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サイボウズ式:王者Yahoo!ニュースは、なぜ自社メディアを始める必要があったのか

2015年02月18日 01時38分 JST | 更新 2015年04月18日 18時12分 JST

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Yahoo!ニュースが月間100億ページビューを突破した──。それを知ったのはこの記事だった。運営の母体はYahoo!ニュース。「Yahoo!ニュース スタッフブログ」というメディアを運営し、「news HACK」という切り口で自社情報を発信している。日本最大級のニュースサイトを持つヤフーがわざわざ自社メディアをする必要があるのか。素朴な疑問をぶつけてみた。

なぜ自社メディアを始めたんですか?

藤村:日本最大級のメディアであるYahoo!ニュースが自社メディアを持ち、あえて中の人や考えを出していることにびっくりしました。自社メディアでわざわざ発信する必要はないのでは?

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Yahoo!ニュース スタッフブログ

井上:月間100億PVを突破したYahoo!ニュースは知名度もある。そんな中、普通はあえて自社メディアをやらなくてもいいと思いますよね。

藤村:そう思いました(笑)

井上:ではなぜやるのか。中の人が発信する場がこれまでなかったからなんです。Yahoo!ニュースといえばYahoo!ニュース トピックス編集部の印象が強いと思いますが、チームにいるのは編集者だけではありません。企画や開発、デザイナーも一緒に作り上げているのですが、「中の人が分からない」といった声もありました。

山崎:見えないという感じですね。

井上:同業さんと話しても「Yahoo!ニュースは老舗だから、ガリバーだから」と言われる。PVもすごいケタ数ですし、王様みたいに思われているかもしれません。でもその成果は、いろんな人がチームを組んで、コツコツ努力をして、一生懸命作っているからこそあがっている。

山崎:サイトの規模や影響範囲が大きいがゆえに、信頼性をより高めていきたいと考えています。その信頼性はPVだけでは育たないと思っています。情報を作っている人がどんな人で、どういう工夫があって──といった裏側が見えれば、より信頼できると思うんです。

Yahoo!ニュースは「無色透明なメディア」と呼ばれることもあります。これは公平性という点では良いのかもしれませんが、もっと中のことが見えてもいい。自社メディアを通じて、信頼感を高めることにつなげたいんです。

宮本:私は元々IT記者で、2014年10月にトピックス編集部に入りました。外から見ていたYahoo!ニュースは「トピックス編集」という印象が強かったです。でも中に入ると山崎のようなデータアナリストもエンジニアもデザイナーもいて、それがチームになっている。そこには独自のノウハウもある。それを出しながら、ニュース業界が盛り上がればと考えています。

藤村:いち読者として、news HACKはYahoo!ニュースの色がとても出ていると感じます。UI/UXなど、ニュースを届ける裏側の裏側まで伝えてくれるからです。

たとえ100億PVでも、自社メディア立ち上げ時は不安だらけ

宮本:「最近Yahoo!ニュースが、積極的に情報発信をしているね」といったTwitterコメントがあるなど、社外の方に届いていると感じます。

山崎:まとめサイトに記事が掲載されたり、同業界の人から「あの記事みたよ」と言ってもらえたり。ニュースやWeb業界の人が集まった際の、共通の話題になることもありました。

井上:「100億PVのメディアを持つYahoo! JAPANだから、自社メディアの立ち上げも簡単でしょ」と思われるかもしれませんが、最初は不安だらけでした。ふたを開けてみるとNewsPicksやFacebookでも思った以上の反響があり、ほっとした感じです。

藤村:社内からの反応は? Yahoo!ニュース編集部は御社の中でも「聖域」で、独立しているという印象に見えるだけに、どういった反響かが気になります。

井上:思った以上に読んでもらっている印象です。Yahoo!ニュースにかぎらず、職種間の交流は結構大変です。企画や記事作成を通じて開発と編集が交流したり、ほかの職種の人が苦労していた点が伝わったりするんですよね。

山崎:同じチームで仕事をしていても知らないことがたくさんあって、一読者として「なるほど」と思うことも。

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井上芙優さん。メディアサービスカンパニー ニュース本部 編集部 編集

藤村:サイボウズ式も徐々に社内でも読まれるようになりました。社外からの反響を通じて、記事の価値に気づくことが多いですよね。

井上:まだ自社メディアを運用し始めたばかりで、これからキツい時期に入るかもしれません。その際は企業メディアの大先輩のサイボウズ式さんのお話聞かせてください。

藤村:喜んで(笑)。

無色透明だったYahoo!ニュースが、表情を持ち始めた?

