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HIVフリー世代の誕生なるか――王妃4人が来日したスワジランドから

2013年09月19日 17時49分 JST | 更新 2013年11月18日 19時12分 JST

スワジランドを世界一にしたもの

アフリカの南部に位置するスワジランドは南アフリカ共和国とモザンビークに挟まれた日本の四国よりも小さい内陸国である。アフリカでは数少ない王政国家で、現在はムスワティ三世が王位につく。人口は約100万人、農業を主な産業としている。

この国を世界一にしていること、そして、それが世界にあまり知られていないこと、それは、HIV感染率である。UNAIDS発表の2011年の統計では、15歳から49歳の26%、つまり4人に1人がHIV陽性、さらに対象を妊婦にしぼると感染率は40%、じつに5人に2人がHIV陽性である。

この数値が何を意味するか。それは、未来を担う新生児がHIV感染の高いリスクにさらされているという事実である。妊婦への適切な治療がなければ、20-45%の確率で母子感染が起こる。

エイズはもはや「不治の病」ではない

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、感染するとウイルスが増殖して免疫力をむしばみ、数年後、結核やニューモシスチス肺炎といった感染症にかかりやすくなる。これが、いわゆる「エイズを発症した」状態で、治療を受けなければ死に至る。

しかし、1985年以降、免疫力を回復させて発症や進行を遅らせる薬の開発が進み、現在ではARV(抗レトロウイルス薬)を用いた治療で、通常の暮らしを生涯送れるまでになった。ただ、この治療ではウイルスをゼロにはできないため、投薬治療も生涯にわたって続ける必要がある。

短期的治療から、生涯の継続治療へ

2007年、スワジランド政府からHIV/エイズ・結核対策の支援を求められた国境なき医師団(MSF)は、同国にある4地方の1つシセルウェニで、保健省と共に感染症対策を開始。2013年2月には、HIV/エイズ対策の中で最も先進的とされる「PMTCT B+」プログラムを開始した。

「PMTCT」は「母子感染予防」を表す英語(Prevention of Mother-To-Child Transmission)の略称である。なかでも先進の「B+」が従来のPMTCTプログラムと異なる点は、妊婦・授乳期の母親の検査結果がHIV陽性だった場合、その時点の免疫状態にかかわらず、速やかにARV治療を開始し、生涯治療を継続するところにある。これまでは妊娠・授乳期間中の、短期的・断続的な治療であったが、B+の導入により、次の3つのメリットが得られる。

<PMTCT B+のメリット>

1. 現在および将来の母子感染への備えとなり、新生児をHIV感染から守ることができる

2. HIV陽性患者の日和見感染症の発症リスクを減らし、長期的な健康維持につながる

3. HIV陰性のパートナーへの感染予防につながる

PMTCT B+普及への最大の障壁

しかし、プログラムが計画されたからといって、対策が一気に進むわけではない。PMTCT B+普及への最大の障壁、それは「HIV/エイズが知られていないこと」である。スワジランドでは、HIV/エイズの認知・理解が進んでおらず、偏見や差別も根強い。結果、対策の入口となるHIV検査、その先の治療への道のりは遠い。MSFと保健省は、現地スタッフを中心とする地域社会連携型の啓発活動を最優先事項とし、ボトムアップの基盤整備に力を入れている。

この場面でキーパーソンとして活躍しているのが、「エキスパート患者」と呼ばれるエイズ患者だ。エキスパート患者は自身のHIV/エイズ治療の経験を生かし、病気について、検査・治療について、家族からの支援について、住民に語りかけ、患者に寄り添い相談に乗る。

さらには、2007年の活動開始当初から、検査や治療が一時的なもので終わらず、患者がARV治療を継続しやすいよう、中央医療施設から一次医療施設への医療の分散化も対策の柱としてきた。

プログラムを検証する評価基準

この感染症対策が、ここスワジランドで有効に機能しているか――。それを見極めるため、MSFと保健省は、「PMTCT B+プログラムの実績と効果」「患者や現地医療者の、このプログラムに対する認知や受容の度合い」、そして「導入費用」の3点を評価基準として継続した調査を行い、今後の全国展開に向けた検証データとしている。

また、同プログラムは、HIVの"治療"がHIVの"感染予防"の有効な手段、つまり国際社会が提唱する「予防としての治療」の事例のひとつとなりうることを証明する、その第一歩ともなっている。

HIV感染のない世代の実現をめざして

シセルウェニ地方でPMTCT B+が始まって半年。HIV検査率を高め、2013年から4年間で、2000人以上の妊婦・授乳期の母親にARV治療を開始することが目標だ。さらに将来的には、MSFが緊急援助の役目を終えて、この国に活動を引き継ぐ日、スワジランド国民自身の手で対策が継続される日が待たれる。

さる7月26日、スワジランドから4人の王妃が来日し、安倍首相夫人の昭恵さんと懇談を行った。外務省によると、王妃らはHIV/エイズ対策等の慈善活動に協力していることを説明、昭恵さんも自身のHIV/エイズ啓蒙活動等の取り組みについて紹介したという。

HIVのまん延に苦しむ国々の中で、スワジランドが感染のない世代を実現させた世界初の国になることを目指し、国をあげた取り組みが、現地スタッフと患者主導のもと、今日も続けられている。

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国境なき医師団(MSF)は、紛争や災害、貧困などによって命の危機に直面している人びとに医療を届ける国際的な民間の医療・人道援助団体。「独立・中立・公平」を原則とし、人種や政治、宗教にかかわらず援助を提供する。医師や看護師をはじめとする海外派遣スタッフと現地スタッフの合計約3万6000人が、世界の約70カ国・地域で活動している。1999年、ノーベル平和賞受賞。

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