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結局、魚は体にいいのか、悪いのか(大西睦子)

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魚の栄養(特にオメガ3脂肪酸)の素晴らしさについては、健康意識の高い人々の間ではもはや常識になりつつありますが、一方で、水銀など、魚の汚染も気にかかる要素ですよね。この相反する問題にどう折り合いをつけ、どう食生活に反映させていくべきでしょうか。結局のところ、魚は食べるべき?やめておくべき?

過去のコラムでもトピックになりましたが、魚はヘルシーな食品の代表ですよね。飽和脂肪酸※1の値が低くオメガ3脂肪酸※2の値は高い、つまり質のいい脂肪を多く含んでいて、さらにタンパク質、ビタミンやミネラルなども豊富です。一方、魚の水銀※3や有害物質汚染も無視できません。

私たちは、これからも積極的に魚を食事に取り入れていくべきでしょうか? それとも汚染物質を避けるため、魚の摂取を控えるべきなのでしょうか? 米国でも議論が高まり、意見が分かれています。

今回は、ハーバード公衆衛生大学院と米国カリフォルニア州環境保護庁環境健康有害性評価局(OEHHA)、それぞれの示す情報と見解を参照しながら、魚を食べることの利点と危険性を考えたいと思います。

●ハーバード公衆衛生大学院の見解
Fish: Friend or Foe?
Fears of contaminants make many unnecessarily shy away from fish
Harvard School of Public Health

●カリフォルニア州環境保護庁環境健康有害性評価局の見解
FISH: PCBs in Fish Caught in California
Information for People Who Eat Fish
Office of Envionmental Health Hazard Assessment
California Environmental Protection Agency (Cal/EPA)

【魚を食べるメリット】

ハーバード公衆衛生大学院のモツァファーリアン教授とリム教授は、20の研究(参加者総数は何十万人超)を分析し、サケ、ニシン、サバ、イワシなどの脂肪分の多い魚を約85g、週に1~2回(オメガ3脂肪酸にして週に2g)食べると、心臓病による死亡リスクが36%低減すると結論付けています。オメガ3脂肪酸は、命にかかわる心臓リズムの乱れを防ぎ、安定させ、血圧や心拍数、血管機能を調整します。高用量では、中性脂肪※4の値を下げ、炎症を緩和させる効果もあるとしています。

さらに観察的研究と比較対照試験の両方から、魚のオメガ3脂肪酸は赤ちゃんの脳や神経系の発達ために重要で、妊娠中や授乳期に魚の摂取が少なくオメガ3脂肪酸が不十分な女性の子供は、脳の発達が遅れることが証明されています。週に1度ないし2度魚を食べると、脳卒中、うつ病、アルツハイマー病、および他の慢性疾患のリスクを減らすとも言われています。

なお、米国農務省(USDA)と米国保健福祉省(HHS)が出している「アメリカ人のための食生活指針」(Dietary guidelines for Americans)やアメリカ心臓協会では、1週間に2回魚を食べることを推奨しています。ただ残念ながら、このアドバイスを気にかけているのは、米国人の5人に1人に満たないのが現状。魚介類を週に1回食べる人でさえ、米国人の約3分の1にとどまります。

【魚を食べるリスク】

魚を食べる習慣が定着しない、魚を食べない理由として、もちろん単に魚を好まない、値段が高い、魚を売っている店が遠い、魚の下ごしらえや調理方法がよくわからない等も挙げられていますが、魚に含まれる水銀や残留農薬、その他の汚染物質から、かえって健康に悪影響を受けるのではと懸念している人もいます。

確かに魚についても、果物や野菜、卵、肉類と同じように、非常に様々な化学物質汚染が懸念されています。特に今、最も懸念される汚染物質は、ポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyls:PCB)※5、ダイオキシン類※6、残留農薬、そして水銀です。水銀に関しては、以前のコラム「マグロと水銀〜色々な種類の魚を食べよう」をぜひ参照して下さい。

PCBおよびダイオキシン類に関しては、モツァファーリアン教授とリム教授は、米国学術研究会議のまとめた『Seafood Choices:Balancing Benefits and Risks』(2007)に収められた米国医学研究所(Institute of Medicine)による報告について言及しています。

National Research Council
Seafood Choices: Balancing Benefits and Risks.
Washington, DC: The National Academies Press, 2007.

結論から言えば、教授らは、「上記報告はPCB類からのがんリスクを『過大評価』していて、PCBおよびダイオキシン類のがんリスクはそれほど明確ではない」旨、述べています。

教授らはまず、米国環境保護庁などのデータを検討し、10万人が週2回、70年間養殖サーモンを食べ続けた場合の死亡リスクへの影響を計算しました。その結果、PCB摂取のせいで24人ががんで死亡する可能性がある一方、少なくとも7,000人を心臓病による死亡から遠ざけることができると判明しました。

また、魚類中のPCB及びダイオキシンのレベルは肉、乳製品、および卵のダイオキシンレベルと同様、非常に低く、米国人が食品から摂取するPCB及びダイオキシン類の90%以上は、肉、乳製品、野菜、その他魚以外の食品から摂取されていることを指摘しました。

以上から教授らは、PCBおよびダイオキシン類を気にして魚を避けるべきではないと指導しています。ただし、唯一の例外は、知人や家族が地元の川や湖等で釣った淡水魚を食べる場合には、魚ごとに摂取許容量について地元当局勧告を考慮すべきでしょう。