石川:サイボウズ式編集部の石川です。「記事が社内でも反響があり、意外だった」という言葉が意外でした。影響力のあるYahoo!ニュースのことは、社内外を問わず知りたい人が多いのかなと。

井上:いままでのYahoo!ニュースは自分たちでコンテンツを作らない、いわば無色透明だったのかもしれません。それが自社メディアを運営するようになり、大変革だなと。波立っていなかったところから、波が立ったような。

山崎:そもそも社内でYahoo!ニュースってどこまで興味を持たれているのか、といった素朴な疑問もあったんです。反響を見ながら「やっぱりYahoo! JAPANにとってニュースは大事だ」と分かったり。

藤村:無色透明だったYahoo!ニュースが色を持ち始めた?

井上:色というよりは、社会的関心度や普遍性といったYahoo!ニュースが大事にしているところを保ちながら、それ以外のことも発信していきたいという感じです。

山崎:Yahoo!ニュースの顔?

宮本:サービスとしては無色透明だけど、中にはいろんな人がいるっていう。

山崎:親近感?

石川:表情、みたいなものですかね。

山崎:確かに、それに近いかもしれない。

井上:Yahoo!ニュース自体はこれからも色はない、でも企業メディアから表情が見えてきた、というところですね。

「1PR、1Give」、ドヤ顔は絶対しない

藤村:運営で大切にしていることは?

井上:「1PR、1Give」の精神ですね。1PRは自社メディアとしてのPR要素を入れることです。それだけだとプレスリリースと変わらないので、「読む人のためになること、読んでよかったと思える内容」を入れる。これがGiveです。

宮本:読者に持ち帰ってもらえる内容がない記事は公開しないようにしています。社内の誰かが書きたいとなったら、「何かをGiveできる内容でお願いします」と伝えています。共通言語になっていますね。

藤村:そのGiveはどうやって考えるんですか?

井上:社内のチャットツールにどんどんアイデアを書き込み、「この見出しや内容はGiveできているか?」といったことを話し合います。

山崎:最初の記事は「100億PV、スマホが半数以上」という事実がGiveだったのかもしれません。記事内容から「PCユーザーが多い印象のYahoo!ニュースがスマートフォンのことを真剣に考えている」ことが伝わり、「うちもスマホを考えないと」と思ってもらえたのではないでしょうか。

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山崎潤さん。メディアサービスカンパニー ニュース本部 企画部 アナリシス リーダー

井上:Yahoo!ニュースの中の人としてはこの事実を当たり前と受け止めているので、「Give要素ではない」と思いつつ、多くの反響があったことは、いい意味で意外でした。

宮本:「ヤフーは東京の地方紙か」――"中の人"が語り継ぐ3.11の反省と経験 も「ヤフーではもっとこういうことを考えないといけない」という反省がGiveになると考えました。反省部分のコメントを多めに入れたり。

井上:自社メディアで情報を出すときのバランスって難しいですね。私はもともと報道記者だったのですが、その視点で書いた記事はどうしても「ドヤ顔感」が出てしまうというか。そんなつもりはないのに、できあがった記事はドヤが出てしまいがちに......。

藤村:本当に難しいですよね。

井上:サイボウズ式はそんなにドヤ顔感がしないんですよね。

藤村:かっこつけずに、キラキラした言葉じゃなく、自分たちが楽しんでメディアを作っているからかもしれません。

会議は不定期、ザツダンでOK

藤村:みなさんの仕事は24時間交代制ですか?

井上:シフト勤務はトピックス編集部のみ、山崎などの企画職は定時ですね。

藤村:じゃあ、みなさんが集まって企画会議をやったりはしない?

