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僕たちはどうして勉強しなければならないのか【東大新聞オンライン編集長より受験生へ】

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僕たちは何のために勉強するのだろう。

良い大学に入れば良い人生が送れるから? 成績が良いとほめられるから? 志望校に受かると喜んでくれる人がいるから?

国公立大学の二次試験を3日後に控え、今日も机に向かってペンを握っている受験生の皆さんには、人それぞれ様々な理由があるのではないかと思う。でも今日は5分だけ、「どうして勉強をしなければならないのか」という疑問の、根本的な理由を考えてみよう。多くの大人が「勉強しろ」と言うのにはきっと、(もしかしたら言っている本人は気づいていないかもしれないけど)とても大事な理由があるはずだ。

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「良い大学に入れば良い人生が送れる」わけではない


はじめにこれだけは言っておきたいけど、「良い大学に入れば良い人生が送れる」というのは嘘だ。もし「良い人生」というものを、「良い企業」に就職して「良い伴侶」を見つけて「良い仕事」をすることだと思っているのなら、東大など偏差値の高い大学に入るのは得策かもしれない。

でも就活が思うように行かなかった東大生にその理由を聞くと、「自分がどんな仕事をしたいのかわからないまま就職活動をしていた」という答えが返ってくることが多い。漠然と「良い人生」をイメージしたまま、自分が何を得意としていて、何をしたいのか考えないと、就職してから何のために生きているのか悩むことになりかねない

「良い職業」につけば将来安泰?


それでは、勉強すれば弁護士や医者といった「良い職業」につくことが出来るからだろうか。それも違う。

2013年にオクスフォード大学の二人の人工知能研究者が提出した論文では、今後数年のうちに人工知能や機械に取って代わられうる職業のリストが挙げられている。驚くべきことに、そこには融資を担当する銀行員や、簿記や会計の仕事、そして弁護士や医者といった専門家が担っている仕事の一部も挙げられている。

東大で人工知能を研究する松尾豊准教授は、マーケティングや、医療の診断、防犯監視システムといった、データを抽象化して分類するたぐいの仕事は、人工知能に取って代わられるかもしれないと語っている。(日本の人工知能が、Googleに勝つ唯一の方法 松尾豊准教授インタビュー2

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すでにある「良い職業」は、僕たちが働く頃にはなくなっているかもしれないのだ。僕たちは自分にとって「良い職業」とは何か、自分の頭で考えなくてはならない

勉強すると「前を走る人がいないところを走れるようになる」


株式会社nomadやABBALab(アバラボ)を立ち上げ、IoT(インターネット・オブ・シングス)の分野で活躍する小笠原治さんは、高卒で働き、20代になってから勉強することの重要さに気づいた人の一人だ。インターネットが広く普及する以前、22歳の小笠原さんは仕事でインターネットを用いることになったが、使い方を教えることのできる人がおらず、自分で学ぶのに苦労したという。

現場で師匠から教えてもらうことと、「勉強」することの違いを、小笠原さんはこう語っている。

「勉強」することの良さは、前を走る人がいないところを走れるようになることなんですね。多くの人がまだやっていないことを知るためには、テキストを読めばいいってわけではないですよね。誰が何を知っているのかを調べたり、師匠ではない人に質問したりして、人から教わる。その質問をするためにいろんなことを自分で調べたりする。それが楽しいんだ、ということを知ったんです。(IOTによる知の集積の時代。ネット黎明期によく似ている DMM.make小笠原治さん1

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IoTという、10年前にはなかった分野で活躍している小笠原さんの言葉は重い。小笠原さんはもし大学に入り直せるなら、化学や物理学といった、モノを理解するための科学を学びたいと言っている。ものの成り立ちを探る基礎科学は、新しいモノやそれを通したサービスを作るために大きく役立つのだろう。

世界を理解する方法を学ぶ


小笠原さんの話からは、学び方を学ぶこと、つまり知らないことを知るための方法を学ぶことの重要さがうかがえる。「学び方を学ぶ」ことは、受験勉強とは大きく異っていて、それは教科書や参考書を覚えれば身につくものではない。

僕たちは自分の知っていることを通してしか、世界を見ることはできない。花屋の店先に並んだ同じ花を見て、ある人はその花の植物としての分類を考え、ある人はその花の配置について経営の観点から推察し、ある人はその花の詩を読んだ文学者に思いを馳せるだろう。僕たちが何かを目にしてそこから何を得るかは、僕たちがそれまでに何を学び、普段何を考えているかに左右されるのだ

昨年度に退職した小林康夫教授は、世界の成り立ちや動きを理解するための「考え方」を学ぶことが大事だと言っている。本をたくさん読み、作者がそこに書き留めた「考え方」、つまり作者がどう世界を見ているかを学ぶ。それこそが、感受性豊かな学生のうちに、僕たちがすべき「勉強」だというのだ。(東大に行くには受験と関係ない本を読め 小林康夫先生退職記念インタビュー(後編)

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法律を学んで困っている人を助けたいのであれば、世界史を勉強して近代の法律の成り立ちを知らなければならない。新しいモノを作って、生活を豊かにしたいのであれば、物理や化学や生物を学んで、モノの成り立ちを知っていなくてはならない。僕たちは自分の知っていることでしか世界を見ることができず、その知識を応用することでしか、そこにあるものから何かを生み出すことはできないのだ。僕たちが勉強する理由は、まさにそこにある。

勉強とは、世界を理解する方法を学ぶことなのだ。

僕らが受験勉強をしなければならない理由


以上に述べたようなことが、僕たちが勉強をした方がいい理由だ。自分が受験勉強を頑張る理由とは少し違っていたかもしれない。二次試験を控えた受験生に向けて、最後に受験勉強を頑張ることの良さを、卑近な僕自身の経験から2つお伝えしたい。

一つ目は、考え方を学ぶために身をおく場所として、大学はとても優れた場所だということ。たしかにオンラインで国内外の大学の授業を受けるサービスがあったりして、大学に入らなくても学ぶことは出来る。ただ大学には、似た問題意識を持ち、同じようなことに興味を持つ友人がたくさんいる。彼らと深い関わりを持ち、切磋琢磨しあって学び合うことは、僕たちの人生にとってとても意義のあることになるだろう。

二つ目は、一発勝負の大学受験を経験したことは、今後の人生での勝負事にもきっと役立つということ。きちんと準備をして一発勝負に挑まなくてはならない機会は、これからもたくさんあるだろう。入学試験という場で、最後まで実力を出しきる努力をしたことは、きっとそのとき役に立つに違いない。

ここで述べたようなことを踏まえて、自分がどうして受験勉強に励むのか、もう一度考えてみて欲しい。「どうしてもこの場所で勉強したい」という強い意志は、試験本番で行き詰ったとき、君に力を貸してくれるはずだ。

(文責 須田英太郎

(2016年2月22日「東大新聞オンライン」より転載)

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