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女子トイレは不便な場所にあった。ヒラリー氏が討論会で遅れた理由

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JIM COLE AP
JIM COLE/AP
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2015年12月19日に行われた、アメリカ大統領選の民主党候補テレビ討論会。候補者の一人ヒラリー・クリントン氏は、5分間の休憩時間を過ぎても壇上に戻ってこなかった。メディアはすぐに、遅れた理由は女子トイレの行列のせいだと報じた。休憩が終わる時間になってもヒラリー氏が戻らなかったため、司会者は彼女抜きで討論会を再開した。数分後壇上に戻ってきたクリントン氏は、わかっているといった様子の微笑みを浮かべ「ごめんなさい」と言った。 彼女の微笑みは、女性が「男性による男性のための世界」の隙間に生きていることを示している。

クリントン氏の苦笑い、そして「少し時間がかかるんですよ。言えるのはただそれだけです」というコメントに、性差別的な発言をするコメンテーターも、男女平等主義者も反応した。

共和党のランド・ポール上院議員は、これを「女同士の対立」に仕立て上げてツイートし話題になった。「カーリー・フィオリーナ(共和党候補)は何の問題もなくCM休憩から戻ってきたのに」 。ご存知の通り、女性にとってトイレは奪い合うものだ。

また共和党候補のマイク・ハッカビー氏は、「討論会でのクリントン氏の最高の瞬間は、トイレにいた時だ」と述べた

最も大きな非難を浴びせたのは、もちろんドナルド・トランプ氏だ。恥知らずで女性蔑視のコメントを公衆の面前で披露した。「彼女がどこへ行ったのかはわかってる。気持ち悪いし、話したくもない。ああ気持ち悪い。本当に気持ち悪いから言わないでくれ。この話はやめよう」と述べている。トランプは体液、特に女性の体液が怖いようだ。今年の夏、授乳のために席を外したいという弁護士に、トランプ氏は「気持ち悪い」と言い放った。また、共和党候補者のテレビ討論会で、過去の性差別的発言について質問した司会のメジン・ケリー氏について「彼女は目から血を流していた。他のところからも流れ出していた」と述べている。

トランプ氏の発言に対して民主党の候補者バーニー・サンダース上院議員は「もし女性がおしっこをしないと思っているとしたら、トランプ氏は女性と普通じゃない関係を持っていたに違いない」と語った。そして「私は男性だが、男性はトイレに行くことが許されている」と、トイレに関するダブルスタンダードを指摘している。

ニューヨーク・タイムズ紙のフランク・ブルーニ氏は12月23日に掲載したコラムで「誰だっておしっこする」とクリントン氏を擁護している。

この件にコメントした数少ない女性の一人が、作家のジェニファー・ウェイナー氏だ。「トイレの年(The Year of the Toilet)」と題するまとめ記事の中で、今回のトイレエピソードについて触れている。これは公共のスペースをもっと多様なニーズに応えるようにすべきだというニューヨーク・タイムズ・マガジンの記者、エミリー・バゼロン氏の追跡記事だが、こういった声を挙げる女性は少数派だ。

「言えるのはそれだけです」と述べたクリントン氏はわかっていたのだ。表沙汰にはならないような隠れた性差別を指摘しても、誰も味方になってはくれない。メジン・ケリー氏がトランプ氏に、女性に対する軽蔑的で侮辱的な発言の数々について質問すると、ソーシャルメディアは彼女を「あばずれ」「売女」「ビッチ」「ふしだら女」と罵る声であふれた。

私は、暴力、レイプ、人種といった物議を醸すような話題をとりあげている。これまでに最も痛烈に批判されたのは、2015年の夏に「女子トイレの行列に関する日常的性差別」というタイトルで公共施設の男女格差について書いた時だ。それは社会の常識と知識についての記事だった。批判はほとんどが男性からで、私を下品で、愚かで、無知、立っておしっこする方法を学ぶべきだ、それが優れた方法だからと責めた。「最も性差別的だったコメント10」というまとめ記事を書くまで、批判は何週間も続いた。

メディアや政治の世界で発言する女性が、性差別に直面することはもはやないと思っている人もいるかもしれない。だが、見落とされている事実がある。女性たちは言葉を発する前から「性差別について触れたらどうなるだろう」という考えを、頭の中で一瞬の間に巡らすのだ。もしクリントン氏が、「女子トイレの方が遠くにあった」と指摘したり、「討論会のような大きなイベントでは女性が辛抱強くトイレの列に並んでいる一方で、男性はさっさとトイレに出入りしながら、女性は無駄なことをしていると笑いのネタにしている」と言ったりしていたらメディアがどれほど反発し、過剰反応しただろうか。こういったはっきりと表面化していない公共スペースの性差別に、女性は毎日直面している。プリンストン大学の学生、モニカ・シーとアマンダ・シーは大学内に差別について「トイレにまつわるルールは時代遅れであり、制度化された男女の違いの常識を押し付けている」と書いている

クリントン氏以外の女性候補カーリー・フィオリーナ氏は、この件について発言していない。自身も共和党陣営内で戦っているからだ。共和党候補者討論会で「Bワード(ビッチの意味)で罵られた」と性差別について言及したフィオリーナ氏のことを、ラジオ司会者でテッド・クルーズ支持者のスティーヴ・ディース氏は、「彼女は巨大ヴァギナ(膣)になった」とツイートした。性差別を批判する表現で攻撃されることに、フィオリーナ氏は気付かなかったようだ。「今度はクルーズ陣営からV(ヴァギナ)ワードで罵られました。Vですよ。はっきり口には出しませんが」と、反撃している。はっきりと言ってくれたら良かったのに。そうすれば、ヴァギナという言葉の使い方に関する論争が再熱したかもしれない。

