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二重国籍の実態:「ノーベル賞中村氏は日本人」とする安倍首相、「日本国籍を喪失」とする日本大使館

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「アメリカ人」と紹介されたノーベル賞受賞者 中村修二氏

ノーベル物理学賞の受賞者、中村修二氏がノーベル賞のプロフィールに"American Citizen" (アメリカ人) と紹介されたことで、「中村氏はアメリカ人なのか、日本人なのか」と話題になっています。

Nobel Prize: The Nobel Prize in Physics 2014 Isamu Akasaki, Hiroshi Amano, Shuji Nakamura

中村氏の説明は『研究の予算を得る必要などから米国籍を取得したが日本国籍を捨てたわけではない』というもので、中村氏自身はまだ日本国籍を持っている認識のようです。

産経: ノーネクタイ中村教授「米国籍とったのは研究予算目的」「怒り...でも日本こそ世界一美しい国」

日本政府からは安倍晋三首相が『赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏に本年のノーベル物理学賞の受賞が決定しました。日本人として20人目、21人目、22人目の受賞を、心からお慶び申し上げます。』というコメントを出しています。首相は中村氏は日本人との判断です。

首相官邸: ノーベル物理学賞 内閣総理大臣コメント


ところが、在アメリカ合衆国日本国大使館サイトに『自己の志望(帰化申請)により、米国市民権を取得した方は、米国市民権を取得した時点で、日本国籍を喪失したことになります』との説明があります。中村氏は明らかにこのケースに該当すると考えてよいでしょう。つまり、日本大使館の説明では中村氏は日本国籍を保持していません。

在アメリカ合衆国日本大使館: 国籍関係「国籍喪失届」

安倍首相と日本大使館、どちらが正しいのか?

安倍首相と在米国日本大使館の見解は矛盾しているように見えます。私が想定する解釈は3つ。
  1. 【首相官邸の間違い】中村氏の米国籍取得と日本国籍喪失を首相官邸は知らなかった。
  2. 【言葉の定義の問題】安倍首相が言う"日本人"とは民族/人種としての日本人であり、日本国籍者以外も含む。
  3. 【日本大使館の間違い】「外国籍取得で日本国籍を喪失する」という日本大使館の説明が間違いで、中村氏は日本国籍を所持している。これであれば中村氏の認識と合致する。

国籍と人種にまつわるアイデンティティ
下記のマトリクスで、"中村氏"に該当する人と、"日本に帰化した元外国人"に該当する人を、日本人として同胞意識を持てるでしょうか?

2014-10-21-unnameduniuni.jpg

中村氏を安倍首相のように日本人と捉える人も、「日本国籍を捨てたので日本人でない」という人もいるでしょう。また、日本国籍に帰化した朝鮮系に同胞意識を持てるかも、人によるでしょう。


基準軸を国籍と人種だけにしても感覚は人により違います。これが更に、

・日本人の血がハーフやクオーターなら
・日本生まれか
・日本育ちか
・日本語を話すか
・日本文化への親和度はどうか<

と判断軸を増やすと、解釈は人により更に異なるでしょう。例えば、両親が日本人だが、外国生まれで外国育ちで日本語を話さない人がいます。中国残留日本人孤児(就籍)がその例です。グローバル化の進行で、複雑なケースは更に増えます。将来、日本で生まれ育った中国籍がノーベル賞を取得することがあれば、その時代の首相がどうコメントするか、興味深いです。

日本人の範囲に共通認識を持つのは難しそうです。その中で、安倍首相が中村氏を日本人として祝ったのは、日本人の範囲に寛容性を示した出来事かもしれません。いずれにせよ、どの国籍や民族の人が発明したものであれ、青色発光ダイオードの恩恵に授かれるのは、人類にとり喜ばしいことです。

中村氏は日本国籍を保持しているのか?

日本大使館の説明によると、中村氏は米国籍取得で日本国籍を喪失しており、これは中村氏の認識と異なります。首相の認識とも異なる可能性があります。文部科学省の下村大臣からも談話が出ています。『赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の受賞は、我が国の学術研究の水準の高さを世界に示すものであり、国民全体にとって大きな励みと誇りを与えるものです。』

文部科学省: 赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏のノーベル物理学賞受賞について[文部科学大臣談話]

