交えて検討し直してほしいと思います。 過去に実際にあだ名が元で子供が自殺をはかった事例がありますので、それと同じようなことが起きる恐れがあります。「それが起こってからでは遅いんですよ」と日本テレビには言いたいです。



出典:The Huffington Post

この記事を読む限り、会社としての日本テレビの対応が、児童養護施設の関係者や里親たちの不信感を増幅させ、関係者の怒りがますます大きくなっていることが分かる。

今後も「子どもが自殺する恐れがある」と関係者が言ってきているのに「放送中止も謝罪にも応じられない」と突っぱり続けるのだろうか。

本当に自殺する子どもが出てしまったら、日本テレビは責任を取れるのだろうか。

分野は違うが、数ヶ月前に一流ホテルやレストランで食品の偽装が明るみに出た時に、「現場では小さなエビはみなサクラエビと呼んでいた」などと、強弁したり、言い繕ったりしていた会社の経営者はその後も追及されて退陣を余儀なくされている。

あるいは、テレビ業界でもほんの数ヶ月前にこんなことがあった。TBSが新しいバラエティ番組として、いろいろな業種の人たちが覆面インタビューで内輪を暴露するという「マツコの日本ボカシ話」を始めた。しかし、第1回の放送(生保レディーの特集)の後で生命保険会社などから抗議が寄せられ、コンプライアンスが問題になった。TBSでは報道局の社内規則を適用するなどで番組を見直し、早々と放送打ち切りを決めた。TBSのコンプライアンスの動きは早かった。そのため、TBSで起きたこの不祥事については現在、覚えている人の方が少ないほどだ。

このように、マズい事態になった時には、「さっさと謝って、対策を打つ」ということが危機管理上大切だとされている。

早めに動き、誠実に対応して、できるだけ早く「火消し」をすることが危機管理では鉄則だ。

慈恵病院も全国児童養護施設協議会も全国里親会も、記者会見での言葉を聞く限りでは、現実的には「放送中止」が難しいのかもしれないとテレビ局側の事情にも配慮する言葉も口にしている。このことから、全面的な放送中止ではなくとも、子どもが傷つかないで済むような形での放送のやり方を一緒に模索してもよい、という姿勢が見てとれる。つまり、「交渉の余地はある」のだ。

ところが今回の日本テレビは、正当性を強弁し、謝罪しないばかりか、「一緒に考えましょう」という姿勢さえ見せていない。

こうなると「火消し」どころか、ますます火に油を注いでしまう。

相手の怒りはどんどん大きくなり、他の専門団体も同じように声を上げるようになる。

「企業の危機管理」のあり方としても、悪い手本ではないのか。

前述した某テレビ局のコンプライアンス担当者の言葉ではないが、「この病院や関連施設・団体、そしてこのドラマを好ましく思っていない視聴者に対する宣戦布告のようなもの」で、かえって怒りや反発を招くばかりだ。

ちょうど深夜のTBS「NEWS 23」も、全国養護施設協議会の記者会見を全国ニュースとして放映していた。

事態はますます大きくなる様相を呈している。

「危機管理」という点でも、マイナス方向に動いているように思う。

今からでも遅くはない。

関係者の声に耳を傾け、誠実に対応するしかない。

(2014年1月22日「Yahoo!個人」より転載)