一方、米国カリフォルニア州環境保護庁環境健康有害性評価局(OEHHA)は、より慎重な姿勢を示しています。

同局によると、サンフランシスコ湾やその近くの海の魚、数種から、高濃度のPCB汚染が確認されています。特に、他の魚を餌にし、脂肪分が多く、工業地帯の近くで獲れた魚介類にPCBが多く含まれていて、例えば脂肪の多いシログチ(white croaker)からは最高レベルのPCBが検出されました。

そもそもPCBは、人工的に作られる物質です。米国では1930年から1977年まで変圧器やプラスチック、潤滑油に使われていました。しかし非常に分解されにくく環境中に長い間とどまってしまうため、ほぼすべての用途で使用が禁止されました。ところがPCBの流出、漏出、不適切な処分は続き、環境を汚染しています。 PCBが空気中に入れば数千キロも超えて拡散しますし、土壌や水にも浸透していきます。

PCBは、IARC(国際ガン研究機関)では「ヒトに対して恐らく発ガン性がある」物質(2A)に、米国国家毒性計画では「ヒトの発ガン物質であると疑われる」(動物実験で発がん性確認)物質に分類されています。さらに、肝臓や消化管、神経を損傷するリスクがあり、生殖や免疫系に影響を及ぼす可能性があります。

母親が妊娠中にPCBにさらされたり、母乳がPCBに汚染されると、赤ちゃんにPCBが移行します。使用禁止措置以降、魚のPCBレベルは減少してきましたが、まだ調査されていない領域から、PCB汚染された魚が見つかっています。

PCB類を含む複数の化学物質は、魚の体の中でも特に脂肪や肝臓などの内臓に蓄積します。OEHHAは安全な魚の食べ方として、PCB汚染の可能性がある魚は、脂肪や皮膚、内臓を食べないようにし、また、カニやロブスターなどの甲殻類は、柔らかいな緑の部分は避けるべきと注意しています。さらに、汚染されていない地域で獲れた小さな若い魚を、偏りなく色々選んで食べることを勧めています。

魚の汚染物質に対する見解は、専門家によっても、意見が分かれるようです。消費者としては、どの意見を信じればいいのか悩ましいですよね。特に低レベルの食品への汚染は、すぐに体に影響を及ぼすことはなく、気づかないことがほとんどです。

魚を食べるのは体にいいのか悪いのか、、、結論はやはり体にいいと思います。週に2回は取り入れたいですね。ただし、いろいろな種類の魚を食べてみて下さい。また、とくに妊婦さんは魚の選択には慎重にするべきです。やはり以前のコラム「マグロと水銀〜色々な種類の魚を食べよう」をぜひ参考にしてくださいね。

※1...脂質の材料で、エネルギー源として大切な成分。ラードやバターなど、肉類の脂肪や乳製品の脂肪に多く含まれている。常温では固体で存在するため体の中でも固まりやすく、しかも中性脂肪やコレステロールを増加させる作用があるため、血中に増えすぎると動脈硬化の原因となる。

※2...脂質の構成成分の一種で、青魚に多く含まれるEPAやDHAが代表例。体の調節物質の原料であり、細胞膜を構成する要素でもある。生理活性の強いオメガ-6脂肪酸と競合することで、免疫や凝血反応、炎症などについて過剰な反応を抑える。いわばオメガ6系統のブレーキ役として働くので、両者のバランスが大事とされる。

※3...亜鉛族元素の一つで、常温で液体である唯一の金属。水銀がメチル化された有機水銀化合物である「メチル水銀」は毒性が強く、国内では禁じられているが海外ではまだ農薬や工場廃液に含まれることがある。脂溶性の物質であり生体内からのメチル水銀の排出は遅いため、生体蓄積の程度は高く生物濃縮を受けやすい典型的な毒物。大きな肉食魚の場合、小魚の100倍ものメチル水銀を保持することになる。

※4...食物として取る脂肪の大部分。主にエネルギー源として使われ、余分なものは肝臓や脂肪組織に蓄えられる。食事による脂肪、炭水化物などカロリー摂取が増えると血清中の中性脂肪値は増加する。また、食事から摂取される以外に肝臓でも合成されている。合成が亢進する状態すなわち肥満症や糖尿病の評価の一つに用いられる。

※5...ポリ塩化ビフェニル化合物の総称であり、その分子に保有する塩素の数やその位置の違いにより理論的に209種類の異性体が存在する。中でも、コプラナーPCBと呼ばれるものは毒性が極めて強く、ダイオキシン類(※6)の一つとされている。化学的には、溶けにくく、沸点が高い、熱で分解しにくい、不燃性、電気絶縁性が高いなど、安定な性質を有する。脂肪に溶けやすいという性質から、慢性的な摂取により体内に徐々に蓄積し、様々な症状を引き起こすことが報告されている。

※6...ポリ塩化ジべンゾジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン、コプラナーポリ塩化ビフェニルという3種類の物質群の総称で、環境中に広く存在しており、その量は非常に微量ながら強い毒性を持つ。主に物が燃焼するときに生成するほか、過去に使用されていたの農薬の不純物としても生じ、環境中に拡散する。分解されにくい性質をもち、田畑や湖沼、海の底泥等に蓄積していく。人はその約9割を農産物や海産物等を通じて食事から摂取していると言われる。

大西睦子
ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

(2014年2月27日の「ロバスト・ヘルス」より転載)

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