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蔵書は寄贈、運営はボランティアの「図書館」が千葉県船橋市で急増中−「情報ステーション」の岡直樹さんが目指す「町づくり」とは?

2013年09月11日 23時53分 JST | 更新 2013年09月12日 17時19分 JST
猪谷千香

千葉県船橋市内で今、「図書館」が急増している。駅前ビルや高齢者施設の一角、または町の酒店に本棚が設置され、誰でも本を借りることができる。その数、10館。6万冊近い蔵書はすべて寄贈、運営はボランティアが行っている。市内30カ所にこうした民間図書館の設置を目指すプロジェクト「船橋まるごと図書館」を仕掛けているのは、NPO法人「情報ステーション」代表理事、岡直樹さん。「図書館は空き店舗対策や少子高齢化社会に有効」という29歳が挑む町活性化の策とは?

■蔵書ゼロからスタートした駅前ビルの図書館

船橋駅前にある商業ビル「フェイス」2階の通路を歩いていると突然、現れるのは「ふなばし駅前図書館」の看板。カウンターと本棚が設えてあり、通勤や買い物途中の人が立ち寄って本を選んでいる姿が目に入る。市内30カ所に民間図書館の設置を目指す「船橋まるごと図書館」プロジェクトは7年前、ここから始まった。岡さんが当時をふりかえる。

「僕は船橋市で生まれ育ち、大学に進学して初めて都内に通うようになりました。それまで船橋に特段、思い入れはなかったのですが、ちょっと外に出るようになって生まれ育った町への愛着を初めて感じた。ただ、みんなに自慢できるほど良い町かと言うと、そこまででもなくて(笑)。だったら、自分たちでもっと良い町にしたいと思い、2004年に高校時代の友人たちとNPOを立ち上げました」

岡さんたちは情報サイトを立ち上げ、フリーマケットやコンサート、野菜の直売会などイベントを開いた。「でも、単発のイベントをやっても町は良くなりません。もっと日常的に人が集まれる場所を作ろうと思いました」

その頃、船橋駅前ビル「フェイス」では、2階にあるスペースの活用に苦慮していた。ビル側から相談を受けた岡さんは、まず「船橋に何が足りないか」を考えた。

「真っ先に思いついたのが、クレープ屋でした(笑)。このあたりは若い子が多い割に若い子向けの店が少ないんです。でも水もガスも使えない場所だったので、いろいろ思いついた中から、図書館に行き着きました」

当時、早稲田大学理工学部に進学していた岡さんは、船橋市内から東京のキャンパスに通うのに片道2時間以上かかっていた。電車で読むための本を通学途中に図書館で借りたいと思ったが、船橋市立中央図書館は午後7時に閉館してしまう。「理工学部の講義は午後5時50分に終わるので、船橋に戻っても間に合いませんでした。僕自身が、便利な図書館を欲しいと思ったんです」

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船橋市内に民間図書館を増やしている岡直樹さん

しかし、「フェイス」に図書館を作ろうと思いたったものの、蔵書はゼロ。そこで岡さんは、手書きで本の寄贈をお願いする紙を貼りだし、“図書館予定地”に毎日座った。最初は素通りする人ばかりだったが、見かねた人が手書きの紙をきちんとポスターで作ってくれたりと、だんだんと支援が広まり、本が集まるようになった。

そして、2006年5月に無事「ふなばし駅前図書館」がオープン。配架できる本は500冊程度と小ぶりの図書館だが、平日は午後9時まで開いているのが人気だ。

■民間図書館が地域住民交流の場に

通勤、通学に便利な「ふなばし駅前図書館」だったが、開館してから思わぬことが起きた。

「夕方以降は100%、通学や通勤の人たちですが、昼間は買い物途中に寄ってくださる人たちが多い。ここから歩いて5分のところに船橋市立中央図書館があるのに、どうして地元の人たちがこんな小さい図書館を使うのか。普段の生活動線上にある図書館に通っているうちに、ボランティアや他の利用者の人たちと顔見知りになっていく。当初、僕たちが思っていた以上に、交流が生まれていました。だったら、小さくてもいいから気軽に立ち寄れる図書館を増やしたいと思いました」

