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「この国は全体主義に一歩一歩進んでいる」百田尚樹氏に琉球新報と沖縄タイムスが反論

2015年07月02日 18時00分 JST | 更新 2015年07月02日 23時40分 JST
Kenji Ando

作家の百田尚樹氏が自民党の勉強会で「沖縄の2つの新聞は潰さないといけない」と発言したことを受けて、ターゲットとされた琉球新報と沖縄タイムスの両編集局長が7月2日、日本外国特派員協会で記者会見を開いた。

琉球新報と、沖縄タイムスは沖縄県の2大地元紙で、主に沖縄本島で発行されている。「FACTA」2007年7月号の集計によると、県内でのシェアは琉球新報が38.6%、沖縄タイムスが41.3%で分け合っており、2紙合わせて80%近いシェアを誇っている。朝日が0.3%、読売が0.1%などの全国紙が軒並み1%以下なのとは対照的だ。

両紙とも、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設計画について反対の主張を貫いており、辺野古移設を進める日本政府と与党の姿勢に強く反発してきた。両編集局長の会見での主な発言は以下の通り。

■沖縄タイムスの武富和彦・編集局長の発言 「報道の自由を否定する暴論」

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武富さん:沖縄の新聞社として、沖縄県内で発行していて、沖縄の民衆の声を県内では思い切り発信している自負はあるんですが、なかなかそれが日本本土には伝わっていない現状があります。

そうしたジレンマを抱えている中で、今度の百田氏の発言には強い憤りを覚えています。琉球新報さんとの共同声明でも触れましたが、「政権の意志に沿わない新聞は許さないんだ」という言論弾圧の発想には、民主主義の根幹である表現の自由、報道の自由を否定する暴論だと受け止めています。

ただ一番の問題と感じているのは、百田さんの言葉を引き出した自民党の国会議員だと思っています。「沖縄の世論をゆがめている」として「正しい方向に持っていくにはどうしたらいいか」という質問は、沖縄県民を愚弄するものであり、大変失礼だと思います。新聞社について「潰さないといけない」と言われた以上に、「沖縄の世論をゆがめている」というのは沖縄県民をバカにした発言だということで憤りを感じています。

沖縄の民意は明確です。去年の選挙、県知事選にしても名護市長選にしても、全て自民党が応援する候補が負けました。そういう選挙結果について「沖縄の民意がゆがんでいる」と言いたいんでしょうけど、そういう選挙結果を否定すること自体が民主主義の否定にほかなりません。

この数年、沖縄のメディアに対する自民党の攻撃的な姿勢が目立っています。沖縄が政権の意のままにならないことを、メディアのせいにしている格好ですが、「メディアが世論を操っている」という見方に凝り固まっていると、問題の本質を見誤ります。

沖縄は国土面積の0.6%にしか過ぎない土地に、74%の米軍専用施設が集中しています。基地あるがゆえに米軍機が爆音をまきちらして上空を飛び交う。道路も軍用車両が走る。事件事故は多発する。戦後70年、沖縄はそういう苦しみを背負わされてきた。「これ以上の苦しみは嫌だ」と声を上げたにもかかわらず、聞いてくれない。

辺野古への新基地建設に対しては、6割以上の反対があります。もちろん賛成の声もありますが、2割前後です。住民の意志は固いものがあります。その住民の意志を捉えて「世論はゆがんでいる」と捉えるのは、あまりにも無神経ではないでしょうか。

戦後、沖縄には10以上の新聞社がありましたが、今日まで残っているのは沖縄タイムスと琉球新報の2つだけです。米軍の圧制下であっても、常に民衆の側に立った報道をしてきたことが支持をされて今日に至っています。民衆の支持がないと新聞は存続できないと思います。沖縄の新聞社の報道は、新聞社が世論をコントロールしているのではなく、世論に突き動かされて新聞社の報道があると思っています。為政者にとって都合の悪い報道だったとしても、民意をしっかりと受け止めるべきだと思っています。

「潰さないといけない」とターゲットにされたのは沖縄の2紙ですが、その発言を引き出したのは自民党の国会議員です。彼らは「マスコミをこらしめる」と言いました。自分たちの気に入らない報道・論説は許さないという、表現の自由、報道の自由を否定する思考が根底にあります。