多くの人々はトランプ氏と同様、女性は単に男性を多少ややこしくしたバージョンで、静かなプライベート空間で、自身の感情や男性との違いに対処しておいてくれればいいのにと思っている。話しかけられた時だけ話し、いつも綺麗で、汚い言葉を使うべきではないと考えている。多くの男性は、女性が何を必要としているかを知ることなく一生を終える。女性であるとはどういうことか、女性の人権とは何なのかを本当に理解したいと思っている人は、特に保守的な男性の中には一人もいないようだ。女性蔑視文化の影響を受けた女性自身も、「膣」「レイプ」「生理」といった単語を聞くと身がすくんでしまう。

しかしこれは、単に知りたいか知りたくないかの問題ではない。

トランプ氏が使った「disgust(吐き気を催すような嫌悪感)」という言葉は、政治的に都合のいい言葉で、保守層にとって特別な含みをもつ。「disgust」はいまや流行語だ。研究によれば、保守派はリベラルよりも、恥や不安や恐れをかきたてる文章に感情的に反応する。トランプ氏の言葉はクリントン氏個人にではなく、女性全体に向けられたものだった。女性に対する嫌悪感と、それによってもたらされる偏見は、女性を男性から遠ざける。男性という、社会的・政治的に支配的な集団に属していることを、トランプは誇りに思っているのだ。嫌悪感は他者を排除し、不公正を正当化する第一段階だ。哲学者マーサ・ヌスバウム氏は著書「感情と法 ―― 現代アメリカの政治的リベラリズム(Hiding from Humanity: Disgust, Shame, and the Law)」で「集団における嫌悪感の古典的な例は、女性を蔑視する嫌悪感である」と述べている。

保守的で根深い嫌悪と無知のせいで、パーヴィ・パテル(堕胎罪で20年の刑を言い渡された)のような女性は何十年も投獄される。テネシー州の女性がハンガーを使って中絶したのも、その行為が殺人罪に問われているのも、そのせいだ。テキサス州では、多くの女性が自分で中絶する方法を探し求めている。しかし安全で安価な医療へのアクセスを奪い去れば、すでに貧困状態にある何百万人もの女性たちは、さらに経済的困窮に追いやられる。妊産婦の死亡率は世界中で下がっているが、アメリカでは過去25年間に136%上昇している。黒人女性の場合、リスクは4倍だ。国連は先日発表した報告書で、アメリカで女性の権利が低下している状況を「衝撃的」で「希望を打ち砕く」と表現している。

女性の身体に嫌悪感を抱いているのは、トランプ氏に限った話ではない。そしてそれは「無知」と切っても切れない存在だ。共和党の中核をなす考え方に「女性には大人としての資格がなく、道徳的判断や自律的意思決定ができず、子供と男性の間に位置する存在で、常に男性の助けを必要としている存在だ」というものがある。女性の生き方や身体のことなど一度も考えたことがないと豪語し、抑圧的で女性蔑視的な法律を通す男性であふれている。共和党は無知を利用して、女性は男性を補完する存在だという父権主義的は考えを押しつけている。女性を「異性」で「謎」とみなすこともある。

女性の身体や、その違いを社会でおおっぴらに議論しないのは上品でマナーにかなったことなのかもしれない。しかしこれは一般論で片付けられる話ではない。女性は知っているが、男性は知らないことなのだ。そして世の中は男性が支配していて、そこは女性にとって危険で住みにくい場所だ。しかし女性が「男性のやり方は、世の中全員のニーズを満たしていない」と主張すると、犬のようにきゃんきゃん吠えているだと言われるのが関の山だ。

一部の国々では、女性用の設備がないために女の子は学校に通えず、安全に近所も歩けない。安全が保証されておらず衛生施設が整備されていないため、食料や水を手に入れられず、能力があっても仕事に就けない。紛争地や難民キャンプでは、多くの子供や女性がトイレで性的暴行を受け、時には命が危険にさらされるため、トイレに行かなくてもいいように水分の摂取を控える。その結果、脱水症状などで健康を害してしまう。経済的に豊かな国の女性はこれほど過酷ではないが、それでも見過ごせない状況にある。

「生物学的な違いだから我慢しろ」という主張はばかげている。読者の一人が言っているように「生物学はトイレの設計には無関係」だ。また、生物学が法律を作るわけでもない。

マンハッタンカレッジの教授、ジュディス・プラスコー博士は、公衆衛生・トイレ・社会正義に関する論文で「女子トイレの欠如は、特定の職業や権力の中枢からの女性の排除を意味する。またそれだけではなく、男性が独占してきた組織への女性の受け入れを反対する、明確な意思表示としても機能してきた」と述べている。

討論会の日、クリントン氏をはじめとする女性たちは、男性よりも遠くのトイレまで行かなければならなかった。男子トイレはもっとステージに近い便利な場所にあったのだ。クリントン氏は2009年に上院議員としてのキャリアを終えたが、女性下院議員たちのために議員待合室から近い場所に女子トイレが設けられたのは、さらに2年後のことだった。ヴァージン諸島選出の民主党ドナ・クリステンセン下院議員は、その2日後にこうツイートしている。「女性議員が初めて登院したのは1917年。私たちはついに下院の議場の近くに、女子トイレを手に入れた」

トイレが近くにあって、議論や法案採決の妨げにならない状況を、男性議員たちは当然と考えていただろう。男子トイレは議場に近いだけでなく、暖炉や靴磨き台があり、議場の様子を中継するテレビもある。おまけに休憩時間が終わりに近づくと教えてくれる係員までいる。

男性を中心にした考え方や公共スペースの作られ方、それは男性中心に世界観を反映しているのだ。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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