中村氏の発明当時は米国籍取得前という解釈もあるのでしょうが、文科省談話では『国民全体にとって』と国民に焦点がよっています。

安倍首相にしても下村大臣にしても、なぜこんなことが起きるのでしょうか。理由は、大使館主張と現実の運用にギャップがあるためです。

国籍法第十一条 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。

法務省: 国籍法

外国籍を取得した際の流れは下記です。

1. 外国籍を取得する
2. 国籍喪失届を提出する
3. 戸籍が除籍される

論点は、日本国籍喪失のタイミングが、外国籍取得の直後なのか、国籍喪失届の直後なのかです。

※出生により複数の国籍を持つケースは「日本国籍の選択の宣言」がありますが、ここでは考慮しません
2014-10-11-20141010Timeline.jpg

中村氏は国籍喪失届けを提出していないのでしょう。となると、中村氏は外国籍取得と国籍喪失届提出の間の段階に留まっており、戸籍は残存している状態です。パスポートも保持している可能性があります。つまり、二重国籍のグレーゾーンにいると考えられます。

いくら大使館が「外国籍取得で日本国籍を喪失」と主張しても、戸籍は残存しています。国籍喪失届の制度を知っていて、かつマメな人でなければ、戸籍が残りグレーゾーンにとどまります。

戸籍法では、国籍喪失から3ヶ月以内に提出が義務付けられていますが、これも外国籍取得を日本政府は知りようがないので、機能していません。

戸籍法第百三条  国籍喪失の届出は、届出事件の本人、配偶者又は四親等内の親族が、国籍喪失の事実を知つた日から一箇月以内(届出をすべき者がその事実を知つた日に国外に在るときは、その日から三箇月以内)に、これをしなければならない。

e-Gov: 戸籍法

ここで再度、国籍法第十一条を見直しましょう。日本大使館は『米国市民権を取得した時点で、日本国籍を喪失』と書いていますが、国籍法条文は『外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う』です。即時を意味する文言は国籍法条文にありません。"時点で"というのは大使館独自の拡大解釈であり、外国籍の取得から国籍喪失届の提出による日本国籍喪失まで、時間差があることも許容する表現です。そしてこれが、二重国籍に関する現実の運用状態です。

罰則がない国籍法と、罰則がある旅券法

日本は「国籍単一の原則」から重国籍を原則的に認めていませんが、黙認でしか運用できません。これは、国籍法に重国籍への罰則規定が無く、国籍剥奪の強制執行制度も持っていないことも、後押しします。もしも重国籍を日本政府が知ったとしても、日本政府は「国籍喪失届を出すように」という説得以上のことはできず、国籍剥奪をする術はありません。出生による重国籍で、他国公務員に就任した際にのみ、法務大臣が国籍の喪失の宣言をできるのが唯一の国籍剥奪手段ですが、発令されたことはありません。

国籍喪失者が、国籍喪失により失効したはずの手元のパスポートを使うのは、旅券法により5年以下の懲役か300万円以下の罰金か両方の罰則があります。しかし、旅券法でも罰則のみで国籍を剥奪できず、戸籍が残っていれば日本政府は国籍喪失から判定する必要がありますが、この判定制度は存在しません。

これまで外国籍取得者がパスポートを使ったことで、旅券法違反で起訴されたことは確認されていません。つまり、「外国籍取得時点で日本国籍を喪失」という解釈への司法判断はおりていませんし、起訴しない当局もこの判断に触れることを避けているようです。

こうなってくると、実際に運用できない重国籍を防止しようとする大使館の姿勢が、特異で目立ってきます。

旅券法第十八条  旅券は、次の各号のいずれかに該当する場合には、その効力を失う。
一  旅券の名義人が死亡し、又は日本の国籍を失つたとき。
旅券法第二十三条  次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

e-Gov: 旅券法



重国籍はなぜ解禁されないのか?

2008年に南部陽一郎氏がノーベル物理学賞を取得した際にも同様の、重国籍解禁の議論が巻き起こりました。海外へのこれ以上の人材流出を防ぐためです。しかし、実現に向けて進んでいるように見えません。これは、重国籍が解禁されると、人材流出の防止以上に、37万人に及ぶ韓国・朝鮮籍を含む特別永住者を代表とする日本への帰化希望者の外国人に焦点が移るからと推測されます。

人材流出防止を、重国籍解禁の狙いとするのであれば、

・特別な才能を持っているもののみに、重国籍を認める
・出生により日本国籍を有するもののみに、重国籍を認める
・日本への帰化による日本国籍取得者には重国籍を認めない

で解決するはずです。しかし、「帰化すれば同じ日本人なのに権利を制限するな」という論調がでてくるのが予想されるのが日本なため、実現は厳しいと想定されます。


シンガポールでの重国

最後にですが、、、私はシンガポール在住者ですが、国籍は日本のみです。

シンガポールでは、重国籍を認めていません。制度としても、シンガポール国籍取得には既存の国籍の離脱証明をシンガポール政府に提出する必要があるため、新しくシンガポール国民になる人に重国籍者はいません。シンガポールでの国籍取得の詳細は、下記記事を参照下さい。

今日もシンガポールまみれ: シンガポール新国民 国籍付与式典に参加してみた: Singapore Citizenship Ceremony

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