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中村教授のノーベル賞受賞は職務発明規定改正論に影響を与えるか

2014年10月10日 15時52分 JST | 更新 2014年12月09日 19時12分 JST

日本人のノーベル物理学賞受賞は大変うれしいニュースでしたね。ところで、報道で知った方も多い(実は私もそうですが)中村修二カリフォルニア大教授はすでに米国籍になっていたのですね。

中村教授といえば、青色発光ダイオードの特許に関して当時の雇用者である日亜化学と職務発明の報酬についてもめたことで知られています。結果的には高裁まで行き、日亜化学側が約8億円を支払う和解で決着しました(参照Wikipediaエントリー)。この裁判は特許法の職務発明規定の改定にもつながりました。

さて、この中村教授らのノーベル賞受賞は、現在進行中の特許法職務発明規定の改正論に影響を与えるのでしょうか?ここでは2つのポイントがあります。第一に、上記のような経緯で決まった職務発明の報奨金規定を仕切り直そうとしていること、第二に、中村教授はある意味日本の産業界に見切りをつけて米国に渡ってしまったということです。

まず、職務発明規定が改悪され、技術者のインセンティブがさらに下がるようなことがあれば、優秀な技術者の海外流出が今後も出てくるのではないかという懸念は大きくなってくるでしょう。

とは言え、法律的には米国の職務発明規定が特に従業員優遇というわけではありません(というか特許法上は特に規定がありません)。実際上は企業と従業員の間の契約で条件が決まり、ほとんどすべての職務発明では企業が出願人になります(以前は、法律上発明者しか出願人になれなかったので、後に特許化されてから譲渡させるようになっていましたが実質的には同じです)。

実際、中村教授が発明者になっている最近の米国特許出願の出願人を調べてみましたが、そのほとんどがカリフォルニア大学となっています(一部は、科学技術振興機構との共有)。中村教授自身が出願人になっているものはありません。

アメリカでも日本でも、そして他のほとんどの国でも「職務発明は会社のもの」です。ポイントは従業員に対する報奨をどう扱うかです。

ここで、米国式で行くべきだということで、完全に企業と従業員の間の契約の自由に任せるというやり方を日本で適用してうまくいくとは思えません。雇用の流動性が米国と比較して(まだ)低い日本では、企業と従業員が対等の立場で契約条件について交渉できるわけではないからです。やはり、日本の雇用の現状を加味して、法律で従業者側を守る規定にする必要があると思います(従業員に対価請求権を認める現行規定をそのままにして変えないというのもオプションのひとつでしょう。)

ということで、「影響はあるか?」という質問に対する答は、心理的には影響はあるかもしれないが、実体的にはあまり関係ない(職務発明制度だけを米国式に合わせてもしょうがない)ということだと思います。

技術者・研究者にとって米国が魅力的とされているのは、職務発明制度よりも、雇用の流動性が高いことで(優秀な人にとっては)条件が良い就職先を選びやすいこと、成果が不確実な研究に対してリスク・マネーを出してくれる人が多いという要素の方が重要でしょう。

とは言え、職務発明改正における企業側の論理が「事後的に裁判で追加支払いが発生し得るのでは経営の安定性を害するので、事前的に契約でしっかり補償してあればよい制度にしてほしい」というのであればまだ良いのですが「事後的にも事前的にも従業員にはできるだけ払いたくない」というのであれば、長い目で見ればさらなる日本からの頭脳流出につながると思います。

(2014年10月9日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)

日本人のノーベル賞受賞者