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「児童養護施設出身者」への支援策は、「若者支援担当課」から生まれた

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Atsushi Yamada via Getty Images
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児童養護施設からの進学時に「基金で給付型奨学金」の創設へ』(2016年2月2日)には、これまでになく、大きな反響をいただきました。「素晴らしい活動ですね。第1歩ではあるのでしょうけど、とてつもなく大きな最初の1歩だと思います。そして継続は力となって、支援に結びつくようお祈りいたします」とのコメントにあるように、「これは問題だ」「このようにあるべき」という論ではなく、具体的なプランをつくったことにふれた感想が多く、また「給付型奨学金」が議論だけではなくて現実に始まることへの評価もいただきました。

ただ、いただいたコメントの中には「区長の決断に拍手」という言い方が多数あり、私のレポートが、組織による「チームプレー」を十分に伝えていなかったことに気づかされました。制度設計をはかり、関係者との調整を重ねて持続可能な仕組みをつくるためには、時間も労力もかかります。

たしかに、世田谷区における18歳で児童養護施設を出る若者たちの支援フレームは、区営住宅を低廉な家賃で提供する「住宅支援」、地域の人たちや仲間同志の情報交換を可能とする「居場所支援」(くわしくは『児童養護施設を出る「18歳の春」を孤立させない住宅支援を開始』(2015年9月29日)、そして今回の「基金による給付型奨学金」の3点セットで整うことになりました。

行政の仕事がチームプレーでなされるのは当然のことですが、「児童養護施設出身者支援」は、臨時編成のプロジェクトではなく、世田谷区の常設の若者支援の専門チームが担当してきたことに鍵があったのです。その名も「若者支援担当課」といいます。

2013年4月(平成25年)に、世田谷区役所に初めて「若者支援担当課」という看板が掲げられました。自治体の政策の中に「若者支援」を正面から位置づけて、区長である私が本部長となる若者支援推進本部を立ち上げるとともに、「若者支援」を専門とする所管課を発足させたのです。

一般的に基礎自治体は、妊娠・出産からの子育て支援から、小・中学校の教育や学童保育などの放課後支援、児童館などの子どもの遊びや活動支援に関わっていますが、子どもが成長して高校・大学となると関係が薄くなります。また、社会人となった若者にとっても、転入転出や、支援を必要とする事情がない限りは、行政の窓口は遠い存在です。

雇用環境の競争激化にともなって、また非正規雇用の増大もあって、若者が受けるプレッシャーも、かつての40代、50代の親たちと比べると大きなものになっています。大学生の「就職活動」についても、数十社からNGを受けて気力を喪失する若者たちの「就活疲れ」が問題となりました。残念ながら、世田谷区内でも自ら生命を絶つ人たちの相当部分が20代、30代の若者だというデータがあります。

3年前に開催された「ひきこもり問題で悩む家族」を対象とした講演会は、150人の会場が一杯となり、会場から出る質問のほとんどは「私の息子がこもりはじめてから...」「娘が家を出ない生活が始まったのは...」と、当事者の家族からのものでした。若者支援担当課ができる前は、小中学生の不登校であれば教育委員会、心や精神の問題であれば健康づくり課か保健所、生活困窮であれば生活支援課と所管が分かれていて、総合的な窓口はありませんでした。

世田谷区の20年ビジョンである「基本構想」(2013年・平成25年策定)をつくる時に、未来の地域社会の担い手である中・高校生の意見を聞く対話集会を重ねました。また、無作為抽出で区民に案内状を出すワークショップには、大学生や社会人の若者たちも多く参加してくれました。その結果として、区に直接の窓口を置いていない若者たちも「まちづくり・地域づくり」に関心を持っていて、参加のチャンスがあればやってみたいという意欲があるこがもわかりました。

そうして、乳幼児から高齢者までをひとつながりにつなぐために、空白となっていた「若者支援」を強化することが大切だという認識が区役所内で共有されていったのです。発足当初は、子ども部・若者支援担当課でしたが、「子ども」の中に「若者」が包摂されるのはいかがだろうかという話になりました。なぜなら、「若者の定義」を幅広くとっていて中学生から40歳未満としていたので、実態をふまえて、2014年から部名称も「子ども・若者部」に変更しました。現在は、子ども・若者部若者支援担当課となっています。

若者支援を手がけるにあたっては、およそふたつの方向性があるという議論になりました。ひとつは「中・高校生の活動や表現の場」を広げていく分野です。もうひとつの方向性は、学校や職場での人間関係に悩んだり、仕事探しで苦労していたり、ひきこもり等に苦しんでいる若者を対象とした「生きづらさを抱えている若者支援」の分野です。

まず、最初の分野を紹介します。世田谷区には、すでに25の児童館があり、多彩な活動に取り組んでいます。そのうち5館を中高生支援館と位置づけて、音楽やダンス、スポーツ等の活動の条件を整え、イベント企画等を進めるようになりました。