この思想は沖縄の2紙に留まらず、いずれ全てのメディアに向けられる恐れがあると思います。「マスコミをこらしめるには、広告料収入がなくなるのが一番だ」と広告を通して報道に圧力をかけようという発言があったために、日頃は主義主張の違うメディアも「言論封殺は許さない」と共通の認識で報道しています。

これまでの日本国内にただよっていた戦争へと繋がりかねない危険な空気が、今回の国会議員の発言で、国民の目や耳に触れる形で表面化した意味は大きいと思います。名指しされたのは沖縄の新聞ですが、全国共通の問題が横たわっていることが認識できたかと思います。

沖縄タイムスは、1948年に創刊されました。戦前の新聞人が「戦争に加担した」という罪の意識を抱えながら、戦犯的な意識を持ちつつ「二度と戦争のためにはペンを取らないんだ」「平和な暮らしを守り、作る」という決意が出発点になりました。この姿勢は今日にも継承されており、今後も変わることはないと確信しています。

沖縄タイムスも琉球新報も、偏向報道という批判もあります。でも、沖縄タイムスの創刊メンバーはこんなことを言っていました。「一方に圧倒的な力を持つ権力者がいて、一方に基本的な人権すら守られない住民がいる。そういう力の不均衡がある場合には、客観公正を保つには、力のない側に立って少しでも均衡をとり戻すことが大事なんだ」と。この言葉は、本土復帰前の言葉ですが、沖縄の状況は今も変わらないものがあります。創刊メンバーのこの言葉は、今に通じるものがあると思っています。

■琉球新報の潮平芳和(しおひら・よしかず)編集局長 「この国の言論の自由は、危機的な状況」

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潮平さん:ここにお集まりのジャーナリストの皆様が心の中で思っているように、この国の民主主義、表現の自由、言論の自由はやはり危機的な状況にあると思います。

今回の自民党勉強会における一連の報道圧力発言は、事実に基づかない無責任な暴論であり、断じて許せないという思いでいっぱいであります。

議員の一人が「マスコミをこらしめるには広告料がなくなるのが一番だ」と、文化人や民間人が経団連などに働きかけてほしいとした発言は、政権の意に沿わないメディアは兵糧攻めにして経営難に追い込み、そのメディアの表現の自由、言論の自由を取り上げるという言論弾圧そのものだと考えております。

このような言説を目の当たりすると、「この国は民主主義国家をやめて全体主義の国に一歩一歩進んでいるのか」という懸念を持たざるを得ません。

別の議員が「沖縄の2紙が、沖縄の世論をゆがめている」「沖縄が左翼勢力に乗っ取られている」という趣旨の発言をしたようですが、沖縄の新聞がもし、世論をもてあそんでいた思い上がった新聞であったら、とっくに県民の支持を失い、地域社会から退場勧告を受けていたことでしょう。

地域住民、読者の支持なくして新聞は成り立ちません。持続可能な平和と環境を創造する新聞、社会的弱者に寄り添う新聞がおごり高ぶることなどあろうはずがありません。

少しだけ歴史の話をします。1940年に沖縄では3つの新聞が統合し、沖縄新報という新聞が設立されました。沖縄新報は国家権力の戦争遂行に協力し、県民の戦意を高揚させる役割を果たしました。そのことによって、おびただしい数の住民が犠牲となりました。沖縄の新聞にとって、そういう末路を招いたことは痛恨の極みであります。

戦後の沖縄の新聞は、戦争に荷担した新聞人の反省から出発しました。「戦争に繋がるような報道は二度としない」という考えが報道姿勢のベースにあります。琉球新報についていえば、一貫して戦争に反対するとともに、苛酷な沖縄戦や戦後の米軍支配を踏まえて、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配というような価値を、日米両国民と同じように適用してほしい。平和憲法の恩恵を沖縄にも、もたらしてほしいということで、そういった主張を論説で続けておりますし、その精神で日々の紙面を作っております。

軍事偏重の日米関係ではなく、国民の信頼と国際協調の精神に根ざした持続可能な日米関係を目指すべきだと主張しています、こうした主張をすることが、どうして世論をゆがめているのか不可解ですし、沖縄2紙が偏向呼ばわりされるのは極めて遺憾であります。

写真で振り返る沖縄戦


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