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「アベノミクス」とは結局何だったのか?

2014年08月15日 15時24分 JST | 更新 2014年10月14日 18時12分 JST
Bloomberg via Getty Images
Shinzo Abe, Japan's prime minister, speaks during a news conference at the prime minister's official residence in Tokyo, Japan, on Monday, March 10, 2014. Japan's economy expanded less than estimated in the fourth quarter and the current-account deficit widened to a record in January, highlighting risks to Abenomics as a sales-tax increase looms. Photographer: Haruyoshi Yamaguchi/Bloomberg via Getty Images

些か旧聞に属するが8月13日、内閣府から2014年4~6月期のGDPが発表された。既にこの件に関してはネットに多くの記事が公開されており、読者の皆さんもご存じの実質でマイナス6.8%という大幅減であった。

数字に失望するのは当然だが、それ以上に中身が良くないという印象が強い。1-3月期に派手に伸びた輸入が落ちたおかげで純輸出が増えた、というのが最大のプラス要因である。しかしながら冷静に考えれば、実際には輸入が前期比マイナス5.6%と輸出のマイナス0.4%を大きく上回って落ち込んでいただけの事である。海外市場は不振で輸出は冴えなかったが、日本経済はそれ以上に不振で輸入は大きく落ち込んでしまったという話であり、決して手放しで喜べない。

個人消費も設備投資も大きく落ち込んでしまった。政府は消費増税に伴う駆け込み需要の反動と、あたかも一過性の現象である事を強調するがそんな単純なものではないだろう?胃癌であるにも拘わらず、胃の調子が悪いのは食べ過ぎが原因と説明している様に安直だと思う。

在庫投資が増えているのは、要は需要の先食いだからこれも悪材料である。何一つ良い材料がなかった今回の発表であった。安倍氏が首相の座に就いた2012年末以来、安倍政権の掲げる「アベノミクス」が日本国民に対して夢を与え、将来に希望を持たせた事は否定しない。しかしながら、こういう数字が出て来た以上数字の背後にある事実を精査し「アベノミクス」の課題、問題を抽出する事は重要であろう。今回はかかる観点より論考を進めたい。

そもそも「アベノミクス」とは?

安倍首相の公約は「日本に健全な経済成長を取り戻し、長年のデフレに終止符を打つ」というものである。そのために日銀は伝統的な姿勢、詰まりは通貨の番人としての中央銀行といった姿勢を転換し、大量の資金を金融市場に送り込み、円安を促した。安倍内閣の目論みとしては、円安により輸出が拡大し、その結果設備投資が拡大すると共に、雇用が拡大し、賃金が上昇し、消費支出を押し上げ、内需が拡大する事で、今度は内需企業の投資を促す好循環が生まれる、というものだった。正に取らぬ狸の皮算用とはこの事であろう。

増えない輸出

このシナリオが実現するためには先ず円安による輸出の拡大が前提となる。しかしながら、財務省が公表した6月貿易統計が行き成り安倍政権に対し「NO」を突き付けている。「アベノミクス」の目論みとは真逆に輸出はコンスタントに減少しているからである。

6月の輸出は前年比2.0%減の5兆9,396億円で、2カ月連続で減少。気になるのは半導体等電子部品が8.7%も減少している事である。従来、スマホやPCといった完成品は輸入してもその中核部品は日本から供給していたはずだが、多分韓国や中国に取って替られているのであろう。

輸入は8.4%増の6兆7,619億円で、2カ月ぶりに増加している。原粗油(8.3%増)、石油製品(35.9%増)、液化天然ガス(7.6%増)などが増加している。今後も原油価格は右肩上がりで上昇し、一方、安倍政権が円安施策を継続すれば化石燃料輸入代金の膨張は不可避となる。

増えない設備投資

頼みの輸出が増えねば製造業の設備投資も増えない。しかしながら、国内製造業が設備投資に躊躇するには他にも原因があるだろう。将来の電力不足や電力料金高騰への懸念である。こういった問題が残る限り、電力問題がなく、人件費の安い新興産業国に移転を考えるのは当然である。私は何も闇雲に輸出拡大を目指した日銀による円安誘導を否定するものではない。しかしながら、この施策を実行するのであれば原発再稼働も併せ実行せねば意味がなかった。金融政策とエネルギー政策を俯瞰して立案出来る知恵者が内閣にいなかったという事であろう。残念としか言いようがない。

増えない個人消費

日本の労働市場の特色は、給料が高く身分が保障されている正規労働者と、社会の最下層を構成している低給の非正規労働者にはっきり二分されている点である。厚労省が最近公表した非正規雇用の現状によれば、6月には雇用全体に占める非正規労働者の割合は36.7%に達している。

非正規雇用労働者は、1995年から2005年までの間に増加し、以降現在まで緩やかに増加しています(役員を除く雇用者全体の36.7%)。

特に15~24歳の若年層で、1990年代半ばから2000年代初めにかけて大きく上昇しています。

また、雇用形態別にみると、近年、パート、契約社員・嘱託が増加しています。

日本の現在の失業率はわずか3.7%であり、この数字は高い失業率に悩むEU諸国に取っては垂涎の的かも知れない。しかしながら、雇用の質を犠牲にしているのも今一方の事実である。国内労働市場で非正規雇用が増える限り、彼らに購買力はなく内需が拡大する事はあり得ない。

従って、内需を拡大するためには金利を下げて円安誘導するだけでは充分ではなく、非正規労働者の賃金を大幅に引き上げ、将来への保障を手厚くする事で消費に向かわす施策が導入されねばならなかったはずである。この原資は企業内部に滞留する正規雇用のリストラで賄われなければならない。この事が、私が以前から早期の「金銭解雇」導入を提案する根底にある。日銀による金融政策は労働市場改革とパッケージで断行すべきという事である。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産を株式市場で運用するという自爆行為

自民党に政権交代して以降東京株式相場は大幅に上昇し、株式市場に牽引される形で長年低迷していた不動産市場も東京を筆頭に大きく上昇した。安倍首相が歓迎されたのは当然である。しかしながら、ここに来ての問題は、株価の形成が将来への期待感から形成されており、どうも経済の実態を反映していると思えない事である。バブルといって良いだろう。そして、バブルなら何時破裂しても可笑しくはない。

株価が暴落すれば、安倍政権のサクセスストーリーは一瞬にして剥落する。従って、この回避のためGPIFの運用改革により、日本株への配分を20%超に増やす事を前提に調整中と聞いている。「アベノミクス」が成功して企業収益が改善し、その結果株価が上昇するのであれば勿論何の問題もない。好ましい好循環といえるだろう。しかしながら、年金資金で株価を買い支えるのは市場を歪め副作用の危険がある。具体的には、逃げ足の速い海外投機資金の買い漁った株を高値で掴まされ、買い支えの資金が続かなくなり市場が暴落するという展開である。この場合、東京株式市場のクラッシュに伴う混乱のみならず、多額の年金資金が失われ年金給付に支障が出る展開となる。