宮本:企画会議の開催は不定期ですね。基本的には社内チャットに思いついたことや原稿を残しておいて、時間差でほかの人にからアイデアをもらったりしています。

井上:最近はザツダンから企画が生まれることが多いんです。大事ですよね、もっとザツダンしないと。

藤村:うちの編集会議もほぼザツダンだけです。アジェンダは決めますが、カチッとした進行にするとアイデアがまったく生まれないんですよね。

井上:分かります。自社メディア立ち上げ時に「ネタあるの?」という声もあったんですけど、いざ始めるとネタが豊富に出てきて、逆に困る感じに......。

宮本:「この情報を出す」と担当者が言えば、山崎が「こういう角度からデータを出せるよ」みたいな。

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宮本真希さん。メディアサービスカンパニー ニュース本部 編集部 編集

山崎:チャットを使えば直接会わなくても議論は進められますし、「これ気になったし使えるかも」と投げやすい。24時間会議状態、ともいえるかもしれませんが(笑)

藤村:記事を出すまでは特に苦労しない感じですか。喧々諤々(けんけんがくがく)の議論とか?

山崎:書いている人はパッションがあり「あれもこれも言いたい」という感じになりますが、客観的に見ると「それほど」と感じることも。そこはしっかりチェックしますね。

井上:あくまで自社メディアの記事という位置付けですが、Yahoo!ニュースのプレスリリースのように見てくれる人もいますし、記事の二次利用のお問い合わせもありました。出す記事1つ1つをきちんとこだわっていく気持ちは強いです。そこに対する議論はきちんとやりますね。

歴史を掘り起こすのは「50年後の編集部員のため」

藤村:ところでみなさんは兼務ですよね?

井上:そうです。なので、毎日1記事更新とかではなく、できる範囲でやるという感じですね。

藤村:そこ重要ですよね。「会議をして、タスクを切って、いついつまでにこれをやって」といった感じのチームではない。

山崎:みんな席を行き来しながら、なるべく壁を作らないようにして、ある程度自由に運営するようにしています。

藤村:もし本業として自社メディア運営をしていたら、今のように面白い企画は出てきそうでしょうか?

山崎:僕はカチッと考えたり進行したりしていると、アイデアは出てこないと思う

宮本:「記事を出さなきゃ、ダサなきゃ」っていうプレッシャーになるかも。

山崎:カチッとやると「100%やっている人に任せよう」なんて妙な期待をして、チーム全員の参加感がうすれると思うんです。今みたいな感じで「誰が書いてもOK」というスタンスが大事かも。だからこそ「書きたい」と言ってくれる人が多く、ネタが尽きないのかもしれません。

井上:普段の業務があるからこそ、それを起点に「これは企画のネタになる」と考えていけますよね。

宮本:会議の議題に上がってきたテーマが「これは自社メディアのネタになる」とかありますよね。

井上:「自社メディア運営」だけに閉じこもると、何も企画が生まれない気がします。いろんな業務と並行するからこそ、豊富なアイデアが出てくるのだな、と。

藤村:自社メディアの取り組みが、本業に波及することもあります?

井上:全体的なチームワークは向上している実感があります。トピックス編集部がデザインや開発、データといったほかの仕事を知るきっかけにもなりますし。

宮本:何年も前の話を記事にすることもあります。その当時いなかった新しい社員が、その時のことを知ってもらえる。情報共有の一環にもなってますね。

山崎:今もそうですし、50年後のYahoo!ニュースにかかわる人たちが、「よく残してくれた」って未来で言ってくれたりしてね(笑)。

24時間稼働のニュース業界で、新しい働き方を提示できるか

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藤村:今後はどんな展開を?

井上:「ニュースとワークスタイル」という情報の発信ができればいいね、なんて考えています。24時間何が起こるかわからないのがニュースの世界。大変な仕事で、ガテン系なイメージもあるかもしれません。

そんな世界ですが、Yahoo!ニュースは女性比率が多く、産休明けで戻ってきた人も多いんです。男性でも子どもが生まれたので休暇を取られている人もいます。時間をやりくりして管理職になる人もいれば、編集を続けている人もいる。

こうした働き方はニ?