増えてきた寄贈本を置く場所が必要ということもあり、次にパン屋さんの中に図書館ができた。「そのパン屋さんは月曜日が定休日なのに、市立図書館も月曜日が休館で使えなかった。だから、僕達の図書館を利用していたという方で、お店の一角を使っていいよと言ってくれました」

酒店や自動車販売店、商店街の空き店舗、高齢者施設……。民間図書館は少しずつ船橋市内に増えていった。もともと理系の友人が多かったため、蔵書管理のシステムは自前で作ることができた。貸し出しや返却を担当するボランティアの人たちが、本につけられたバーコードさえ読めれば、複雑なキーボード操作をせずに作業できるよう工夫されている。

ボランティアの登録者は現在、470人を超える。「一番小さい子が7、8歳、上が82歳です。船橋市内だけでなく、東京都府中市や神奈川県三浦市から通ってくる方もいます」

岡さんと一緒に船橋駅から徒歩3分にある「船橋北口図書館」を訪れると、2歳の男の子を連れたボランティアの女性が来ていた。男の子は、いつも一緒にボランティアをしている男性と会うのが楽しみなのだという。

「ボランティアさんにわざわざ会いに来る利用者もいます。僕のまわりでも、就職はしたけれど辞めてしまってぶらぶらしている若い人とか、仕事を辞めて日中も家にいる団塊世代の人たちがいる。彼らが気軽に活動できるような場所が世の中、見渡した時にあるかといえば少ない。でも、図書館で週に一時間でも店番するって、誰でもできると思うんです。地域の人たちが活動できる場所、しかも小さい子から高齢の方まで世代を選ばず全ての人が集まれる場所は、図書館以外にありません。それに、そういう場所で育った子供たちは、僕たちよりもっと強くしなやかに生きていけるんじゃないかと思うんです」

岡さんたちの図書館が、地域で大切にされている“証拠”がある。不特定多数の人に本を貸し出すが、本が返却されなかったり、損壊されたりするケースは少ないという。

「公立図書館よりもマナーがいいです。色々な人の協力で成り立っているのを利用者の皆さんに見せているので。1回だけ近くの居酒屋で飲んでいた酔っぱらいが本棚を倒したことがありましたけど(笑)。利用者の人は、子供が本破いてしまったとか、電車に本を忘れてきたとかきちんと言ってきてくれます。みんなで作っている図書館なんです」

■「がんばれば歩いて行ける距離」にある民間図書館を全国に

全館の蔵書数は、6万冊近い。寄贈されたものの、まだ整理されていない本を合わせれば倍になる。利用者数は9400人。これはちょっとした公立図書館に匹敵する規模だ。しかし、公立図書館との違いを岡さんは明確に指摘する。

「僕達の民間図書館は公立ではないが、誰にでも貸すので公共図書館です。でも、公立図書館と民間図書館の違いは、公立図書館は社会教育施設で、僕たちは町づくりのための交流施設ということ。だから、ここで食事してもらってもいいし、騒がしくない程度のおしゃべりもどんどんしてほしい。それは公立図書館では難しいですよね。僕達は『今、ここに暮らしている人たち』を見ているのですが、公立図書館はもう少し先まで見てほしい。後世に残すための資料を集めるとか公立じゃないとできないことがある。流行の本を集めて貸し出すのは公立の仕事ではないと強くそう思います」

民間図書館による町づくり。これまでにのべ18館が開館し、習志野市などと合わせると現在、15館が地域で親しまれている。船橋市内でまず30館と目標を掲げているが、これは市内にある中学校と同数なのだという。「がんばれば歩いて行ける距離」に設置し、船橋市内をまるごと図書館にすることを目指しているのだ。

図書館を設置したいというオファーがあれば、運営費をもらって開設するというシステム。年間1500万円かかる運営費はいまだ赤字だが、図書館のネーミングライツの応募を呼びかけるなど、支援を広く訴えている。

「僕たちの役割はOSです。空き店舗だったり、デッドスペースだったり、使える空間、ハードはそこら中に余っている。折り紙教室やパソコン教室、読書会をやりたい人、ソフトもたくさん揃っています。だから、僕たちの図書館が広く門を開いて運営していれば、自然と来る人たちの使いやすい形になっていきますよね。経済効果や教育効果を考えると、少子化も高齢化も進む一方ですから、できるだけ早く全国にこの図書館を広げたいと思っています」

あなたの暮らす町にも、こんな図書館はいかがでしょうか?

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