沖縄県議選~翁長陣営の苦い「大勝利」~

選挙結果を分析すると、翁長知事の言う「大勝利」とはほど遠い実情が見えてくる。

6月5日の沖縄県議選で、翁長陣営「オール沖縄」が過半数を制し、「大勝利」を宣言した。

米軍属による女性殺人・強姦致死事件、さらには投票日前夜に起きた米兵の飲酒運転による交通事故という「ダメ押し」もあり、反基地感情が高まった。5か月前の、普天間基地を抱える宜野湾市長選挙で辺野古移設容認派の現役市長が圧勝し、翁長陣営の勢いに陰りが見えていたが、今や流れが大きく変わり、「オール沖縄」が優勢になってきている。

しかし、選挙結果を分析すると、翁長知事の言う「大勝利」とはほど遠い実情が見えてくる。

自民党は逆風にさらされながら、1議席増。善戦したと言える。一方、翁長知事の支持母体、那覇市の元自民党グループ「新風会」から出馬した候補が2名とも惨敗している。また、中立系では、公明党の候補4人全員が当選して現有勢力を死守したが、全体では、改選前の9名から6名へと議席数を減らした。つまり、基地問題をめぐり民意の両極化が進んだのである

翁長知事は、保守を自認し、日米安保条約支持を公言してきた。しかし、今回の選挙における「新風会」候補の落選によって、陣営内における保守系の発言力が弱まり、共産党や社民党などの「日米安保反対、全基地撤去」の主張が強まることが予想される。すでに米軍人・軍属の事件に対する抗議集会では、「海兵隊撤退」などのスローガンが目立つ。

6月19日に予定されている、米軍属による女性殺害事件に対する抗議の県民大会は、超党派の大会となるはずであった。だが、主催者が大会名に「海兵隊撤退」を盛り込むなど、革新色が強まったため、自民党と公明党などは不参加の意向である(6月12日現在)。

今回の県議選の結果は、7月10日に投開票される参議院選挙にも大きな影響を与えるであろう。

沖縄選挙区の自民党候補、島尻安伊子沖縄担当大臣は、辺野古推進を強硬に主張してきたうえに、沖縄出身者ではない(夫が沖縄出身)。もともと苦戦が予想されてきたが、前述した2つの米軍属・軍人による犯罪によって、さらに逆風にさらされている。

島尻氏の対抗馬として翁長陣営から出馬するのは元宜野湾市長の伊波洋一氏である。彼は、共産党寄りと言われ、陣営内の保守系からの反発は根強い。伊波氏の下では「オール沖縄」はまとまらないとの声すらあった。だが、今回の事件は革新系強硬派の伊波氏にとってプラスに作用している。

伊波氏が当選し、島尻氏が落選すれば、「オール沖縄」の対決路線は強まるであろう

安倍政権は辺野古移設問題で守勢に立たされるだけでなく、「日米地位協定」の見直しを迫られることになる。公明党本部も米軍人・軍属に有利な同協定の見直しを求めている。協定の抜本改定要求は、沖縄自民党も巻き込み、沖縄全体の声になりつつある

だが、日米同盟の強化をはかってきた安倍政権にとって、米国政府が妥協しそうもない協定の抜本改定には取り組みにくい。しかも、大統領選挙を11月に控える米国は内向き志向が目立ち、その外交政策の行方は不透明である。新大統領誕生後の地位協定をめぐる交渉も容易ではなさそうである

安倍政権への唯一の追い風は、中国の強硬な行動である。6月9日、中国とロシアの軍艦が尖閣諸島の接続水域を航行した。南西諸島防衛の観点から、日米同盟強化の重要性を指摘する声が高まるであろう。中国が安倍政権に塩を送るという皮肉な結果となっている。だが、こと沖縄に関する限り、「中国効果」は殺人・強姦致死事件のインパクトに比べて小さなものである。

現状のままでは、「沖縄基地問題」は出口が見つからないまま、膠着状態が続くことになりかねない。安全保障上の要請による日米同盟強化と沖縄の民意の間の齟齬は、旧くて新しい問題であるが、そろそろ根本的な解決を模索するべきではないだろうか。

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