若者支援の仕事が始まった当時、区内にはたったひとつだけ池之上青少年会館というユースセンターが活動していました。地域の大人も運営に参加して、ユニークな文化祭も行なわれていました。

また、中・高校生たちにとって、ダンスが練習できるフロアは貴重です。池之上青少年会館の発信力・影響力は相当に強くて、主催するダンスフェスティバルは、区内全域の中学・高校のダンスクラブや大人のグループにも広がり、毎年、世田谷区民会館で1000人を集めて開催されるほどの規模です。残念ながら、広い世田谷区で青少年会館が1ヶ所しかないというのが課題でした。

そこで若者支援担当課が最初に手がけたのは、中高生の居場所「オルパ」でした。京王線の千歳烏山駅前にあった金融機関の旧社屋ビルを9カ月限定(2013年6月から2014年2月)で中高生に開放したもので、運営は大学生でつくるNPOに委託しました。かつての金庫はバンドの練習場になり、壁にフィルムミラーを貼っただけでダンスの練習が出来たり、旧支店長室が自習室に使われるなど、わずかな期間で利用者はぐんぐん増えました。

利用者として登録した中高生は約1千名。延べ利用者は6千5百人にのぼりました。特徴は、このスペースを利用する中高生たちが話し合いを重ねて、ルールをつくり、企画を立てて実現したことにあります。(『子どもの、子どもによる、子どものための空間』「太陽のまちから」2014年3月11日)

使用期限が近づいた頃に様子を見にいくと、「区長、ここを閉鎖しないで下さい」と女子高生に詰め寄られましたが、残念ながら期限を伸ばすことはできませんでした。ただし、中高生が集い活動拠点とする「オルパ」運営を通して、「若者支援」の実証的な成果を得ることができました。

そして、「野毛青少年交流センター」が、2014年(平成26年)春にリニューアルオープンしていきます。もともとは「青年の家」として1963年(昭和38年)に開設され、半世紀近く宿泊研修も含めて使われてきたこの施設でしたが、一度は利用停止になっていました。そこでもう一度、若者支援の拠点として「青少年交流センター」として位置づけ、再スタートすることになったのです。それから2年。小学生から高校生・大学生まで、1日平均50人、夏休みなどには200人が出入りするにぎやかな場となりました。今年の3月に改修が終わると宿泊事業も再開されます。

一方で、「生きづらさを抱える若者支援」も大きな取り組みが進みました。世田谷区には旧池尻中学の校舎跡を利用して、若者の起業支援や、ものづくりに関わる意欲的な事業所の技術的・文化的な発信を続けてきた「世田谷ものづくり学校」があります。

旧校舎の3階には、せたがや若者サポートステーションがありました。若者のための就労支援を幅広く継続してきた場で、そのためのプログラムに参加者を集めるヤングワーク世田谷もありました。旧校舎3階の隣に「ひきこもり支援機能」をあわせてスタートすることになり、若者総合支援センターを形成しています。そして、2014年(平成26年)9月には、「メルクマールせたがや」がオープンしました。

「メルクマールせたがや」では、ひきこもり等の様々な理由から社会との接点が持てず、社会的自立に向けた一歩を踏み出すことができないなどの生きづらさを抱えた若者に対して面談や活動ルームでのプログラム、セミナーを実施し、就労支援機関である「せたがや若者サポートステーション」や「ヤングワークせたがや」と一体的に『世田谷若者総合支援センター』として若者の自立や就職を総合的にサポートします。(「メルクマールせたがや」Chance Challenge Channel

ひきこもり支援のための窓口は、潜在的なニーズはあっても、どのようにして実際の相談につなぐことができるのかが課題です。開設1年で相談件数が累計1460件、登録したケースが132件、またひきこもり当事者の居場所への登録人数が27人と、予想を超えた数の当事者と保護者が来訪していることがわかります。2015年11月に行なった開設1周年記念シンポジウムには、会場の昭和女子大学に400人近い参加者が集まり関心の高さを物語りました。

そんな若者支援担当課の仕事のひとつが、18歳で支援の糸が途切れる「児童養護施設」を出る若者たちへの支援でした。今回のレポートは、若者支援担当課の活動の主な部分を伝えましたが、全貌を語るにはなお紙数が必要なので、ここまでとします。専門所管が出来たことで、若者支援の具体策はぐんぐん進みました。

国の若者支援の窓口は内閣府ですが、政策ごとに多くの省庁にまたがっているのが現状です。少子化対策をきちんと進めるなら、縦割りのままの臨時編成のチームや多機関調整型ではなく、権限も人員もある子ども・若者省が必須だと思います。行政改革とは、行政需要にともなって人員・組織・体制を整えて予算(世田谷区の子ども・若者部若者支援担当課の平成27年度予算額は、2億900万円)をつけることにあります。