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三浦基 Headshot

貧血と日本の長距離種目の関係

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昨今、ランニングが人気だ。市民参加型マラソンは当選の確率が10倍のものも存在する。

しかしながら、ランニングをする上で忘れてはならないのが貧血である。特に、高校生や中学生が貧血に悩んでいるという声をよく耳にする。例えば、箱根駅伝で無敵の強さを誇った、東洋大学の柏原選手も高校時代は貧血に悩まされ続けた。

自分も1500mからフルマラソンまでを専門種目として、高校生から現在まで陸上競技を続けているのだが、多くのランナーと同じく貧血に悩まされている。以下では、競技者の視点から見た、貧血大国・日本の現状を、貧血のことを考えるきっかけとなった山本佳奈さんの著書『貧血大国・日本』を基に述べていきたいと思う。

まず、山本さんの著作の主旨は、「日本では現在、貧血に対する意識は国民や医師の間ではそれほど高くなく、貧血は、胎児として母親のおなかにいるときから、老後に至るまで常に脅威になりうる。だから、まずは基本的な食生活や意識の面から見直すべきである」ということだ。

加えて、アスリートと貧血のところでは、アスリートは、発汗による鉄の喪失、足底部における衝撃による赤血球の破壊、アスリートゆえの筋量の増加による鉄の需要増加、によって貧血が起こるので、貧血に対する意識と食生活を見直すことが大切であると主張している。

自分は、この本を読み、「貧血は日本の伝統的な練習の方式が生み出しているのではないか」と思った。

というのは、日本の長距離種目の伝統的な方法は、長距離を走らせるというものだからだ。例えば、日本のマラソン選手は、試合前に40キロ走や、30キロ走などのいわゆる距離走という練習をメインで行う。対して、アメリカ勢や現在隆盛を誇るケニア勢は、短い距離を試合より速く走ることを何本も繰り返す。日本が質より量なのに対して、他の国は量より質なのだ。発汗の仕組みを考えると、どちらの練習の方が多く鉄を消失するかは明らかだ。日本の伝統的な練習スタイルは貧血を生み出しやすい環境にあると言える。

次に、衝撃も無視できない。なぜなら、日本のランナーは、外国のランナーと比較して、アスファルトを走る回数が多いからだ。外国では芝生が敷かれた公園や、未舗装の道が残る公園があり、そこを走る人が多い。また、外国にいるプロランナーと言われる人たちは、一年を通してアスファルトの道を走ることがほとんどない。

例えば、現在、大迫傑選手が所属するアメリカのプロチームNikeOregonProjectは、ほとんどの練習をクロスカントリーと呼ばれる未舗装の地面や、芝生で行っている。対照的に、日本の練習は、近年の駅伝人気もあってか、ほとんどが駅伝の練習と称してアスファルトの上で行われる。

加えて、諸外国の陸上選手の年間スケジュールを見ると、おおよそ10月ごろ迄トラックレースと言われる陸上競技場で行われるレースに参加して、冬になると、オフシーズンとなるか、クロスカントリーレースに出場したりする。つまり、冬は足を回復させて来シーズンに備えている、レースに出るにしても柔らかい地面のクロスカントリーレースに出るだけなのである。

これに対して、日本の競技者のおおよその流れは、四月から七月まではトラックシーズンだが、八月・九月は、数か月先に迫る駅伝シーズンに向けて合宿を行い、固いアスファルトの上で一か月に1000キロ近く走る。そして、10月から3月にかけては駅伝シーズンとなり固いアスファルトの上で、長いものは20キロ以上走ることになる。

この二つの状況を比較すると、外国人と日本人のどちらが足に衝撃がかかっているか一目瞭然であろう。硬いアスファルトの上で、一年中、オフシーズンなしで走る日本人が貧血になりやすいのは当たり前だ。

余談であるが、マラソンの中継を見ると、日本人は足袋のように薄い靴を履いているのに対して、ケニア勢はいわゆる「ごつい」靴を履いているのがわかる。ケニアをはじめとするあまりアスファルトを走ることに慣れていない人たちが、どれほどアスファルトに対して恐れを持っているかの現れであると思う。

このような状況の中で、日本陸連は鉄剤の注射を打つことを自粛するよう呼び掛けている。その理由は、指導者が、やせればよい結果が出ると思い、食事量を増やし過度な練習をさせることだ。その結果、選手は貧血をおこし、指導者は安易に注射に走る。

この、考えに二つ反論したい。まず、注射を打つことで鉄過剰になることはあまりないそうなので、食事面を整えたうえで、貧血が改善されないのであれば注射という選択肢は頭に入れておくべきだと思う。

前述の山本さんの著書にもあるように、スポーツ選手は筋量が普通の人より多いのでその分鉄の需要も多い。よって、相当食事に気を使っても、現在の日本の長距離選手などは貧血に陥るのではないかと考える。そのときに、注射をすることが有効なこともあろう。

しかし、ここで指導者が注意すべきことは、注射を打とうが、鉄剤を経口で服用しようが、生み出す効果は同じであり、経口での服用によって吐き気などの症状が起こる場合にのみ注射を使うことである。このことを誤って理解している指導者が存在するので注意が必要である。

二つ目は、注射が云々と言う前に、陸上界の風潮を変えれば貧血はある程度減るのではということだ。

例えば、日本ではクロスカントリーの大きな大会は二つしかないのだが、その数をより多くしたり、クロスカントリーコースを増設したりすると、冬は固いアスファルトの上で駅伝という風潮も変わるかもしれない。また、陸連が世界の練習方法に積極的に目を向け、アスファルトで走ることの危険性をアナウンスするべきであると思う。いずれにせよ、陸上界のガラパゴス諸島となっている日本において、貧血を減らす術は積極的に外に目を向けることであると思う。

しかしながら、昨今の駅伝ブームに水をかけることは少し難しいのかもしれない。例えば、駅伝と聞いてすぐ頭に浮かぶのが箱根駅伝だろう。それを例に、駅伝ブームに水をかけることの難しさを述べたいと思う。箱根駅伝は毎年年始に行われ、テレビの中継もあり、年を増すごとに人気は上がっている。テレビの視聴率も毎年高水準を記録する。

つまり、テレビ局にとっても恰好の収入源なのである。また、中継中は各大学のシンボルマークを胸につけた選手が走り、テレビ画面いっぱいにマークが写る。

つまり、中継に大学の選手が写ることで、大学のコマーシャルにつながっているのだ。実際に、箱根で優勝した大学のその年の入試の志願者は増加するというデータもあるので、このことはあながち間違ってはいないであろう。

だから、箱根の中継に大学のマークが映ることは、少子化による経営難から少しでも脱却するための方法でもある。加えて、選手自身も駅伝で名を馳せることで、大学からの学費が免除になったりする。近年、非正規雇用の増加などで、家計の収入が減り、貧困化し、学生が奨学金を借りて大学に行く状況が少なくない中で、授業料の免除は選手にとってもメリットになると考える。

このように、メディア・大学・選手にとってメリットだらけの駅伝を下火にするのは難しいのかもしれない。しかし、この駅伝が存在するので貧血をはじめ、様々なランニング障害が存在することは否めないということも選手をはじめ指導者の方にも考えてほしい。

以上のように、競技者の視点から貧血を見てきた。駅伝は本音を言うと自分自身も楽しいし、おそらく今年も冬に出る。しかし、よく考えるととても危険なことをしているのだと再認識できた。また、最後の段落で見たように、よく考えると、スポーツの中にも貧困や、少子化による経営難という言葉が出てくるのに驚いた。今後、調べてみたい分野の一つでもあると思った。