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G7伊勢志摩サミット:エボラの教訓生かし、医療ニーズに沿った感染症への備えを

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エボラ出血熱が人びとの間に広めた恐怖を今でもはっきりと思い出すことができる。2014年、危機のただ中にあったシエラレオネへ小児科医として赴く直前だった。

最初は日本人の間にそれを見た。人びとは西アフリカで何千人もの命を奪っている病気の流行が日本へ広がり、自分たちを襲うのではないかと恐れていた。そして次にそれを見たのは、シエラレオネの子どもたちの表情の中だった。エボラで両親を失くしていた子は多く、その後同じ運命をたどった子も多かった。

あれから18ヵ月。驚くべきことに、こうした命を脅かす感染症流行に対する緊急対応力は、世界的に見てもあまり進んでいない。

なぜなのか? 国境なき医師団(MSF)はその45年の歴史の中で、病気の流行が弱い立場の人びとに与える影響を目の当たりにしてきた。すなわち、病気の流行を阻止するために導入される予防戦略や開発政策はそれだけでは充分な効果を発揮しないということになる。

マラリア、はしか、コレラといった感染症の流行はあらゆる場所で起きており、的確な対応がなされているとは言い難い状況だ。多くの人びとが多くの感染症リスクにさらされ、エボラ再発の恐れも消えてはいない。資格を持つ医療スタッフと資源の不足による医療体制の機能不全という、同様の事態に陥ることもありうるのだ。

今週開かれるG7伊勢志摩サミットは、この問題に取り組む好機となる。各国首脳は率先して大胆な公約を打ち立てて、単独では感染症流行に対処できない国を支援できる。

現在のように、感染症の流行宣言を出した国に政治的・経済的圧力を与えるような対応は避けなければならない。むしろ、それらの国が流行宣言を発することに対してインセンティブを与えるといった共通認識も必要になってくる。

流行が「国際的な懸念」とみなされなかったために、国際支援がごくわずかに留まる事態が繰り返されてきた。しかしエボラによって、世間の関心は高まり、世界健康安全保障への支持は得られたとも言える。だが、全ての国際保健・医療の取り組みは、安全上の懸念や安全保障体制ではなく、現地の人びとのニーズを中心に形づくられるものでなくてはならない。

そして緊急事態に対して、迅速かつ適切な資金投下を可能にする、これまでにない仕組みづくりも必要だ。現在行われている基金などの取り組みとして、「パンデミック緊急ファシリティ(PEF)」やWHOが新設した「緊急対応基金(CFE)」が挙げられる。これらは中期的には緊急時対応を改善するとみられる一方、感染症流行への対応力を短期間に大きく高めそうなものはみられない。

さらに、パンデミックのおそれがある感染症に対応するには、サーベイランス(監視)と発見を重視するだけでなく、緊急対応を強化することが重要だ。

効果的な緊急対応体制の構築には、適切な資源の投入が不可欠となる。そしてこの対応は、各国の保健医療、対応能力とインフラ強化を支援するより幅広い施策の一環でなくてはならない。

サミット議長国として日本は、G7を主導し、感染症流行への緊急対応の強化を優先して進めることができる。そしてそれは国際的な安全保障への脅威とみなされた時にだけではなく、危機に陥った人びとの保健医療ニーズに基づいたものであるべきだ。


国境なき医師団(MSF)日本会長 小児科医
加藤 寛幸(かとう・ひろゆき)

島根医科大学(1992年)卒業、タイ・マヒドン大学熱帯医学校において熱帯医学ディプロマ取得 (2001年)。東京女子医大病院小児科、国立小児病院・手術集中治療部、Children’s Hospital at Westmead(Sydney Children’s Hospital Network)・救急部、長野県立こども病院・救急集中治療科、静岡県立こども病院・小児集中治療科および小児救急センターに勤務。2003年よりMSFの医療援助活動に参加し、主に医療崩壊地域の小児医療を担当。2015 年3月より現職。